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伝説の木の棒 後編 作者:木の棒

第2章 3人娘

第16話 名前

 私は夢を見る

 それは真っ白な世界

 それは真っ黒な世界

 何もなくて、全てがある世界

 そこに彼はいた

 彼は独りだった

 泣いているの? とても悲しそうに見えた

 私は近寄る

 でも顔がよく見えない

 彼の姿はぼやけているから

 大丈夫、怖くないよ

 私にもっと貴方のことを見せて

 貴方の笑う顔、喜ぶ顔、悲しい顔、怒った顔

 全部、ぜんぶ私に見せて

 私はここにいるよ

 ほら、私の手を握って

 暖かいでしょ?

 私はアーシュ

 私の名前はアーシュだよ

 貴方の名前は?

 教えて、貴方の名前

 貴方の素敵な名前を







「んん……」

 夢から覚めた私。

 棒をしっかりと抱いていた。
 でも瞳から涙が零れ落ちていた。

 私泣いてたの?
 どうして……涙を拭いたところで気付く。

 棒から力を感じない。
 私が起きたらすぐに、あの優しい魔力を流してくれるのに。

 どうしたの? 私起きたよ。
 ねぇ起きて、貴方も起きて。

 やだよ……いなくならないで。
 私から離れないで。


 棒から優しい魔力がゆっくりと流れてくる。
 まるで棒も今まで寝ていて、いま起きたような寝ぼけた感じ。

 本当に生きてるんじゃないかなって思うんだ。

 意思が存在しているとは思う。
 でも意思なんて抽象的な言葉で片付けられない。

 この棒は、私の刀になってくれて、私の中に眠る力を呼び起こしてくれた。
 私の傲慢から招いた危機の時も、ずっと私を励まして助けてくれた。

 その後も、私の感情や心を感じてくれて、その度に私の支えになってくれた。


 武器や道具に愛着を持つことは誰だってある。
 それは自分の命を守ってくれる大切なパートナーだから。

 でも愛情を持つことは……。

 私は棒を両手で握りしめて見つめる。




 そうだ、名前。

 この棒に名前をつけよう!

 私だけが呼んでいい名前。
 他の誰も呼ばない、私だけが声にする名前。

 何がいいかな~。
 う~~ん、お母さんの刀みたいな名前もいいな~。

 マサムネとかザンテツケンとか、かっこいい響きだな~って思ったんだよね。

 でも、武器というより、人の名前っぽいのがいいな~

 う~~~~~~~ん。




 ルシラ




 うん! ルシラにしよう!
 いまピン! ときたの!


 貴方の名前は今日からルシラだよ♪


 私だけが呼ぶ貴方の名前。
 貴方だけが聴く私の声で。

 うふふ♪ ルシラ♡







 眠りに落ちた日。

 俺は夢を見ていたと思う。
 ただ、どんな夢だったかまったく思いだせない。

 悪くない夢だったと思う。
 目覚めは良い気分だったからな。

 眠りに落ちた日、目覚めるとアーシュが俺を見て慌てていた。
 あ~俺から魔力を感じられないから焦っているんだなっと思って、すぐに魔力を流してあげた。

 頭がはっきりするまで、ちょっと時間がかかったけど。


 そして、なぜかその日からアーシュが俺のことを「ルシラ」と呼ぶようになった。
 俺に名前をつけたのか?

 でも2人きりの時にしか言わないんだよな。
 ベニちゃんやラミアがいる前で、ルシラという声の響きを聴くことはなかった。


 俺はアーシュの声でルシラと呼ばれる度に嬉しくなる。
 アーシュだけが呼んでくれる、俺の名前だ。

 どういう意味があるのか分からない。
 意味なんてないのかもしれない。

 でも、そんなことどうだっていい。
 アーシュがつけてくれたんだから。

 俺も呼びたいな、君の名前を。
 君の素敵な名前を、俺の声で聴かせてあげたい。

 でも、それは叶わない。
 俺はただの木の棒だから。



 ハールとリンランディアが、鍛錬場にやってきた。
 アーシュ達に何か真面目な顔で伝えている。

 それを聞いた3人は頷くだけ。
 ハール達はすぐにどこかへ行ってしまった。


 その日の鍛錬はいつも以上に緊張感がみなぎっていた。
 俺を持って狩りにいくアーシュも真剣だ。

 今日はハールが護衛についてきていない。
 ベニちゃんとラミアがついてきて久しぶりに3人での狩りだ。

 でもほとんどアーシュ1人で倒している。


 あのハールが瞬殺したグリフォンのような悪魔にも遭遇したが、問題なく倒せた。
 3人は本当に強くなった。

 俺もその力の一部になれたと思うと、嬉しい限りだ。




 そしてその時は訪れた。
 アーシュのレベル38。

 つ・ま・り!
 基本3セットのレベル10です!!!!

 先行して10にしていた魔力に続いて、闘気と属性もレベル10に!!!

 俺は何かが起こることを期待してレベル10にした。



「闘気、魔力、属性全てがレベル10になり神剣が解放されます。」



 キターーーーーーーーーー!!!!!!!


 システム音きたよ!!!

 そして神剣? 魔剣の上位版か?! 解放きちゃったよ!!!!



 俺は嬉しさのあまり、訳の分からない魔力をアーシュに流してしまった。
 アーシュも俺から興奮状態の魔力が流れてきてビックリしている。


 数分後、落ち着いた俺はアーシュに魔力を流す。
 何かが目覚める時をイメージして。


 アーシュもそれを感じて、俺を持って心を無に。
 明鏡止水の境地へ。


 俺から伝わる魔力を心の中で感じていく。


 新しい刀。

 全てを斬る刀。

 光も闇すらも斬る刀。

 雷を纏うその刀をイメージしていく。

 アーシュから伝わるイメージを俺の中で具現化させていく。

 そして、一本の白銀の雷を纏う新たな刀へと、俺は進化した。


ステータス
雷神刀「ルシラ」
状態:アーシュの雷神刀「ルシラ」
レベル:38
SP:0
スキル
闘気:レベル10
魔力:レベル10
属性:レベル10
電光石火:レベル5
雷魔法:レベル3



 あれ? 木の棒が「ルシラ」に変わったぞ?

 アーシュが俺につけてくれた名前だからいいけど、なんで急に変わったんだ?
 雷神刀「ルシラ」か、悪くないな。

 新しい刀は、日本では「業物」とか言われる刀の中でも、きっと最高級の刀だな。
 ゲーム知識からいくとマサムネとか。

 ま、中身が木の棒ってことに変わりはないんだけどね!


 新しい俺の姿に、アーシュは大喜びだ。
 ベニちゃんとラミアに見て見て! っと、最初の時と同じ興奮状態で話している。

 新たな白銀の雷を纏う俺を見て興奮していたアーシュだったが、ふと急に冷静になって考え込む。


 そして、また魔力を集中していく。

 ん? 電光石火を使うつもりか?


 発動した電光石火は、それまでアーシュが身体に帯びていた紫電ではなく、俺の刀と同じ白銀の雷となった。

 そうか、進化した俺が白銀の雷を纏っているのを見て、自分の電光石火のイメージも変えてみたんだな。

 あきからにパワーアップしている!

 本当に天才だな、アーシュは。


 おそらく、魔力レベル10の電光石火レベル10で発動したら、この白銀の雷を纏う電光石火となったのだろう。

 アーシュはそれをお手本無しで、自分の力とイメージだけで手に入れたのだ。

 アーシュは嬉しそうに、新しい俺を持ちながら、新しい電光石火を使っている。
 さらに速く強くなったアーシュを、ベニちゃんとラミアが驚きと、笑顔で見つめていた。

 これだけ強くなった3人なら、もうハイオークロードに負けることはないだろう。

 いや、ハイオークロードどころか、ハイオークキングにだって勝てるんじゃないのか?

 っていうか、アーシュ達に勝てる悪魔なんて、もうベルゼブブ級とかじゃね?
 いくら強い悪魔がいるとは言っても、ベルゼブブ級がゴロゴロしているわけじゃない。

 もうアーシュ達に勝てる悪魔に遭遇することなんて、そうそうないだろう。



 そう思っていた時期が俺にもありました。
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