2014-08-01 出版状況クロニクル75(2014年7月1日〜7月31日)
■[出版状況クロニクル]出版状況クロニクル75(2014年7月1日〜7月31日)
出版状況クロニクル75(2014年7月1日〜7月31日)
出版危機は歴史構造に基づくものであり、それが取次にも及んでいることを繰り返し既述してきた。本クロニクル74 で各取次決算にふれておいたが、大阪屋に象徴されているように、構造改革がなされない限り、深まっていくばかりだろう。
その取次の危機とそれに続く破綻の先行例となったのは人文書専門取次の鈴木書店であり、2001年に破産へと追いやられている。実は3年前にこの鈴木書店の元仕入部長だった小泉孝一へのインタビュー『鈴木書店の成長と衰退』を終えている。これは 『リブロが本屋であったころ』 の中村文孝などにも同席を依頼し、戦後における専門取次の鈴木書店誕生から破産に至るプロセスを忠実にたどったものである。
しかし『鈴木書店の成長と衰退』は同書にもコメントしておいたが、アクシデントが生じ、刊行できずに年月が過ぎてしまった。だがこの一冊は現在の取次危機下にあって、あまりにもリアルな証言として迫ってくる。それゆえに諸事情はともかく、関係者たちと協議の上、9月上旬に「出版人に聞く」シリーズとして刊行することになった。
1949年におけるGHQによる国策一元取次の日配の解体に伴い、鈴木書店を含めた多くの中小取次が創業し、また現在のトーハン、日販、大阪屋なども設立されていったのである。その混沌とした出版流通状況は、第二の敗戦期に他ならない現在とまったく重なっているように思われる。
1.2014年上半期の書籍雑誌販売金額を示す。
■2014年上半期 推定総販売金額 推定総販売金額 書籍 雑誌 月 (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) (百万円) 前年比(%) 2014年
1〜6月計826,682 ▲5.9 409,409 ▲5.5 417,273 ▲6.2 1月 108,164 ▲5.5 53,266 ▲3.6 54,897 ▲7.2 2月 153,090 ▲3.6 81,062 ▲2.8 72,028 ▲4.4 3月 194,540 ▲5.6 108,516 ▲4.5 86,023 ▲6.8 4月 133,916 ▲6.5 60,623 ▲7.7 73,293 ▲5.4 5月 112,456 ▲5.0 51,390 ▲6.0 61,066 ▲4.2 6月 124,516 ▲9.5 54,551 ▲10.1 69,965 ▲9.0 [6月の書籍雑誌推定販売金額は前年比9.5%という大幅なマイナスで、書籍が10.1%減、雑誌9.0%減である。雑誌内訳は月刊誌が10.2%減、週刊誌が4.2%減、また返品率は書籍が41.7%、雑誌が39.9%。
上半期推定販売金額は8267億円で、前年比5.9%減と過去最大の落ちこみである。その内訳は書籍が4094億円、同5.5%減、雑誌が4173億円、同6.2%減。
6月のマイナス幅、返品率は最悪で、これは7月の返品率に反映されていくわけだから、流通販売状況はどうしようもないスパイラルの中に陥ってしまったことになる。
書協、雑協、取協、日書連の取り組みも何の効果も上がっていないことが明らかだ。これらの4者が現在の再販委託制システムを見直すしか、サバイバルの手段は残されていない。しかしそれも先送りされ、さらなるマイナススパイラルへと引きずりこまれていくにちがいない]
2.『日経MJ』(7/9)の第42回「日本の専門店調査」が出されたので、そのうちの書店売上高ランキングを示す。
■2012年 書店売上高ランキング 順位 会社名 売上高
(百万円)伸び率
(%)経常利益
(百万円)店舗数 1 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(TSUTAYA、蔦谷書店) 195,914 12.0 10,675 − 2 紀伊國屋書店 107,172 ▲0.9 382 64 3 ブックオフコーポレーション 79,159 3.2 2,608 990 4 未来屋書店 50,722 − 873 244 5 ジュンク堂書店 50,310 ▲2.0 ▲163 52 6 有隣堂 50,195 ▲2.2 454 47 7 くまざわ書店 44,059 − − 229 8 ヴィレッジヴァンガード 37,758 ▲3.0 2,081 393 9 フタバ図書 35,223 0.1 1,043 68 10 トップカルチャー(蔦屋書店、峰弥書店、TSUTAYA) 33,884 5.2 440 73 11 文教堂 31,494 ▲8.2 251 194 12 三省堂書店 27,100 ▲1.8 − 36 13 三洋堂書店 25,252 ▲3.4 − 88 14 丸善書店 21,395 − 341 − 15 リブロ(mio mio、よむよむ、パルコブックセンター) 21,355 ▲5.1 − 89 16 精文館書店 19,337 ▲1.2 715 48 17 キクヤ図書販売 14,344 ▲4.5 − 30 18 オー・エンターテイメント(WAY) 13,098 ▲5.9 142 57 19 文真堂書店 11,577 ▲9.4 17 − 20 すばる 10,105 ▲6.9 − 30 21 京王書籍販売(啓文堂書店) 9,842 ▲5.1 9 41 22 アシーネ 9,214 ▲3.1 − 92 23 積文館書店 8,848 ▲3.5 53 30 24 戸田書店 8,058 ▲2.7 85 35 25 アバンティブックセンター 7,144 ▲5.7 − 58 26 四国明屋書店 5,811 ▲6.9 57 29
  ゲオホールディングス
(ゲオ、ジャンブルストア、セカンドストリート)262,324 1.2 9,344 1,606 [今回に始まったわけではないが、軒並マイナスで、それなりに前年を上回っているのはCCC、トップカルチャー、ブックオフである。
だがCCCとそのFCトップカルチャーの増収にしても、それは超大型店出店による、他の書店の売上を奪うことで成立している。それは本クロニクル70 でも既述しておいたし、またランキング入りしている他の書店に見られるように、売上は下降しているわけだから、ゼロサムゲームにも至っていないことになる。
さらに本クロニクル71 などで、CCCの出版物売上高が1店当たり年商1億5000万円、月商1250万円であり、大型店としては驚くほど売っていない事実を記しておいた。これをトップカルチャー、同じくCCCのFCである精文館、積文館にも当てはめてみる。出版物売上だが比率はCCCと同様の57%とする。
■1店当たりの推定売上高 店名 年商(円) 月商(円) CCC 1億5000万 1250万
トップカルチャー 2億6000万 2200万 精文館書店 2億3000万 1900万 積文館書店 1億6000万 1300万 ちなみに紀伊國屋、ジュンク堂、有隣堂を挙げてみる。
紀伊國屋書店 16億7000万 1億4000万 ジュンク堂 9億6000万 8000万 有隣堂 10億6000万 8800万 イオングループでショッピングセンター内出店を主とする未来屋も見てみる。未来屋の「本」売上は507億円のうちの425億円とされる。
未来屋書店 1億7000万 1400万 これらはあくまで概算であるが、CCCグループ、総合書店グループ、ショッピングセンター内書店の売上の差異がわかるだろう。CCCグループは複合書店としてレンタルの高利益に支えられ、大型店を展開し、総合書店グループは客単価の高い書籍をメインとし、ショッピングセンター内書店は回転率のいい雑誌、コミック、児童書、文庫を中心として運営されていると考えられる。
今年度の調査において、とりあえず増収となっているのはCCCグループであり、総合書店グループは書籍と売っているものの、利益は上がっておらず、ジュンク堂に至っては赤字であり、書籍販売が業績に結びつかないジレンマをそのまま露呈している。
これらのCCCグループは、日販とMPDとのコラボレーションによってナショナルチェーン化を推進し、あまたの地方書店を廃業へと追いやってきたのである。再販委託制を利用した強きを助け、弱きをくじく出店といえよう。日販とMPDのCCCグループの関係は、これらの他にも多々あり、後述するように、今年だけでもTSUTAYA店舗の75店を日販が引き受けると伝えられている]
3.2でこれも増収となっているブックオフの出版業界関連株主とその持株比率を挙げてみる。
*DNP 6.6% *丸善 6.1% *講談社 4.3% *集英社 4.3% *小学館 4.3% *TRC 3.9% [株主リストからCCCが消えている。本クロニクル72 、本クロニクル73 で、ブックオフのヤフーとの資本・業務提携、決算状況にふれてきた。だが春先まで第5位の大株主で5.9%を占めていたCCCの株式売却は報道されていなかった。昨年末にブックオフが自社金庫株として7億円で購入し、それに伴い、子会社で運営していたFCのTSUTAYA店舗30余をこちらは日販へ売却している。
『ブックオフと出版業界』や『出版状況クロニクル2』で既述しておいたように、ブックオフ、CCCは盟友としてFCを交差し合い、それに日販と丸善が加わり、カルテットとしてナショナルチェーン化と株式上場に向けて突き進んできた。しかしブックオフはヤフーとの新たなターニングポイントを迎え、CCCとの関係を切断したことになろう。
しかしブックオフ自体の直営店450に対して、FCは540店で、かつて直営店が300ほどだったことを考えると、近年ブックオフはFCの直営店化によって、売上の維持を図ってきたことを示していよう。本クロニクル73 で既述しておいたように、ブックオフ問題はヤフー提携、ビジネスモデルとFCも含め、今期の15年に集約されると思われる。
さてその一方で、ブックオフの株式を売却したCCCのことになるが、超大型店出店、カフェ事業、図書館事業など、プロパガンダは盛んに展開されていても、それらが利益を上げているとは見なせない。代官山の蔦屋書店の湘南T−SITEの秋のオープン、JR西日本の大阪駅ビル出店も喧伝されているけれど、これらの超大型店の初日売上すらも伝わってこない。これらのプロジェクトにブックオフ株式売却金は回っているのだろうか。それらのCCCの資金繰りを占うメルクマールとして、KADOKAWA株があると考えられる。CCCは4.7%を保有する大株主であり、この株式の行方に注視すべきだろう。
それらの動向のかたわらで、30%近くを占める6社は09年から何のために株主になったのか、何の意思表示もせず、ただ5年間株主配当を受けてきただけではないのか。
これが出版業界の中枢を占める出版社などの内実と、問題への取り組みの実態を象徴的に物語っているといえよう]
4.2で見るように、紀伊國屋は1071億円売っても経営利益において、CCCはいうまでもなく、ブックオフや未来屋の後塵を拝するしかない。その高井昌史社長が「われわれは今 何をすべきか」(『新文化』7/10など)という講演をしているので、それを要約してみる。
* 出版業界の売上は2020年には1兆3000億円、もしくはそれ以下になるだろう。
* 紀伊國屋は1996年から2013年にかけての売上はほぼ横ばいで推移しているが、店舗数は2倍、売場面積は3倍になっている。ただ海外店売上は3倍強の170億円。
* 日本の再販制は時限再販と弾力的運用が硬直的で、正味に関しても取次の計画販売マージンも十分ではなく、委託なら30%、買切であれば、洋書などと同じ40〜50%が妥当ではないか。
* 直仕入は全社で6791社、約80億円に及び、大手出版社と直取引も提唱している。
[高井の言をこちらに引き寄せて解釈してみれば、次のようなものになるだろう。
全体のパイは縮小するばかりで、売上は増えていないのに店舗コストは2〜3倍になっている。それにアマゾン、ブックオフ、公共図書館問題も加わり、今の取次ルートの書籍マージンではやっていけないので、直仕入、直取引によって30%マージンを確保し、さらにそれを上げていかなければ、従来の大手書店もサバイバルしていけないとの表明であろう。つまり現在の再販委託制に対して、大手書店からのノンが突きつけられたことになる]
5.2 において初めてヴィレッジヴァンガードがマイナスに転じている。店舗数は昨年390 に対して、今年は393 なので、既存店売上が伸びていないことによる。それは三洋堂も同様である。
[「菊池君の本屋」(永江朗)であるヴィレヴァンの開店は1980年代半ばだったから、すでに創業から30年が過ぎたことになる。ヴィレヴァンは複合バラエティ店の先駆者であるけれど、やはり曲がり角にきているのだろう。
本クロニクル73 で、郊外店第1号点を出店した三洋堂書店がバラエティストア化を推進していたが、赤字となっていることを既述しておいた。トーハンや大阪屋も、文具や雑貨販売による複合型を提唱し、出版物に代わるマルチメディア商品売り場の導入を進めているが、ヴィレヴァンや三洋堂の現在状況からすれば、その定着は難しいと考える他はない。
ずっと見てきたように、勝ち組として見られてきたCCC、ブックオフ、ヴィレヴァンにしても、明らかにターニングポイントを迎えているし、紀伊國屋のような総合書店にしても、マージン見直しが必至の段階へと向かいつつある。本当にあとがない]
6.アメリカの書店状況も伝えておこう。
最大手バーンズ・アンド・ノーブルは14年度売上高63億8136万ドル、前年比6.7%減、純損益は4727万ドルの赤字で、最終赤字は4年連続だが、営業損益は黒字転換し、業績は少し改善したことになる。
業績悪化の止まらない電子書籍端末「ヌック」関連事業の分社化、リアル店舗での大学内店舗「カレッジストア」300店を1000店とする計画が発表されているが、大型店661を数える余剰売場が生じていて、抜本的改革へと至っていないようだ。
[バーンズ・アンド・ノーブルはアマゾンとの競合によって業績を落とし、アマゾンのキンドルに対してヌックを発表したものの、軌道に乗らず、大型店の在庫も減少し、4年連続の最終赤字が続いていることになる。
日本の場合も大型店は複合化によっているわけだから、もしレンタル部門の利益が上がらなくなったら、たちまち余剰売場が生じてしまうだろう。日本の大型店もまたバーンズ・アンド・ノーブルを範としたものであり、おそらくそれもなぞることになろう]
7.和歌山県橋本市の武田書店が自己破産。負債額は3億5000万円。
[1875年創業の老舗書店であるから、小中の教科書販売の中枢を占めていたと思われる。帳合はトーハンで、これも取次のリストラの反映であろう]
8.青空出版と中央図書新社が自己破産。
青空出版は1994年設立で、パズル・クロスワード誌を手がけ、定期刊行物として『漢字館GOLD』、『別冊漢字館』などを発行していた。2010年には売上高5億8000万円を計上していたが、14年には2億3000万円と減少し、債務超過状態に陥っていた。負債は3億5000万円。
中央図書新社は京都で1946年創業の大学受験用の国語や英語教材をメインとし、関東以西の高校や進学塾などに販売していた。2003年には売上高3億8000万円を計上していたが、13年には1億1000万円に落ちこんでいた。負債は1億6000万円。
[2社とも売上高が半減し、自己破産に至ったわけだが、この2社が特例ではなく、出版物総売上高も半減しているからだ。それゆえにこれらの2社の自己破産は他人事ではないし、まだ続けて起きていくだろう]
9.インプレスによる電子出版市場規模が発表された。
それによれば、電子書籍936億円、電子雑誌77億円の1013億円で、調査開始以来、初めて1000億円を突破。
[電子出版市場はスマホやタブレットの普及とストアの積極的宣伝によって、本格的な拡大期を迎え、18年には13年度の2.9倍、2790億円とされているが、それは正しい予測なのだろうか。
これは。本クロニクル65 において、07年から12年にかけての電子書籍市場規模推移をたどっているので、そちらを見てほしいが、これまで電子雑誌はカウントされていなかった。どのような調査に基づくのか、電子雑誌は12年39億円で、13年は97.4%増の77億円を加え、1000億円を突破し、本格的拡大期と謳われていることになったのである。
しかし実際には電子書籍936億円と見なすべきであり、これだけの端末の普及と電子書籍ストアの宣伝によって、前年比28%しか伸びていないと考えたほうが正しいのではないだろうか。11年が629億円、12年が729億円、13年が936億円であるから、13年は鳴り物入りの騒ぎだったにもかかわらず、その伸びが12年の2倍でしかなかったことに注視すべきだろう。それゆえにケータイとパソコン市場向けの218億円のマイナスを考慮しても、電子書籍にとって、13年度がドッグイヤーとはとてもよべないことだけは確かだと思われる]
10.東京国際ブックフェア(TIBF)で、立花隆が「『血の巨人』が読み解く出版の現在、過去、未来」という基調講演を行ない、その要約が「一条真也の新ハートフル・ブログ」や『新文化』(7/10)にレポートされている。
[これらから類推するに、立花がいっているのは、小中学校、大学でデジタル教科書が導入されれば、電子書籍も一気に普及し、今度こそ本当に電子書籍時代が到来するという「出版の未来」であるようだ。しかもそれは小学校によっては次年度から全国的に導入されるという。
出版の過去と現在が語られた後に、必然的に電子書籍の時代となることが歴史的、論理的に語られているならともかく、来年から小学校にデジタル教科書が導入されるので、一気に普及していくとの話は、根拠となる事実やデータも示しておらず、風が吹けば桶屋が儲かるほどのリアリティもない。そもそも「知の巨人」が出版業界に通じているとは思われないのだ。
2013年3月刊行の立花の『立花隆の書棚』(中央公論社)は最初から間違いだらけなのだ。61ページから62ページにかけて『血と薔薇』の話が出てくるが、立花はこの4号の編集を手伝っただけで、創刊には関係していないし、事実誤認が甚だしい。このような自分の「出版の過去」すらも間違える「知の巨人」に、どうして「出版の未来」を問うことができようか。
それからリードエグジビジョンジャパンなる企画会社によって21回も開催され続けてきたTIBFは、出版社はともかく、取次や書店にとって何の貢献ももたらしていない。いやそれは出版社にとっても同様だと見なしてもよく、新潮社、文春、光文社、筑摩書房、中央公論社、ダイヤモンド社はもはや参加していない。
毎年TIBFが重ねられるたびに出版危機が進行し、深刻化していったのは偶然ではないように思われる]
11.出版デジタル機構は、元東京電機大出版局長で出版学会の植村八潮会長と、ソニー出身の野副正行社長、及び講談社、小学館、集英社の各社長が取締役を退任し、元角川文化振興財団の新名新が新社長に就任。
それと同時に役員として、官民ファンド産業革新機構(INCJ)から土田誠行、福井義高、青沼克則が新たに加わっている。
[出版デジタル機構の趣旨と設立事情は本クロニクル48 に示しておいたので、そちらを参照してほしいが、この社長交代と役員構成を考えれば、書協とJPOから、KADOKAWAとINCJに主導権が移行したと見られても仕方がないだろう。
出版デジタル機構は電子書籍事業をめぐる経産省のヘゲモニーの体現であり、これからはさらに官主導によって推進されていくことになるだろう。だがJPOの「緊デジ」に表われていたように、確固たるビジョンがあるはずもなく、官僚的な無責任体質がついて回るはずだ。
そもそも電子書籍市場規模が16年に2000億円という、何の根拠もない数字が示されたのは植村を通じてだったが、これは経産省やINCJが勝手につくり出したものであったと考えられる。そうして電子書籍狂騒曲が奏でられ、角川歴彦の3500億円、楽天の三木谷の4000億円、インプレスや立花の予測の根拠となったのである。電子書籍市場2000億円説こそ、大本営発表というものではないか。
新名新社長に対するインタビューが『文化通信』(6/30)に掲載され、売上高は明らかにされていないが、昨年は10億円の赤字と述べている。中間3ヵ年計画で、単月黒字、単年黒字、そしてINCJ出資と回収をめざしていくと語っている。この言葉を覚えておこう]
12.朝日新聞社デジタル本部の林智彦が 『出版ニュース』(7/1号)に、「日の丸電子書籍『第三の蹉跌』『緊急デジゲート』が問いかけるもの」(「Digital Publishing」 No.137)を書き、冒頭に12年5月8日の第2回「緊デジ」説明会でのJPO専務理事永井の次のような発言を引用している。
「我々は、国の委託を受けてやっているんだ。文句があるなら、申請しなくたって結構だ!」
[本クロニクル74 で、永井の「経済産業省補助事業/コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)とは何であったか」にふれたが、この林の一文も永井と緊デジへの批判となっている。永井の寄稿は批判に対して正面から答えず、緊デジ疑惑をさらに深めるものになっているという指摘である。
まったく同感であり、JPOは第三者委員会を設け、調査して答えるとしていたのに、なしくずし的に永井の寄稿で幕引きを図ろうとしている。
しかしそれ以上に目につくのは、永井の一文にあった「官僚の人達もきっと考慮してくれる」といった言葉、それに引用の言葉を重ねると、否応なく浮かび上がってくるのは、その目的とされる「東北被災地域の持続的復興支援」や「電子書籍市場の活性化」などではなく、官僚と癒着したJPOによる、緊デジに名を借りた税金の無駄遣いに他ならない。
出版デジタル機構へのINCJの出資にしても、同様の道をたどっているのかもしれないのだ。またさらに付け加えれば、永井は講談社の営業部出身であり、大阪屋の社長となった大竹深夫は上司だったはずだ。このような永井の官僚的体質が大竹譲りだとすれば、大阪屋の行方も気になるところだ]
13.小学館のコミック誌 『月刊IKKI』 が休刊。
[『月刊IKKI』 はエンターブレインの『月刊コミックビーム』 と並んで、コミックのための実験場のような印象があり、「IKKIコミックス」は大半を読んできた。あの印象深いロゴが消えてしまうのは残念である。
『雑誌のもくろく』で、『月刊IKKI』 を確認したところ、「青年コミック」に分類されていた。この年齢層分野がスマホなどと最もバッティングしてしまうのかもしれない。
その一方で、新潮社から次世代ラインナップとして「新潮文庫nex」、双葉社からライトノベルレーベル「モンスター文庫」が創刊されるが、読者層はどのように想定されているのだろうか。
また同じく新潮社の女子小学生高学年を対象とするファッション誌『ニコ☆プチ』 が好調で、低学年向けの妹誌『ニコ☆プチKIDS』 も4月に創刊されている。低年齢層が最後の読者層ということになるのであろうか]
14.尾崎真理子の『ひみつの王国―評伝石井桃子』(新潮社)が刊行された。
[石井桃子こそは戦後の児童文学のミューズであって、彼女をめぐる謎は同世代の女性文学者、編集者、翻訳者たちよりもはるかに深かった。それは児童文学もまたひとつの倒錯の世界ではないかという仮説である。それらの謎が解かれるのではないかと期待して読み進めたが、謎はさらに深まることになった。
だがそれは初めての評伝ゆえに、ないものねだりであるのかもしれず、石井が児童文学や公共図書館の児童書分野において果たした役割に関しては、十分に描かれているといえよう]
15.陶山幾朗の 『「現代思潮社」という閃光』 (現代思潮新社)が出された。
[私たちの世代にとって、現代思潮社は最も懐かしい出版社であり、「花には香り 本には毒を」というキャッチフレーズは忘れられない。
様々なエピソードが書きこまれているが、古本屋の文献堂主人が小型バイクで直接仕入れにくる姿が描かれ、やはり仕入れの途中で交通事故に遭い、亡くなったことを思い出させた。その名前も知ることがなかったが、それは70年代後半のことであったのだろうか。
もうひとつは陶山が北川透の『あんかるわ』に「ソルジェニーツィン論」を発表し、おそらくその関係から『シベリアの思想家―内村剛介とソルジェニーツィン』(風琳堂)が刊行していることを知らされた。風琳堂の福住展人とは最後に会ってからすでに20年ほどが経つ。遠野に引きこんで暮していると聞いているが、お達者であろうか]
16.「出版人に聞く」シリーズ14 として、7月下旬に原田裕 『戦後の講談社と東都書房』 が出た。
またリードに記しておいたように、15 として小泉孝一『鈴木書店の成長と衰退』が9月上旬に刊行予定。それに続いて16 として、井家上隆幸『三一新書の時代』、17 として植田康夫『「週刊読書人」と戦後の書評史』を編集中です。
またさらに何人かのインタビューを予定しているので、ご期待下さい。
《最新刊の「出版人に聞く」シリーズ》
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