2014年07月12日

ドイツ代表が「王者ブラジル」を弑し奉った件について

■王国のブラジル ブラジルの強みは速攻にある。中盤での強引なボール奪取からのカウンターは驚異的だ。その一方で遅攻は拙い。ボール奪取を目的として構成されたチームは、ボール保持を目的としてはいないからだ。速攻を除けばブラジルの攻撃はCBからのロングボールと左サイドのマルセロから始まるネイマールやフッキによる強引なサイドからの仕掛けが主だ。こういったブラジルの長所をドイツは消してやれば良い。つまりボール保持には固執せず、ブラジルにボールを渡してやればよい。また強みであるブラジル左サイドからの仕掛けを逆手に取れば良い。

下がってボールを引き出そうとするグスタボやフェルナンジーニョには強く当たりに行く。そしてCBにロングボールを蹴らしてボールを回収する。もしマルセロとフッキのいる左サイドにボールが入った場合は、ミュラーとケディラが素早くプレスバックして守備を行う。

ドイツ右サイドに配置されたミュラーとケディラは走力に優れる非常にタフな選手だ。さらに背後にはラームとシュバインシュタイガーが控えている。この時、逆サイドにいるドイツの左SBはCBの選手だ。四人中三人が高身長であるドイツ代表の最終ラインは、単純なボールであれば問題なく跳ね返せる。ブラジルの強引なサイドアタックでは簡単に崩れない。この強固な盾でブラジル左サイドの攻撃を跳ね返した後、ドイツは右サイドを中心に速攻を行う。マルセロは何度もミュラーに置き去りにされてしまい、またマルセロの背後をカバーしているはずのグスタボはケディラに吹き飛ばされてしまった。こうして「ブラジルの強み」であったはずの左サイドは、ただの「ブラジルの弱み」となってしまった。

■ブラジルの守備における致命的な弱点 ドイツの遅攻における目的は明確だ。ブラジルのセットされた守備は対人には強い。その反面、組織的ではない。この弱点をドイツは突けば良い。

右サイドのケディラのランニングとラームのオーバーラップでブラジルのDFを引き付け、ポジションチェンジを繰り返す。そしてボランチのひとりがサイドのカバーに入った時、クロースが裏にポジションを取る。これで中に入って来た選手はフリーに近い状態でボールを受けられる。

ブラジルのこういった守備の特徴はコーナーキックの時にも見られた。マンツーマンで守備を行うブラジルは多彩な動きに弱い。ランニングによるポジションチェンジや、味方のスクリーンプレーを利用した動きでマークを外す事ができれば、攻撃者はフリーに近い状態でシュートを打つ事ができる。

■亡国のブラジル ドイツはハイレベルなポゼッションができる。またポゼッションしかできない一発屋でもない。ミュラーやケディラを筆頭に、走り、守る事ができる選手を抱えている。この試合のドイツの攻撃は「遅攻」「速攻」ともに明確な意図を持って攻撃を行っていた。

その一方でブラジルは画一的な戦いしかできない。強力な速攻を抑えられると手詰まりになってしまう。これは今大会中ブラジルがずっと抱えてきた問題だった。いくら強力なグーであっても、それしか出さない人間がジャンケンで勝ち進む確率は低い。さらに守備では致命的な欠陥を抱えている。またチームの要を二人も失っている。結果、これまでホームの利に頼って何とか準決勝まで上がってきたブラジルは、屈辱的な敗戦と共に大会を去る事となった。

■喪失のブラジル たとえブラジル国民の関心がなかろうとも、ブラジル代表は三位決定戦に挑まなければならない!!

え〜と、こういった状態を日本語では何て言うんだっけ?

あっ。

そうだ。

地獄だ!!

あなたが転んでしまったことに関心はない。そこから立ち上がることに関心があるのだ。 エイブラハム・リンカーン

最も誠実な謝罪とは、言葉ではなく行動にある。

頑張れマルセロ!!

■ドイツのポゼッション ミュラーが先制点を決めたのが前半の11分。クローゼが二点目を決めたのが前半の23分。そしてケディラが5点目のゴールを決めたのが前半29分。前半20分〜30分の10分間で、ドイツが4点を決めて試合は終わった。しかし、その間のポゼッション率はブラジルがドイツに勝っている。

  • 前半の20分までのポゼッション率は、ブラジル60%-ドイツ40% 
  • 前半の30分までのポゼッション率は、ブラジル55%-ドイツ45%

ドイツはポゼッションこそブラジルに譲ったがシュート本数では、

  • 前半20分までのシュート数は、ブラジル1本-ドイツ2本
  • 前半20分から30分までのシュート数は、ブラジル0本-ドイツ6本

と、ドイツがブラジルを圧倒している。特に悪夢の10分間で、ブラジルは一本もシュートを打つ事ができなかった。速攻、遅攻ともに、どちらが有効的な攻撃をしたのか言うまでもない。この後、試合を決めたドイツは徐々にポゼッションを回復していき、

  • 試合終了時のポゼッションは、ブラジル47%-ドイツ53%

と、試合が終わる頃にはドイツがポゼッションでもブラジルを上回った。

勝利を勝ち取る為にはボールポゼッションを高める事が重要なのだろうか?実際のところ話はそう単純ではない。「ボールを保持する」のと「得点を挙げる」のとは、まったく異なる事だからだ。両者の間に直接の連関はない。どんなに長い間ボールを保持し続けても、敵の守備網を破ってシュートを打たない限り得点を挙げる事はできない。逆に、たとえボールの保持時間が短くとも、奪ったボールを素早く敵陣に持ち込んでシュートを打てば、ほんの数秒のうちに得点が挙げる事ができる。したがって、ボールポゼッションはそれ自体を目的としてプレーすべきものではない。

(カルロ・アンチェロッティ著、片道道郎著『アンチェロッティの戦術ノート』河出書房新社、2010年、40頁より)

ポゼッションは手段であって目的ではない。ドイツは自分達がボールを持ちたい時にボールを持ち、相手が望まない状態でボールを持たせることが出来るチームである事を示した。

■ケディラ「スペースがあれば、楽勝です」 この試合のドイツはあまりにも出来すぎていた。ケディラ、優勝おめで……おっと!!まだ睡眠導入剤ことアルゼンチン戦が残ってる!!

さようなら!!

■仲間になりたそうにこちらを見ている

オランダにボコられたスペイン、やっちまったぜカシージャス!!

ドイツにボコられたポルトガル、やっちまったぜペペ!!

ドイツにボコられたブラジル、やられちまったぜマルセロ!! ← NEW

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初コメ失礼します。

コメント投稿者ID : rad-p

初コメです。
ボキャブラリーの豊富さと戦術眼にいつも驚きつつ、楽しく拝見させて頂いています。


ブラジルは大差が付いてしまって、反撃前に緊張の糸が切れてしまったのもあるんでしょうが、ドイツに対して終始非常にやりにくそうでしたね。
もう一回やったとしても、はたまたネイマールとT.シウバが居たとしてもドイツに勝てるのかどうか。。。


無論、たらればの話は無意味なんですが
それくらいのインパクトがあった気がします。


いよいよ今大会もあと2試合ですが、
三決のブラジルの闘い方とブラジル惨敗を見たアルゼンチンの闘いぶりを楽しみに見届けたいですね。


また記事楽しみにしてます!

心理と精神面

コメント投稿者ID : simple3

セレソンレベルの選手たちでも精神面で不安定になるとこういう結果になってしまうのかと驚きました。

三位決定戦では日本と同じGK交代という屈辱をオランダに与えられ、ブラジルに対して同情心まで湧きました。

それにしてもファンハールさん、さらっとえげつないことをやるところを見ているとプレミアでのモウリーニョチェルシーとの対戦(舌戦)が今から楽しみです。


いつも楽しいコラムをありがとうございます。
次の更新も楽しみにしています。

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