みなさん、こんにちは。月に1度の読書コラムです。今年は第一次世界大戦開戦から100年という、節目の年です。これを機に、第一次世界大戦について学べる良書を紹介したいと思います。
第一次世界大戦については、第二次世界大戦に比べて学校でそれほど深く学んでいない方も多いことでしょう。1914年、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボで、オーストリア皇太子夫妻がセルビア人青年に暗殺され、オーストリアがセルビアに宣戦布告したのがきっかけで…と教わったことを覚えている方も多いでしょう。
しかし少し冷静に考えてみると、その出来事がなぜ、1914年の時点で既に約600万人の兵士を動員するほどの大規模な戦争へと発展したのか、今一つ腑に落ちないことはありませんか。この背景を掘り下げることは、今の不安定な国際情勢の本質を知る大きな手がかりになると思います。
さて一冊目のお薦めは、『八月の砲声』(ちくま学芸文庫)です。
この本は、ジャーナリストであるバーバラ・W・タックマン女史による渾身のルポです。当時の国際間の人間関係や意思決定をする立場にいた人々の深層心理、思惑などを、資料や文献に大量に当たって実に丁寧に掘り下げて描かれており、諸国がどのようにして戦争に突入していったのかが良く分かります。大変優れたノンフィクションですので、ぱらぱらとめくってみるだけでも、その面白さがすぐに分かると思います。
「世界はつながっているから戦争は割に合わない」のか?
しかもここから学べる事実や教訓は、現在に置き換えると怖い部分も相当あります。例えば、第一次世界大戦までの欧州の世情は、平穏なものでした。1910年、英国のジャーナリストであるノーマン・エンジェルは『大いなる幻想』を出版し、後の33年にノーベル平和賞まで授賞しています。
そしてタックマンは本書で、『大いなる幻想』について次のように紹介しています。
「エンジェルは、戦争はいまや実行不可能になったことを説き明かした。豊富に例を引用し、反論の余地のない論陣を張って、現在のように財政、経済の面で各国が相互に依存しあっている実情では、戦争に勝った国も敗れた国と同じように苦しい目にあう。従って戦争は今では割の合わないものになった。どんな国も戦争を起こすようなバカなまねはしたくないはずだというのがその論旨。この本は十一か国語に翻訳され、『大いなる幻想』ブームが起こった。」
もちろん当時は、一方で軍事関係者による「戦争は不可欠」と論陣を張る書物も出ていて、これも『大いなる幻想』と同じ程度の多大な影響力があったわけですが、世論の空気と政治がいかに異なったロジックで動いていたかが、良く伝わってくるエピソードです。