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“外交弱小国”日本の安全保障を考える

旋風を巻き起こす「本格的な保守派」ハッカビー氏

 さてもう一つの変化の様相は、共和党側の新しい星マイク・ハッカビー候補の人気急上昇である。

 12月に入って明らかにされたアイオワ州での世論調査では、ハッカビー氏は先頭となって、28%の支持率を記録した。前回の調査からは12ポイントもの増加だった。第2位はロムニー候補の25%、第3位はジュリアーニ候補の12%だった。つい数週間前までは全米レベルではまったくの無名だったハッカビー氏がいまや特定の州だけでとはいえ、共和党側候補の先頭に躍り出てきたのである。

 しかし、また繰り返しとなるが、この種の数字だけでは、選挙戦の行方は判断できない。他の諸要因が多々、からんでくるのだ。だがそれでも複数の調査がみな同じような上昇、下降を示せば、全体の傾向や流れは分かってくるというものだろう。ハッカビー氏がここにきて、人気を大幅に広げていることは明白なのである。

 ハッカビー氏はビル・クリントン前大統領が州知事だったアーカンソー州で1996年から2000年1月まで知事を務めた。現在は52歳、「本格的な保守派」とされる政治家である。キリスト教プロテスタントのバプティスト派の牧師でもある。だから米国の保守派の中枢となるエバンジェリスト(福音派)の支持も強い。

 これまで共和党側では本命のジュリアーニ候補は人工妊娠中絶などという保守・リベラルの区分のリトマス試験では、「明確な反対」という保守本流の立場をとらなかった。ロムニー候補も保守とはいえ、いろいろ問題のあるモルモン教の信者である。

 この点、ハッカビー氏はきちんと保守の立場を打ち出している。だから本格保守待望の有権者層には強烈なアピールがあるといえるようだ。しかも民主党リベラル派の領袖とされるビル・クリントン前大統領が本拠として州知事までを務めたアーカンソー州の地元でも堅固な支持基盤を築いたことは、共和党側からすれば、高い評価に値する、ということにもなろう。

 しかもハッカビー候補は非常に雄弁である。さすがに牧師としての長年の経験があるだけあって、複雑な課題を分かりやすく、ユーモア混じりに解説していく能力はきわめて高い。私生活でも1960年代にはロックバンドを結成して、ベースギターの演奏で活躍した。スポーツではフルマラソンに参加しての完走4回、45キロもの減量に成功し、その経験を『ナイフとフォークで墓穴を掘るのはやめなさい』というタイトルの書にまとめて、全米で話題を生んだ。

 このハッカビー旋風がどこまで続くのかは、まだ即断はできない。同候補は選挙資金もそれほど潤沢ではない。しかしハッカビー候補のアイオワ州やニューハンプシャー州での活躍は目ざましい。まだまだこのハッカビー候補が「台風の目」となっていく可能性もかなり高いのである。

 米国の大統領選挙キャンペーンはまさに予断を許さない状態になってきたといえる。

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