三浦建太郎の新作『ギガントマキア』の大名舟盛り感覚
『ベルセルク』のゴッドハンドの名前にピンと来ている人は来ているし、『千年帝国の鷹(ミレニアム・ファルコン)編』というネーミングセンスにハタと膝を打つ人は膝を打つ。
それ以前に、『王狼』『王狼伝』の前提や、『ジャパン』の翻案的な視点に、勘の良い人は脳内の特定のジャンルを司る部分がチリチリと熱を帯びてきていた事を自覚してきた筈であるし、ンな特権的な物言いをせずとも、ガッツがサブマシンガンにレーダーに自己修復を兼ね備えたオーバーテクノロジーの幸福なる結集体である事は、はな、25年間『ベルセルク』を読んできた読者ならば、無意識化に織り込まれているであろう。
三浦建太郎は、そもそもがSF者なのだ。
『ギガントマキア』はコード型の漫画だ。大災厄後の自然回帰願望、巨人(及びクリーチャー)、プロレス、精霊たる幼女、大仰な台詞回し、こうしたコードと読者の識(しき)を照合させ、躍動のダイナミズムを感じられるよう配置されてある。
無論、それが「既視感」であるとか「進撃の巨人」であるとか「山口貴由」であるとか心ない比喩で物議を醸されることも舌をペロッと出しつつ想定はしていたのだろう。だが、それらのコードの選択には矜持があり、『ベルセルク』の息抜きにやりたい事をやってみましたという趣味の奔放さがある。
この『ギガントマキア』が非常に面白く、且つコード型のSFとして卒が無いのも当然で、三浦建太郎はやはりSF者であるからだ。
「烈修羅(レスラ)」と称する主人公、泥労守(デロス)にサソリ固めや直下式ブレーンバスターを繰り出させる趣味の方向性。そこには格闘や人体構造にいちいち独自解釈を盛り込まずとも、流れと勢い、話運びだけで世界観を説明出来ているという芯の強さがあり、その老獪な手練手管があってこそ肉体のぶつかり合いがより単純化、「漫画」に最適化されて当たり前のことだが今自分は漫画を読んでいるという気にさせてくれる。
設定を入念に作り込んだ設定集を手渡されるのと、それを基にした漫画を読むのとでは稼働タスクが100も200も違ってくる。単純化のために入念なことをする(設定……描き込み……)三浦建太郎には、かつて副読本無しでは辛いようなSFにぶち当たった経験があるのではと私などは想像を巡らせてみるのだけれども。
世界に存在する命の多様化を是とする少女・風炉芽(ブロメ)と、主従じみた関係ながら旅を続ける泥労守。かつて世界は斯く斯く然々であったと振り返ると同時に、いまの世界も脅威に満ちていると現状への肯定をも行なう。
断片的に明かされるいまの世界と、読者が知っている現在の世界を二人は歩く。少女を肩に乗せた男の足跡を残しながら。巨人の足跡を刻みながら。
この漫画自体は、或いは漫画自体も巨人のようなものだと思う。
巨人は異形であり、異形であるということは非日常であり、非日常ということは治安が担保されていないということであり、治安の担保が無ければそこに異形が跋扈するのは当然の事。
巨人を倒す方法は古典を紐解く間でもなく事欠かないが、実際に巨人に遭遇した人間のお話を聞くことは程々に難しい。本作『ギガントマキア』はその点貴重な文献だ。主人公の戦闘態勢として、兵器として、世界の再生の鍵としての、多角的な巨人の姿を見る/読む事が出来る。サイエンス・フィクションのエンターテイメントに特化した多幸感あふれる冒険活劇といった体裁で。
或いは巨人と生態系のことなんて本当はどうでも良くて、いのち、そのものの、その響きが持つリリシズムの、SF読みのみが持つ封建的な純情にウラケン――三浦建太郎は立ち返ったのかも知れない。描きたい放題を描き、流用したいものは片っ端からコード化し、最後の最後に叙情を持って来、その拠にSFを用いる。
解放的であり子供っぽくもあるこの漫画に、どこか往年のSF少年の姿が視えるのだ。
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20140731 │ 漫画 │ コメント : 0 │ トラックバック : 0 │ Edit