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伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

最終章 そして伝説へ

第45話 白雪姫

 騎士。
 その言葉から連想されるのは基本的に男性である。

 では女性の騎士はいないのか?
 そうではない。
 女性の騎士も多い。
 美しい装飾がされた剣や鎧。
 美しい女性が着れば絵になり、それはまるで神話に出てくる天使にも見えるだろう。

 ただ…実戦に出る女性騎士は皆無だ。
 女性の騎士とは、飾りのようなものである。
 祭典や儀式の時にだけ必要とされる飾り。
 それが女性騎士だ。


 ただ1人を除いて…。


 彼女は貴族の娘として生まれた。
 ただ…彼女の誕生は必ずしも祝福されるものでは無かった。

 上級貴族の騎士が、部下である下級貴族の騎士の奥さんに手をだし…生まれたのが彼女だった。
 彼女は下級貴族の屋敷で育てられていた。
 しかし…母親からの愛情は受けられず…年老いた乳母が1人で世話をしていた。

 彼女が10歳になった時…乳母から屋敷を出ると言われた。
 拒否することなんて出来ないし、する必要もない。
 そこには最初から彼女の居場所なんて無かった。

 乳母と2人で小さな家で暮らし始めたが…生活は苦しかった。
 次第に家には…怖そうな男達が時々やってくるようになった。

 12歳の誕生日。
 雨が降っていた。
 乳母は彼女の手を取り、どこかへ歩き始めた。
 外食なんて屋敷を出てから1度も無かったのに?
 彼女は小さな期待と共に乳母に連れられるまま歩いた。
 着いたところは…剣の道場だった。
 道場の主は女性だった。

 乳母はその女性に何度も頭を下げて涙を流していた。
 そして彼女の手を取り、最後の言葉を伝えた。


 「強く生きなさい。」


 彼女は道場に預けられた。
 下働きと共に、剣を教えられた。

 道場の門下生はほとんどが男だ。
 彼女を、いやらしい目で見る門下生は多かった。
 そんな視線が…彼女は堪らなく嫌だった。

 幸いにも道場の主である師匠は善人だった。
 彼女に…恥ずべき行為を強要することは無かった。
 むしろ…男の門下生以上に厳しい訓練を彼女に課した。

 15歳で彼女は騎士団の門をたたく。
 入団試験では、女性としては過去最高の成績での合格。
 模擬試験では5人の男性と試合、うち2人には勝っている。


 器量良く生まれた彼女は、剣の腕もあって瞬く間に出世していく。
 しかし…出世していけばいくほど…剣から遠ざかっていく。
 彼女は悩んだ。


 騎士の仕事とは…剣を振ることでは無かったの?


 強く生きる。
 彼女を支える言葉。
 誰よりも強く…男にだって負けない。
 私は強くなりたい。

 彼女はわずか18歳で神聖騎士団の第3騎士団団長に選ばれる。
 神聖騎士団設立後、最年少での団長だった。

 でもそこは彼女が望む場所では無い。
 神聖騎士団とは…女性だけが所属するお飾りの騎士。


 当時、彼女と同じく最年少で「女王」となった人がいた。
 名をティアという。

 女王から神聖騎士団の団長を授与する。
 彼女は女王の前に膝をつき頭を下げる。
 女王は実用性の無い…綺麗な装飾を施された剣を彼女に渡す。

 彼女はそれを受け取り立ち上がると…発言の許可も無しに女王に話す。

 彼女はその場で鎧を脱ぎ…肌着さえも脱ぐ。
 美しい身体。
 男性だけではなく、女性が見てもきっとそう思うだろう。

 その美しい上半身に…受け取ったばかりの剣を向ける。

 女王もその様子を見て固まる。

 彼女はその場で…自らの左乳房を斬り落とした。



 彼女はその後、第4騎士団に配属される。
 女性初の…戦う騎士となった。

 当時、第4騎士団の副団長を務めていた男が団長に掛け合い、彼女の入団を許可させたらしい。
 男の名はシュバルツ。

 女を捨てた彼女だったが…出会った時には恋をしていた。
 彼を見るだけで、心がときめいた。

 彼はどんどん強くなっていった。
 彼のことをどんどん好きになっていった。

 でも彼に想いを伝えることは出来ない。
 彼には…想っている人がいるように見えたから。

 それに自分は片方の胸を失っている。
 こんな身体の女を抱くのはきっと嫌だろうと思った。

 彼女は強くなっていった。
 彼に置いていかれないように。
 彼への想いは全て剣に捧げた。

 22歳で第8騎士団の副団長となる。

 1年後の23歳で第8騎士団団長となり、同時に龍剣「白雪姫」を授与される。

 彼女は綺麗に装飾された鎧を好まなかった。
 好まなかったのだが…女王は彼女のために特別に実用性もあり、美しい鎧を用意した。
 そうさせて欲しい…女王は彼女に頭を下げた。


 24歳になり、ますます剣が冴える彼女に驚きの報告が入る。

 聖樹の祝福を受けたお茶。

 その作り手を迎えに行った時…このドアを開けたら…きっと何かが始まる。
 彼女はそう確信した。




 女王の言葉は「出来るだけ時間を稼ぐ」
 女王はあの時と同じく、彼女に謝罪の言葉を口にした。

 彼女が左乳房を斬り落とした時…女王は彼女を抱きしめた。
 女王のドレスは真っ赤な血に染まった。

 女王は自らの過ちに気付いた。
 この子が望んでいたことに気付いてあげられなかった。
 彼女を抱きしめる女王は…その耳元で一言…「すまない」と伝えた。



 発生した超大穴。

 そこで目にしたのは…全滅している賢老会直属軍。

 近づき状況を確認している時…穴からそれはやってきた。


 それは…彼女達を見つけると…嬉しそうに…とても嬉しそうに笑った。

 玩具を見つけた子供のように。
 おやつをもらえる子供のように。


 彼女以外の騎士は動くことすら出来なかった。
 その姿を見て…思考することすら出来なかった。

 彼女は龍剣「白雪姫」を抜く。

 時間を稼ぐことは無理だと分かっている。

 それでも彼女は駆けだす。

 自分が死のうとも…王子が、マリア様が、ニニが…。



 そして愛する彼が…この世界を救ってくれると信じて。



 彼女の白く美しい剣と鎧は真っ赤に染まった。
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