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伝説の木の棒 前編 作者:木の棒

第2章 空飛ぶ少女

第10話 街到着

 ゴブルンが退治されてから数日後。
 俺は今…売られている。
 異世界転生と言えば奴隷ですよね。
 俺もご主人様に買われて、きっと想像も出来ないような恥ずかしい行為をこの身に受けるのだ…。
 ああ…想像しただけで…胸が高まる!!!

 妄想終わり。
 はい、いま俺は売られています。
 間違いなく売られています。
 雑貨屋でね。

 人間達の街に荷車に乗せられて到着した俺。
 ゴブルンの巨体は、怖そうな屈強な男達が建物の中に連れていった。
 彼のその後の姿を見たものはいない…いや知らんけど。

 俺は、俺を拾った髭もじゃ中年おっさん戦士に1度は武器屋っぽい所に連れていかれた。
 中年おっさん戦士と、中年武器屋店主のような男が何か話している。
 そして交渉決裂と言わんばかりに、中年おっさん戦士は武器屋を出ていく。
 次に向かった先がこの雑貨屋だ。
 雑貨屋には…中年おばさん店員がいた。
 中年おばさん店員と喋る、中年おっさん戦士。
 そして数枚のコインのようなものと引き換えに…俺は中年おばさんに渡された。

 街についてここまでで…俺はとても残念な事実に気づいていた。
 残念な仕様とも言える。
 俺の持ち主が変わる度に、ステータスリセットになるという残念仕様にも劣らない残念仕様だ…。
 俺には…この世界の人間達が話す言葉が理解出来なかった。

 異世界転生でのお約束といえば、異世界共通言語というチート能力であろう。
 もしくは、異世界の言語が日本語とか。
 赤ちゃんに転生してその世界の言葉を覚えるというのもあったけど。
 俺にはまったくそんなチート能力は無かった。
 彼らが何を話しているのか…まったく分からない。

 もちろん文字もだ。
 雑貨屋に並んでいる商品に貼られている値札や、壁に貼られているチラシのようなもの。
 まったく分からない。
 値札らしきものには、おそらく値段が書いていると思われるが、俺の知っている数字では無い。
 アラビア数字では無いのだ。
 もはや、この世界の数字が十進数なのかどうかも分からない。

 さらにだ。
 さらに気づいてしまった残念仕様がある。
 いや、こっちの方が問題であろう。
 何よりも問題であろう!!
 なぜなら…なぜなら…この世界の戦士や剣士と思われる人間達は…全員男なのである。

 そう男なのだ。
 ゴブリン村に来ていた人間は全員男だった。
 この雑貨屋にやってくる戦士や剣士のような服装をした人間も、みな男だ。
 時々、お使いでやってくる可愛らしい少女や大人の女性もいるが、どう見ても戦いに身を置くような感じではない。
 つまり…俺が夢見ていたボインボインな素敵な女性剣士という存在は、存在そのものが絶望的なのだ。
 俺の夢は再び砕かれた。

 こうして雑貨屋に置かれた俺だが、ステータスを見てみると

ステータス
木の棒
状態:雑貨屋で売られている木の棒
レベル:1
SP:1
スキル:無し

 この街に着く少し前に例のシステム音が聞こえた。


「持ち主に放棄されて24時間が経過しました。持ち主不在となりステータスリセットとなります。」


 ゴブルンジュニアが俺を放棄して24時間が経過したということだろう。
 俺の「持ち主」の条件は分かっていないが、俺の推測では、俺を明確に自分の物として認識して俺を持つということだ。
 ゴブルンジュニアは、ゴブルンから俺を渡された。
 つまり俺をもらって自分の物であると思ったはずだ。
 これで持ち主が変更されたのではないか。

 ゴブルンジュニアは誰かに俺を渡すことはしなかった。
 放り投げて逃げて行っただけだからな。
 捨てられた俺は髭もじゃ中年おっさん戦士に拾われた。
 この中年おっさん戦士は俺の持ち主にならなかった。

 ゴブルンジュニアが持ち主状態だったので、俺の持ち主になれなかったのか。
 それとも中年おっさん戦士には自分の剣があったので、俺を持って使っても持ち主になれなかったのか。
 どれだけ推測しても、はっきりと答えは出ない。

 とりあえず、持ち主から放棄されて24時間経過すれば、俺は持ち主不在となるらしい。
 ゴブルンが俺を使わずにいたのに、ゴブルンが俺の持ち主のままだったことを考えると、「放棄」というのがどのような状態なのかも条件があるようだ。

 
 さて自分がどのような能力の木の棒なのかを考えるのも大事だけど、まずは新しい持ち主様に買って頂かないと…。
 俺はいったいいくらで売られているんだ?
 自分に貼られた値札を見てもまったく分からん。
 その他の商品に貼られている値札と比べても…たぶんだけど…高くはないと思うんだけどな。

 新しい持ち主様がボインボインであることを祈りながら日々を過ごしていると…初老のひょろひょろおじさんがお店に入ってきた。
 ひょろひょろおじさんは店内をいろいろ見て回ると…俺と見が合った。
 目が合っちゃったよ。
 え?まさか…俺の持ち主様は…。
 ああ!おじさんが中年おばさん店員呼んじゃった!
 俺を指さしてる!
 なんか話してる!
 コイン出しちゃった!
 おばさんコインもらっちゃった!
 俺の値札取られちゃった!
 おじさんに渡されちゃった!!


 こうして俺の新たな持ち主はひょろひょろおじさんとなりました…俺涙目。


ステータス
木の棒
状態:ひょろひょろおじさんの木の棒
レベル:1
SP:1
スキル:無し
+注意+
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