第47話 聖樹の滴
俺が初めて剣を握ったのは2歳の誕生日だ。
父がふさげて俺に木剣を持たしたら、力いっぱい振り回して、家宝の壺を壊したんだとか。
物心ついた時には、剣と共に過ごす日々だった。
同年代で俺と打ち合える者はいなかった。
8歳で街一番の道場に入門した。
厳しい師匠だった。
特に俺に対しては、誰よりも厳しかった。
俺はそれが嬉しかった。
師匠は俺に期待している。
そう思うと、厳しい訓練も苦では無かった。
12歳の時には既に騎士団の入団試験に合格した。
実際に入団するのは成人する15歳からだけど。
14歳の時、師匠に言われて旅に出た。
この世界を見て感じてこいと。
俺は旅をしながら、行く先々で道場の門を叩いては、その道場最強の使い手と試合をした。
俺は1度も負けなかった。
その日は道端で試合となった。
俺の噂を聞いて決闘を申し込んできた奴がいたのだ。
俺は軽くそいつを打ちのめした。
野次馬達が歓声をあげて、やがて散っていく。
散っていく中…俺は1人の女性と目があった。
一目惚れだった。
俺は彼女のことを調べた。
彼女の名前はクリスティーナ。
どこにでもいる名前の…素敵な女性だった。
見た目よりも歳は高く、俺よりも4つ年上の18歳だった。
俺は旅をやめて…近くの宿で生活していった。
彼女のことが知りたい。
その想いは強くなるばかりだった。
騎士団に入団する15歳の月には戻らないといけない。
もう時間はほとんど無い。
俺は自分の気持ちを伝えようと決心して…彼女に会いにいった。
女性とほとんど話したことの無い俺は緊張していた。
緊張していて…彼女の家に近づいていくと、何故か隠れるように気配を消して近づいてしまった。
いかん…これではストーカーなる変態と俺は一緒じゃないか。
そう思いながらも、心では彼女に会えたら口にしようと思っていた愛の言葉を考える。
しかし、その言葉は俺の口から彼女に伝えることは無かった。
15歳の月より前に俺は師匠の元に戻った。
師匠は俺の成長を喜んでくれた。
騎士団に入ってすぐに、師匠の訃報が届いた。
師匠の娘さんが道場を継いだそうだ。
15歳で騎士団に入団。
25歳で第4騎士団の副団長に就任。
30歳で第1騎士団団長となり、同時に龍剣「黒炎」を授与された。
そして31歳の時、第零騎士団団長死亡により、緊急措置として俺が第零騎士団の団長兼務。
同時に…「聖樹の滴」が与えられた。
「聖樹の滴」
これが俺に与えられる…それは俺に対する罰だ。
女王は知っていたのか?…いやそれはどうでもいい。
あの日…俺の想いを伝えられなかったあの日。
俺は知ってしまった。
聖樹の滴の存在を。
俺はそのことを父にだけ話した。
父は当時、宰相の秘書をしていた。
この話を父にするのは正しい判断だと誰もが思うだろう。
俺はそんな自分を偽る建前で…父に話してしまった。
本当は違う。
俺は嫉妬していただけだ。
手に入れたかったものを奪われた。
いや…初めから俺のものなんかじゃなかったのに。
18歳の時…俺は父から絶対に秘密にすることを条件に…彼女がどうなったか聞いた。
俺の心はグチャグチャになった。
自分から逃げるように、俺は戦った。
悪魔と戦って、戦って、戦って…自分を正当化した。
いつしか、俺は世界最強騎士と言われるようになっていた。
聖樹の祝福を受けたお茶。
それを見た時…俺は何か大きなことが起こると予感した。
その少女を初めて見た時…俺は誰かに顔を見られていないかと焦った。
彼女だ…彼女の生き写しがいた。
そして悟った。
彼女の娘だと。
彼女自身も女王に保護されて城にいた。
彼女は俺に笑顔で挨拶をしてくれた。
「貴方が道端で戦っているかっこいい姿を見たことがあるんですよ」
彼女の言葉は何よりも俺の心を締め付けた。
俺は誓った。
ニニを護ると。
予感の通り…事は大きく動き出していた。
それでも…何があってもニニを護る。
悪魔が喋る。
かなり流暢な言葉だ。
知能の高さを伺える。
俺以外は…ダメだな。
動くことも出来ないだろう。
「はっ!お前もうまそうだな!」
俺は黒炎を構える。
聖樹の滴を飲んだ俺の身体は、あらゆる傷を瞬く間に修復する。
だが…不死身じゃない。
「ああ…ああっ!!! いいな! おまえいいな! すごくいいぞ! あはっ!あはっ! がまんできないな! ああっ!!! たべたいぃぃぃぃ!!!!!!!」
ミリア…お前はこの悪魔に立ち向かっただろう。
弟弟子でもあるお前は…その美しい剣を抜いただろう。
お前の気持ちに気付きながら…俺は何も言ってやれなかった。
醜い俺に、罪を償うことすら出来ない俺に…お前を抱きしめる権利は無い。
俺には戦うことしかできない。
簡単に殺せると思うなよ。
あの腹黒女王から、簡単に死ぬことは許されていないからな!!!!
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