社内情報共有基盤のAWS移行で「生産性ゼロのプロジェクト」から脱却--積水化学 原和哉氏が解説
7月17~18日に開催された「AWS Summit 2014 Tokyo」で、2万ユーザー規模の社内情報共有基盤をAWSに移行した積水化学グループの事例が紹介された。LinuxとOSSをベースに内製したシステムをEC2やS3、EBSの基盤上に移行し、ハードウェア更新作業という「生産性ゼロのプロジェクト」から脱却した。積水化学工業のコーポレート情報システムグループ部長 原和哉氏の講演の模様を紹介する。
生産性ゼロのプロジェクトからの脱却
「ハードウェアの更新作業は、生産性ゼロのプロジェクトだ。社内にハードウェア台数が多いなら、AWSへの移行でこの作業を"超"効率化できる。貴重なエンジニアを無意味なプロジェクトから脱却させ、アプリケーションの開発・運用といった有意義でイノベーティブな仕事にまわすことができる」
原氏は、AWS移行による最大の成果をそう強調した。積水化学工業は昨年、Webメールやグループウェアなどで構成する情報共有基盤「Smile」をAWS上に移行した。SmileはLinuxとOSSをベースに2004年から自社開発を進めてきたシステム。積水化学グループ約2万人が日常的に利用するインフラとして機能を拡充してきたが、昨今のビジネス環境には対応しにくくなっていた。それがAWS移行のきっかけとなった。
たとえば、メールボックスの容量が100MBと乏しく、最近の大容量化の流れにそぐわなくなっていた。メールのデータは2万人分をハイエンドのストレージに格納していたが、ストレージが保守期限を迎え、予算確保が課題になった。約100台のサーバについても、毎年数十台ずつ更新する作業が負担になっていた。ほかにも、コンプライアンスの一環としてメールのアーカイブ機能が必要になったことや、BCP(遠隔二重化相当)、グローバル対応が課題になったことが背景にある。
「移行にあたっては、オンプレミスで更新するか、SaaSとしてメールやグループウェアを利用するか、IaaS上に現在の基盤を移行するかという3つの案を検討した。評価項目は、コスト、BCP対応、アーカイブ、ユーザー操作、メール容量の5つ。それぞれを評価し、最終的にすべての項目で要件を満たすIaaSを選択した」(同氏)
評価のポイントは、コストを人件費、運用費、今回と5年後の2回分のハードウェア更新費用などを含めたTCOで試算したこと。オンプレミスの場合、生産性のない作業をエンジニアが担当するコストは相当に高く、SaaSの場合でも、運用やユーザーサポートなどを含めるとそれなりにコストがかかることがわかったという。また、SaaSの場合、UIの変更が頻繁に発生するため、さまざまなITリテラシーの社員がいる環境では混乱を招きやすい。そのため、ユーザー操作に関しては3つのなかでSaaSが最も低い評価になった。
「では、なぜIaaSのなかでAWSを選んだか。簡単にいえば、No.1のサービスを使うことが一番よいという判断があったからだ。とはいえ、AWSがサービス内容を突然変更したり、サービス自体をやめてしまうリスクもないわけではない。そこで利用規約を確認するとともに、代替策も事前に検討した」
AWSの利用規約である「AWSカスタマーアグリーメント」の「2.2 APIの変更」には、サービスのAPIの変更と中止、廃止について、「以前のバージョンのサポートを継続するため商業上合理的な努力をする」との記載がある。この文面だけでは「努力の程度」がわかりにくい。そこで、万一の際は、グループウェアやイントラのWebサイトのサーバ、ストレージなどは競合他社(Microsoft AzureやVMware環境を使った国内サービス事業者)に移行できる構成にし、メールもExchangeOnlineに移行できるようにしておいたという。
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インサイト合同会社
「月刊Computerwold」「CIO Magazine」(IDGジャパン)の記者、編集者などを経て、2011年11月インサイト合同会社設立。エンタープライズITを中心とした記事の執筆、編集のほか、OSSを利用した企業Webサイト、サービスサイトの制作を担当する。