陸上競技から離れた為末さんの次のステップについてのお話です。
JFN制作『ラジオ版:学問ノススメ』の2013年1月第1週放送分よりピックアップ。
『ラジオ版:学問ノススメ』公式書き起こし、第5弾のゲストは元陸上競技選手の為末大さんです。ラジおこしでは、2013年1月第1週放送分を4回に分けて連載という形で全文掲載いたします。
第1回:実践の前に全て分かることなんてない。だから、「まずやってみる」:為末大『走りながら考える』vol.1
第2回:結果よりも大事なのは、「自分自身が胸を張れる」かどうか:為末大『走りながら考える』vol.2
第3回目は、ご自身自らが学長を務め、ノンジャンルで誰とでも交流し学び合うことができるコミュニティ「為末大学」や、陸上競技を辞めてから次のステップを踏み出す際に考えていたことなど、為末さんが陸上競技選手の次に目指しているキャリアについてのお話です。
しゃべるひと
- 為末大さん(元陸上競技選手、スポーツコメンテーター)
- 蒲田健さん(ラジオパーソナリティ)
(以後、敬称略)
次のキャリアとしての『為末大学』
蒲田:昨年の6月に現役を引退されて、まだ1年も経っていない訳ですけど、いま現在陸上との関わりってのはどういう感じなんですか?
為末:陸上はほとんど関わりは無いと思うんですけど、ときどき「かけっこを教えて欲しい」っていうので行ったり、子供たちに走り方を教えるという活動はしてまして。
厳密に言うと陸上じゃないんですよね、もう全然陸上競技とは関係無い、子供たちも含めてますから。そのぐらいですかね。
蒲田:ある意味、すぱっと。
為末:そうですね、陸上とは。
蒲田:もう用具とかも処分しちゃって?
為末:用具はもう無いですね。
いわゆるエクササイズ道具みたいなのはありますけど、陸上競技の道具は無いですね。
蒲田:でも、それもかなり思い切りましたね。
為末:そうですかね。
皆がどうなのかちょっと分からないですけど、もう職業が変わったのだからと思って。
蒲田:もう、本当に「違う世界にこれから行くんだ」って感じ。
為末:そういうことをやりたがるんですよ、性格的に。(笑)
変わる時に先に環境を変えたがるっていうんですかね。未練たらしいってだと思うんですよ、本当の性質は。(笑)
蒲田:じゃあ、まさにそれも「走り始める」って感じですよね。すぐに「次のところへ行く!」って感じで。(笑)
引退後は書籍をご出版されたり、「為末大学」…「為末大学」って何ですか?
為末:「為末大学」って、ザックリ言っちゃうと教育のエンタメ化みたいな事をしたかったんです。
蒲田:教育のエンタメ化?
為末:この本がまさにそんな感じですけど、「学ぶ」ってことが「座って何かの知識を、誰かが言っている事を受ける」っていう事じゃだけじゃ無いんじゃないか、ってのが僕の中ですごくあって。
勉強みたいなものをほとんど人生でやってきてないんですけどね。で
それでも何かについて人と議論をしたりとか、やっていく課程でかなり学んだ事が多いし、物事の整理のしかたって、ほとんどそこから学んでいるんですけど。
そういうやり方のスタイルの物がもっとあっても日本にいいんじゃないか?って思っていて。1回目は議論の授業ってのをやったんですけどね。
蒲田:議論の授業、はい。
為末:2回目はスポーツとアートを掛け合わせるって事をやったりしたんですけど。
今のところ、まだ実験段階ですけど「教育」っていうものをもうちょっとエンターテーメントにして、「楽しいんだけども、気がついたら学んでいる」みたいなことが、もう少しできていくと良いなというふうに思っています。
蒲田:これは「為末ユニバーシティー」?(笑)
為末:そうですね(笑)
「学」だけ付ければ「大学」になるんだってくらいの発想でしかないんですけど。(笑)
蒲田:どこかに固定のキャンパスがあるってとか?
為末:全然無いですね。
そういう遊び心っていうか、僕もこんな風に名前が走るとは思っていなかったんですけど。(笑)
いろいと仕掛けていって。
蒲田:でも、そういう仕掛けはおもしろいですしね。これは、どなたでも?
為末:その会さえあればですね。
アメリカンフットボールって走るだけのポジションがあるんですけど、彼らって専属のランニングを教わってたりしないんで、彼らに僕の走り方のメソッドを入れるっていうアメフト×陸上競技みたいなもののトレーニングキャンプを今度やるんですけどね。
そんな感じの、「実はこういうやり方じアリなんじゃないの?」みたいなものを、もっと体動かしたり学んだり、音楽もアリかもしれないですけど、そういうのをのをやっていくっていう。
蒲田:じゃあ、本当にそれも何でもあり…?
為末:何でありです。ラジオの授業とかも、もちろんアリだと思いますしね。
蒲田:それは、「こういうのもあるんじゃない?」っていうアイデアさえあればどんどん進んで行く?
為末:実を言うと、そういうのを持って来てくれたらいくらでもコラボしますよ、みたいな話しで。
「正しいとはなにか?」を考える議論も
蒲田:これはどうやってこうアプライすればいいんですか。
為末:為末大学ってHPがあって、そこに連絡をもらえれば。
蒲田:じゃあ、いろいろなアイデアを。
為末:想像以上にフランクに話は進むと思います、簡単に。(笑)
蒲田:へえ、そうですか。(笑)
為末:そんな感じなんです。
通訳の授業もやってみたいんです。クイズ番組でおもしろく考えているのがあって。
英文が出てそれを通訳するんですけど。実は通訳者って通訳のしかたが違うんです。「コーヒーが熱いですね」とかいうのは訳し方が全然変わったりするんですよ。
「oops!」という一言だけでも、それを意味を捉えて訳すってことなんですけど。そういうことが実は違うって事を知ってすごいおもしろいなと思っていて。
これまでの通訳で一番おもしろい通訳って、「自民党」と「民事党」の違いは何だってロシアの政治家に聞かれたときに、「カレーライス」と「ライスカレー」の違いだって日本人が言ったのを、その瞬間何かロシアの同じような食べ物に例えて言った通訳の方がいるんですよね。
おもしろくないですか?(笑)
結構通訳って瞬発力とクリエイティビティーな世界なんですよね。
英語とか分かる方も多少いらっしゃるから、コミュニケーションの一貫としてそういうのをやってみるおもしろいなと思って。
蒲田:「為末大学」懐深いですね。(笑)
為末:何でもありなんで(笑)
蒲田:為末大学学長としては、いろんなフィールドにもう全方位でアンテナ張ってる?
為末:そうですね、おもしろいと思えばですね。
蒲田:え、それは学長判断で?(笑)
為末:学長判断で。(笑)
学長がちょっとゆるゆるすぎて皆から事務局が大変だってなっちゃいますけど。(笑)
蒲田:じゃあ、おもしろいアイデアがある方はちょっとトライしてみてもいいですね。
為末:そうですね、何かあったら良いなって思うんですけどね。
蒲田:これ本当にい広がりも、楽しそうだし大きそうだし。
為末:1回目の授業は議論の授業だったんですけど、それは「正しい事は何かを考える」みたいなやつだったりして、これもすごくおもしろくて。
例えば、高齢者と若者が交通事故で轢かれていて、片方を助けている間に片方を助けている間に片方が死んじゃうんだけど、どっちを救いますか、もしくはそこに差を付けるべきじゃないですか?とか、そういう事をやってくれるんですけどね。
蒲田:『白熱教室』ですね。(笑)
為末:うん、まあ『白熱教室』ですね。(笑)
すごいおもしろかったですよ。経済学の先生とお医者さんに来ていただいて、「命」と「お金」の方からやるんですけどね。
蒲田:それこそ実践的だし、「やりながら考える」という所にも則している感じもしますよね。
為末:この間コンビニの方と話したんですけど、例えば、「このパンでお腹が痛くなった」ってお客さんが来た時に、マニュアルとしては「家のこのシステムとしては賞味期限切れは売っていません」って言えるようになっているんです。
言えるけど、その場で目の前で本当に痛そうにしている人に何を言うか、みたいなことって人生ってずっとそういう判断を迫られるじゃないですか。
組織としての見解と、個人としての立場の間って言うんですかね。倫理ってやっぱそういうにあるような気がしていて、ここまでは譲るんだけど、ここから先はやっぱ自分が大事にしている価値観だから譲れないとか。
「じゃあ価値観って一体何なんだろう」とかそういうことをもうちょっと練るようなことがあってもいいのかなってことなんですけどね。
蒲田:色んな角度からのアイデアが、大絶賛募集中という感じでございます。
為末:はい。
次の人生を見つけるための「乱れ打ち」
蒲田:現役引退してからの次のステップがすぱっといっているという感じはしますが、それは逆にやろうと思ってすぱっとやっている、という感じ?
為末:乱れ打ちですよ。
蒲田:乱れ打ち!?(笑)
為末:道が見えているわけじゃなくて、なにか興味があったことをやっていて。もう一つは喪失感は怖かったんですよね。
人生の95%くらいの割合が陸上競技で、それがスポンと抜けちゃう怖さもあったんで、これは何かで埋めていないとっていうのもあったんですけど。想像しているよりも喪失感は無かったんですけど。
次の人生でどういう方向に行くか、本業を何にするかってのも今はすごく考えていて、だからまず乱れ打ってピンとくるものにゴーッと投入するという、そういう状態ですね。
蒲田:そこも走っているという事ですけどね。
Twitterの話も出ましたが、フォロアーも12月現在で13万人を軽く越えちゃってる事ですけど。多くの人が為末大の言葉に注目しているという現状もあるわけですけど。
これほどまでに、皆さんが為末さんの言葉に注目しているってってのは、ご自身ではどういう風に分析してますか?
為末:どうなんでしょうね。
僕もよく分からないんですけど、比較的「アスリートなのに…」っていう反響が多いんですよね。
アスリートとかスポーツ選手がこういうだろうっていうからずれちゃって、ネガティブな事を言うとかね。
そういうのがひとつ興味を持って貰っている点かなというのと、あとは、競技人生が終盤下り坂だったんですよね。結果は下っていくんだけど、そういう中でどういうふうに自分を駆り立てていって、どうやってトレーニングしていくかということを考えたりしたんです。
一時期は、「若い時のいきいきとしたトレーニングをしたい」って思ったんですけど、それって年齢が重なると無理で、あの時はもう来ないわけですよね。
何となくこの辺が、日本の今の、「もう一回日本経済を再び!」みたいなのって、やっぱり年齢の分布的にもこれから難しいと思うんですね。で、新しい価値観で、新しい国の有り様ってのはあると思うんですけども、バブルみたいな若い人がたくさんいる時の盛り上がりみたいなことって無いと思うんですよね。
その辺の下り坂じゃないんだけど、価値観のシフトのタイミングと僕の競技人生のそれがすごく重なっているんじゃないかなっていうのが、個人的な見解なんですけど。
20年前とかだったら、「こんな事言ってないでもっとガンガン登ろうぜ!」って話だと思うんですけど、今のこのタイミングだから、皆が「じゃあどうやってこれからシュリンクしていく経済の中で国を立て直して、効率化していくか?」みたいなタイミングにハマったのかな?っていうふうな気がしているんですけどね。
蒲田:陸上人生というものが、人間としての人生の本当縮図というな部分があるから、それを先取りして経験しているという部分があるわけですね。
為末:全部じゃないでしょうけど、多少感じているものがあって、その辺りのエッセンスが日本の今の現状に響いているってのがあるのかなってと思っているんですけどね。
第4回につづく
次回の配信は8月2日の予定です!Twitter、Facebookなどをフォローしていただけると更新情報をお届けしますのでぜひ!
為末大さんのプロフィール
1978年広島県生まれ。サムライハードラーの異名を持つ、トップアスリート。2012年6月現役引退。Twitterフォローは13万以上。知的に書かれるアスリートとして、言動にも注目が集まる。
2010年アスリートの社会的進出を支援する一般社団法人アスリートソサエティーを設立。2011年地元広島で自信のランニングクラブ『シャスキー』を立ち上げ、子供達に運動と学習能力をアップする陸上教室を開催。また、東日本大震災発生直後。自身の公式サイトを通じて、シームジャパーンを立ち上げ、競技の枠を越えた多くのアスリートを参加を呼びかけるなど。
スポーツを通じて社会に貢献する活動を活動を幅広く行う。著書多数。最新刊はダイヤモンド社刊、『走りながら考える 人生のハードルを越える64の方法』。
関連書籍
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これまで書き起こしたゲストはこちらです!
第1弾:古市憲寿さん(社会学者)
第2弾:武田双雲さん(書道家)
第3弾:黒澤和子さん(映画衣装デザイナー)
第4弾:弘兼憲史さん(漫画家)
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