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伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

最終章 そして伝説へ

最終話 トイレ

 「では…部長にそう伝えておきます」

 俺はおっさん課長の相手を切り上げた。
 なぜなら、いま俺には重大な問題が起きているのだ。

 俺はトイレに駆け込む。
 本日5回目のトイレです。

 そう俺は昨日食べた牡蠣に当たってしまったのだ。





 聖魔法サンクチュアリ。


 ニニと王子が唱えた後…俺は意識を失った。
 そして目覚めた時…俺はあの公園の水飲み場の前で倒れていた。

 深夜2時…でもコンビニで温めた弁当は温かいままだった。




 あれは…夢だったんだろうか?

 あの出来事から半年後…俺は毎日あの小さな公園を通って帰っていった。
 出来るだけ、あの時と同じ時間に。
 あの時と同じコンビニで、同じ弁当を買って。

 ま~その弁当が牡蠣ご飯弁当で、いま俺をトイレに誘う原因なんだけどね。

 その日も公園を通って帰ろうとしたら…そこは工事中となっていた。

 え?…工事?

 俺はすぐに黄色いヘルメットを被ったおっさんに聞いた。


 もともとこの公園を使う人なんて、ほとんどいないとは思っていた。
 近くに、大きくて設備の整った公園が新しく出来たのが3年前。
 この公園の役目は終わっていたのだ。


 工事はマンション建設だった。
 完成は3年後らしい。

 俺の顔がよほど気になったのだろう。
 工事のおっさんが俺に聞いてきた。

 「思い出の公園だったのかい?」

 「ええ…とても…大切な…」

 それだけ言って、俺は迂回して自宅に帰っていった。


 今はあの公園でのマンション建設が始まってさらに半年が経過している。


 俺は本日8回目のトイレを終えると、業務を終えて会社を出た。

 いつもの時間だ。
 例えあの公園が無くても…もうこれは俺の習慣になっていた。

 そしていつものコンビニに入る。
 入るが…さすがに昨日当たったばかりの牡蠣弁当を買う勇気は無かった。

 俺は消化に良さそうな、ざるうどんにしておいた。

 真っ直ぐ帰るなら寄る必要のない工事現場に必ず寄ってから帰る。
 これも俺の習慣の1つだ。





 甘かった。
 俺は自分の考えがいかに甘いかを、いま思い知っている。


 本日12回目のトイレ。
 誰だ!消化に良いざるうどんにしたのは!

 消化がいいから、食べたらすぐにきちゃったじゃないか!!!

 まったく!


 俺は手を洗うとタオルで拭き…情報雑誌を手に取る。

 その情報雑誌には様々なクエストが載っていた。
 まったくどれもこれも…素晴らしいクエストばかりだ。
 こんなターゲットが本当にいるのか?と疑ってしまいそうな自分がいる。


 クエスト一覧を半分ほど読んだ時だ。

 あれ?…トイレから音が聞こえる。
 水が流れる音か…何回もトイレ使いすぎて、水回りが壊れたのか?

 俺は情報雑誌を握りしめたまま、トイレのドアを開けた。



 トイレから水が溢れていた。

 壊れたわけじゃない。

 ああ…お前は壊れてない。

 わかるよ…連れていってくれるんだろ?

 さっき12回目終えたばかりで臭うけど、そんなの関係ないさ。

 便器を舐めろというなら舐めるぞ?

 連れていってくれ。

 あの場所に。

 みんながいるあの場所に。



 トイレから溢れる水は…やがて大きな水の塊となり…俺を飲み込んだ。

 俺はそれを受け入れて意識を手放した。

 だが…情報雑誌を手放した感覚は無かった。







 意識が戻る。
 身体が冷たい…水の中にいるようだ。


 ああ…来れたのか…俺はまた来れたんだよな?

 違う世界…はやめてくれよ。

 俺を待っている…みんなが待っているんだから。


 川を流れる俺を掴む手は…綺麗な緑色だった。
 そして、緑色の手は俺を掴むと一緒に、俺に引っかかっていた雑誌も掴んだ。
 その雑誌は水に濡れてしまったが…数枚のクエストは確認出来るだろう。


 俺を掴んだ緑色は嬉しそうにしている。





 ああ…またここからか。

 いいぜ…もう1度だ。
 俺はもう1度…みんなの元へ…絶対に辿り着く!!!


 緑色は俺と情報誌を手に持ち、喜びのダンスを踊りながら叫んだ。


「ゴブッ♡」
読んで下さった全ての読者様へ

ありがとうございます。


本編は終わりですが、後日もう1話だけ書く予定です。
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