第9話 調子に乗ると
狩りを終え、里に戻ってきたアーシュは上機嫌だった。
アーシュはすぐに父親?のハールの元へ。
俺を見せて興奮状態で喋っていった。
そんなアーシュを見るハールの目は優しくも、面白い話を聞いて喜ぶ子供のようにも見えた。
紫電魔刀になった俺を見たハールとリンランディア。
2人はちょっと真面目な雰囲気で話し始めた。
ハールがアーシュの頭を撫でると、アーシュは笑顔でその部屋を去る。
ベニちゃんとラミアとは、里に戻ってきたところで別れている。
きっと自分の家に帰ったのだろう。
アーシュも俺を持って、自分の家に帰り部屋に入る。
俺は感動した。
アーシュの部屋に入った俺は感動した。
なぜなら……乙女だね!
アーシュさん乙女ですね!
そんな男装麗人だから、無駄な物が何一つないサッパリした部屋を想像していたけど、超乙女じゃないですか!
色合いも白とピンクが多い。
可愛い小物系もいっぱい置いてあるし、人形とかもある!
ベットなんて天蓋付きですよ!
しばらく部屋で紅茶を飲んだりして、今日の出来事を思い出すかのように笑うアーシュ。
時々、俺をクルクルしたり、指に乗せてバランス取ったりしているけど。
そして、アーシュは俺をテーブルに置くと、着替えを持って部屋を出て行こうとする。
お風呂かな?
む~~~、棒を持ってお風呂に入る理由ってない?
ないか……本当にない? …………ないな。
まったくもって理由がない!!
俺はちょっと残念な気持ちで、アーシュの帰りを待った。
どんな着替えで、どんな服で帰ってくるのかを楽しみにしながら。
お風呂に入って濡れた髪で戻ってきたアーシュは可愛かった。
しかも部屋着はワンピース、ミニスカタイプの!
乙女ですね~アーシュさん乙女ですね!
一瞬見えたクローゼットの中にある服のほとんどは、可愛い系の服ばかりだった。
可愛い系が好きなら、どうしてあんな男装麗人のような服を普段着ているんだろう。
ハールの影響か?
それとも、ハールのように強くなりたいという願望の表れか。
お風呂から戻ってきても、アーシュは今日の狩りを思い出しているのか、ちょっと興奮状態だ。
俺を自分の部屋で振ってみたりしている。
俺は優しい魔力をアーシュに流してあげた。
すると、アーシュは俺からの魔力を感じて嬉しそうだ。
「お前も私と一緒に戦えて嬉しいんだな!」っという道具目線で見られてることは間違いないけどな。
なぜなら、アーシュは俺を持ってまたクルクル回したり、バランス取ったりして遊んでいるのだ。
ところが、俺から魔力を感じて興奮してしまったアーシュは……、
なんとその場で、あの黒の軍服に着替え始めてしまった。
アーシュは、白だった。
さて、戦闘服に再び着替えたアーシュは、1人で狩りに行くようだ。
この暗黒の世界に昼と夜という概念はないと思うが、眠る時間があることを考えれば、生きていく上での昼と夜はあるはずだ。
そして、今はその概念からいえば夜だろう。
こんな時間に娘が1人で外に出かけるというのに、止める父親も母親もいないとは!
っていうか、ハールが父親として、母親はいるのか?
家に帰った時に、母親らしき女性はいなかった。
アーシュも、ただいまを言うために、母親を探すこともなかったし。
あのハールの奥さんで、このアーシュのお母さんなんだから、そりゃ~美人だろうとちょっと期待していたんだけどな。
何処かへ出かけているのかな。
夜の狩りへと出かけたアーシュは、光の玉で灯りを確保しながら歩く。
まるで見つかりやすいように、獲物はここにいますよと言わんばかりに。
単独で灯りを持ちながら、この世界を歩くのは無謀なことだ。
でもアーシュは自信があるのだろう。
俺という紫電魔刀を得て、自信を持った。
そして調子に乗ってしまった。
アーシュは強かった。
敵を倒していった。
光に集まる敵を、次々に倒していった。
アーシュは単独での狩りは初めてなのか?
すごい興奮状態だ。
俺はちょっと心配になっていた。
ここの土地勘なんてまだ俺にはない。
もうここが、里からどれほど離れているのか分からないのだ。
それでもアーシュのこの興奮状態を見ると、とても冷静に狩場を選べているとは思えない。
そして、それは的中してしまった。
アーシュがその気配に気づいた時、アーシュは既にそれの間合いに入ってしまっていた。
感じた殺気の先にいたのは……ハイオークロードだった。
ただのオークロードじゃない。
こいつはハイオークロードだ。
散々見てきたから俺には分かる。
アーシュは、こんなオーク見たことないのだろう。
襲ってくるオークの動きの速さ、力強さ、そして強靭な肉体に驚いている。
スピードではアーシュに分があるものの、その他の部分でダメだ。
アーシュは押されている。
こいつは俺を取り返しにきたのか?
ハールは俺を持って、里までかなりの距離を移動したはずだ。
それともアーシュが里からかなり離れたところまで来てしまったのか?
とにかくヤバイ。
ここまでくる間に、レベルは2あがっている。
最近はレベルが3上がって、SP3貯まると同時に基本3セットを上げていたので、たまたまSPが2余っていた。
このSPで何かスキルを取るべきだ。
刀術?
雷魔法?
いや、その2つはどれもだめだろう。
レベル2程度では、俺が干渉するより、そもそもアーシュが自分で使った方が強い。
ならば、このスキルだろう!
「電光石火を取得しました」
スキルの電光石火をレベル2にする。
俺はアーシュの意識を阻害しないように、慎重にタイミングを見て、電光石火を発動した。
まるで雷が落ちたような爆発音と共に、アーシュが駆け抜けた。
え?……なに?
すんげ~~~~~速いんだけど!
いや、本当に雷なんだけど!
アーシュの身体を紫電が帯びている。
紫色の綺麗の雷を、アーシュの身体を龍が駆け巡るように身に纏い、美しい一筋の雷へとアーシュを変えていった。
俺の紫電魔刀と同じだ。
俺から流れる魔力と発動した電光石火を感じて、アーシュのイメージによって作られた力なのか。
アーシュは俺を驚愕の目で見た後、嬉しそうに見つめてくれた。
電光石火で爆発的なスピードを得たアーシュではあったが、
形勢逆転!……とまではいかなかった。
雷となったアーシュを、オークは捉えることは出来ない。
出来ないのだが、アーシュもオークを倒せない。
理由はパワー不足と、電光石火をまだ使いこなせない。
アーシュ自身が、この電光石火の圧倒的なスピードを制御出来ていないのだ。
四苦八苦しながら、オークに斬りかかるのだが、もともとパワー不足な上に、制御出来ないスピードの中にいて狙いが的確でなくなってる。
とは言え、もはやオークに捕まることはない。
倒せなければ、このまま撤退すればいいだけだ。
俺は安心していた。
調子に乗ったアーシュが、こんなオークに捕われて、もしも慰め者にでもなったら……今日出会ったばかりとはいえ、こんなにも可愛い男装麗人が、そんなことになったと考えただけで吐き気がする。
だから電光石火で圧倒的なスピードを手に入れたアーシュに安心していたのだ。
オークが逃げ出した。
倒せないと思ったのだろう、森の奥へと逃げ出した。
アーシュがそれを追う、勝気な性格だな。
無理しないで俺達も撤退でいいじゃないかと思っていたら、アーシュの動きが止まった。
ん? やっぱり撤退するのか?
あれ? どうした? なんでずっと止まっている?
こんな森の中で、止まったままなんて狙われるぞ?
アーシュは止まっていたんじゃない。
止められていたのだ。
それは蜘蛛の糸のように透明な糸だった。
蝶々を捕まえるための小さな糸の罠ではなく、人間を捕まえられるほどの巨大な糸の罠だったけど。
ステータス
紫電魔刀の木の棒
状態:アーシュの紫電魔刀の木の棒
レベル:17
SP:0
スキル
闘気:レベル5
魔力:レベル5
属性:レベル5
電光石火:レベル2
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