AKB48と共存する道を選んだ、小島瑠璃子の「強さ」とは?
cakes 7月31日(木)16時46分配信
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(イラスト:shioirony) |
武田砂鉄さんのテレビ評、今回取り上げるのは最近バラエティ番組など活躍している小島瑠璃子。かつてはバラエティ番組に華を添える存在として重宝されたグラビアアイドルも、近年はAKB48勢がその座を根こそぎ奪ってしまいましたが、そんな中孤軍奮闘しているのが小島瑠璃子。なぜグラビアアイドルの中で彼女だけがテレビに出続けられるのか、その秘密に迫ります!
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●元気を安定供給するPB商品
「元気の押し売り」と有吉に命名されたのがベッキーならば、「元気の安定供給」が小島瑠璃子ということになるのだろう。八百屋の店頭で「お客さん寄ってってよ」と声を張り上げるのが前者ならば、コンビニのPB(プライベートブランド)商品のように、いつ行ってもそれなりの味が程よい価格で約束されているのが後者だ。この1年でやたらとバラエティで見かけるようになった小島瑠璃子は、自分の目指すべきところについて「目標は井森美幸さんですね」と答え、「『こうなりたいけど、なれない』という理想、憧れます」と付け加えてみせた。井森美幸にしろ森口博子にしろ島崎和歌子にしろ、長年の活動で「こうなりたいけど、なれない」を築き上げたバラドルたちを因数分解していくと「あんなに出ているけど、なんで」の積み重ねであったはず。となれば、この小島瑠璃子の現在の活躍っぷりは、自身の目標に正しく向かっていると言える。今、「あんなに出ているけど、なんで」という印象を持たれている筆頭は、間違いなく彼女だ。
●「こじるり」という積極的妥協
ドラマの初回視聴率が10%を割れば翌日すぐにニュース記事としてネガティブにアップされてしまう時代、「夫のいぬ間に男を連れ込むようなイメージではなかったから」と言われては再起不能になる時代、こうして視聴者に厳しく管轄される時代に、様々なステップを経ながら「なんとなく出てる」に行き着かせるのはたいそう難しい。大手事務所に所属する小島瑠璃子を、剛力彩芽が散々言われてきたように「事務所のゴリ推しっしょ」と片付けてしまうこともできるのだろうが、この人が得た「なんとなく出てる」は、もうちょっと複雑な調合で成り立っていると思う。PBブランドのお菓子って、突出して美味しくはないけれど、まぁこれで、という手の伸ばさせ方を狙う。買わなくてもいいんだけど買っちゃう、という積極的妥協だ。
●フラれた女子をフォローしない板野パイセン
この4月から、AKB48を辞めた事務所の先輩・板野友美と小島がタッグを組む深夜番組『板野パイセンっ!!』が放送されている。番組内での扱いは同等なのにもかかわらず、このタイトルを許容するのがいかにもPB商品的だが、番組のサブタイトル「今ドキ女子バックアップバラエティ」のバックアップの実務を担うのはもちろん小島だ。悩める女子のもとに相談へ出向く番組、先日は、自分から別れを切り出したのに元カレのことが忘れられなくなってしまった女子に、もう一回告白してみなよと背中を押していた。結局、告白に失敗してしまった彼女へのフォローは一切しないというのが板野パイセンの潔さで、フラれた女の子のフォローに勤しむのはもっぱら小島なのだった。
●グループアイドル人材と共存しまくるという荒技
バックアップを一人で担わされる労苦はさておき、そもそもこうしてAKB人脈の中にすうっと入り込んでいける人材であることに着目すべきだろう。AKBが流行りまくった当初、グラビアアイドルたちは「週刊誌のグラビア仕事をAKBが全部持っていっちゃった〜」と嘆き、バラエティからドラマからお天気お姉さんまで、メディアのなかのあらゆる職種に人材をあてがってくるグループの猛進に舌打ちをすることしかできなかった。小島はグラビアをやりバラエティに出るというスタンダードを維持しながら、同じ場所を狙うグループアイドル人材とも共存しまくるという、実は誰も成し遂げていない手法で活躍の場を広げている。矢口真里が諸事情でワイプから消え、小島はそこにあてがう人材として重宝されているだけ、とするのはいかにも安っぽい分析だが、菊地亜美や芹那をはじめとしてそこへのエントリー申込はいくらでも続いてきたわけで、タイミングの良さだけで分析し終えてしまうのは懸命ではないと思う。
●ベッキーの、「学級委員だってモテたい」という変化
彼女は頻繁に、関根勤のようにアゴがはずれんばかりの大笑いを見せる。リアクションにしても、なにかとオーバーだ。クイズに正解しても、美味しいものを目の前にしても、誰かとコミュニケーションをとっていても、快活さが崩れない。ベッキーが音符をつけて「ベッキー♪♯」名義で歌を歌い始めてからというもの、もしかしてこの人はこちらをやりたかった人なのかも、とちょっとしたブレを感じさせた。雑な例えだけど「学級委員だってモテたい」って感じというか。ベッキーですら世の中のスタンダードで居続けられない、という現在を眺望していると、「こじらせ女子」という昨今の流行り言葉は、生きづらさを感じている女性たちを絞り込むカテゴリなのではなくて、もはや全体の状況を語っている言葉なのではないかとすら思えてくる。
●「こじらせ」を使わない「こじるり」
トップ女優は、「休みの日に何をしていますか?」と聞かれると、往々にして「意外と家で一日ゲームとかしています」と答え、みなさんと変わらない、というプレゼンをしてくるもの。では小島は、この質問にどう答えたか。「館山でダイビングをします。マグロの稚魚の群れとかガンガン泳いでる」である。「こじらせ」ているふりをすることで易々と共感を呼び込もうとする急ごしらえの「こじらせ」が増える中、「こじるり」は「こじらせ」を取り込まない。それでいて汎用性を持ったPB商品としてスタンダードな道を歩んでいる。
先日、AKBの指原梨乃が「どんなコスプレがしたいか」を何人かのメンバーとディスカッションをする場面で、「セーラー服、女医、メイド」と想定内の答えを出す他のメンバーに不満の表情を浮かべ、「最近気づいたけど、サッカーのユニフォームでしょ!」と答えた。皆様、お気付きの通り、そんなのはもう「こじるり」が散々披露してきたわけである。「こうなりたいけど、なれない」道を順調に歩みはじめた小島は、最大の共感を呼び込む「こじらせ」を使わないPB商品として、まだまだ“コンビニエンス”に登場しまくるに違いない。
武田砂鉄
最終更新:7月31日(木)16時46分
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