挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

第4章 優しい王子

第33話 心

 王子絶賛成長中。

 人と会話出来るようになった王子。
 大ちゃんに聞いたら、王子は人と話すのが苦手で聞いているだけだったらしい。
 一応大ちゃんとはぼそぼそと話すことはあったそうだ。

 聞いているだけ。
 しかも否定はしない。
 つまり…勉強や訓練で自分の分からないところ、疑問に思うところ、納得できないところ…それを質問するということが出来ないでいた。
 相手の言うことに頷くだけ…そりゃ~成長しないよな。

 王子は会話出来るようになり、いろんな人にいろんなことを聞きまくっている。
 たぶん、今まで心の中に溜めていた疑問をぶつけているのだ。
 ぶつけるのはいいのだが…その時に俺を持っておく必要がある。

 脱人見知りスキルを取ったことで、俺を持たなくても王子は人と話すことが出来る…ようにはならなかった。
 さらに言うと、俺が魔力で脱人見知りスキルに干渉してあげないと会話出来ないのだ。
 これを応用すると面白いことになる。

 王子がミリアに剣の振り方を習っているとしよう。
 王子がミリアに質問している途中で…いきなり干渉をやめる。
 途端に王子は黙り込む。
 しかも俯く。
 顔が赤い。

 それに驚くのはミリアだ。
 何か自分が粗相をしてしまったと勘違いしているのか?
 それとも厳しくし過ぎたと勘違いしているのか?
 いや、全然厳しそうに見えないけどね、ミリア。

 そんな感じでスキル干渉ONOFFを使って王子で遊んでいたら、大ちゃんからちょっと怒られた。
 1度も怒ったことがない大ちゃんがだ…。
 大ちゃんの溺愛っぷりもすごいものだ。

 王子の行動範囲が広がっていく。
 俺を持って。
 もはや王子にとって俺は精神安定剤なのだろう。


 そして事件が起こった。


 ある日の早朝、俺はニニと一緒に仲良く聖樹草茶を作っていた。
 ニニは今日も可愛い。
 ニニの法衣は「様々なバリエーション」となっております。

 俺が大ちゃんにお願いしたのだ。
 大ちゃんのチートスキル「神託」を発動。
 「失われた神聖なる法衣」という便利言葉で、ニニに様々な服を着せている。

 もちろんそれらの服は「法衣」という言葉で連想されるようなものではない。
 現代日本語で正しくそれを示すとすれば…「コスプレ」となる。
 こういうことに関して、大ちゃんは俺への協力を惜しまないからありがたい。

 考えて欲しい。
 コスプレを着ている人は、その服を本気で神聖なる法衣と思って着ている。
 その服を疑うことはない。
 なぜなら、聖樹の祝福のための神聖なる法衣だからだ。
 そこにあるのは敬意と愛情である。

 …最高だ。

 考えて欲しい。
 例えば…例えばの話しである。

 ちょっと大通りから外れたビルのエレベーターに乗る。
 普通、エレベーターの行先に何のお店があるのか…何の会社が入ってるのか書いてある。
 でも、そのビルには何も書いていない。
 何も書いていないビルのエレベーターに乗って部屋に入る…そこはギルドだ。

 奥には男がいる。
 するどい目だ…かなりの手練れと見える。
 男は数枚の写真を見せてくる。
 クエストだ。

 俺はどのクエストを受託するか悩む。
 ここで問題がある。

 そのクエストには番号が振られていることがほとんどだ。
 だいたい「18番」から「20番」が多い。
 同じ番号が振られていても別に問題ないのだ。
 なぜならそれはクエストの難易度を示す1つの指標に過ぎない。

 1つの指標に過ぎない。
 世間一般的には番号が若いほど…そのクエストは発生したばかりで新鮮なので好まれるというイメージがある。
 イメージがあるが、それは所詮イメージでしかない。
 これは個人の相性の問題である。

 18番を得意とする者もいれば、より大きい番号を得意とするものもいる。
 確かにイメージ通り…番号が大きくなりすぎると、ある種の特別なスキルを持つ勇者以外はクリア不可能なクエストになる。
 50番以上ともなれば…おいそれ手を出す棒剣者ぼうけんしゃはいない。

 俺は…18番から20番までの番号を避ける。
 え?なぜかって?

 言っただろ…相性の問題だって。
 俺にとって18番や20番は若く新鮮すぎるのだ。
 そのクエストのターゲットを目の前にして、いったい自分がどんな話しや行動をしたらいいのか分からないのだ。
 俺は最低でも22番…24番なんてあったら最高だ。

 ちなみに、どこのギルドでも新人殺しと言われる罠がある。
 これはやってくる棒剣者ぼうけんしゃの力量をギルド側が試しているのだ。

 ここに21番と書かれたクエストがある。
 それを21番の指標と思って受託する棒剣者ぼうけんしゃは甘い。
 大抵、その番号から+1か+2は覚悟するべきである。
 中には+3という恐ろしい罠まである。

 さすがに18番、19番、20番当たりの若く新鮮なクエストに罠があることは少ないが、可能性は0ではない。

 このギルド側の罠だが…俺にとっては好都合だ。
 例えば24番のクエストを受託する。
 実際には+2の26番だったとする。
 俺歓喜となる。

 ちなみに、最初から番号が26番とか30番とかを受託するためには、別のギルドにいかないといけなのだが、そのギルドの罠は噂によると+10があってもおかしくないそうだ。
 それを聞いた俺は怖くてそのギルドにはいけてない。

 そんな訳で俺の相性的には24番から28番ぐらいまでが良い。
 ニニは俺の世界ではアウトな番号だ。
 大ちゃんから聞いたら、この世界での成人はやっぱり15歳だった。
 なのでこの世界ではセーフである。


 …すまない話が脱線した。
 俺が得意とする番号のことを伝えたかったんじゃない。

 番号は何番だっていい。
 問題はクエストの写真に写ってるターゲットだ。

 このターゲット…写真に写っている通りだと思っている棒剣者ぼうけんしゃは甘い。
 これもギルドの罠なのだが、ギルドは棒剣者ぼうけんしゃの力量を伸ばすために、わざとターゲットの画像を少し修正していることがある。
 微妙な差異を自らの目で気付かなくてはいけない。
 どこが修正されているのか…これはもう経験を積むしかないだろう。

 ただここで俺はこれから棒剣者ぼうけんしゃの道を進もうと思っている後輩に伝えておきたいことがある。
 ターゲットの写真…特に重要なターゲットの顔なのだが…別人の場合がある。
 これはもうとんでもない罠だ。
 この手の罠は本当に極少数ではあるのだが、たまにあるのだ。

 見分ける方法としては、身体まで別人…つまりまったくの別人なら無理だ。
 だが、顔だけ別人になっている場合がある。
 その時は顔の輪郭部分を注意して見て欲しい。
 不自然な感じが無いか?
 こう…なんていうか…とってつけた顔みたいな感じがしないか?
 まぁこれも経験を積むしかない。


 …すまない話が脱線した。
 ギルドの罠のことを伝えたかったんじゃない。

 ようやく受託するクエストを選んだとしよう。
 ここでクエストを助けるオプションというものがある。
 これはギルドによって様々なオプションが用意されている。

 その中でも最も多いオプションが「装備の貸し出し」。
 これはまだ十分な装備を整えることが出来ない棒剣者ぼうけんしゃや、たまには使い慣れた装備以外で自分を鍛えてみたいという棒剣者ぼうけんしゃのために用意されている。
 一度は使ってみたいと思うオプションだ。

 ただここで勘違いする棒剣者ぼうけんしゃがいてはいけないので説明しておく。
 この貸し出される装備だが…自分が装備するものではない。
 これはクエストのターゲットが着るものなのだ。
 ターゲットがこれを着ることでターゲットの種族が変更されて難易度に変化がもたらされる。
 その変化に対応するように…自らを変化させるというわけだ。

 …噂では、貸し出された装備を自ら着る強者が存在するらしいが…伝説か神話レベルでの噂だ。

 俺も装備貸し出しオプションを1度使ってみたことある。
 ただ…俺には難しすぎた。
 そもそも、俺はその貸し出される装備に詳しい人間ではない。
 熟練者は貸し出される装備の種類によって変化したターゲットに合わせて、様々な職業を得て戦うそうだ。
 時に戦士…ある時は魔法使いといった感じに。

 俺は自分に普段とは違う職業を得て戦うことは無理だった。
 俺は普段通りが一番だったのだ。

 そう思っても、男の憧れはまた別の問題である。
 特に見るだけなら…見るだけなら世の棒剣者ぼうけんしゃみなが問題ないだろう。

 ただ、クエスト中にその貸し出された装備を着ているターゲットが…実は嫌がっているという可能性を考えたことはあるかな?
 そう…ターゲットも心を持った生き物なのだ。
 心を踏みにじってはいけない。
 これはまた別の話しとなるが、心は大事にしてあげないといけない。
 クエストクリアの条件は様々かもしれないが、ターゲットを傷つけることでは無いのだ。
 これは本当に大事なことなので、2回読むことをお勧めする。

 例え自分がギルドの罠にかかったとしても…ギルドを恨むことはあっても、ターゲットを恨んではいけない。
 ターゲットに何の罪もないのだ。
 ターゲットも様々な理由で、クエストの目標となっている。
 心を大事にしてあげれば…大抵は幸せな結果に繋がるはずだ。
 中には…例外的にターゲットが悪いと思えることもあるけど。


 …すまない話が脱線した。
 心のことを伝えたかったんじゃない。


 見ているだけなら幸せなコスプレをニニは、神聖なる法衣として受け入れてくれる。
 嫌がることは無い。
 心の底から敬意と愛情を念を持って着てくれるのだ。
 そんなニニを見れることが幸せ…それを伝えたかったんだ。

 …あれ?事件はどこにいった?
 ある意味事件なのか…俺が伝えたかったことは。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ