(2014年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
何事にも慎重なアンゲラ・メルケル首相〔AFPBB News〕
マレーシア航空のMH17便がウクライナ東部の畑に墜落し、298人の死者を出し、地政学的な危機に火をつけてから数時間後、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はその政治生活の多くの期間を特徴付けてきた資質をもってこのニュースに反応した。慎重さである。
ロシアの支援を受けた分離主義の勢力がMH17便を撃墜したという主張がすでに表面化していたにもかかわらず、ロシア政府に対する新たな制裁を議論するのは「時期尚早」だとメルケル首相は記者団に語った。
「これらの出来事は、我々が必要としていることが政治的解決であることを改めて我々に示している」。メルケル氏はこう述べて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と話をする以外に選択肢はないという持説を繰り返した。
それから2週間も経たない間に、メルケル氏は、ロシアの防衛、エネルギー、金融部門に打撃を与え、西側の対ロ関係における冷戦以降最悪の亀裂をさらに深める広範な欧州連合(EU)の制裁の最も重要な支持者になった。
米政府などからの圧力よりMH17便の撃墜が決定的
この方向転換は、数カ月に及ぶ圧力、特にメルケル氏のことを欧米間の議論の最も重要な人物――英国のデビッド・キャメロン首相より重要な人物――と見なすオバマ政権からの圧力を受けた後に起きた。
ベルリンでは、メルケル首相の支持者たちが、ホワイトハウスからのどのような圧力よりもMH17便の撃墜が重大だったと言う。「首相は、民間航空機が撃墜された後、明確なシグナルを送らなければならないと判断した」。メルケル氏率いるキリスト教民主同盟(CDU)の外交問題広報官を務めるフィリップ・ミスフェルダー議員はこう言う。「ドイツにいる我々は、民間人が殺害されたことが質的な違いを生み出したという感覚を持っている」
側近やアドバイザーたちは、今回の悲劇に対するプーチン氏の対応が特に大きな影響を与え、プーチン氏に対する漸進的な信頼低下を一気に加速させたと話す。
「メルケル首相はプーチン大統領に幻想を抱いていない」。この問題でメルケル首相と話したEUのある高官はこう述べた。「これまでの過程で、プーチン大統領はメルケル首相に何度か嘘をついた」