まどかの章 13 ☆☆☆ ヒルトンホテル(王族専用貴賓室)
よし、これでそちの検査は全て終了だ。お尻、パチン。
キャッ! もうっ!(////
服を着てよいぞ。
おパンツをモソモソ、シャツを着て着て、朱色のスーツをビシッ。
……その服だけでは困るであろう。別の服も用意しないとな…。換えの下着だって必要であろうし。あと日常生活に必要な細々したものも…。余のカードを渡しておこう。好きなものを買うが良いぞ。カードをポイッ。
パシッ。ありがと。へぇ…これが王室セレブご用達のカードなのか。…ん? 三井住友VISAカード…初音ミクバージョン…。
ついでにこれも渡しておく。寂しくなったら掛けてくるがよい。余といつでも話が出来るぞ。携帯をポイッ。
パシッ。うわっ、ズッシリ重いや。…ん? PHS…初音ミク特大ストラップ付き…。
住む場所も必要であるな…。このままそちを白帝城に連れ帰っても良いのだが…あそこは稀に諸侯どもが集まりよるでな…。裏性約の三人の性奴のことは世間には秘密であるので避けるのが無難か。鳳凰宮はハーレム候補専用であるし、空きであったトラスの離宮は母上様方がお移りになられたし、このホテルも部屋の中は良いが出入りするとき目立つのだ。やはり当初の計画通りにしばらくはマンションでも借りることにするか…。杏子よ。
…んっ? なに? 携帯を弄り弄り。
どこか住みたいところはあるか? エロスの国内に限るが。
そうだな…。ここより見晴らしのいいところに住んでみたい。スレーブドームの直ぐ横に大きな塔が見えたんだけど、そこってオレでも住めるのかな?
あぁ、スレーブタワーのことじゃな。200階までは奴隷商のインキュベータ社の本社施設だが、それ以上のフロアは奴隷買いを楽しむ貴族たちの別荘のようになっておるそうであるから…うむ、手に入るやも知れぬ。待っておれ、ネットで売りがないか調べよう。カタカタ…。
ごめんな。なんか高そうなとこ、ねだっちゃって…。
いや最近の貴族はどこも財政難じゃ。格安でも部屋を手放したいという奴が結構いると思うぞ。カタカタ…。王都ならそれでも買い手は沢山おろうが、場所が奴隷市場であるからな。ここなら…。カタカタ…。やはりな。最上階は無理じゃが、243階の角部屋で格安物件ありじゃ。即金なら4000万ゴールドでOKとはどれだけ金に困っておるのだ…。ここでよいか?
うん!
ではポチッとな。もう明日から入居が出来るようであるから、明日そちと王都の高島屋で存分に買い物をして、そこでお昼も食べて、その足でスレーブタワーへ行くとするのだ。ふはははっ。荷物がないから引越しが楽なのじゃ。…あぁ、でも余り大きな家具や家電を買うと部屋に入らぬやも知れぬのう。今から入り口の寸法を調べに行くか…。家具はともかく100インチのブラビア、あれがないと余は落ち着かぬ…って、いや待て…入らぬときはテレポートで入れればよいのか。ふはははっ。こういうとき魔法は便利なのじゃ。ふはははっ…。
……。
……どうしたのじゃ、杏子、急にそのような暗い顔をして…。何か不満でもあるのか? ブラビアではなくアクオスの方がよかったか?
違う…不満なんてない。その逆さ。オレ奴隷なのにこんな贅沢させて貰っていいのかなって…。
んっ? そちは余の性奴であるぞ。余の権力や財力にのみ引かれる者であらねばならぬ。こういうときは素直に喜んでくれた方が嬉しいのじゃが…。
ゴメン。こんな風に誰かに何かして貰うってこと、今まで無かったから…。
ふはははっ。直ぐに慣れるのじゃ。欲しい物があったら遠慮なく言うのじゃぞ? マンションを買っても余の貯金はまだまだ残っておるわ。ふはははっ。ご主人たま~! 杏子たんね、杏子たんね、プラダのバッグが欲しいの~むぎゅ!! といった感じに甘えて欲しいのじゃ。ふはははっ。
オレが欲しいのは…マギカの王、クリームヒルトの首…。
そちが余の理想通りの性奴になれたらな。
……ご主人たま~! 杏子たんね、杏子たんね、クリームヒルトの首が欲しいの~むぎゅ!!(////
……ハァ…。
駄目か?
当たり前じゃ。どこの世界に生首をねだる性奴がおるのだ。欲しい物をねだるのは性奴の勤めであるが、それは余を楽しませる為にやるものなのじゃ。そちが余の理想の性奴となったあかつきに支払われる契約の対価とは別の話じゃぞ?
そうか…わかった…。
本当に分かっておるのかの…?
……。
まぁ、よいわ。では杏子よ、先程の話に戻るが…。明日買い物をするとなると今日はもうやることがないのだ。今の時刻は夕方の5時…。夜の街に遊びに出たり夕食をするにはまだ早いし、かといって遠出して遊びに行くにはもう遅いし、まったく中途半端な時間帯なのじゃ。だから今からネットで王都の観光スポットを調べて、いくつか手近なところをリストアップしてみるからの、行きたいところがあったら言うがよいぞ? カタカタ…。
……オレ外に出たくない。部屋の中であんたと二人ゆっくりしていたいな。検査でちょっと疲れちゃったし。
そうか、では夕食までテレビでも見るとするか。
あのさ…(////
ん?
……オレ、この部屋に入ってから、ずっと気になってたことがあるんだ。あのテーブルの上に置かれてるの…ホットケーキだよな…? アレさぁ…食べていいか?(////
よいが…。
本当か! バタバタ…。椅子にポスン。ナイフとフォークを持って持って、ホットケーキを切って切って、お口に運んで、モグモグ…。モグモグ…。
そのホットケーキは余の食べかけなのじゃ。冷めていて美味しくないであろう? 新しいのを持って来させるのだ。
い、いいよ。ご主人さまは注文し直して暖かいのを食べなよ。モグモグ…。オレは奴隷なんだし。この冷えたのでいいよ。モグモグ…。十分美味しいって。モグモグ…。
何をいっておる。二人とも出来たてホカホカのホットケーキを食べればよい話なのじゃ。
じゃ、これはどうするのさ。モグモグ…。
捨てるのじゃ。
……あんたやっぱ王子なんだな。食うに困ったことなんて一度もないんだろ? いいか、食べ物を粗末に扱うな。今度そんなこと言ったら殺すぞ。
……。
モグモグ…。モグモグ…。
本来なら主人に対するその暴言には厳罰を与えるところであるが…。まぁ、よい。それより聞きたいことがある。そちは名門の佐倉家の出であろう? 食うに困らん恵まれた境遇は余とあまり変りあるまい。…もしや奴隷になってからあまり食べさせて貰えなかったのか? 奴隷法でそのような虐待は禁止されておる筈なのだが。…何かされたのなら言うのじゃ。余が責任を持ってスレーブドームの運営者を罰しようぞ。
いや…。等級の低い奴隷たちはどうか知らないけど、オレ達は値の張る商品だったから待遇は良かったよ。食べる物も必要十分に与えられてた。
では…。
飢えていたのは子供の頃の話さ。オレは佐倉家に養子で入ったんだ。元々は平民の出でね。マギカの王都で暮らしていたんだけど、そりゃ酷いものだったさ。マギカでは貴族じゃなきゃ人じゃないんだ…。魔法を使えない者はネズミやゴキブリのようなものなのさ。極端な例えじゃないぜ? 本当にそうなんだ。
余はエロスから出たことがないので、その辺りのことを最近まで知らなかったのだが、この前、ケルト…余の配下の者であるが、その者から聞いた話によると、ルーンの殆んどの国では、平民は貴族から不当な差別を受けておるらしいの…。
差別なんてそんな生易しいもんじゃねーよ。人がネズミを忌み嫌ったり駆除するときに抱く感情を差別心なんていうのか? 両者は別種で比べるまでもないもの…。隔絶だよ。
……。
オレはさ。オレの本当の家族はさ。マギカの王都の下水道で暮らしていたんだ。ネズミの肉はご馳走だった。貴族連中の残飯にありつければ盆と正月がいっぺんに来たようなお祭り騒ぎさ。弟や妹たちが残飯の周りをピョンピョン跳ねて踊るんだ。スゲェ可愛いかった。……でも大抵は貴族連中の泥のような排泄物の中から未消化なものを洗って食べてたんだ。もっと言いたくない物も口に入れたさ。そうしないと生きていけなかった。必死だったんだ。オレの身体がちっこいのもその時に栄養が足りてなかったからだと思う。でも辛いとは思わなかったよ。生きるってそういうものだと思っていたんだ。惨めかも知れないけどさ、犯罪をして人様に迷惑を掛けてるって訳じゃないじゃん…。でも…あいつらは…。
……。
あいつら青酸ガスを下水道に流し込みやがったんだ。…その後、大量の水も流し込んで、最後に消毒剤を散布して、それで終わりさ。オレの一家はオレ以外全員死んじまったよ…。後で分かったんだけどさ、人間狩りをされた訳じゃなかったんだ。反政府組織を潰す作戦でもない。ただの下水道掃除だったんだよ…。ほんと腹立つよな。……で、大量のネズミや人間の死骸は川へと流されて、そこで待ち構えていたのが奴隷商人さ。オレを含めてまだ生きてる奴は連中に捕まって、エロスの奴隷市場に売られたり…
ま、待て、奴隷とは戦争に負けた敗者が生き残る術として、もしくは本人が契約をしてお金と引き換えに身を売る、そのどちらかであろう。少なくとも余の国ではそうなっておる…。筈である…。
何いってるんだよ。あんたまさか奴隷市場に行ったことないのか?
行ったぞ。今日、スレーブドームに。
それは高級奴隷専門の競り市だろ。あそこは国の監視が行き届いてるかも知れねーけど。オレが言ってるのは低級奴隷のことだよ。ドームの外は見てねーのか? 露天商の檻の中で囚われてる奴に、どういった経緯で奴隷になったか事情を聞いたことあるのかよ?
いや、それは…ないが…。
聞けよ! あんたエロスの王となる男なんだろ? 何やってるんだよ。海賊や山賊に拉致されて来た奴で一杯だよ。ていうか、さっきの奴隷の定義を聞いて思ったんだけど、あんた奴隷についての実情をそもそも何も知らないだろ? 奴隷ってのはな、その殆どが生まれながらにして奴隷なんだ。奴隷が産んだ子供は奴隷所有者の持ち物。法でそう定められてる。この悪法の為に、今、社会がどれだけ歪んだ姿になっているか…。あのな、奴隷を家畜のように飼育して繁殖させる企業が世に溢れてるんだ。そこには人間の尊厳なんて欠片もない。これは外国の話じゃない。あんたのこの国でいま実際に起きていることだ。
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