第42話 境界線
速く…速く…速く!
ただ速くと願う。
3個目の大穴に向かった俺達。
食料なんて持たないで、全力で空飛ぶバイクで移動。
秘匿していたとはいえ、大ちゃんの指示で秘密裏に管理されており、補給地点は各所に設置されている。
そのため最低限の物資だけの身軽な状態で駆け抜けていく。
城を出てわずか1日半で目的の拠点に到着。
拠点には、第零騎士団と呼ばれる女王直属の騎士団がいた。
彼ら30名が秘密裏に3個目の大穴の対処に当たっていたのだ。
装備は全員が龍シリーズ。
シュバルツ並みの装備を持った精鋭騎士30名。
個人としての強さはシュバルツに劣るものの、部隊としての能力は間違いなく世界最強の騎士団だ。
この拠点に合流した時点で、第零騎士団の団長はシュバルツ。
第1騎士団は別の騎士が団長となった。
拠点に到着して僅かな休憩のみで…すぐに大穴の奥に進軍する。
撤退の2文字は無い。
ここでの敗北は世界の敗北を意味する。
この後に待っている超大穴のためにも、ここで負けるわけにはいかない。
作戦らしい作戦は立てようがない。
1個目と2個目の大穴は、ある程度内部まで進軍したことがある。
特に1個目の大穴は1度だけ境界線に到達しているのだ。
しかしこの3個目の大穴は、内部に入ったことすらない。
穴から出てくる悪魔の対処をして管理していただけ。
どれくらい進めば境界線に到達出来るのかも不明の中…軍を進めるのだ。
作戦は大ちゃんから指示が出ていた。
もちろん、現場ではシュバルツの判断で変更することは認められている。
大ちゃんから指示はシンプルで…非情だった。
第零、第2騎士団、第1魔術師団をA部隊(王子、ニニはこちらに所属)。
第1、第3騎士団、第2魔術師団をB部隊。
交互に休憩を取る形で、境界線まで強行突破。
境界線に到着後A部隊は穴を塞ぐ作業。
B部隊は…地下世界を目指して悪魔の注意を引く。
可能であるなら、穴を塞ぐ直前に撤退。
無理な状況なら、B部隊を地下世界側に残し穴を塞ぐ。
作戦が説明される。
A部隊もB部隊も…全員覚悟を決めた勇者達だった。
ただ1人…天使のような法衣を着た可愛い娘を除いて。
まずA部隊が大穴に進軍。
限界までA部隊が戦いながら、進む。
仮にA部隊が対処できない悪魔と遭遇してしまった場合、B部隊の壊滅も免れない。
A部隊を温存するためにB部隊を先に出すのは意味がないのだ。
大穴の悪魔は、現代日本知識からして、どこか見たことある、聞いたことあるような姿をした悪魔ばかりだった。
小穴、中穴の悪魔なんて本当に雑魚でしかない。
境界線まで死者を出さずに進軍することは無理だとシュバルツも考えていただろう。
その考えを良い意味で裏切ってくれたのが、ラインハルト王子の存在だ。
王子は凄まじかった。
炎の魔剣で俺が強くなったからじゃない。
王子の心が強くなっていた。
バハムートの化身との戦いで何も出来なかった自分。
マリアとミリアと…そしてニニに助けられた自分。
許せなかったんだろう…自分を。
王子の心の覚悟が…戦う覚悟が王子の動きを変えている。
第零騎士団の騎士達が王子の動きを見て驚愕しているのだ。
もちろん心が強くなったら、ゲーム展開よろしくいきなり世界最強になるわけじゃない。
本人の実力的にはシュバルツには遠く及ばない。
でも俺がいる。
炎の魔剣となった俺は、シュバルツ達が持つ龍シリーズの剣以上の性能だ。
悪魔が見えた時点で、俺は炎魔法を発動する。
ありったけの魔力とイメージを王子に流す。
王子はそれに応えて炎魔法を打ち込む。
それを合図に第零騎士団が走り出す。
先頭には常にシュバルツがいる。
世界最強の男…まさに鬼神の如く、その無骨な大剣を振るう。
シュバルツから一瞬遅れて、王子が駆ける。
炎の魔剣は悪魔を切り裂き、燃やし、砕く。
他の騎士達も、シュバルツ、王子に負けていない。
もともとこの世界精鋭の騎士達だ。
それに加えて…その手に持つ龍シリーズの剣には…聖属性が付与されている。
ニニが毎日俺と一緒に作った、聖樹草茶。
それを剣に塗る。
聖樹草茶の聖樹の祝福を受けた剣は、聖属性を付与される。
もちろん一振り二振りもすれば、聖樹草茶は取れてしまい、聖属性は失われてしまう。
でもニニが毎日…必死に汗を流しながら黙々と1人で作り続けた聖樹草茶の量を知っているか。
自分にしか…聖樹の祝福を受けた聖樹草茶を作ることは出来ない。
頑張り屋さんのニニが作った聖樹草茶は、騎士達が出し惜しみする必要がないほどの量となっていた。
聖樹草茶が取れて聖属性が失われても、すぐに後方にいるB部隊からビンを受け取り剣に塗る。
常に聖属性付与状態を維持出来ているのだ。
負傷者は出しながらも、死者0という順調な進軍が続く。
そしてA部隊とB部隊の入れ替えをすること4度。
俺達は境界線に到達した。
そこで俺達を待っていたのは…3つの頭を持つ巨大な獅子だった。
俺は知っている…こいつの名を。
ケルベロス。
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