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伝説の木の棒 後編 作者:木の棒

第1章 暗黒の世界

第6話 2人の男

 男は、進化するオーク達の情報を、カラスから聞いて知った。
 その男はカラスを使役し、この地下世界の情報を集めている。

 8本脚の軍馬に跨り、オーク達がよく目撃されるという場所に走り出した。

 男の顔は楽しそうだ。
 戦いにいくことが楽しくて仕方ない。

 そんな顔だった。
 事実、この男は戦うために生きている。

 戦神。

 この男が持つ名の1つである。

 男がそれを見つけた時、すぐには襲いかからなかった。
 カラスから聞いていたよりも、ずっと弱いオークが“それ”を持っていたからだ。

 棒を持ったオークが暴れている。
 オークキングが誕生して、さらにハイオークキングに進化した。

 それが、カラスが持ち帰った情報だったのだ。

 棒は確かに持っている。
 だが、オークキングではない。

 観察していくと、その棒から力を感じる。
 戦神である自分ですら見たことのない力。
 オークはどうでもよくなった。

 なんだ、この棒は?

 闇に溶け込みそうな黒色の木の棒。
 男の興味は棒に注がれた。

 さらにしばらく観察した時だ、棒から魔力が練り込まれた力を感じ、棒は剣へと姿を変えた。


「おお~」


 男は思わず声をあげた。
 棒が剣になる……聞いたことがない。

 いったいどういう能力なんだ?
 そして、どうしてこの弱いオークが持っている?

 いや、弱いオークを育てているのか。
 この棒はオークを育てるものなのか?

 男は気配を消して、オークに近づく。

 近づけば近づくほど、棒から感じる力の根源が見えてくる。
 そして、その隻眼で棒の奥底を見ようとした時、男の隻眼に痛みが走る。


 男の表情は急に冷めた表情になった。
 棒に興味を失ったのか?

 いや、違う。

 棒から感じたある何かが、男の興奮を冷静なものへと変えたのだ。
 それは興味を失うどころか、このオークを泳がせてオーク達の巣を見つけるよりも、今この棒を手に入れるという行動を男に起こさせた。

 男は、オークと棒の前に姿を現した。






 その男はオークロードを一瞬で倒すと、つまらなそうな顔をしていた。

 そして地に転がる俺を見下ろす。
 俺を拾い上げると、ぽんぽんと俺で軽く己の手を叩く。

 俺をじっと見つめて、俺の中を覗いているようだ。


 その男の背後から声がした。

 振り返るとそこには、




 少しだけ長めの蒼い髪

 知性溢れる端正な顔立ち

 長い耳

 美しい白い肌

 動きやすいレザーアーマーで身を包み

 その背中から氷の羽が生え、

 まるで風と水を纏ったような弓を持つ男が空から降りてきた。


 一度に2人も完全な人型に会えるとは。
 ゴブリンやオークばっかり見てきた俺にとって、その男2人は、本当に久しぶりに見る顔も身体も人間だったのだ。

 メチャメチャ強そうだし、氷の羽生えたりしてるけど。


 二人は仲良さそうに話し合う。
 どうやら仲間のようだ。

 白銀髪は俺を、蒼髪に見せる。
 蒼髪は難しい顔で俺を見つめている。


 しばらくその場で話し込む2人。
 ひょうひょうとした調子で話している。
 白銀髪の男の方が軽い感じに見える。
 蒼髪の男は、気を張った様子はないが、慎重に物事を考えるタイプに見える。


 2人が話していると、オーク達が囲ってきた。
 2人に気付かれないように、360度ぐるりと、2人を囲むようにだ。

 俺を持ったオークが倒された音に反応してやってきたのか?
 それなりの数がやってきている。

 気付いてないのか? この2人かなりの手練れに見えるが。
 どんどん囲まれていくのを、まるで無視するかのように、俺について話し合っている。

 オークロードも数匹きてる。
 おい、いいのか? 襲ってくるぞ?


 オークロードの合図と共に、2人に一斉に襲いかかるオーク達。
 2人はオーク達を見ても、焦る様子は無い。

 白銀髪は、オークロードを見ても興味無さそうだ。
 蒼髪は、やれやれといった感じで、手に持つ弓を引く。


 それは一瞬だった。

 彼らが必要とした時間は、まさに一瞬でよかったのだ。
 襲ってきたオーク達は全滅した。


 オークロードは、白銀髪に消滅させられた。
 蒼髪が放った弓は、嵐となりオーク達を襲った。
 かろうじて残ったオーク達を、白銀髪が雷で黒焦げにした。


 何なんだ。

 何なんだこの2人は?!

 見た瞬間に強いとは思っていたよ。
 でも、なんていう強さなんだ。

 今の俺ではこの2人の強さを測ることすら出来ない。
 2人は本気の一部だって見せていない。


 オーク達を蹂躙した2人、白銀髪の男が、オーク達が向かってきた方角を指さす。
 それを見た蒼髪が、白銀髪をなだめるように止めている?

 白銀髪は、あからさまに不機嫌な顔をする。
 まるで駄々をこねる子供のようだ。

 どちらも30歳前後のように見えるが……蒼髪のあの長い耳。
 彼はエルフなのだろうか?

 白銀髪の方も、エルフと言われればそう思えるのだが、耳はそんなに長くない。
 いや、ちょっとだけ長いか?普通の人間に比べると。
 そもそも地下世界で生きている人間なんていないはずだから、彼もエルフと考えるべきなのだろう。

 白銀髪の男は仕方ないと言わんばかりに肩をすくめて、俺を持ったまま、八本脚の軍馬で走り出す。
 蒼髪の男は、その背中に生えた氷の羽を広げて、空を飛び彼を追ってくる。
 信じられないスピードで駆け抜けていく2人。



 俺はあっという間に見知らぬ土地へと連れていかれた。








 駆け抜ける2人が話す。



「期待していた俺が馬鹿だったな~。所詮、豚は豚か。」

「卿の相手になる悪魔が、こんなところにいるとは本気で思っていまい」

「ははっ! それもそうだな! それで~これをどう見る?」

「さぁな……私が判断できるような代物とは思えない。卿は何か分かっているのではないのか?」

「う~~~ん、匂うね」

「匂う?」

「ああ……あいつの匂いがぷんぷんする!」

「まさか……あいつとは?!」

「サタンだ。この木にはサタンの匂いが残ってる。その匂いの臭さで、目が痛んだ」

「では、この木はサタンのものだと?」

「う~~~~~ん、そこが俺もいまいち確信が持てないんだよな。確かにサタンの匂いはするが、この棒そのものはもっと別な、何か別な意思が宿っているように思える」

「意思? その棒に意思があると卿は申すのか?」

「ま~意思みたいなもんってところだな。正直俺も分からね~」

「ふ~む。オークの急激な進化と増殖の情報を、卿のカラスが持ち帰ってきて来てみたが、この棒が関係していると卿はさきほど申したな。つまりその意思がオーク達を進化させていたと?」

「この棒がそれを望んでいたのか知らんが、この棒が関係していることは間違いないな」

「オークキング……しかもハイオークキングが誕生したという情報だが、この棒にそれほどまでの力が」

「俺としては戦える相手がいれば何だっていいんだけどさ! ま~この棒は持ち帰って調べてみるか。ちなみに、この棒は聖樹王で作られてるな」

「聖樹王から? 聖樹の木ではなく、聖樹王そのものからだと?」

「ああ、間違いないな。サタンなら聖樹王を切ることだって出来るはずだ」


 2人の間に沈黙が流れる。


「帰ったらアーシュにこの棒を与えてみるか! なんか面白いことが起こりそうだしな!」

「卿はそうやってすぐに面白いことと言って、軽はずみなことをする」

「大丈夫だって! オーク達を進化させた棒だ。アーシュにも力をもたらすかもしれないだろ?」

「その棒で得られる進化が、その者にとってどんな影響を及ぼすか分からないのだぞ?」

「いいじゃね~の! 何があったって、俺達がいれば問題ないだろ」

「まったく……卿は、名前は変わっても、性格は変わらないな。この暗黒の世界でも、天界でも。」







 瞬く間に駆け抜けていった2人の目には……1つの里が見えてきた。

 そこはこの暗黒の世界で、「雷帝」のもとに身を寄せて暮らしている者達の里であった。
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