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伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

第2章 空飛ぶ少女

第15話 おやすみのキス

 玄関が開いて誰かが入ってきた音が聞こえる。
 ニニかな?
 ニニの部屋のドアが開いたのでニニ!と思って見たら、ニニのお母さんでした。
 お母さんの方が早く帰ってくるのか。

 お母さんは机の上に置かれている俺をじっと見ている。
 そして今にも消えそうな小さな声で何か話しかけてくれる。
 理解できないけどね。
 そして引出しから短剣を取り出す。
 短剣をしばらく見つめた後、お母さんは短剣を戻して部屋から出ていった。

 それからしばらくしてニニが帰ってきた。
 帰ってくると同時に部屋に走ってきて、机の上に俺がちゃんとあるか確認するニニ。
 俺が置いてあるのを見て、ほっと安心した表情を浮かべる。
 お母さんが後からやってきて、ニニと笑いながら何か話している。
 ニニは俺がいなくなったり、誰かに取られたりするのを恐れていたのかな?
 まったく可愛い娘だ!

 ニニは帰ってきた後は俺を手放さなかった。
 掃除する時も、食事をする時も、食べる時もずっと一緒だ。
 …お風呂の時も連れていってください。

 今日も夜の学校へと向かう。
 ニニは今日も集中して勉強していた。
 帰ってくればお母さんが寝ているのを確認してからお風呂へ。
 当然俺は机の上に置いたままだ。

 今日も濡れた髪を乾かしながら、ニニは俺に何かを話しかけてくれる。
 昨日よりも…笑顔が多いように見える。
 暗くてよく見えないけどね。
 口調とかでそこら辺は何となく分かるのさ。

 それからは同じことの繰り返しだった。
 朝は牛乳配達。
 朝食の後、俺は家で留守番。
 夜は学校。
 寝る前のお話タイム。
 同じことの繰り返しでも、俺は幸せを感じられていた。

 ニニの家に来てから何日ぐらいだろう…10日は過ぎていないと思う。
 イベント発生です。

 その日も夜の学校から帰ってきて、寝る前のニニとのお話タイム。
 何を喋ってくれているのか俺には分からないけど、ニニの優しい綺麗な声を聞くのは好きだから問題無い。
 ただ…急にニニの口調が真面目口調になった。
 そして何かを確かめるように、俺に魔力を流す。
 魔力スキルを取る前は激痛だったけど、ニニの魔力って優しいんだよね~。
 最近ではニニが魔力流してくれるのが楽しみで仕方ない!

 俺はお返しとばかりに、ニニに魔力を流してあげる。
 それをじっと見ているニニ。
 そして…俺の箒の部分…あのチクチクした枝に手を添える。

 あ、それは俺じゃないんだな~。
 それはね、ひょろひょろおじさんが後から付けた枝なの。
 だから俺じゃないの。
 そこから魔力は流れないよ!…と思っていたら…ニニが俺に巻かれた枝を解いていく。

 む…そういうことか。
 ニニは箒として俺に出会っているから、魔道具は箒であると最初思っていたはず。
 でも俺を使っていくうちに、魔力の流れは木の棒からで、箒の枝の部分からは何も感じられないことに気付いたのだろう。

 元の木の棒に戻った俺。
 魔力を流してくるニニ。
 ニニに魔力を流して応える俺。

 ニニは箒ではなく、木の棒になった俺が応えてくれたことが分かったのだろう。
 嬉しそうに俺を抱きしめてくれた。
 えへ♪もっと抱きしめて♪
 …なんてことを思っていたら。

 ニニはそのまま俺を抱きしめたままベットの中へ。
 …ほ、本当に抱きしめたまま寝てしまった。
 ニニの柔らかい身体の感触が木の棒となった俺を満たしていく。
 神様ありがとう…感謝します。

 木の棒となった俺をニニは大事にしてくれた。
 ピカピカに磨いてもくれた。
 そして寝る時も一緒なのだ♪

 この世界に来て最も幸せなイベント…ニニと一緒に寝るようになってさらに数日後。
 イベント発生です。

 朝の牛乳配達を終えて朝食を食べた後、いつもならお留守番の俺なのだが…ニニが俺を持って出かけたのだ!
 え?いいの?
 職場に木の棒持ち込み可になったの?

 もちろんニニと一緒にいられるのは嬉しい限りだから、俺的には何も問題ない。
 うきうき気分でニニと一緒に空を飛んで…あれ?歩いていくのか。
 ん?…何かニニの表情が硬いな。
 いつものニニじゃない。

 空を飛ばず向かった先は…夜にいつも行っていた学校だった。
 え?ニニって昼も学校行ってたの?!

 教室にニニが入ると、一斉に視線が集まった。
 その視線は…なんていうか…冷たい視線に思える。
 ニニはいつもの最前列の一番端っこに座る。

 友達…らしき人が近づいてくる気配はない。
 むしろニニの周りには人がいない。
 教師が入ってきた。
 夜の教師とは違う人だ。
 教師が出席を取っていく。
 返事をしていく生徒達。
 ニニは…一番最後に呼ばれて、小さな声で応えた。
 ニニを見る教師の目も…冷たい目だった。

 ニニは黙々と授業を受けている。
 貸し出された教科書を食い入るように見ている。
 昼休み…ニニは教室を出て向かった先は図書館だった。
 ニニは昼食を食べずに、図書館で植物辞典?のようなものを読んで勉強していた。
 午後も同じように黙々と授業を受ける。
 授業を終えて、ニニが教室を出るまで…ニニに話しかける人はついに現れなかった。

 ニニは足早に学校を出て家に帰っていく。
 途中…ニニに話しかけてくる女子生徒達がいた。
 3人組だった。
 ニニは話しかけられても、一言だけ何か言うと逃げるようにその場を離れた。
 ニニを見るその3人組の視線は、どう見ても好意的な視線で無い。
 馬鹿にした視線だ。

 その日の夜…ニニは学校に行かなかった。
 これはどういうことだろう。
 昼間の学校に変わったのか?
 いや、それはおかしいだろう。
 数日に一度だけ…昼間の学校に出ているのか?
 次の日は、昼間俺はお留守番の夜の学校といういつものパターンに戻った。
 やはり、数日に一度だけ昼間の学校に出られるのだろう。
 夜の勉強だけでは足りないから、それで補っているのか?

 昼間の学校に行った日の夜。
 ニニとのお話タイムの間…ニニはずっと悲しそうな声と表情をしていた。
 俺を抱きしめて寝るニニに…俺は出来る限り優しい魔力を流してみた。
 ニニは俺に笑顔でキスをするとすぐに眠りについた。


 ニニが良い夢を見れますように…。



ステータス
ちょっと魔力通な木の棒
状態:空飛ぶ少女のちょっと魔力通な木の棒
レベル:3
SP:2
スキル
魔力:レベル1
+注意+
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