家の売却の意思確認「ダメだった」
今回は少々、私事を書かせていただく。
両親が2人とも老人ホームに入り、空き家となってしまった自宅を処分することになった。ゴミがいっぱい詰まった一軒家をかたづけるのは、口では言えないほど大変だったが、それも無事に終わり、不動産屋さんが買主を見つけてくれた。家の持ち主は父なので、売却の意思確認ということで、司法書士と不動産屋さんが老人ホームの父のところへやってきたのが今年の5月半ば。私はドイツにいたので、弟が立ち会った。
父は89歳で、ときどきトンチンカンなことを言ったり、実の娘と孫娘を取り違えたりもするが、家の売却に関してはちゃんと納得していた。「2階に上がれないので、もう、あそこには住めないね。早く売れればいいね」と、父自身が言っていたのだ。だから、まあ、ちょっと呆けぎみではあるが、意思確認は無事に済むだろうと高を括っていた。
ところが当日、ドイツの私のもとに、弟からのメール。「ダメだった」。エ―――! そんな・・・。
弟の話では、父は必要書類3枚に住所や名前をちゃんと記入し、ゆっくりと受け答えもして、ようやく終了か、というところで生年月日を聞かれたら、答えられなかったのだそうだ。そこで、「では、お年は?」と質問が変えられたが、またもや言葉に詰まり、どうにかして事態を打開しようと思ったのだろう、いつものおふざけで「100歳!」と言ったらしい。弟の動揺が目に浮かぶ。
しかし、そんな冗談を、誰もおもしろいと思わなかったのは当然のことで、父は完ぺきに窮地に陥った。弟のメールには、「あんなに優秀だった人が、最後はうつむきぎみで口を固く結んでいた姿はかわいそうだった。あなたがいたら泣いてたね」と書いてあった。読んだだけで泣けてきそうだ。結局、さらに質問がなされようとしたのを、弟が「もう、いいです」と止めたという。こうして、意思確認は完全に暗礁に乗り上げた。
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