まどかの章 14 ☆☆☆ インキュベータ社(最高会議室)
やあ、我がインキュベータ社の同士諸君、久しぶり。変わりはない? 誰も欠けてない?
九兵衛社長、皆変わりありません! 役員50名! 幹部職員450名! 計500名! 全員ここに揃っております!
そうかい。それはなによりだ。では、早速会議を始めようか。営業部長。
ハッ! 今期も我らインキュベータ社は破竹の勢いであります! ホワイト課、ブラック課、イエロー課。主要3課すべて前年対比25%の売り上げ増を達成! グループ全体で4%の資産増加。このデフレ不況の中、奴隷業界でここまで躍進を遂げたのは我が社のみ! 大勝利であります!
ふーん。それは凄いじゃないか。パチパチ。臨時ボーナスを出してもいいね。次。生産部長。
ハッ! ホワイト、ブラック、共に安定。イエローの繁殖が特に順調で、来期は予定より7%の伸びが予想されます。
7%だって? やれやれ、どうせまた不良在庫を繁殖母体に組み替えたんだろ? 君達はいつもそうだ。何でも問題を先送りにしてミスを綺麗な言葉に置き換えてしまう。そしてずる賢くボクを騙そうとするんだ。……まぁ、いい。販促部長。
ハッ!
広告代理店各社にイエローのステルスマーケティングを依頼。臨時予算として30億出そう。フォローしてあげて。
ハッ!
次。育成部長。
ハッ! 王都の復興で素体の丈夫なブラックM型の需要が短期中期で高まっています。プラス25%の価格上昇。コールドスリープの在庫を全開放させます。
ん…。それだけで足りるかな? 生体技術課長。
ハ、ハッ!
育成中の若年奴隷、成長促進剤を使ってどうにか出荷を前倒ししてくれ。
し、しかし…そ、それでは法律に抵触…。
ブラックM型8~10歳に300ml/d投与。いいね。
300ml/d!? だ、駄目です。素体が死んでしまいます!
死? あぁ、歩止まりのことかい? 仕方ないよそれは。ロスが多くなるのは勿体ないけど、商機を逃すより遥かに得じゃないか。
得!? い、いえ、そういうことを言ってるのではなく…。
えっ? 何んだって? もう少し大きな声で言ってくれない?
これは…。
これは?
殺人…。
殺人? う~ん…。ボクには君が何を言ってるのかサッパリ分からないよ…。育成部長。
ハッ!
生体技術課長を更迭。一般事務職へ。後任の人選は君に任せる。
ハッ!
では仕切り直して、次はいよいよ我が社のエース。ホムンクルス課長。
……。
ん? どうしたの? いるんでしょ? 早く報告しなよ。
……ホ、ホムンクルス課。研究施設をアベル王子とサキエル卿に急襲されて壊滅。唯一の研究素体、プロトタイプホムンクルス、メルルも強奪されました。……推定損害額8000億ゴールド。
やれやれ。我が社の次代を担う課が…。困ったものだね。研究データも消失したの?
はい。研究内容が非合法な為、課全体をインキュベータグループから完全に切り離して独立させていましたので…。研究施設のデータセンターは地下500メルテにありましたが、アベル王子が放ったメギドの火によって蒸発…。研究者も皆殺しにされ…ホムンクルスプロジェクトの再建はもはや困難であり…。ざ、残念せざる終えないかと思われます…。
残念? 諦めるっていうのかい? ん…。メルルの奪還さえ出来れば、まだ大丈夫なんじゃない? パチン ミ☆ ほむら。
ここに。
君に頼みたいんだけど。…ちなみにメルルの居場所は掴めてる?
メルルは今、アベルのハーレム候補となって鳳凰宮の第1塔、通称プリンセスタワーの最上階にいるわ。
鳳凰宮か…。近衛魔法騎士団が守りを固めているから厄介だね。でも君なら…。
そうね。近衛はやり過ごせるかもしれない。でもメルルの奪還は無理。
なぜ?
アベルの能力は私と同じ時間操作系。時間を止めてプリンセスタワーに侵入すれば、他の者はともかく、彼には絶対に気付かれる。
いくらなんでも一日中鳳凰宮を気に掛けている訳がないよ。深夜ならアベルも寝ている筈さ。その隙にやればいいんじゃないかな。
アイツは自分の分身を猫の形にして1日24時間、メルルの直衛に当たらせている。半自立型で、アベルの意識が届かなくても分身は自分の判断で動くことが出来る。
自立思考する分身? まさか。どうやって?
さぁ? 原理はわからない。評議員だった人から聞いた話よ。嘘かも知れないわ。でも…。
……。
私はリスクの高い作戦はしたくない。貴方もそうじゃないの?
……うん。確かに。……未練は残るが仕方ないか。過去に拘るより未来だ。我々まで追求されずに済んだのだから、これでよし、とするのが最善の選択なのかも知れない。
賢明な判断ね。
ハァ…。しかしそうなると…。クルッ。ホムンクルス課長。
は、はい。
これは、まことに残念な結果といわざるを得ないんじゃないかな? …君、今ここで辞表でも書くかい?
……はい。
はい、だって? いやいや。冗談で言ったんだけど。
いえ…。しかし私は…。責任を…。職を賭す覚悟で私は…。
だぁ~かぁ~らぁ~。辞表で済まされる問題じゃないだろう? 我がインキュベータ社はエロス最大の巨大企業とはいえ、所詮、奴隷同士を交配させて新たな奴隷を生みだし、育て、出荷するって原始的な畜産業をやっているに過ぎないんだよ。そんな我が社がさ、ほんの少しの有機化合物からプラントで無限に奴隷を生み出すハイテクでバイオなメーカーへと大躍進する可能性が消え去ったんだ。
ガタガタ…ブルブル…。
さらに言えば、君は研究施設喪失で損害額8000億と言ってたけどさ、我が社の国対戦略部はホムンクルスの製造を合法化させようと今まで鳳凰宮の官僚や評議員どもに莫大な金をばら撒いてもいたんだ。実際の損失額は1兆ゴールドを軽く超えるんじゃないかな。……だからホムンクルス課長。島君。ケジメは付けないと。
……。
ほむら。彼をジャンプ台に。
……島課長、お立ち下さい。屋上までお連れします。
わかった…。椅子をガタン。い、いや、一人で歩ける。ガタガタ…ブルブル…。付き添わなくていい。私にもインキュベータの社員としての誇りがある。ガタガタ…ブルブル…。ひとりで責任は取れる。トボトボ…。扉、バタン…。
やれやれ。パチン ミ☆ 窓のブラインドを開けてくれ。
ウィ~~~ン。
……いい天気じゃないか。抜けるような青空。見ているだけで今にも吸い込まれそうだよね。…では諸君、島君の落下鑑賞会を始めよう。我が社の足を引っ張ったクズの末路を見届けよう。会議の続きはそれからだ。
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