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------ ■コミック貸与権のその後。 昨年の著作権法改正で新たに認められた書籍の貸与権。法律施行後もコミックレンタルを想定した使用料や徴収システムについてのルール作りが難航し、実際に運用される状況にはない。出版物貸与権管理センターとCDVJ(日本コンパクトディスクビデオレンタル商業組合)の話し合いが一度は決裂したりと見通しのきかない状況が続いていたが、貸与権のこと(高波伸のブログどえ〜す 2006年02月09日)によると、40回以上の交渉の末、昨年12月6日に基本合意に達したという。 コミック貸与権問題の進展に関しては21世紀コミック作家の著作権を考える会、出版物貸与権管理センター、CDVJともにwebによる一般読者、利用者への情報提供をほとんど行っていないため、当然ながら一方の当事者であるエンドユーザーへのウケはよろしくない。問題に関心のある作家や一般個人のブログが主な情報源と言う状況には情けないものがある。21世紀コミック作家の著作権を考える会総会第6回(2/7)に出席して経緯説明を聞いたという上のブログの記事によると、合意内容は以下の通り。 結果550円未満の単行本は、新刊中古関係なく210円/冊の使用料が徴収できるようになり、レンタル店が新設される時の大量購入に関しては150円/冊(CDVJに委託するので、実質100円)の使用料が徴収される。新刊が出てから、レンタル店頭に商品が並ぶ準備期間は1ヶ月。(記事より) 交渉が決裂した04年末の時点での双方の主張はARTSの掲示板投稿[9036]貸与権交渉決裂 by赤田cdvjによると以下の通り。 ● CDVJ ◎使用料:コミック1冊あたりの使用料 60円 ◎レンタル準備期間(禁止期間) 10日間 ● 著作権者 ◎使用料:コミック1冊あたりの使用料 定価相当額 ◎レンタル準備期間(禁止期間) 3ヶ月 ※但し、準備期間については、1ヶ月まで譲歩も可能とのこと。 実際の合意内容と比較すると、新刊のレンタル禁止期間1ヶ月というのは音楽やビデオレンタルの状況とほぼ同じ運用となり、予定通りの落としどころと言えるだろう。使用料に関しては04年末に著作権者団体が提示した280円/冊という額から多少譲歩して210円/冊(新設時の大量購入は150円/冊)となったが、これは著作権者団体側が基本的な主張を通した結果と見る。 レンタル使用料に関しては、上述のARTSの掲示板で[9041] 書籍貸与の使用料の70%は管理に使われる。や[9044]Re: 書籍貸与の使用料・・補足説明の発言『貸与権管理センターは口頭で「3週間禁止、使用料280円」提示してきました。280円の根拠をただしたら、「作家には80円、出版社、取次店、貸与権連絡センターに200円」との返事でした。』を受けて、「本来の著作権者である作家の取り分を大幅に超える額のレンタル使用料を、出版権を持つにすぎない出版社や新刊流通業者にすぎない取次店が一体どのような根拠で要求するのか」という批判が上がった。 今回の合意内容でシステムが動き始めるとして、配分に関しては、レンタル業者が支払った使用料の6割近くがやはり出版物管理センターと出版社の取り分になるようだ。つまり、新刊の場合は1冊につき210円の約4割、80円ちょいが作家に入ることになり、これは1年前の案から変わっていない。出版物貸与権管理センターと出版社が受け取る部分が200/280円(71%)→約130/210円(約62%)と、比率では相変わらず過半を占めるが金額では6割程度に減少している。 大手出版社では既に、貸与権の管理委託に関する契約を結ぶよう作家への働きかけが進んでいるという。貸与権は著作権者の権利であるため、手続き的には「作家が貸与権を行使してレンタル業者から使用料を受け取る、ただし徴収・配分の作業は出版物貸与権管理センターに委託するので、作家が受け取る使用料のうち約6割を管理委託費としてセンターに支払う」という形をとる。これだけでは出版社の出番はないのだが、出版物貸与権管理センターの実態が作家団体の集まりであり実働部隊を持たない以上、実際の商品タイトル管理や配分作業は出版社のシステムを利用するのが現実的だろう。従って、管理委託費の相当部分は実作業の委託費としてセンターから出版社へ流れる。要するに、出版社は著作権者でないから本来は貸与権による利益を受け取る立場にないが、貸与権の運用システムの中に委託管理業者として入ることによって、堂々と貸与権の果実を受け取れる形だ。 従来の出版業では、単行本印税が1割として550円の単行本なら55円×発行部数が漫画家に入る。それに対して貸与権委託業では、利用料210円のうち漫画家への配分額が約80円×レンタル店舗への仕入れ冊数となるが、新刊発行部数より遙かに少ないことが想像される。また、委託管理の方では、出版社は編集者の人件費も紙代も印刷代も流通コストもかからない。売り上げデータを定期的にまとめて配分額を作家に振り込む作業は印税とそう変わらない。 逆に、レンタル業者側にとっては負担が大きいだろう。レンタル料金収入の相当部分は地代や人件費光熱費等の店舗コストに当てられる。これまで商品の原価は新刊や古書での購入代金だけだったものが、レンタル料金1冊80円として商品が2〜3回転する分が使用料として上乗せされることになる。そのため、今回の貸与権のシステムが導入される効果は、レンタル業の圧迫という方向により強く働くだろう。著作権者や出版社は貸与権によって新刊相当の利益配分を得ることになるが、実際の利用料は新刊市場規模に比べて微々たるものになると予想される。 個人的には、書籍・コミックレンタル業は定着しないと考えている。コスト的に活字本は図書館と対抗できないし、コミックはマンガ喫茶や新古書店に対抗できない。 そもそもこの貸与権の整備は新古書店やマンガ喫茶の問題に端を発している。作家団体や出版社の当初から希望するところは、著作権者、出版社への利益還元を伴わない流通・消費市場の排除であった。その意図からすれば、今回の合意が新しい著作物レンタル業の整備と振興に帰結しないことはむしろ望ましい流れと言えるかもしれない。 作家と出版社と流通業者による堅牢な新刊市場。この10年間じわじわと市場規模を縮小しながらシステムを誇り続けるその様は、消費者の目にどう映っているだろうか。 >関連ブログ記事 ■合意内容(Copy & Copyright Diary 2006-02-09) ■出版物貸与権管理センターと日本コンパクトディスクビデオレンタル商業組合との合意内容(エンドユーザーの見た著作権 2006年2月10日) |
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