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××天の階
昨日からずっと雨が降り続いている。
神楽は閉め切った室内で、ひとりぼんやりと窓の外を見上げていた。
随分春の陽気になったとはいえ、外はまだまだ寒い日が続く。
銀時はまだ帰ってこない。
待つことには慣れた。
ずっと父を待っていたのだから。
その父が帰ってこなくなって、どれだけ経ったか、考えたくもない。
あの頃から、扉が開くのはいつまでだろうと思っていたような気がする。
きっと、いつか二度と帰ってこなくなるだろう。
大丈夫。一人で居るのは慣れている。
けれど。
一人の時間は苦手だ。
どうしたらよいかわからなくなる。
早く帰ってこないかな。
誰に帰って欲しかったのだっけ。
それすらもぼんやりとさせる、孤独がとても苦手だ。
神楽の心には沢山の言葉が溢れている。
言葉や、記憶など。
いつもそれらと交わっている。
そしてそれが無ければ、自分の存在は酷く曖昧になると、恐れているのだ。
それは、忘れられる恐怖へと繋がる。
帰ってこない人々は、神楽のことを忘れてしまったのだろうか。
忘れてしまったから帰ってこないのだろうか。
雨は小降りになった。
しとしとと柔らかく降り続く雨。
霧のように、春の日差しのように、柔らかく冷えて降り続ける。
あんなにも神楽を大切にしてくれた人々が今は帰らない。
神楽はただひとり、ぼんやりと雨を見ている。
雨が止んだ。
灰色の雲がやわやわと動き始める。
息づいている。
この孤独を分かち合いたい人はまだ帰らない。
雲間が僅かに覗き、一条の光が降りてきた。
暗く濡れた神楽の視界を照らすように、細いちっぽけな光が射した。
雲は薄紫に照らされ、光は極薄い橙色をしていた。
銀時は今頃、神楽のことを思っているだろうか。
神楽が思う程強くなくてもいい。
その100万分の1でも、神楽のことを考えていてくれるといい。
たったそれだけの、ちっぽけなことでいいから。
震えるこの胸を、それが温めてくれるといい。
「お〜い。銀時様がおかえりになったぞ〜。出迎えくらいしやがれってんだ。
おーい。神楽ァァ」
神楽は振り返った。
そこにはいつも通りの顔をした、銀時が立っていた。
少しだけ、髪と肩が濡れていた。
「聞こえてるよ、バカ。おかえり!銀ちゃん」
窓が明るくなる。
空は次第に晴れてきた。
「ん」
銀時は無造作に上着を脱ぎ、ソファに放った。
「銀ちゃん。濡れたままだと風邪引いちゃうよ」
神楽はそれを拾い上げた。
雨の匂いがした。
晴れた空は、次第に夕焼けの色に染まっていった。
―END―
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神楽は間違いなく寂しがり屋さんだと思うのです。
今までずっと寂しい思いをしていたので銀ちゃんに癒されると
いいなと願いつつ。
2006.04.29 かずきりょう
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