今年4月に入った新人は、洗剤をジェルボール(ブルー)に変えた。
「洗剤変えた?」
と聞くと、
「ノーチェンジだお。」
とごまかしているがバレバレだ。
横を歩くたびにジェルボールの匂いを振りまいていく。
俺は超スーパーミラクル深呼吸により体内にジェルボールの匂いを取り込み、命の洗濯をした。
日経トレンディで紹介しているの見てから、俺もジェルボールを使っている。
ジェルボールが発売されたのと新人がデビューしたのはほぼ同時期である。
かつて初めてジェルボールに触れた時、
「まるで洗剤が新人のようだ・・・」
と思った。
あのむにむにの感じ、ツルツルの感じはまさに新人そっくりだ。
ジェルボールのメリットは計量の手間が無くなることではない。
寂しい時にいつでも新人のようなものに触れられることだ。
一緒に洗濯しているような感覚になれることだ。
ジェルボールを食べてしまう乳幼児がいるということで問題になっているが、危ないのは乳幼児だけではない。
実際、今日俺はシュレッダーしている新人を後ろから見て、食べたくなってしまったのだ。
その刹那、すい臓が収縮してインスリンが分泌しているのがわかった。
大人だから、ジェルボールも新人も食べたら危険なことは分かっている。
「焦るな、家に帰れば似たようなものがあるではないか。」
と言い聞かせた。
新人はなぜ、敢えて俺と同じジェルボールにしたのか?
それをずっと考えていた。
その解が今出たような気がした。
彼女も俺を意識している。
同じ洗剤にしたんだから俺と同じ空気をいつも吸いたいんだろう。
いつも一緒にいたいんだ。
ジェルボールはゴールデンボールと同じくらいの大きさだ。
彼女にとっては、
「ジェルボールがまるでアイツのもののようだ。」
なんだ。
彼女は家でゴールデンボールにみたてたジェルボールを2つ並べ、人差し指でコロコロと転がしながら、自慢のたれ目をさらに垂らしてにやけているに違いない。
その目からは、決して口には入れてはいけないというもどかしさが漂う。
禁断のソリュブル洗剤は泡くて切ない。