メルルの章 09 ☆☆☆ 白帝城(医務室)
……お、お前ら、い、いったい、な、なにをしておるのだっ!(////
あっ! 王子さま! メルルさまがっ! またもや突然に気を失われ……。も、もしかして、ご、ご病気なのでじょうがぁあ。わ~~~ん。
う、うむ、いや、落ち着け、アップリケよ。今のは病気とか体調とかそういう問題ではないと思うぞ(お前は天然かっ!)
ヒクッ。ヒクッ。じ、じょうなのでぢゅか……って、王子さまっ! 見ておられたのならさっさと出てきてメルルさまの看護を手伝ってくれても良いではないですか! 黙って影でコソコソとみているなんてアップリケは王子さまを見損ないましたよ!
出るに出られるかっ! 別のものは勢いよく出そうになったがなっ!
ええっ??
ハァハァ…。気が動転してつい親父ギャグでセクハラをしてしまったわ。いや余の方がセクハラを受けているような気もするが…。と、とにかく服を着せい。裸のままでは折角汗を拭き取っても風邪を引いてしまうぞ。
あっ! はい! そうですね。パジャマを、着せ着せ。お布団を、掛け掛け。ふうっ。出来た。……うん。おでこに手を当てた感じでは、メルルさま、今回はお熱が出てないようです。よかったのです…。
むにゃ……むにゃ……。お父様……。お母様……。
……アップリケよ。これを花瓶に活けてやってくれ。余は部屋に戻る。
…王子さま。
なんだ。
あの噂、本当にございましょうか…。
何のことだ。
メルルさまの洗脳についての噂です。王子さまとサキエルさまがメルルさまの住む村を襲い、村人全員を虐殺してメルルさまを拉致したこと。そしてその事実を隠す為にメルルさまに架空の国の姫と信じ込ませるようサキエルさまに洗脳をお命じになられたこと…です…。
……余は王族だ。この国の王となる男だ。臣下の分際で主である余を愚弄することまかりならん。たとえ気心の知れたお前であっても、余は主として、私情を捨て、罰せねばならぬこともある。アップリケよ。今いったことは忘れろ。余も聞かなかったことにする。お前を殺したくはないのだ。
わ、わたしはメルルさま付きを申し受けた者です! 誰が相手でも、それが例え、王子であっても、王であっても、私は自分の命惜しさに姫さまを裏切ることは出来ません!
ふはははっ。そうか。そこまでの覚悟があるなら正直に言おう。お前が聞いた噂は本当だ。余が村人を皆殺しにしてメルルへの洗脳を命じたのだ。……どうしたアップリケよ。何を驚いた顔をしておる。ふん。今回はお前のメルルへの忠義の心に免じて許してやろう、だが次は…
嘘です!! 王子がそのような非道をする筈がございません! 絶対にございません! 本当のことを仰って下さい! 何か理由が…
……パチッ☆
あっ……。な、なんなの…これは…。体が重くて…上手く動かないの…です。お、王子さま……。いったい何を……。
時間跳躍の負荷に体がまだ馴染んでないのであろう。直ぐに慣れる。
時間跳躍?? 王子が何をいってるのか私には……。
余は時を操れる。余から半径2mの範囲で-3分タイムリープさせた。お前が話を切り出す少し前の時間に戻ったのだ。そして今、リープ先の時間と我々の時間との間に生じた因果の齟齬の溝を、時の柔軟性と整合性が埋めようとしておる。簡単に言えば、異なる2つの時間軸の歯車が噛み合うまでの間、一時的にリープ先の時はフリーズを起こすのだ。これをタイムリープ能力から派生した余の時間静止能力『時の神の混乱』というのだが、それはともかく、鳳凰宮の目もここへは届くまい。静止時間は今回の場合5分といったところだ。手短に説明する。よいか。
はっ、はいっ。
村人を皆殺しにした話は本当だ。メルルへの洗脳では村人は人攫いとしたが、現実はおとぎの世界より醜悪なものでな…。アップリケよ。ホムンクルスというものを知っておろう?
錬金術から派生した技術で、無から造り出された人造人間がホムンクルスと学校で学びました。100年前にその技術は完成し、やがてホムンクルス達は主である人間に反乱を起こして世界大戦に…。多くの血が流れた結果、ホムンクルス達は皆殺しとなって、その製造技術も永遠に失われたと。
うむ。だが貴族や豪商の愛玩具として売り出そうとホムンクルスの復活を試みた一派が余の領内にいてな、プロトタイプが試作されるまでに開発は進んでおったのだ。……それがメルルなのだ。
メ、メルルさまがホムンクルス!? 信じられません…。
余もだ。忌むべき存在として語り継がれてきたホムンクルスがこれ程までに愛らしく、人間らしく、暖かだとはな…。撫で撫で…。しかし、このようにさらさらと、心に響く鮮やかなアクアブルーの髪の流れは、人が持つには叶わぬものなのであろうな…。
うぅん…アップリケさぁん…そこぉ…らぁめぇ……。むにゃ……むにゃ……。
姫さま…。
2年前、連中の内偵を続けていた佐助からメルル誕生の報告を受け、余は退屈しのぎにそれを見に行った。切っ掛けはちょっとした好奇心だったのだ。絶世の美少女とかいう人形をひとめ見て帰るつもりであった。……だが余はメルルに心を奪われてしまってな、連れて帰ろうかと思ったが、余はまだハーレムを持てぬ。だから余の分身をメルルのそばに置いたのだ。それがこいつだ。……パチッ☆
にゃん太にゃ! アップリケよろしくにゃん!
ね、ねこ…ですか?
そうだ。余の魔力と意識を一部切り離して生み出した魔法生命体にゃん太だ。余のテレパシーが途切れても勝手に動いて喋れる半自立思考型の眷属である。コイツを通して余は今日までメルルと擬似的にではあるが一緒に暮らしておったのだ。ふふっ。楽しかったぞ…。たまに喧嘩することもあったがな。いつの間にか仲直りをしておるのだ…。2人でどんなことも隠さず話し合った。メルルは余の初めての友達であり、初恋の相手なのだ。
とことこ…。にゃー。メルル会いたかったにゃん! チュッ(////
……この手に抱きしめることは出来ぬが、ハーレム候補選定の日が来てメルルを迎えに行くその日まで、我慢しようと思った…。 ……パチッ★
アップリケ、さよならにゃん! メルルを頼むにゃん! しゅうぅ~~っ…
……王子。
余は愚かだった。酷い勘違いをしておった。誰もが余に好意を持つ。ゆえにメルルも当然に余を好いてくれると、そう思い込んでおった。プロポーズをすれば必ずハーレム候補になってくれるものとな。だが結果はどうだ。余はアッサリと振られてしまったわ。ショックであった。まさかチンチンが不満であるとはな…。
おチンチン…ですか?(////
うむ…。人生で初の挫折である。しかしそれでも余がにゃん太であると告げたならメルルは余を受け入れてくれると信じておった。浅はかという他ない。そのようなこと、もう出来ぬようになってしまった…。
どうしてです?
メルルの洗脳に猫の記憶は邪魔なのだ。メルルは余のことを忘れなければならぬ。
洗脳など止めて、王子が猫であると打ち明ければ良いではないですか。
駄目じゃ。洗脳は完成させねばならん。ホムンクルスであるメルルに父はおらぬ。母もおらぬ。なにもないのだ。メルルは人ならざる者が人となる為に刷り込まれた偽りの記憶の他には何も持たぬ。……だから、だからせめて、その記憶だけは世界一幸福なものを与えてやりたいのだ。サキエルの洗脳魔法はルーン1番だ。メルルは永遠に醒めぬ幸福な夢を見続けるだろう。幸せな家族に囲まれて育った思い出を胸に抱き、この少女は人となるのだ。
で、では別の洗脳を…。王子を好きになり、幸せな記憶を持つように少しシナリオを変えてもう一度…。
……アップリケよ、洗脳は余を好きになって貰う為にやるのではないぞ。余の幸せの為ではなくメルルの幸せの為に行うのだ。
……。
メルルは余の親友である。人形ではない。コヤツには自分の意思で人生を選んで貰いたいのだ。……余はコヤツのことを誰よりも理解しておるつもりだ。こころが繊細で優しい奴なのだ。チンチンはともかく、ただの人殺しでしかない余を受け入れることはあるまい。とても辛いことであるが、それがメルルの意思であるなら余はそれでよいのだ。
王子さま…。すみません、王子さまに疑念を抱いた私は大馬鹿者です…。
ふんっ…。信じてくれたではないか。余の方こそお前を騙して悪かった。エロス家のハーレムである鳳凰宮は国権の中枢でもある。その目はこの国の全てを見通しておる。この城も結界が張られた執務室以外は全て筒抜けで迂闊に喋れんのだ。さっきもタイムリープをしなければ、お前の疑念の言葉は徹底的に解析されて真相は露見したであろう。そして鳳凰宮は人の子を産めぬホムンクルスをハーレム候補として絶対に認めぬ。……メルルに振られるならともかく、そのような下らぬ理由でメルルを余のハーレムに入れることが叶わぬのは嫌だからな…。
はい…。
そろそろタイムアウトに入る。また時が流れ始める。……アップリケよ、メルルがホムンクルスと知った今でも、先程と変わらぬ忠誠をコヤツに誓ってくれぬか? ……そして、もし、コヤツがハーレム候補を辞退しても、成人するまで見守ってやってくれぬか?
私はメルルさまが好きです。本当の妹のように思っています。どのようなことがあろうと私はメルルさまに生涯忠誠を誓う者です!
うむっ…。あとでメルルを余の執務室に。洗脳を完成させる。
……パチッ★
メルルさま……メルルさま……起きて下さいませ……。
むにぅ…アップリケさぁん……ここどこ……。
医務室のお布団の中でございます。先程まで王子さまがいらしてたんですよ。ほら見てくださいませ、王子さまからのお見舞いのお花です……可愛ですね、お名前はなんていうのかしら。
メルル知ってる! フォーチュンっていうんだよ。花言葉は……永遠の愛なの(////
ふふふっ。またそのように赤くなられて…。メルルさまはやはり王子さまのことがお好きなのですね…。
うん…。まだお話はしたこと無いけど、王子さまの心は伝わったよ…。
姫さま、まさかさっきのお話を…。
えへへっ。夢の中で聞いちゃった…。メルルにはお父さんやお母さんがいないのかも知れないけど、でもさびしくないよ。だって私にはアップリケさんや王子さまがいるんだもん。
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