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伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

最終章 そして伝説へ

第43話 光もなく、闇もなく、命もなく

 その姿に恐怖しない人間などいない。
 恐怖から動きが止まったことを、いったい誰が責めることが出来るだろうか。

 刹那の時間…時間が止まった。
 ケルベロスはそれを逃すほど愚かでは無かった。

 全員の意識が戻った時…2人の騎士の身体に穴が開いていた。
 世界最強の防具…龍シリーズの防具に穴が開いていた。

 雄たけびをあげたのはシュバルツ。
 意識が戻っても、身体が動かない騎士達の中で彼だけが動いた。
 ケルベロスに斬りかかる。

 俺は…脚が動かない王子に干渉して炎魔法のイメージを伝える。
 しっかりしろ!シュバルツを見殺しにするな!

 王子のイメージが伝わってくる。
 シュバルツを狙うケルベロスの3つの頭…その目に炎魔法をぶち込む!

 呻き声をあげるケルベロスだが止まらない。
 鋭い爪が…シュバルツの身体に食い込んだ。
 爪が…お腹から背中に貫通してる。

 次の瞬間…動きが止まったのはケルベロスだ。
 シュバルツは刺さっている爪を無視するように、身体を強引に動かす。
 爪がめり込み…シュバルツの身体を半分切断するように、爪が引き抜かれた。

 俺も驚愕した。
 シュバルツが死ぬ…そう思った次の瞬間…シュバルツの身体は…信じられないことに自己修復していった。
 それも一瞬。
 一瞬でケルベロスの爪で切断された部分が接合され…シュバルツはケルベロスに斬りかかる。

 俺は状況を正確に認識出来ないでいた。
 なぜシュバルツは死ななかったのか分からない。
 分からないが、今それは重要じゃない。
 重要なのはシュバルツは生きていて戦っているということだ。

 王子、騎士、魔術師達が動く。
 一斉にケルベロスに斬りかかる。
 魔法が飛ぶ。


 シュバルツはケルベロスの正面を一手に引き受ける。
 どんなに身体を切り裂かれても…瞬く間に修復される。
 彼は…人間なのか? 人間では無い何かなのか?

 聖樹の滴を飲んだ。
 大ちゃんがシュバルツに言っていた言葉だ。
 それが何か関係していることは間違いない。

 今はシュバルツの不死身の身体に頼るしかない。
 王子は高速で移動しながら、ケルベロスに俺で斬りかかるが…。
 こいつ炎属性に耐性があるのか?
 今までのような爆発と共に砕けることがない。

 ニニだ…ニニの氷魔法が必要だ。
 ニニは氷魔法でケルベロスの脚を凍らせようとしている。

 俺は王子に魔力を送る。
 イメージするのは拒否。
 王子を拒否する。

 王子は一瞬動きが止まり、俺を見つめるが…再びケルベロスに斬りかかる。
 俺は炎の魔剣も解いている。
 ただの闘気を纏った木の棒になっている。
 それでも王子は止まらない。

 強くなった心が…いや、弱さを隠したい心が邪魔してるのか。
 またニニに頼ることを恥じているのか?

 だめだ…このままでは…。

 ニニ…ニニ…ニニ!!!!!!





 聖樹様から魔力が高まりました。
 あれは…私を呼んでいる?
 聖樹様が私を呼んでいる!!!

 「王子!!!!!!」

 私はありたっけの声で王子を呼びます。
 聖樹様を…私に!

 王子は苦悶の表情を浮かべて動きを止めてしまいます。
 シュバルツ様が王子に叫びます。
 王子はその声で我に返ると…私の元に一瞬で移動してきます。

 「ごめん…僕は愚か者だ」

 王子から聖樹様を受け取ります。

 「王子は愚か者ではありません。ここには愚か者なんていません。いるのは勇者だけです」

 私は見るだけでも脚が震えてしまう恐ろしい悪魔に、聖樹様を向けます。
 私はいつも聖樹様に助けてもらってばかり。
 私には大した力はありません。
 でも聖樹様と一緒なら…聖樹様の優しい魔力と一緒なら…私は…!!!!!


 聖樹様から伝わってくるイメージ。

 それは…白い世界…何も存在しない世界。

 氷すらも存在しない。

 光もなく、闇もなく、命もなく。

 聖樹様が教えてくれます…唱えるべき言葉を…それは…。

 「アブソリュートゼロ!(絶対零度)」




 3つの頭を持つ悪魔との戦いが終わり2時間が経ちました。
 いま、大穴を塞ぐ作業中です。

 ナール様が用意して下さった聖樹の木の板で、大穴に蓋をします。
 そして、マリア様が聖属性魔法を聖樹の蓋に施せば完成です。

 あの悪魔との戦いで、8名の騎士様が亡くなられました。
 負傷していない騎士様はいません…みんな傷を負っています。

 B部隊はA部隊が大穴を塞ぐ間…さらに奥に進み、悪魔の注意を引く。
 私はその作戦を聞いた時…嫌だと思いました。
 それは私の我儘だと分かっています。
 分かっているけど…ここまで一緒に着た仲間を見捨てて穴を塞ぐなんて。

 私はB部隊が帰ってくるのを待ちます。
 本当はB部隊の人達と一緒に行きたかったのですが…聖樹様を持たない私が一緒に行っても足手まといになるだけ。
 聖樹様は聖属性魔法を唱えているマリア様がお持ちなのです。
 でもせめて…B部隊の人達が戻ってくることが出来るなら…その時に悪魔に追われているなら…私の氷魔法で…。

 聖樹の木の板で穴を塞ぎます。
 人が1人通れるような小さな穴を残して。
 ずっと聖属性魔法を唱えていたマリア様の詠唱が終わります。

 …終わった?
 大穴は塞げた?
 歴史上塞げたことがない大穴を塞げた?

 私は喜びましたがすぐにその喜びは消えます。
 B部隊の人達は?
 そもそも穴が塞がったことを、どうやってB部隊の人達に伝えるの?

 シュバルツ様の声が響きます。

 「1時間…ここで休憩した後、大穴を出る。それまでにB部隊が戻ってこない場合はB部隊の地下世界側に残し、帰還のために残しておいた穴を塞ぐ。」


 私は祈りました。
 どうか…戻ってきてと…。


 1時間が経過しました。
 シュバルツ様は時計を見ています。
 でも指示は出ません。
 シュバルツ様も迷っているのです。

 その時…向こう側から声が聞こえました。
 B部隊の人達の声です。
 でもその声は…悲鳴を上げています。

 私は無意識のうちに…穴から地下世界側に…入っていきました。

 「ニニ!!!」

 シュバルツ様の声が聞こえます。
 でも私は振り返らないで、B部隊の人達を助けようと走りました。
 そして…悲鳴を上げて逃げてくるB部隊の人達の後ろにいる悪魔を見ました。

 それは、山羊の身体に獅子の頭を持ち…蛇の尻尾を持った悪魔。

 神話物語に出てくる生き物…キマイラそのものでした。
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