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伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

第4章 優しい王子

第39話 スヴェル

 ピンチです。
 これは間違いなくピンチです。

 龍討伐にはきました。
 でもバハムートの化身と戦うなんて予定はありませんでしたよ!

 でかい…。
 体長何mなんだ?
 距離感が狂っていくようだ。

 いったいどれくらい離れた場所に浮いているんだ?
 近づいてきたらもっとでかいのか?
 やばい…とにかくこれはやばい。
 勝てる…可能性なんてないだろ!!!

 シュバルツの思考回路が戻る。
 叫ぶシュバルツ。
 その声に意識が戻るみんな。
 一斉に空飛ぶバイクで飛んで逃げます。

 先行して物資補給部隊が龍の素材は回収していますが、食料とかの荷物は捨てて一斉に飛んで逃げます。

 そう逃げます。
 英雄のように戦うなんて選択はありません。
 歴史上、戦ったことのない相手なのですから!!!

 シュバルツの指示で、左右に展開していく騎士と魔術師。
 バハムートの化身の注意を引こうとしています。

 真っ直ぐ城の方角に向かって逃げていくのは、もちろん王子達。
 王子、マリア、シュバルツ、ミリア、ニニと騎士10人程度で真っ直ぐ逃げます。
 それ以外の人達は…バハムートの化身の注意を引いて時間を稼ぐ…命を懸けて。

 そんな騎士達の覚悟を無視して…バハムートの化身はこっちにやってきます。
 左右に展開して、属性魔法を打っている魔術師達なんて無視です。

 バハムートの化身の口が開く。
 これやばい…絶対やばい!
 マリアが王子に叫んで俺を持つ。

 バハムートの化身の口の中が白く輝く。
 エネルギーだ…とんでもない高熱エネルギー砲だろそれ!

 マリアのバイクにミリアが自分のバイクを捨てて飛び乗る。
 運転をミリアがする。
 マリアは上空に俺を向けて、今までで最も長い詠唱を口にする。

 放れた超高熱エネルギー砲を、マリアが作った白く輝く盾が防ぐ!
 白い世界が広がる。
 時間にして…1秒も無かったと思う。

 エネルギー砲の直撃を盾で防いだマリアだが…高熱を完全に防ぐことは出来なかった。
 みんな高熱で身体が焼けるように痛い。

 もう1発食らったらやばい…確実に死ぬ。

 無情にもバハムートの化身の口の中が、再び白く輝く。
 しかもさっきよりも確実に強力なやつだ!

 1回打ったら、次打つまで10ターンカウントダウンとか無いのかよ!!


 マリアが護身用の短剣を取り出す。
 そして…俺を清めてくれた、あの柔らくて綺麗な手に…自ら短剣を突き刺した。


 苦悶の表情を一瞬だけ見せたマリア。
 すぐに魔術師としての顔に戻り、流れ出る血に魔力を流す。
 すると…血で魔方陣が出来ていく。
 見たこと無い…とんでもなく複雑な魔方陣だ。
 なんだこれ。

 いくつかの魔方陣を見てきた俺だが…こんな複雑な魔方陣は今まで無かった。
 っていうか、こんだけの魔方陣描くのに血を使っていたら…。

 マリアの顔は蒼白になっていた。
 額から汗が流れている。
 それでも目は上空のバハムートの化身を睨み…俺からありったけの魔力供給を要求してくる。

 俺に出来ることは、マリアに魔力を供給するだけ。
 マリアの思いに…心に…全てに応えるように、魔力を供給する。

 血で出来た魔方陣…唱えられる長い詠唱。

 バハムートの化身の口の中で白く輝いていた光は…白から青に…そして青は徐々に濃くなり…黒に変わっていく。
 かなりの溜め時間を使ってエネルギーを溜めてやがる。

 マリアの詠唱も長い。
 詠唱が長すぎる…マリアの身体が持たないんじゃないか…俺からどれだけ魔力を持っていくつもりなんだ。

 マリアの口から血が流れでる。
 そんなことはお構いなしにマリアは詠唱を続ける。
 吐血してしまい、詠唱を止めたらすべてが台無しだ。

 意識を保つのも厳しいのだろう。
 マリアの上体が崩れそうだ。

 その時…もう1人バイクに飛び移ってきた。
 ニニだ。

 ニニはシュバルツのバイクの後ろに乗っていたのだが、マリアのバイクに飛び移ってきた。
 マリアの身体を支えるニニ。
 ニニが自分を支えてくれることに気付いたマリアは…最後の力を振り絞って詠唱を完了させる。


 同時にバハムートの化身の口から放たれたエネルギー砲は…漆黒の闇そのものに見えた。


 黒の世界。
 それを感じられたのも一瞬…まさに刹那の出来事。


 バハムートの化身は…頭から身体が半分…消し飛んでいた。

 そして…その巨体がゆっくりと大地に落ちていく。

 本当にゆっくりと落ちる…重力の法則なんてそこには無い。

 まるで紙飛行機が落ちるように…落ちていった。



 マリアの聖属性魔法の「スヴェル」
 漆黒の闇を跳ね返し…バハムートの化身を消し飛ばした。



 マリアはゆっくりとニニの腕に中に包まれていった。

 全ての時が止まる中…ニニの叫び声だけが響いていた。
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