キリノの章 16 ★☆☆ メイド学園(学生寮)
コンコン…。黒猫姫~。入るよ~。
……なに?
わぁ…。ダンボール箱が沢山…。荷物もそこいらに出しっぱなし…。酷いなぁ…。ちょっとベッドに寝転がってもいい? もう疲れちゃって。バフン。
家主の返事を待ってから行動なさい…。で、私になにか用なのかしら?
幼馴染に会いに来たってだけ。どうしてるかな~ってさ。
そう…。息災よ。朝の放送見たわ。貴女、剣聖になったんですってね。おめでとう。
ありがと。
でも…。いえ、やめておくわ。ごめんなさい。
気になるだろ。いいなよ。
……じゃ、言わせて貰うけど…。あの演武は最低だった。
ふ~ん…。どうしてそう思うの?
貴女があの番号を狙って射抜いたから。誰にでもハーレム候補になれるチャンスがあるというのが嘘で、全国の女性の期待を裏切る行為だったから。
3km先のルーレットの数字を10個同時に狙って射抜くことが出来ると思うの?
逆に聞くけど、3km先の的に当てるだけなら動作もなかった筈でしょ? どうしてあそこまで本気になる必要があったのかしら?
当てるのに動作もない的を外したら恥ずかしいじゃないか。
……射撃前に転んだの、アレわざとでしょ? ルーレットの数字すら狙える真の実力を隠す為に敢えて不完全な演武に見せ掛けたんだわ…。一度に10本の矢を同時発射したのだって演武の難度を急に上げることであれが限界の技だと思い込ませたかったんじゃない?
確かにあの番号を狙ったけど、転んだのはわざとじゃないし、10本同時に矢を射ったのだって、そうしないとあの番号は射抜けない気がしたからだよ。なんとなくだけど。
貴女、本当にあの数字を狙って矢を射ったの!? 凄いわね…人間技じゃないわ…。剣聖の位って伊達じゃないんだ…。
なんだ鎌を掛けてたのかよ…。
あの番号通りに射るよう王子に頼まれたのかしら。
王子ねぇ…。アイツにそこまでの根性があればいいんだけど。
違うの?
アイツ最近、塞ぎ込んでて…。何があったか聞いても、余はもう駄目じゃとか、余はなさけない男じゃとか、あの者の心を傷つけてしまったとか、グチグチいうばかりでさ…。仕舞いには、余はもうハーレム候補を選考する資格がない、この国の女を分け隔てなく愛そうとか馬鹿なこと言い出してルーレット選考なんて下らないことをする始末なの。私さ、腹が立ってアイツの頭の中を魔法で覗いてやったんだ。
主をアイツ呼ばわりの上、主の頭を覗く…。貴女って最低のお庭番ね…。でもあの魔王子の頭をよく覗けたものだわ。あの子、底知れない魔力を持っているから警戒していたのだけれど…。
今のアイツなら簡単に覗けるよ。でさ、覗いたらどうだったと思う?
この話、まだ続けるの? 悪趣味ね…。まぁ、いいわ…。どうせ女絡みでしょ。振ったとか、振られたとか。
だから、アイツにそこまでの根性があればいいんだけどね。アイツさぁ、好きな女の子が出来たんだよ…キリノって子なんだけど、でもそのキリノが母親に虐められて酷いことになるのが怖くて、その子の前から逃げ出したんだ。それってどう思う?
とんだヘタレね。
虐められるって言っても、殺されるって意味なんだけどね。
それは尋常じゃないけど、でも同じことよ。好きになった女の子を守れないなんて、とんだ腰抜けだわ。将来この国の王となる王子がそんなことでは安心して暮らせない。
うん。私もそう思って、だからあのルーレット選考のときにキリノって子の住民番号を狙ってやったの。グチグチ言って逃げてないでこの子を守ってみせろって思いながら射っちゃったのよ。……まさか本当に射抜けるとは思わなかった。自分でも吃驚してるんだ。私、剣聖になってから能力が上がったのかな…。
…王子、怒ったでしょ?
そりゃ、もう凄い怒りようで、偶然です! って言っても信じてくれないし…。
いったい何百万分の1の確率の偶然なのよ…。
だから王子の怒りが収まるまでここに泊めて貰おうかなって思ったの。家にいると王子がやって来て煩いのよ。キリノが来たら余はどうしたらよいのだとか、余を虐めてそんなに嬉しいかとか、余の頭を覗くとはなんと破廉恥なとか。まぁ、愚痴はいいんだけど。旦那は仕事でしばらく家に帰って来ないんだ。あんな美少年と夜中二人でいたら、いろいろ世間体ってのがあるでしょう? ムラムラして我慢出来なくなるかも知れないしさ。ここに泊めてよ…(////
……駄目よ。家に帰って王子を襲って男にしてやりなさい。
そんなこと言わないで…。いいじゃん…。一週間くらいでいいから。
一週間も泊まる気だったの? ハァ…。この部屋の有様を見て気付きなさい。私は退学になったのよ。それで退寮するところなの。先週の評価テストで不覚にも赤点を取ってしまってね…。ふふっ。貴女は剣聖。アップリケはメルル様のお側役。幼馴染二人は共に大成功しているというのに、私はプーよ…。どうしてこう上手く行かないのかしら…。
黒猫姫もアップリケと同じくお側役を目指してるんだろう? 退学になったくらいで諦めるなんてらしくもない。
このメイド学園を退学になったら、お側役にはなれないのよ。卒業した者でないとお側役になれない仕組みになってるの。法律で。
ふ~ん。
……これは言い訳じゃなく本当のところなんだけど、もうお側役に未練はないの。エロス王家の中枢に入り込む手段としてお側役が理想的だったから、それを目指していただけ。……でも刺し違える覚悟で復讐を誓った愚王のケインは失脚して煉獄の塔に幽閉されてしまったわ。アベル王子には何の恨みもないし、貴女を敵にもしたくない。
私も黒猫姫の敵になりたくないな。
……その黒猫姫って呼び名、もうやめてくれないかしら。7年前、確かに私の家はエロス直系の名家だったけど、それは昔の話よ。もう姫じゃない。家も領地もケインの姦計によって潰されたのだから…。
じゃあ、黒猫さん。これからどうするの? 行く当てはあるの?
猫耳でも付けてメイド喫茶で働くわ。この学校で学んだことを活かせるかも知れない。あと私、ラノベ作家になろうと思うの。
……えっ?
まだプロじゃないけど、小説を書いてネットで公開してるのよ。
どれ? 読んでみたい。そのPCで見れるんでしょ?
うん…。カチカチ…。えっと、このサイトに投稿してるの。これが私の作品(////
124点? この点数って高いの? 低いの? ……いや、ていうかアンタ怖い顔してどうしたの?
朝は126点だったのに。2点減ってるわ…。誰かお気に入りを外したわね…。この裏切り者には罰を与えないと…。ふふっ…どうしてくれようかしら、そうだ…漆黒の炎で…。
そろそろ読んでもいい? どれが一番面白いのかな?
あぁ…ごめんなさい。私としたことがちょっと取り乱してしまったわ。私が書いてる作品の中で一番のオススメはこれなの。読んでみて。 ………どう?(////
……まだ読み始めたばかりだから。
そ、そう…(////
………………ふ~ん。
チラッ(////
………………へ~ぇ。
ビクッ(////
………………ほ~ぉ。
チラッ、チラッ(////
なるほどね。これって…
まっ、待って!(////
へっ?
貴女もPC持ってるでしょ。なら自分のPCで投稿サイトのアカウントを取って、私の作品感想欄に感想を書き込みなさい。強制はしないけど評価点やお気に入りも入れるべきね。
……ここでアンタに直接感想を伝えるのは駄目なの?
感想と評価点とお気に入りを投稿サイトに入れてくれると私は凄く嬉しいの。朝起きてPCを点けてそういうのが入ってると、もっと頑張ろうかなって私は思えるの。
そっか…。わかった。じゃ、しょうがないね。家に帰るか。アンタの作品に感想を入れないといけないし。
ふふっ。ヘタレ王子によろしくね。
うん。私はヘタレ王子を理想の王となるように調教する。少しへタレの方が開発の余地があって面白いよ。ゆっくり時間を掛けてジワジワと王子を私好みの男へと作り変えてやる。でもハーレム選定の期間が終われば直ぐにも戴冠式だ。時間がない。王子以外の他のことには手が回らない状態なの…。だからアンタはハーレム候補のキリノさまの方をよろしく。あぁ、これ彼女のお側役への就任辞令。王子の印を拝借して特例でねじ込んだから。今日中に鳳凰宮へ入って。いやー。引越しの準備をしてくれてて丁度良かったよ。
……なんでわたしがそんなことを。
いいじゃん。アンタはいまプーなんだし。それに本気で小説家を目指すならハーレム候補のお側役を受けた方がいいんじゃないかな。小説のネタになるし、側仕えが書いたハーレム小説っていくつか出てるけど、どれもベストセラーだよ?
えっ…。
あれ? 知らないの? アンタがさっき見せた投稿サイトでも見掛けたけど…カタカタ。ほら、やっぱり。この1位のやつがそうだよ。私は本屋で買って読んだけど元々はここに投稿されてた小説だったんだね。
うっ…。
お側役どうする? やる? やめとく?
そ、そうね。仕方ない。幼馴染の貴女が困っているようだし、お側役、引き受けてあげてもいいわ。
そうか…。ありがとう。
でもメイド学園の落ちこぼれの私に、お側役としてはあまり期待しないでよね。ボディーガードとしてなら、お給料分くらいは働けると思うけど。
アンタが仕えるハーレム候補のキリノさま、別の時間軸では私がミスしたせいで、とても酷い目に合ったみたいなんだ。この時間軸ではもう絶対にそんな目に合わせたくない…。アンタが守ってくれたら安心だよ。でもね、やって貰いたいのはそういうことじゃないんだ。アンタのここを…。
い、いやっ…。胸の膨らみを…突付いたり撫でたり……しないで…。んっ…。貴女、一体わたしの胸に何を期待しているの…。ひゃん…。わたしの胸に何をさせようというの…(////
違う。オッパイじゃない。ていうかアンタ膨らんでないから。
なっ、なんて失礼なのっ(////
そうじゃなくて、その奥だよ。
胸の奥? 私の心とでもいいたいのかしら? それともまさか波紋のことをいってるの?
その両方をキリノさまに伝えてくれ。頼むよ。
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