第5話 成長するゴブリンと俺
闘気スキルを手に入れた俺は無事に鹿を倒した。
が、しかし!…もちろん手柄はゴブルンのものである。
鹿の角に刺されたゴブリンは死んでいたが、脚で蹴られたゴブリンの方は生きていた。
死んだ仲間をそのままにして、鹿を集落に持ち帰るゴブルン達。
鹿を持ち帰ったゴブルン達はまさに英雄だった。
拍手喝采!
ゴブリン語で何言ってるのか分からないが、とにかく褒め称えられていた。
奥さんと子供も大喜び。
よかったなゴブルン…でもお前の力では無いのだぞ?
突撃してくる鹿に対して木の棒を振り回していたゴブルン。
俺が闘気を最大限に纏うと、オーラのようなものが木の棒を包む
振り回していた木の棒が、鹿の角と激突すると…そのまま闘気の力で角をへし折る。
さらに、その勢いのまま鹿の頭に俺が当たると…これまた闘気の力で頭が粉々に砕ける。
つまり…俺の闘気が鹿を倒したのだ!
突撃してくる鹿が怖かったのか、ゴブルンは目を閉じて木の棒を振り回していただけだ。
それで目を開けたら鹿が倒れていたというのに…自分が倒したと勘違いしたのだろう。
いや…木の棒の持ち主はゴブルンだから、ゴブルンが倒したといっても間違いじゃないんだけどな。
ちょっとだけ納得出来ない俺であった。
その日、ゴブリン達は鹿の肉を食べながら宴となった。
ゴブルンは族長っぽいおじさんゴブリンの隣に座って偉そうにしていた。
何やら他のゴブリン達がゴブルンにペコペコお辞儀をする。
ゴブルンは出世したのか?
鹿一匹で?
まぁでも、俺の闘気が無かったら間違いなくゴブルン達は鹿に負けていた。
この集落で武器らしきもの(尖った石や枝)を持っているゴブリンが他にいるのか分からないが、正直、あれではゴブリン達が何匹いても鹿を倒すことは出来ないだろう。
そんな強敵の鹿を倒したのだから…ゴブルンが出世するのも当然か。
くそ…俺のおかげなのに!
ゴブルンの後ろに置かれた俺は、ゴブルンのお尻を見ながら宴を過ごしていた。
俺のおかげなんだから、ちょっとはオイルとかで手入れしてくれよ!
…木の棒の手入れってオイルなのか?いや知らんけどさ。
翌日もゴブルンは狩りに出た。
しかもゴブルンだけで。
尖った木の枝を持っていたゴブリンは、鹿に蹴られた傷で動けないようだ。
他についてくるゴブリンがいないのを見ると…他の武器らしき物を持っているゴブリンはいないのかもしれない。
昨日倒した鹿の角を武器として使えよ!と言いたいのだか、角は族長が持っていってしまったので、どうなったか不明だ。
さて、俺は闘気スキル全開です。
この闘気スキルを取得して本当に良かった!
何が良かったかというと…痛く無い。
ゴブルンが俺で何かを叩いても、闘気を纏っていれば痛く無いんですよ!!
ひゃっほー!!!! さらば激痛よ!!!
この闘気…「誰かが俺を持っている」状態じゃないと発動しない。
昨日、ゴブルン達が寝た後に、隅っこに捨てられた俺は闘気スキルを発動しようとしてみたら…鹿と戦っていた時に自然と湧き上がるような闘気の感覚がいくらやっても出てこない。
ゴブルンに持ってもらっている時は、別に何かを叩こうとしている時で無くても、闘気はちゃんと発動する。
持ち主にもってもらう…これが発動の唯一の条件のようだ。
さて問題は…この闘気って無限に出せるのか?ってこと。
MPみたいなものがあって闘気を出せる限界があるなら、それを知っておきたいんだけど…ステータス画面にMPなんて項目は無い。
ステータス
闘う木の棒
状態:ゴブリンの闘う木の棒
レベル:2
SP:1
スキル
闘気:レベル1
俺の名前が闘う木の棒になっていた。
MPというか、「攻撃力」とか「力」とか「STR」とかRPGならよくある項目が全然ない。
そもそも「HP」が無いんだけど、俺ってどんなに叩いても大丈夫なのかな…。
いや…何かと打ち合って砕けたりしたら…死ぬ…のか?
木の棒にとって「死」ってどんな概念なんだ?
そんな訳で実験を兼ねて、ゴブルンに持ってもらっている間は闘気を常に全開です。
今のところ、闘気が切れることは無い。
というか、闘気を発動していても俺は全然疲れない。
MPが減る…というような感覚も無い。
無限に出せるっぽいな。
魔力や属性がどうなのか分からないが、闘気は俺自身の強さのような気がするし。
闘気全開の俺を持ったゴブルンは…昨日の鹿とは違う…豚のような生き物と死闘…ではなく一瞬で倒していた。
もちろん俺の闘気でね。
でもゴブルンは自分の力だと思っているのか、豚を倒した瞬間、俺を放り投げて、一人で踊って喜んでいやがる!!
おい!俺のおかげなんだから、俺を簡単に投げ捨てるなよ!
豚を持って凱旋のゴブルン。
今宵もまた宴か…。
次の日も…その次の日も…ゴブルンは一人で狩りに出かけていった。
その度に、鹿…猪…兎…のような生き物を倒しては、集落に持ち帰り英雄扱いを受けていた。
ちなみに、兎みたいな生き物が一番大きかった。
兎の身長は2mぐらいあったと思う。
2週間ほど過ぎたあたりで変化が起きた。
まず集落にいるゴブリンの数が増えている。
子供…では無く、大人のゴブリンが急に増えていた。
ゴブリンの顔を見ても、みんな同じようにしか見えない俺だけど、これだけ数がはっきりと増えたら分かる。
どうやら、どこかの集落がここと合流したようだ。
ゴブリンを判別できない俺だけど…ゴブルンのことは分かる。
というか、分かるようになった。
最初の頃なら、別のゴブリンに持たれても、こいつがゴブルンなのか別のゴブリンなのか判別することなんて出来なかった。
が、しかし!今は分かる。
なぜなら…ゴブルンの顔はちょっと美形に進化しているのだ。
いや、顔だけじゃない…体もあきらかに他のゴブリンより大きくなっている。
もともと集落にいたゴブリン達もゴブルンのことを崇めるようになっていた。
合流したゴブリン達もだ。
さらに1週間ほど過ぎた頃だろうか…また他の集落が合流してきた。
もはや集落ではなく、規模的には村だろう。
これだけの大人数になっても、ゴブルンが獲物を狩ってくるので食べるのに困らないのだ。
そう…食べることに困らない。
これが他の集落が合流してくる理由だろう。
そしてゴブルンが英雄扱いされる理由だろう。
ゴブルンの狩る獲物の数は日に日に増えていった。
自信をつけたといってもいいだろう。
そして進化していくゴブルンには「知性」が宿ってきたようだ。
効率的な動きと言えばいいのか…以前のゴブルンとは天と地の差である。
ゴブルンが効率的な動きで獲物をたくさん狩る→さらに進化する→村に合流するゴブリン増える→ゴブルン英雄扱いの繰り返しだ。
そして…俺も強くなった。
ステータス
闘う木の棒
状態:ゴブリンの闘う木の棒
レベル:4
SP:3
スキル
闘気:レベル1
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。