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伝説の木の棒 後編 作者:木の棒

第2章 3人娘

第17話 試験

 決戦です。

 何と決戦かって?
 ただいま3人娘は超強敵と戦っています。

 え? まさかラスボスが?! の展開です。


 3人娘と対峙しているのは、ハール。
 アーシュの父親だ。


 雷神刀になった日の夕方、いつもの鍛錬場にハールとリンランディアが来た。
 そしてリンランディアが見守る中、3人娘とハールの試合が行われている。

 3対1だ。

 卑怯……なんてことにはならない。

 いや、むしろ足りない。
 全然足りてない。

 ハールは武器すら持っていない。
 必要ないから。



 最初、3人とも新しい力を使わずに攻めた。
 小手調べとでも思ったのだろう。

 だが、それがハールの逆鱗に触れた。

 一瞬で吹き飛ばされた3人。
 その3人に容赦なく、ハールの蹴りが入る。

 娘のアーシュにすら、横っ腹にガツンだ。


 転げ回る3人に冷たい目を向けながら、何かを言うハール。
 3人は起き上がると、すぐに力を使った。



 電光石火、鬼神、白蛇



 紫電を纏う雷となったアーシュが駆ける。
 その後ろから鬼神ベニちゃんが、ハールの動きに合わせて重い拳を放つ。

 2人の攻撃を難なく受け止めるハールの足元に大量の水を白蛇ラミアが発生させて動きを止めにかかる。
 水蛇が襲う中、アーシュとベニちゃんがハールの動きに合わせて攻撃しようとするが……

 ハールの全身から雷が放たれて、3人とも吹き飛んだ。


 Tueeeeeeeeeeeeee!


 ハールは強いとは思っていたよ。
 今まで見てきたこの男の様子からして、こいつは戦闘狂の気質がある。

 戦うことが好きで好きでたまらない。
 戦う敵を見つけた時の、ハールの笑みはぞっとする。

 あいつだ、あいつに似た威圧感がある。
 ベルゼブブ。

 あの圧倒的な絶望感に落とされた、あのベルゼブブのような強さだ。
 禍々しい感じはないけど、強さの本質は同じだろう。

 ハールなら、ベルゼブブとも1対1で普通に戦えそうだ。



 俺は「雷神刀」ではなく、「紫電魔刀」状態だ。
 アーシュがそれを望んでいることが、魔力から伝わってきたから。
 たぶん、ここぞというところで、雷神刀を使うのだろう。

 アーシュの電光石火も紫電の状態だ。
 最初に力を抑えたことで、ハールの逆鱗に触れたけど、これも隠し玉ってところだな。


 ただ、そもそもどうしてハールと試合しているんだ?
 いや、別にしちゃいけないってことはないけど、3人ともすげ~~必死なんだよね。

 ただの鍛錬の一環とは思えない。
 この試合に何か特別な意味があるのか?


 アーシュ達の修行が始まったのは、アーシュが捕まったあの翌日からだ。

 俺にとっては、そもそもこの里に来てすぐのことだったから、アーシュ達がそれ以前にどんな修行をしていたのか知らない。
 知らないけど、あの日からの修行はアーシュ達にとって大きな変化をもたらしたと思う。

 捕まった翌日のテントでハール達と話した時、アーシュは焦りながら、何かをお願いしていたように見える。
 それを拒絶したのは、ハールではなく、リンランディアのように見えたが……。

 アーシュのお願いはだいたい想像つく。
 オーク達との戦いに自分も参加したいとか、そんなところだろう。

 ハール達が、あのオーク達を殲滅させる気なのかどうか知らないが、わざわざオーク達の様子を見にきていたんだから、倒しにいくことだって十分にあり得る。

 俺を拾いに来たってことならまた別だろうけど。


 とにかく、これは卒業試験のようなものだ。
 リンランディアを納得させるために、ハールを倒せ。

 いや、倒すことは不可能だろう。
 力を示せというところか。


 それじゃ~俺も、頑張ってみますか!


 ハールに全ての攻撃をもて遊ばれながら受け止められる3人娘。
 俺はアーシュに雷魔法のイメージを伝える。

 アーシュはそれを感じ、電光石火で地を這うようにハールの脚を狙う。
 ハールから見たら、安易に直線的に近づいてくる馬鹿……に見えただろう。

 アーシュがハールと接触する直前、“俺”が雷魔法を発動する。
 ハールの頭上から雷が落ちる。

 難なく避けられるが、アーシュがハールの脚を狙う。
 そのアーシュの頭上を飛び越えるように、ベニちゃんが飛び蹴りかかる。

 ハールはアーシュの斬撃を、つま先で刀を確実に止めて地に落とす。
 飛び掛かってくるベニちゃんの蹴りをかわして、そのまま脚を掴み後ろに放り投げる。

 ラミアの水蛇は、ハールの魔力に耐え切れずダメージを与える前に蒸発している。
 白蛇ラミアが地面に潜り、地の底から飛び出してハールの身体に巻きつく。

 そのまま力で絞め倒そうとするが、ハールは余裕の笑みで白蛇の美しい身体を撫でている。
 そのまま尻尾を掴まれたラミアは、思いっきりぶん投げられてしまった。


 3人娘の戦いをじっと見守るリンランディア。
 その目には、この戦いがどのように映っているのだろうか。

 アーシュ達の攻めは続く。

 ラミアがハールの包み込むように、巨大な水を発生させる。
 その水に、アーシュが全力で雷を落とす。

 この水は雷を伝える水だろう。
 球のような水の中で、アーシュの雷が荒れ狂う。

 だが、ハールはそんな雷をなんとも思わない。
 水の中で酸素を吐いて、空気の泡を作って遊んでいる。

 もともと雷はハールが得意にしている魔法だ。
 ハールに雷は効果が低いのだろう。

 水の球に、ベニちゃんが掌を合わせる。
 すると、水の中に振動が起きて、竜巻のような水流が発生する。

 ハールが水の球を弾け飛ばすと、ベニちゃんがその水を受けて後退する。
 そこへアーシュが再び斬りかかる。

 ハールのカウンターを誘い込むような単調な動きで斬りかかる。
 わざと誘われるように、ハールは拳を合わせて突く。

 ハールの拳を、ラミアの水防御でアーシュを守る。
 その防御を使って、アーシュが再びハールの脚を狙い斬り払う。

 だが、さっきと同じで、つま先で刀を確実に止めて地に落とす。
 俺はそのまま、雷魔法をハールのつま先に流してみる。

 一瞬だけ驚いたように笑ったハールだが、ダメージは一切ない。

 後ろからひじ打ちを放つベニちゃんを、振り向きもしないで掴むと、アーシュ目掛けて放り投げる。

 肩で息をする3人娘。
 楽しそうな余裕の笑みで3人を見つめるハール。


 基本的に受け側となっていたハールが動く。
 指を鳴らしただけで、アーシュの全力に近い威力の雷が3本、アーシュ達を襲う。

 反応出来なかったのはラミア。

 雷を通す水のままだったのか?
 雷に撃たれて意識を失う。

 ラミアを倒された焦りか怒りか、ベニちゃんがハールに襲いかかる。
 が、届く前に足元から天高く舞い上がる龍のような雷に撃たれて意識を失う。


 1人残るアーシュ。


 ハールは片手をあげると、その手から黄金の雷で作られた1本の槍が生まれる。
 それはまるで、黄金の雷龍のような槍だった。

 感じられる魔力が桁違いだ。
 あれに撃たれたら、アーシュは無事でいられるのか?


 アーシュも息を飲む。

 強く握りしめて、俺の名前を囁く。


「ルシラ」


 その名に応えるように、俺は自らを雷神刀に変える準備をする。
 電光石火も白銀の雷を纏うだろう。

 心を1つに……アーシュは、ハールに向かって構える。

 刺突の構えだ。
 あの黄金の雷龍槍を斬り裂く。

 向こうが龍なら、こっちは虎でいくか?!

 俺は、白銀の雷虎のイメージをアーシュに流す……虎はもちろん美しい女性の虎だ。
 アーシュもイメージを受け入れてくれる。

 そしてハールに一撃入れる……俺達は完全に同調していった。



 一瞬の静寂の後、アーシュとハールが同時に動く!


 白銀の雷虎刀と、黄金の雷龍槍がぶつかり合う。






 そこには、黄金の雷龍槍を斬り裂き、ハールの胸元にかすり傷を負わせて、立ったまま意識を失ったアーシュがいた。





 ハールは満面の笑みでアーシュを抱きしめ、リンランディアに振りかえり、親指を突きあげる。
 リンランディアはやれやれといった感じで、でも笑顔で3人娘を見ていた。

 俺は、アーシュ達が試験に合格したと確信した。

 ハールに勝つことは絶対に無理だろう。
 まだ3人娘とハールの間には、とても大きな壁がある。
 それを越えて、アーシュ達がこの強さの境地にたどり着くことが出来るのか、俺には分からない。

 でもきっとアーシュ達なら……いつかたどり着くような気がする。

 その時、俺はアーシュの手の中にいることが出来るだろうか。
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