(英エコノミスト誌 2014年7月26日号)
「ジョコウィ」の勝利は画期的な出来事だ。これからは和解と決断力のあるリーダーシップを両立させなければならない。
大統領選の勝利宣言を終えポーズをとるジョコ・ウィドド氏〔AFPBB News〕
悪いニュース(その多くはイスラム世界に関するもの)でいっぱいの年に、イスラム教徒が多数派を占める世界最大の国がこれまでで最も励みになる政治ニュースを生み出したとすれば、驚きかもしれない。
だが、ジョコウィとして広く知られるジョコ・ウィドド氏がインドネシアの大統領選に勝利したという7月22日の発表はまさにそれだ。
何よりもジョコウィの勝利は、いくぶん混乱したものではあるが、民主主義にとっての勝利だ。16年前にスハルトの独裁政権下にあった国で、今回の選挙は、民選で選ばれた1人の指導者スシロ・バンバン・ユドヨノ氏がやはり民選の別の指導者に道を譲る初めてのケースとなった。
アジアにおける民主的な移行は必ずしもスムーズにいくとは限らない。1990年のビルマや、タイで繰り返されるドラマを考えてみるといい。
インドネシアの民主化も、まだ完全に安泰なわけではない。怒りっぽい元陸軍司令官で故スハルト大統領の娘婿だった次点候補のプラボウォ・スビアント氏が、大規模な不正があったと主張し、選挙結果を無効にするよう憲法裁判所に提訴しているからだ。だが、ジョコウィの勝利が6ポイント差だったことを考えると、プラボウォ氏が成功する可能性は低い。
分権的な民主主義の申し子
インドネシアの庶民派の勝者は、選挙で勝つ能力がタイの支配層を苛立たせている実業家タクシン・チナワット氏より健全な人物だ。ジョコウィは、インドネシアの政財界のエリートの縁故主義からではなく、スハルトを打倒したリフォーマシ運動で頭角を現した。家具事業で成功を収め、その後、普通選挙を通じてインドネシア中部ジャワ州の中規模都市ソロの市長の座に就き、2012年には無秩序に広がる首都ジャカルタの知事になった。
ジャカルタの知事としては、市民に望んでいることを尋ね、首都のひどい交通渋滞に真剣に取り組み、毎年起きるモンスーンの洪水の影響を減らした。インドネシアの高慢な政治家たちは、このようなつまらない問題を解決したり、有権者に自分たちと話すことを認めたりするようなことは滅多にない。
クリーンな政府を運営し、物事を成し遂げるというジョコウィの評判は急速に広がり、国政の場に同氏を押し上げた。ジョコウィは守旧派から多少の助けを借り、大統領選ではインドネシア独立の父の娘、メガワティ・スカルノプトゥリ氏が率いる政党と手を組んだ。
だが、ジョコウィが知事から大統領になった功績の大半は、インドネシアの分権的な民主主義にある。1万3500を超える島々に広がるごちゃ混ぜ状態の民族や信仰にふさわしく、インドネシアは多くの権限を地方政府に移譲し、ジョコウィはそこから頭角を現した。