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「10人に1人がギャンブル依存」 トンデモ数値が1人歩きしている理由

MONEYzine 7月31日(木)8時0分配信

■成人男性の9.6%がギャンブル依存症というのは恣意的なトリミング

 賭博がもたらす悪影響の一例として、日本におけるギャンブル依存者の多さを指摘する声があります。彼らの主張は、次のようなものです。

 「成人男性の9.6%、女性の1.6%がギャンブル依存症(厚生労働省調査)」
 「諸外国の数値(約1〜3%)と比較すると、異様に高い数値である」 しかし、この数値がやけに世間離れしているという違和感を持つ人もいるのではないでしょうか。ここでは同データに関する、さまざまな誤解を解いていきます。

■飲酒調査のついでにギャンブル調査も行われた

 まず「どんな経緯から調査が行われたのか」を見ていきましょう。

 上記の数字を導いた調査は、「わが国における飲酒の実態ならびに飲酒に関連する生活習慣病、公衆衛生上の諸問題とその対策に関する総合的研究」という報告書において行われたものです。簡単に言えば、飲酒の実態を調べるついでに、関連性の高いであろうギャンブルについても調べてみた、といった副次的な立ち位置。決して、賭博問題を主題とした取り組みの中での調査ではないのです。

 次に「どんな調査だったのか」を確認します。

 これは無作為抽出方法により成人人口から男女7,500名を抽出した標本調査でした。アメリカで開発されたSOGS(サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン)という“病的賭博”診断の基準が用いられました。これは12の質問から成るアンケートで、その答えから算出した点数が5点以上ならば、病的賭博と診断されるものです。

 この質問内容には、以下の問題点があるものだと認識しておく必要があります。

(1)アメリカと日本とでは賭博の環境が異なるという考慮がない
(2)上記から5点以上というカットオフポイントの妥当性に欠ける
(3)アンケート形式は点数がつきやすい(実際より高い数字になる)

 そして「どんな考察をしたのか」です。

 報告書では、SOGSについては妥当性の確認が済んでいないため、結果はあくまでも暫定値として扱う、としています。またそれに伴い、カットオフポイントを6点、7点にした数値も記載しています。ようするに「男性9.6%、女性1.6%」という数字は、あくまでも暫定ですよ。基準を変えれば「男性6.9%、女性1.1%」あるいは「男性4.4%、女性0.9%」になりますよ、と言っているのです。

 なお、この資料は『厚生労働科学研究成果データベース』の閲覧システムで、文献番号「200825026A」を探すと見られます。

■決してフェアとは言えない男性1割がギャンブル依存という主張

 以上の事柄をおさえれば、「日本の成人男性は9.6%がギャンブル依存症だ! 」という主張が、同調査書の一面を切り取っているに過ぎないということが分かります。これが暫定値であることや、その他の数値も示されていることを伝えないのは、フェアではありません。

 また付け加えると、諸外国のギャンブル依存者を示す数値は、全てがSOGS基準ではありません。「DSM-III」や「DSM-IV-TR」による調査結果も混在しており、サンプルの抽出方法もまちまちです。したがってこれらと日本でのSOGS調査の数値を比較して「諸外国と比較して日本は異常なギャンブル大国だ! 」と主張するのもナンセンスだと言えます。

 どうしてもギャンブル依存者を数値化して論じたいのであれば、あらためて妥当性のある方法で調査するべきでしょう。

 今までがそうであったように、今後もカジノを巡る議論の中で「男性9.6%」という数値が振りかざされると思います。しかし、これが額面通りに受け取ってはいけない数値であることを、広く知っていただきたいと願います。

 なお言葉の補足をしておきますと、病的賭博とは国際疾病分類に名を連ねる、病気そのものです。それに対してギャンブル依存症とは、使う人によって定義が玉虫色に変わるあいまいな言葉です。これらをきっちり使い分けて議論することが大切だといえます。

 実際に、先日IR推進法案の話があった内閣委員会では、ギャンブル依存症という単語が持ち出されました。その時は議論をするのではなく課題を認識するための場であったため、あえて広く使われている言葉のチョイスをしたのかもしれませんが、本格的な議論をする際には、このポイントをおさえてもらいたいところです。

■宝くじに興じながら賭博反対を訴える矛盾

 ギャンブルへの依存者について、その数や症状を見誤ってしまうのは、日本人の“賭博観”に問題があるからだと考えられます。

 そもそも日本人は賭博に対して、不道徳なものであり、犯罪の原因にすらなる諸悪の根源だというイメージを強く抱き、その本質を知ろうと歩み寄ることをしてきませんでした。それゆえ、賭博に対する理解、いわゆる“賭博リテラシー”が低いのです。

 その顕著な例が、宝くじの人気が根付いていること、裏を返せばその理解度が低いことだと言えます。まず、宝くじが賭博であることを理解している人は多くありません。賭博に嫌悪感を示す人が、その一方で宝くじに興じるといった矛盾も起こっているのです。

 そして還元率が約45%という世界最高水準の“ボッタクリ”であることもまた、広く知られていません。世界を見渡しても、こんなに酷い割合は見当たらないですが、にもかかわらず、宝くじに好意的なイメージを持たれているのが現状。「夢を買う」という形容を与える始末ですから、いかに賭博の本質を理解していないかが分かります。

■控除率の分だけ負ける結末が大数の法則によりもたらされる

 上述した宝くじの例にもあるように、リテラシーの低さを構成する要素の一つとして「控除率への理解不足」があげられます。

 多くの賭博は、胴元が一定の割合を控除し(控除率)、その残りの割合をプレイヤーに払い戻し(還元率)します。そしてこの構図がある以上、「大数の法則」によって理論値へ収束していく、すなわちマイナス収支に帰結するという原理に支配されます。

 簡単に言えば、控除率の分だけ負ける、というのが賭博の本質。そう、賭博とは、負けるものなのです。この基本構図に理解・納得ができていないと、賭博との上手な付き合い方ができません。

 参考までに、さまざまな賭博の控除率をあげますと、「宝くじ約55%」「競馬約25%」「アメリカンルーレット約5%」「バカラ約1%」「ブラックジャック約1%」となります。

 では、賭博との上手な付き合い方とは何か? それは「割り切った付き合い方」をするということに尽きるでしょう。賭博のスリルや興奮を味わう対価として、控除率を支払うという考え方が、スマートです。その一方で「過度にリターンを求めた付き合い方」をしてはいけません。生活費を稼ぐ手段にしようとか、全財産を賭けて一攫千金を狙うとか、そんな目論見は大数の法則に打ち破られます。

 もちろん、大数の法則とは数学的な理論であって、実際には勝つことだってあり得ます。しかし、それはあくまでも例外、ラッキーな事例に過ぎないのです。ちなみに、控除率によるマイナスの運命を受け入れつつも、少しでも勝つ可能性を高めたいのであれば、大数の法則に逆らう戦略を採ることが有効となります。それでも勝ちの度合いに限度があるわけですが。

 こうした数学的な常識を正しく理解することが、とても大切だと言えます。

■投資の世界では当たり前の資金管理とメンタル管理

 また、投資や賭博における「資金・メンタル管理の欠如」も、日本人ならではの特徴であり、リテラシーの低さを象徴しています。

 投資の世界では、やって当たり前の概念として、「資金管理」と「メンタル管理」があります。簡単に言えば、前者は破綻しないために、後者はヤケを起こさないために行います。

 投資で一番やってはいけないのが、相場からの退場、すなわち持ち金をゼロにしてしまうことです。それを防ぐために、自分の財布事情を把握して、投資に回す資金量をコントロールする技術=資金管理が重要になります。

 他方、勝負事ではアツくなってはいけません。なぜならば冷静な判断ができなくなるからです。そんな精神状態を制御しようというのが、メンタル管理です。なぜ頭に血が上ってしまうのか、なぜ損することをおそれるのか、といったことのメカニズムを知ることで、対策を取ることが可能になります。

 以上、2つの技術や理論は、世界規模でその必要性が認識されているため、多く提唱されています。世界が知っているこうした事柄を学ぶことで、日本人のリテラシーも向上するのではないでしょうか。

 カジノ誕生を迎えようとしている今、私たちは賭博観を洗練させ、賭博との付き合い方、そして子供たちへの教育方法を考えていかなければなりません。賭博に悪というレッテルを貼ってきたのは過去のこととし、カジノと共生する未来へ向かって一歩を踏み出しましょう。とにかく、賭博への正しい理解が、求められるのです。


(鹿内 武蔵)

最終更新:7月31日(木)8時0分

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