第49話 伝説の木の棒
カーン…カーン…カーン
祝福の鐘がなる。
王族の結婚式にだけ使われる「聖なる間」
いまそこで…2組の結婚式が行われている。
1組は…ちょっと渋めの顔の騎士の新郎と、白く美しい騎士の新婦。
もう1組は…ちょっと頼りなさそうな青年の新郎と、天使のような可愛い少女の新婦。
2組を見つめる女王は満面の笑みを浮かべている。
その手には…聖樹が握られている。
2組は愛を誓い合う。
男性が女性のウェディングドレスのヴェールを上げて…愛の口づけをする。
参列した人々が歓声をあげる。
この世界で最も祝福された結婚式だ。
英雄達の結婚式なのだから。
聖魔法サンクチュアリ。
その光が世界を包んだ後…蠅の悪魔は消えていた。
そこに存在していなかったように。
奇跡は続いた。
悪魔との戦いで死んだ者が生き返った。
形を残さずに消滅してしまった者は生き返らなかったが、ほとんど者達が生き返った。
しかも…全ての傷を癒して。
地下世界に残された騎士達も…意識が戻った時には塞いだ穴のこちら側で全員生き返っていた。
世界の全ての人々から祝福される新郎新婦。
白く美しい女性は、照れながら歩く渋い顔の男性の腕に、その胸を押しつける。
男性は女性のその柔らかい2つの胸の感触で、さらに照れているが嬉しそうだ。
天使のような可愛い少女は…青年を優しく見つめる。
青年は頼りなく見える自分を変えようと心に誓っている。
笑顔に包まれた披露宴は終わらない。
夜が更けても…光の玉を浮かべて…人々は歓喜の宴を続ける。
宴から一足先に自分の部屋に戻ってきた女王。
彼女の手には聖樹が握られている。
(いっちゃん…)
聖樹が彼女に応えることは無い。
彼女の目から涙が零れる。
「ティア様…」
女王は自分の部屋に幼馴染が入ってきたことすら気づけなかった。
「マリア…披露宴はもういいのか?」
女王は零れ落ちる涙を拭きながら話す…何度拭いても…涙は止まらないのに。
「はい…さすがに王子とニニはお疲れのご様子です。シュバルツとミリアは、まだみんなと騒いでいますよ。」
「そうか…王子はさっそくニニの尻に敷かれそうだな」
無理に笑顔を作って笑う女王…マリアは女王の手に握られる聖樹を見つめる。
「聖樹様は…やはり応えてくださらないのですね」
「ああ…私の声に…なにも応えてくれない」
(いっちゃん…消えてしまったの?…それとも元の世界に戻れたの?…いっちゃんがこの世界を救ってくれたんだよ。 みんな…みんな無事なんだよ。 いっちゃん…バージンロード歩くんじゃなかったの? 伝えたいことがいっぱいだよ。 ニニとラインハルトちゃんは結婚したよ。 ミリアとシュバルツだって無事だったんだ。二人も結婚したんだよ。みんな幸せだよ…いっちゃんは…幸せになれたの?)
女王の問いに聖樹は何も応えない。
「いえ、そのですから…接待の食事会の帰りのタクシーは交際費でして…その予算オーバーなんですよね」
「ふざけるな!接待は仕事なんだぞ!しかもタクシー代がなんで交際費なんだ!旅費の予算で片づけろ!」
(はぁ…食べることしか頭にないのかこのおっさん課長は…食べる欲望だけならあの蠅並みだな)
俺は経理マンとして、おっさん課長の相手をしていた。
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