最低賃金の引き上げを厚生労働省の審議会が答申した。全国平均で16円。2桁は2年連続になる。今の最低賃金(全国平均)は764円なので、実施されれば780円になる。

 最低賃金は、国が定める1時間あたり賃金の最低基準だ。原則として、すべての労働者に適用され、時給がこの額を下回ると法律違反になる。

 16円は、時給だけで決めるようになった2002年以降、最も高い。いまは「経済状況に応じて都道府県をAからDの4ランクに分け、それぞれの引き上げ目安額を示す」という決め方だ。16円はその加重平均。つまり、東京都や愛知県など、労働人口が多くて企業にも比較的余裕のある大都市部の引き上げ目安額が高め(19円)だったことを反映した結果になっている。

 「16円は高い引き上げ」と言っても、その裏側で、大都市と地方の最低賃金格差は拡大する。答申通りに引き上げが実施された場合、最高の東京都(869円+19円)とDランクに属する最も低い県(664円+13円)の差額は211円と、現行より6円分、広がってしまう。

 「上に厚く、下に薄く」が経済状況に応じたものだとしても、この方式を続ければ格差は広がるばかりだ。来年夏にかけて、最低賃金の決め方は見直されることになっている。この機に、格差の是正策を正面から議論してほしい。

 働き手から見ると、最低賃金の水準はまだ低い。最低の県で1日8時間働いた場合の月給は約11万円。これで生活を維持するのに十分な水準と言えるだろうか。最低賃金で働く人はパートタイムなどの非正規労働の人が多いから、実際の手取り額はもっと低くなってしまう。

 一方で物価は上がっている。4月には消費税率が8%に引き上げられ、最近の消費者物価指数は3%以上の上昇が続く。

 答申を受けて、これから都道府県ごとに経営者と労働者の代表、有識者が話し合い、10月までには新しい最低賃金が決まる。最近は、過半数の都道府県で目安を上回る額に決まっている。今年もまずは「目安超え」をめざしてほしい。

 幸い、企業側の心理は変わりつつある。労働組合の中央組織である連合の集計によると、今年の春闘では、15年ぶりに2%を超える賃上げを達成した。

 最低賃金は、春闘の成果が及ばない労働者にも影響する。経済が上向いて人手不足感が強まり、都市部を中心に時給が上がるいまは、最低賃金引き上げの好機でもある。