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伝説の木の棒 後編 作者:木の棒

第2章 3人娘

第9話 調子に乗ると

 狩りを終え、里に戻ってきたアーシュは上機嫌だった。
 アーシュはすぐに父親?のハールの元へ。

 俺を見せて興奮状態で喋っていった。
 そんなアーシュを見るハールの目は優しくも、面白い話を聞いて喜ぶ子供のようにも見えた。

 紫電魔刀になった俺を見たハールとリンランディア。
 2人はちょっと真面目な雰囲気で話し始めた。

 ハールがアーシュの頭を撫でると、アーシュは笑顔でその部屋を去る。
 ベニちゃんとラミアとは、里に戻ってきたところで別れている。
 きっと自分の家に帰ったのだろう。

 アーシュも俺を持って、自分の家に帰り部屋に入る。


 俺は感動した。
 アーシュの部屋に入った俺は感動した。

 なぜなら……乙女だね!
 アーシュさん乙女ですね!

 そんな男装麗人だから、無駄な物が何一つないサッパリした部屋を想像していたけど、超乙女じゃないですか!

 色合いも白とピンクが多い。
 可愛い小物系もいっぱい置いてあるし、人形とかもある!

 ベットなんて天蓋付きですよ!

 しばらく部屋で紅茶を飲んだりして、今日の出来事を思い出すかのように笑うアーシュ。
 時々、俺をクルクルしたり、指に乗せてバランス取ったりしているけど。

 そして、アーシュは俺をテーブルに置くと、着替えを持って部屋を出て行こうとする。

 お風呂かな?
 む~~~、棒を持ってお風呂に入る理由ってない?

 ないか……本当にない? …………ないな。
 まったくもって理由がない!!

 俺はちょっと残念な気持ちで、アーシュの帰りを待った。
 どんな着替えで、どんな服で帰ってくるのかを楽しみにしながら。

 お風呂に入って濡れた髪で戻ってきたアーシュは可愛かった。
 しかも部屋着はワンピース、ミニスカタイプの!


 乙女ですね~アーシュさん乙女ですね!


 一瞬見えたクローゼットの中にある服のほとんどは、可愛い系の服ばかりだった。

 可愛い系が好きなら、どうしてあんな男装麗人のような服を普段着ているんだろう。

 ハールの影響か?
 それとも、ハールのように強くなりたいという願望の表れか。


 お風呂から戻ってきても、アーシュは今日の狩りを思い出しているのか、ちょっと興奮状態だ。
 俺を自分の部屋で振ってみたりしている。

 俺は優しい魔力をアーシュに流してあげた。
 すると、アーシュは俺からの魔力を感じて嬉しそうだ。

「お前も私と一緒に戦えて嬉しいんだな!」っという道具目線で見られてることは間違いないけどな。

 なぜなら、アーシュは俺を持ってまたクルクル回したり、バランス取ったりして遊んでいるのだ。

 ところが、俺から魔力を感じて興奮してしまったアーシュは……、

 なんとその場で、あの黒の軍服に着替え始めてしまった。



 アーシュは、白だった。



 さて、戦闘服に再び着替えたアーシュは、1人で狩りに行くようだ。

 この暗黒の世界に昼と夜という概念はないと思うが、眠る時間があることを考えれば、生きていく上での昼と夜はあるはずだ。
 そして、今はその概念からいえば夜だろう。

 こんな時間に娘が1人で外に出かけるというのに、止める父親も母親もいないとは!

 っていうか、ハールが父親として、母親はいるのか?
 家に帰った時に、母親らしき女性はいなかった。
 アーシュも、ただいまを言うために、母親を探すこともなかったし。

 あのハールの奥さんで、このアーシュのお母さんなんだから、そりゃ~美人だろうとちょっと期待していたんだけどな。
 何処かへ出かけているのかな。

 夜の狩りへと出かけたアーシュは、光の玉で灯りを確保しながら歩く。
 まるで見つかりやすいように、獲物はここにいますよと言わんばかりに。

 単独で灯りを持ちながら、この世界を歩くのは無謀なことだ。
 でもアーシュは自信があるのだろう。

 俺という紫電魔刀を得て、自信を持った。
 そして調子に乗ってしまった。



 アーシュは強かった。
 敵を倒していった。

 光に集まる敵を、次々に倒していった。
 アーシュは単独での狩りは初めてなのか?
 すごい興奮状態だ。

 俺はちょっと心配になっていた。
 ここの土地勘なんてまだ俺にはない。
 もうここが、里からどれほど離れているのか分からないのだ。

 それでもアーシュのこの興奮状態を見ると、とても冷静に狩場を選べているとは思えない。
 そして、それは的中してしまった。



 アーシュがその気配に気づいた時、アーシュは既にそれの間合いに入ってしまっていた。

 感じた殺気の先にいたのは……ハイオークロードだった。


 ただのオークロードじゃない。
 こいつはハイオークロードだ。
 散々見てきたから俺には分かる。

 アーシュは、こんなオーク見たことないのだろう。
 襲ってくるオークの動きの速さ、力強さ、そして強靭な肉体に驚いている。

 スピードではアーシュに分があるものの、その他の部分でダメだ。
 アーシュは押されている。


 こいつは俺を取り返しにきたのか?
 ハールは俺を持って、里までかなりの距離を移動したはずだ。

 それともアーシュが里からかなり離れたところまで来てしまったのか?
 とにかくヤバイ。

 ここまでくる間に、レベルは2あがっている。
 最近はレベルが3上がって、SP3貯まると同時に基本3セットを上げていたので、たまたまSPが2余っていた。

 このSPで何かスキルを取るべきだ。

 刀術?
 雷魔法?

 いや、その2つはどれもだめだろう。
 レベル2程度では、俺が干渉するより、そもそもアーシュが自分で使った方が強い。

 ならば、このスキルだろう!


「電光石火を取得しました」


 スキルの電光石火をレベル2にする。
 俺はアーシュの意識を阻害しないように、慎重にタイミングを見て、電光石火を発動した。


 まるで雷が落ちたような爆発音と共に、アーシュが駆け抜けた。


 え?……なに?
 すんげ~~~~~速いんだけど!

 いや、本当に雷なんだけど!
 アーシュの身体を紫電が帯びている。

 紫色の綺麗の雷を、アーシュの身体を龍が駆け巡るように身に纏い、美しい一筋の雷へとアーシュを変えていった。

 俺の紫電魔刀と同じだ。
 俺から流れる魔力と発動した電光石火を感じて、アーシュのイメージによって作られた力なのか。

 アーシュは俺を驚愕の目で見た後、嬉しそうに見つめてくれた。

 電光石火で爆発的なスピードを得たアーシュではあったが、
 形勢逆転!……とまではいかなかった。

 雷となったアーシュを、オークは捉えることは出来ない。

 出来ないのだが、アーシュもオークを倒せない。
 理由はパワー不足と、電光石火をまだ使いこなせない。

 アーシュ自身が、この電光石火の圧倒的なスピードを制御出来ていないのだ。

 四苦八苦しながら、オークに斬りかかるのだが、もともとパワー不足な上に、制御出来ないスピードの中にいて狙いが的確でなくなってる。

 とは言え、もはやオークに捕まることはない。
 倒せなければ、このまま撤退すればいいだけだ。


 俺は安心していた。

 調子に乗ったアーシュが、こんなオークに捕われて、もしも慰め者にでもなったら……今日出会ったばかりとはいえ、こんなにも可愛い男装麗人が、そんなことになったと考えただけで吐き気がする。

 だから電光石火で圧倒的なスピードを手に入れたアーシュに安心していたのだ。



 オークが逃げ出した。
 倒せないと思ったのだろう、森の奥へと逃げ出した。

 アーシュがそれを追う、勝気な性格だな。
 無理しないで俺達も撤退でいいじゃないかと思っていたら、アーシュの動きが止まった。


 ん? やっぱり撤退するのか?
 あれ? どうした? なんでずっと止まっている?
 こんな森の中で、止まったままなんて狙われるぞ?


 アーシュは止まっていたんじゃない。
 止められていたのだ。

 それは蜘蛛の糸のように透明な糸だった。
 蝶々を捕まえるための小さな糸の罠ではなく、人間を捕まえられるほどの巨大な糸の罠だったけど。





ステータス
紫電魔刀の木の棒
状態:アーシュの紫電魔刀の木の棒
レベル:17
SP:0
スキル
闘気:レベル5
魔力:レベル5
属性:レベル5
電光石火:レベル2
+注意+
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