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××優しい人攫い
肌寒い、と思って、腕を身体に回し、抱きしめた。
自分の腕に抱きしめられた、自分の身体は、なぜか頼りない。
痩せたわけでもないのに、腕が格別長いわけでもないのに。
風が冷たいのがいけない。桜が美しいのがいけない。空が青く澄んでいることも。
桜が見たいのとわがままを言ったら、ここに連れてきてくれた。私の人攫い。
銀時の周りを桜が舞う。銀時に触りたいのに、触れない。
何度も近づき、触れられず、地べたに落ちる。
桜が、銀時の周りを包み込むように、ひらひらと舞う。
まるで、銀時を攫うかのように。
「待つアルよ!」
声を掛けると、ようやく銀時は止まってくれた。その距離はおよそ8メートルほど。
何でそんなに足が速いアルか。
どうして待っててくれないアルか。
私を置いていかないで。先に行っちゃ嫌だよ。
「もういいアル。桜はたくさん見たアル。もう、帰ろう」
「帰るってお前ね」
銀時の声が遠い。それは、桜の向こうに。
「なーに怯えやがんだ。桜が見たいって言ったのはお前だろ、神楽」
「怯えてなんかないアル!」
「ほ〜ら。駄々こねてねぇで。もうちっとだろ」
神楽は桜が見たいと言っただけだった。
桜の向こうから差し出される手。この手に触れていいのかな。
この手を握ったら、どうか二度と離さないで。
さらっていって、どこか遠い国へ。
どこか遠い、悲しみの無い国へ。
うずくまった神楽の肩に触れる、あたたかな手。
神楽の脇に手を入れ、立ち上がらせる。
そして、神楽の身体をその胸に寄りかからせた。息を吸い込むと、肺が銀時の匂い
で満たされた。抱きしめられて温かく、けれど、手や足の先は痛いほどに冷たかっ
た。
「居なくならねぇよ」
銀時はそこで言葉を切った。
信用出来ないアルよ!と言い返そうとしたら、両目から涙がぼろぼろっとこぼれた。
私には何も無い。どこにも居場所がない。抜け殻も、足跡も、何もない。
銀ちゃんが居なくなったら、私は一人ぼっちになってしまうアルよ……。
神楽は銀時の胸に頬をこすりつけた。
ねぇ、やさしい人攫い。
銀ちゃん。…絶対に私の傍からいなくなったりしないでよ。約束だよ。
―END―
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神楽は自立心は強いけれど、本当は寂しがり屋な子だと思って
ます。
2006.05.14 かずきりょう
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