第6話 2人の男
男は、進化するオーク達の情報を、カラスから聞いて知った。
その男はカラスを使役し、この地下世界の情報を集めている。
8本脚の軍馬に跨り、オーク達がよく目撃されるという場所に走り出した。
男の顔は楽しそうだ。
戦いにいくことが楽しくて仕方ない。
そんな顔だった。
事実、この男は戦うために生きている。
戦神。
この男が持つ名の1つである。
男がそれを見つけた時、すぐには襲いかからなかった。
カラスから聞いていたよりも、ずっと弱いオークが“それ”を持っていたからだ。
棒を持ったオークが暴れている。
オークキングが誕生して、さらにハイオークキングに進化した。
それが、カラスが持ち帰った情報だったのだ。
棒は確かに持っている。
だが、オークキングではない。
観察していくと、その棒から力を感じる。
戦神である自分ですら見たことのない力。
オークはどうでもよくなった。
なんだ、この棒は?
闇に溶け込みそうな黒色の木の棒。
男の興味は棒に注がれた。
さらにしばらく観察した時だ、棒から魔力が練り込まれた力を感じ、棒は剣へと姿を変えた。
「おお~」
男は思わず声をあげた。
棒が剣になる……聞いたことがない。
いったいどういう能力なんだ?
そして、どうしてこの弱いオークが持っている?
いや、弱いオークを育てているのか。
この棒はオークを育てるものなのか?
男は気配を消して、オークに近づく。
近づけば近づくほど、棒から感じる力の根源が見えてくる。
そして、その隻眼で棒の奥底を見ようとした時、男の隻眼に痛みが走る。
男の表情は急に冷めた表情になった。
棒に興味を失ったのか?
いや、違う。
棒から感じたある何かが、男の興奮を冷静なものへと変えたのだ。
それは興味を失うどころか、このオークを泳がせてオーク達の巣を見つけるよりも、今この棒を手に入れるという行動を男に起こさせた。
男は、オークと棒の前に姿を現した。
その男はオークロードを一瞬で倒すと、つまらなそうな顔をしていた。
そして地に転がる俺を見下ろす。
俺を拾い上げると、ぽんぽんと俺で軽く己の手を叩く。
俺をじっと見つめて、俺の中を覗いているようだ。
その男の背後から声がした。
振り返るとそこには、
少しだけ長めの蒼い髪
知性溢れる端正な顔立ち
長い耳
美しい白い肌
動きやすいレザーアーマーで身を包み
その背中から氷の羽が生え、
まるで風と水を纏ったような弓を持つ男が空から降りてきた。
一度に2人も完全な人型に会えるとは。
ゴブリンやオークばっかり見てきた俺にとって、その男2人は、本当に久しぶりに見る顔も身体も人間だったのだ。
メチャメチャ強そうだし、氷の羽生えたりしてるけど。
二人は仲良さそうに話し合う。
どうやら仲間のようだ。
白銀髪は俺を、蒼髪に見せる。
蒼髪は難しい顔で俺を見つめている。
しばらくその場で話し込む2人。
ひょうひょうとした調子で話している。
白銀髪の男の方が軽い感じに見える。
蒼髪の男は、気を張った様子はないが、慎重に物事を考えるタイプに見える。
2人が話していると、オーク達が囲ってきた。
2人に気付かれないように、360度ぐるりと、2人を囲むようにだ。
俺を持ったオークが倒された音に反応してやってきたのか?
それなりの数がやってきている。
気付いてないのか? この2人かなりの手練れに見えるが。
どんどん囲まれていくのを、まるで無視するかのように、俺について話し合っている。
オークロードも数匹きてる。
おい、いいのか? 襲ってくるぞ?
オークロードの合図と共に、2人に一斉に襲いかかるオーク達。
2人はオーク達を見ても、焦る様子は無い。
白銀髪は、オークロードを見ても興味無さそうだ。
蒼髪は、やれやれといった感じで、手に持つ弓を引く。
それは一瞬だった。
彼らが必要とした時間は、まさに一瞬でよかったのだ。
襲ってきたオーク達は全滅した。
オークロードは、白銀髪に消滅させられた。
蒼髪が放った弓は、嵐となりオーク達を襲った。
かろうじて残ったオーク達を、白銀髪が雷で黒焦げにした。
何なんだ。
何なんだこの2人は?!
見た瞬間に強いとは思っていたよ。
でも、なんていう強さなんだ。
今の俺ではこの2人の強さを測ることすら出来ない。
2人は本気の一部だって見せていない。
オーク達を蹂躙した2人、白銀髪の男が、オーク達が向かってきた方角を指さす。
それを見た蒼髪が、白銀髪をなだめるように止めている?
白銀髪は、あからさまに不機嫌な顔をする。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
どちらも30歳前後のように見えるが……蒼髪のあの長い耳。
彼はエルフなのだろうか?
白銀髪の方も、エルフと言われればそう思えるのだが、耳はそんなに長くない。
いや、ちょっとだけ長いか?普通の人間に比べると。
そもそも地下世界で生きている人間なんていないはずだから、彼もエルフと考えるべきなのだろう。
白銀髪の男は仕方ないと言わんばかりに肩をすくめて、俺を持ったまま、八本脚の軍馬で走り出す。
蒼髪の男は、その背中に生えた氷の羽を広げて、空を飛び彼を追ってくる。
信じられないスピードで駆け抜けていく2人。
俺はあっという間に見知らぬ土地へと連れていかれた。
駆け抜ける2人が話す。
「期待していた俺が馬鹿だったな~。所詮、豚は豚か。」
「卿の相手になる悪魔が、こんなところにいるとは本気で思っていまい」
「ははっ! それもそうだな! それで~これをどう見る?」
「さぁな……私が判断できるような代物とは思えない。卿は何か分かっているのではないのか?」
「う~~~ん、匂うね」
「匂う?」
「ああ……あいつの匂いがぷんぷんする!」
「まさか……あいつとは?!」
「サタンだ。この木にはサタンの匂いが残ってる。その匂いの臭さで、目が痛んだ」
「では、この木はサタンのものだと?」
「う~~~~~ん、そこが俺もいまいち確信が持てないんだよな。確かにサタンの匂いはするが、この棒そのものはもっと別な、何か別な意思が宿っているように思える」
「意思? その棒に意思があると卿は申すのか?」
「ま~意思みたいなもんってところだな。正直俺も分からね~」
「ふ~む。オークの急激な進化と増殖の情報を、卿のカラスが持ち帰ってきて来てみたが、この棒が関係していると卿はさきほど申したな。つまりその意思がオーク達を進化させていたと?」
「この棒がそれを望んでいたのか知らんが、この棒が関係していることは間違いないな」
「オークキング……しかもハイオークキングが誕生したという情報だが、この棒にそれほどまでの力が」
「俺としては戦える相手がいれば何だっていいんだけどさ! ま~この棒は持ち帰って調べてみるか。ちなみに、この棒は聖樹王で作られてるな」
「聖樹王から? 聖樹の木ではなく、聖樹王そのものからだと?」
「ああ、間違いないな。サタンなら聖樹王を切ることだって出来るはずだ」
2人の間に沈黙が流れる。
「帰ったらアーシュにこの棒を与えてみるか! なんか面白いことが起こりそうだしな!」
「卿はそうやってすぐに面白いことと言って、軽はずみなことをする」
「大丈夫だって! オーク達を進化させた棒だ。アーシュにも力をもたらすかもしれないだろ?」
「その棒で得られる進化が、その者にとってどんな影響を及ぼすか分からないのだぞ?」
「いいじゃね~の! 何があったって、俺達がいれば問題ないだろ」
「まったく……卿は、名前は変わっても、性格は変わらないな。この暗黒の世界でも、天界でも。」
瞬く間に駆け抜けていった2人の目には……1つの里が見えてきた。
そこはこの暗黒の世界で、「雷帝」のもとに身を寄せて暮らしている者達の里であった。
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