キリノの章 13 ☆☆☆ 高山邸(キリノの部屋)
姉弟なんて、そんなのある訳ない…。だってアンタとわたしは山で偶然出会っただけだし、お母さんはわたしが生まれた直ぐ後に死んだって…
貴女のお母様は私の父と恋に落ち、そして貴女が生まれ、この家に預けられた…。私と姉上は腹違いの姉弟なのです。
そ、そんなのお父さんは、ひとことも…
姉上。この事実が明るみになると、貴女を快く思わず危害を加えようとする輩が無数に現れるでしょう。ですから私は姉上の出生の秘密を知る者をこの世に一人も残しはしません。必ず全員殺してみせます。私はその為にここへ姉上のもとへ参ったのです。
殺すって…まさか、裏山で死んだ人たちって…。
あの山から姉上の家を監視していた連中は私が皆殺しにしました。他の者に任せると姉上のいるこの地の存在を知られ、その者も殺さねばなりませんので。
うぅ…。ぐすっ…。わたしがアンタの姉だっていう証拠でもあるのかな…。うぅ…。ヒクッ…ヒクッ…。アンタと雰囲気は似てると思うけど、そんなの偶然だよ。髪の色だって、たまたま同じってだけなんだよ…。
貴女が私の姉上である可能性は高くありましたが、しかし確たる証拠はありませんでした。
だったら!
疑わしいというだけで貴女に災いが降り掛かるのです。それに証拠がないのは少し前までの話…。失礼ながら、さきほど姉上のからだを調べさせて貰いました。私に通ずる血統を持つ者かどうか、姉上のからだの波紋を捉えてハーモニクステストをしてみたのです。貴女から捉えた全ての波紋が私の波紋と共振しました。貴女は間違いなく私の姉上さまです。
からだを調べたってどういうこと? 波紋って何? アンタ何を言ってるのよ…
魔力の源は血統であり、血の源である心臓の鼓動が魔法を生み出し固有の波紋を生じさせます。姉上はまだ魔力に覚醒されておられませんが、既に鼓動と共に小さな波紋が生まれておりました。
わたしの心音を聞いたのって…そういうことするのが目的だったの? ぐすっ…。ぐすっ…。う、うっ…。ううっ…。
……はい。
そっか…。わたし…馬鹿だからさ…アンタがわたしのこと好きだからやってるんだと思ってた…。ううっ…。ヒクッ…ヒクッ…。
すみません…。姉上。
アンタがわたしから距離を置くのって、血の繋がる実の姉弟で愛し合うのが気持ち悪いと思ったからなの?
いえ。
じゃ…。なんで急に帰るなんていうの…。なんでそんな他人行儀な言葉遣いになるの…。なんで誓いのキスをしてくれないのっ…。
貴女と距離を置くことお許し下さい。もしここで私情に流され貴女を連れ帰ったとしても、私と貴女の出会いという因果がある限り、いずれ貴女が私の姉上である事実は白日の下に晒されることになりましょう。姉上の命を狙う者達は思慮深く、狡猾で、偶然などという曖昧な言葉は一切通りません。どういう理由で結ばれたのか、そこから真相は直ぐ暴かれてしまうでしょう。私は貴女に危害を加える者を殺し続ける。しかし母上達にまでは手が出せない。もし姉上に何かあったら今度は止められないかも知れない…。そうなったら姉上は…。私は…。
…アンタ、泣いてるの?
…もう時間がありません。私の魔力は急速に回復していてこれ以上は抑えることが難しく、魔力が大きく漏れると、この場所を感知されます。姉上にふたつ魔法を掛けさせて下さい…。
わたしのことが嫌いになったんじゃないんだね…。
はい…。
じゃ、いいよ…。
では、今から姉上の魔力の波紋を消します。姉上から魔力の覚醒を奪うことになりますが、これでもう貴女の血統を私の血統と照合することは誰にも出来なくなります。 ……パチッ★
からだが…。胸がドキドキして痛いよ…。
先程の深呼吸をしてみて下さい…。
スーーーハー……。コホッ…。スーーーハー……。コホッ。コホッ。
……次に、記憶を…
い、いやよっ! 頭を弄られるのは、絶対にいやっ! わたし怖いのいやなのっ! アンタ、わたしに怖いことはしないって言ったじゃんっ!
……分かりました。しかし今聞いた話は早くお忘れ下さい。他言しては絶対にいけません。今まで通り、姉上がこの家のひとり娘として幸せにお暮らし出来ますように…。私のこともお忘れ下さい…。恋心の芽は、いつか姉上や私の心の中から消えることでしょう…。
待って! こんな別れ方嫌だよ。最後に姉上じゃなくてわたしの名前で呼んでよ、そんな他人行儀な口調も止めてよ、わたしにキスしてよ、さっきまでのアンタにもう一度合わせてよっ!
…キリノ、すまない。余の力が足りぬばかりに…。チュッ(////
う、ううっ…(////
……パチッ☆
消えた…。消えちゃったよ…。あいつ、名前も言わないで裸で帰っちゃって…。馬鹿じゃないかな…。うん。馬鹿だよっ。わたしのこと何も分かってない。忘れられる訳ないじゃん。もう芽じゃないよ、アンタへの恋心は。アンタへの思いは……。もうっ! 馬鹿っ! ぐすっ…。ぐすっ…。う、うっ…。ううっ…。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。