キリノの章 17 ★☆☆ セクト地方ゼブン街道(馬車)
……キリノ様はエロス王家が大切にお預かりします。電話や手紙は明日執り行なわれます鳳凰宮入りの式典の後まで禁止されておりますので万一緊急のことがありましたら、お側役である私、黒猫の方にまでお願いします。直ぐにキリノ様へお伝え申し上げますので…。式典の招待状は追ってお送り致します。キリノ様のお荷物に関しては式典の後、明後日以降にお送り下さい。…では、キリノ様、馬車へお乗り下さい。
はい…。とぼとぼ…
皆様、お見送りご苦労さまでした。失礼します。ペコリ。テクテク…。バタン。…では馬車を出して下さい。ガタガタ……ゴトゴト……ガタガタ……ゴトゴト……。ふぅ…。いま朝の9時だから王子のいる白帝城には午後2時ごろに到着かしら。途中でお昼休憩の為にカテロン地方の領主ブルボン伯のショートニング城に1時間ほど立ち寄ることになるわ。盛大に料理が振舞われると思うけど、あまり食べ過ぎないで……。
フルフル……フルフル……フルフル……フルフル……フルフル……フルフル……
……貴女、いつまで手を振ってるのかしら?
すみません…もう見えなくなりました……。ううっ…。もう止めます……。ヒクッ…ヒクッ…。
そう。ならこのハーレム候補パーフェクトガイドブックの封を破って読んでみて。ドサッ。700ページあるけど最初の方はエロス王家の歴史とか王族の家系図とか下らないことしか書いてないから読まなくていいわ。いま重要なのは250ページからの基礎的な礼儀作法と言葉遣いについて。正午までにちゃんと頭に入れておきなさい。
は、はい…。汗汗…。
これからいくつか簡単な質問をするわ。ガイドブックを読みながらでいいから簡潔に答えて。絶対に嘘は付かないでね。後々、面倒なことになるから。
はい。
貴女、本当にハーレム候補になることに同意するのね?
…はい。
何故?
わたし…昔からハーレムに憧れてて。
恋人はいないの?
…いたけど…わたしから逃げちゃいました…。
どうしてかしら?
…それは…いえません…。
キリノ…。私は貴女のお側役なの。これからは貴女を公務からプライベート全般までどんなことでも1日24時間、毎日サポートするわ。初対面で恥ずかしいのは理解できるけど、恥ずかしがらないで。隠し事をしないで。私に良く思われようなんて愚かしいことは考えないで。貴女がどうであれ、仮に高慢なビッチであったとしても、変わらず全力で補佐して守るのがお側役なの。いい?
すみません…。でも、アイツが絶対に他言してはいけないって…。
つまり相手の男性は貴女から離れる理由を貴女に告げたが、貴女はその理由を他言してはいけないと、その相手の男性に止められてる訳ね。
はい…。
相手の男は貴女より年上なの?
いえ、まだ10才くらいです…。
名前はいえない?
知らないです…。
彼とはいつ知り合って、いつ別れたの?
10日ほど前の夜に出会って、その夜に別れました。
彼とセックスした?
し、してません(////
キスもしてない訳?
キスは…しました…(////
何回くらいしたのかしら?
へっ?(////
キスは何回したのかしら?
言わなくちゃ駄目なんですか?(////
相手との親密度を知る上で重要なことだから…。言えないの?
数えてないから分かりません(////
じゃ、大体でいいわ。①数回 ②十数回 ③数十回 ④百回程度 ⑤それ以上。何番かしら。
多分、5番です…(////
どうしてそんなにしたの?
ふぇ?(////
どうして一晩で100回以上もキスをしたのかしら?
好き…だったからです…(////
どうして好きだとキスをするの?
好きな人とキスすると…心が満たされて気持ちいいから…(////
どんな感じに気持ちいいの?
か、からだが痺れたようになって…アイツの他に…なにも考えられなく…なります(////
また彼とキスしたい?
はい…(////
貴女、もしかしてまだ彼のことが好きなんじゃないの?
好きです…(////
そうなの…。これは厄介ね…。ハーレム候補である貴女の心の中にまだ過去の恋人への想いが残っているなんて、かなり深刻な問題よ。ハーレムに入ったら貴女にはアベル王子のことだけを想って、彼だけを愛し続けて貰わないと…。もし…王子との仲が上手く行かなかった場合、貴女の頭に少し魔法を掛けて彼との記憶を消して、貴女が王子だけを愛するように嘘の記憶を刷り込むことになるけど、いい?
えっ…。
離婚出来ないんだから仕方ないじゃない。王子と険悪なまま後宮の中でひとり寂しく一生を過ごすより人道的だと思うけど。
い、いやだ…。
大丈夫、痛みはないわ。貴女が寝ている間に記憶操作魔法を済ませられる。夢の延長みたいなものよ、子供のゴッコ遊びの大人版っていった方がいいかしら。色々なシチュエーションを試して、貴女がもっとも快適で興奮する蕩けるような甘い記憶を一生醒めないように刷り込んであげる。一流の魔法使いがやるから絶対に精神汚染の心配はないわ。全然怖くないから。
違う…。怖いとかじゃなくて…。そうじゃなくて……。
……そうじゃなくて、なんなの? 続けなさい。
……わたし…アイツの記憶を失いたくない。
ハァ…。そんなに彼のことが好きなら、どうしてハーレム候補になるのかしら?
だってアイツにはもう会えないんだもん…。会えないんだから…しょうがないじゃん…。
彼のこと探したの?
……。頭フルフル。
探してないのにどうしてもう会えないなんて言えるのかしら。
それは…。だって…。会えたとしてもアイツはわたしを…。
駄目ね。それじゃ上手く行く筈もない。自業自得だわ。逃げられるのも当然ね。
なっ…。
自分から何もしないで上手く行くようには、この世の中出来ていないの。相手がどうしたとか、どう思ったじゃない。貴女がどう思い、どう行動したか、その結果が今の貴女なんだわ。ハーレム候補にしても同じことよ。貴女はクジで選ばれて、今度は憧れだけでハーレムに入ろうとしている。それが必ずしも悪いとは言わない。でもね、ハーレムに入って王子とキスをして、貴女は果たしてその子とのキスと同じように心が満たされるのかしら…。ハッキリいうわ。このままハーレムに入れば貴女は直ぐに洗脳魔法に頼ることになるでしょう。偽りの中でしか生きられないほどに今の貴女は脆弱なの。本当の愛なんてこのままじゃ絶対に得られないわ、貴女は…
ぴろ~ぴろろ~~ぴっぴっ~。ろろ~~ぴ~。ああっ、ご、ごめんなさい。携帯が…。ピッ。はい…。あぁ、なんだアヤセか。あぁゴメン。今? 馬車の中。えぇっ? そんなことないよ。えへへっ。お昼、ご馳走みたい。あはははっ。うん…わかった。でも今はちょっと…。えっ? わたしをモデルに新作書いてくれたの? うわぁ、読みたい。うん。後で掛け直すね。プチッ。
……。
……すみません(////
……貴女、猫被ってない?
……ち、ちょっと(////
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