July 31, 2014
ギリシャ神話「テセウスとミノタウルス」の迷宮からスタンリー・キューブリックの『シャイニング』に登場する危険な生け垣まで、迷路には紛れもなく不思議な魅力がある。
ただし、迷路は古代の神話を彩るだけのものではない。科学的な研究機関にも迷路はあるし、仕事からの帰り道さえ迷路と呼ぶことができる。
迷路を科学的に考察するため、アメリカ、バージニア州フェアファックスにあるジョージ・メイソン大学のクラスノー高度研究所(Krasnow Institute for Advanced Study)を率いる神経科学者ジェイムズ・オールズ(James Olds)氏に話を聞いた。
◆神経科学者として迷路をどのように定義しますか?
迷路は他人が創造し、われわれの最も重要な能力の一つが試されるものです。その能・・・
ただし、迷路は古代の神話を彩るだけのものではない。科学的な研究機関にも迷路はあるし、仕事からの帰り道さえ迷路と呼ぶことができる。
迷路を科学的に考察するため、アメリカ、バージニア州フェアファックスにあるジョージ・メイソン大学のクラスノー高度研究所(Krasnow Institute for Advanced Study)を率いる神経科学者ジェイムズ・オールズ(James Olds)氏に話を聞いた。
◆神経科学者として迷路をどのように定義しますか?
迷路は他人が創造し、われわれの最も重要な能力の一つが試されるものです。その能力とは、周囲環境の認知地図を作成し、その地図上を進む力です。
◆ご両親ともに神経科学者でした。それが脳への興味につながったのでしょうか?
“家業”ですかね。家には高性能の顕微鏡があり、幼い頃から覗いていました。(動物の脳の)海馬を見て美しいなと思っていました。しかし、海馬の構造や、人間が迷路を解くことを可能にしていると学んだのは、ずっと後のことです。
◆海馬について教えてください。まず、どこにあるんですか?
海馬は脳の中心あたりにあります。深い位置、つまりしわのある大脳皮質の表面ではなく、その内側です。進化史の上では、脳の中でも古い部位のひとつです。海馬は、われわれが環境を理解し、いろいろな目印(ランドマーク)をその環境の中で位置づける、空間の認識・学習という特定の役割を担っているんです。
◆迷路は長年、主に齧歯(げっし)類の研究に利用されてきました。具体的にはどのように利用されていますか? また、人間の研究にも利用されていますか?
まず、マウスの話をしましょう。近年で最も有名なのはモリス水迷路と呼ばれるものです。基本的には水を張った円形のプールで、水面下に避難用のプラットフォームが隠されています。最初はでたらめにプラットフォームを探しますが、海馬が働くと、どの位置からプールに入れても、プラットフォームに真っすぐ泳いでいくようになります。
人間の場合はどうでしょう? 最近の研究には脳スキャナーを使用します。バーチャルリアリティー(VR)ゴーグルをかけるため、例えばイギリスのロンドンなど、街を丸ごとつくり出すことができます。被験者はfMRI装置に入り、ロンドンの街を動き回ります。あいまいな空間環境のどこに“自分”がいるかを考えてもらうことで、われわれ人間が日常的に用いる学習法を形式化できるのです。
◆研究所の外、日常の世界にはどのような迷路が存在しますか?
日常的な環境では、職場や自宅とその間に存在するものです。いつも全く同じでない限り、日々変化する迷路と言えます。想像してみればわかりますが、かなり複雑な迷路です。
私は現在、自宅から25キロほど離れた場所にいます。とてもにぎやかな市街地を通らなければ帰ることができません。毎日異なる状況に直面する可能性があります。この迷路に慣れていなければ、たとえ“ワシントンD.C.”、“(バージニア州)アレクサンドリア”といった案内が出ていても、車を運転しながら目的地までの経路を判断するのは容易ではありません。一方、ワシントンに25年も住めば、何も考えなくても目的地にたどり着くことができます。
◆人はどのような戦略で迷路を解いているのですか?
人はさまざまな戦略を駆使して迷路を解いています。その一つが(星の位置といった)周囲環境の手掛かりです。(ゴールにぶら下げられた大きな赤いボールなど)目立つものも利用できます。右回りのみで進むといった単純な戦略が功を奏する場合もあります。
Image captured from video by Ashleigh Delucca and Jason Kurtis / National Geographic