日本生殖医学会が昨年11月、健康な女性が将来の妊娠、出産に備えて卵子を凍結保存することを容認する指針を公表し、こうした技術に関心を持つ人が増えている。出産先送りにつながるとの懸念もあり、専門家は「高齢出産のリスクも知って」と注意喚起する。
日本生殖医学会の指針は、医学的な理由によらない卵子の凍結保存を容認。ただし40歳以上での卵子の採取と、凍結保存した卵子を使っての45歳以上での妊娠は「推奨できない」とした。
今年7月中旬、卵子凍結を手がける民間の「リプロセルフバンク」が東京都内でセミナーを開いた。「2011年に40~44歳で出産した人は全体の3.6%。こういうのは見たくないデータでしょうか」。香川則子所長(37)の話を聞く20~30代女性の表情は真剣だ。
大手企業に勤める既婚の女性(32)も、スクリーンの卵子の画像に見入った。男社会の職場だけに「出産はハンディになる雰囲気」といい、今は自分のキャリアを築くことを優先したいという。夫は子供をほしがっていて「卵子凍結は将来、自然に妊娠できなかったときの保険」と話した。
このバンクは昨年5月に卵子の凍結保存を開始。面談やメールで500人以上から相談があり、うち約70人が凍結した。平均年齢は37歳。卵子10個を1年間凍結する場合、提携病院での採卵を含め約70万円かかる。2年目以降は1個につき約1万円が必要だ。
仙台市と東京都内に拠点を持つ「京野アートクリニック」でも昨秋以降、健康な女性十数人が卵子を凍結保存した。京野廣一理事長(63)は「出産、子育てをする体力を考えると、できれば34歳ぐらいまでの自然妊娠が望ましい」とした上で「男女とも自分の体について十分な知識を持ち、将来の設計をする必要がある。卵子の凍結保存は選択肢の一つだ」とする。
出産をめぐる問題に詳しいジャーナリストの河合蘭さん(54)は「卵子だけでなく子宮や血管も老化する。高齢出産のリスクもよく知ってほしい」と話した。
〔共同〕
卵子凍結、京野アートクリニック