1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:09:19.14 ID:stqZjuVn0
少し前まで不眠症とまでは行かなかったけど
なかなか夜寝付けない時期があった
そんなときの俺は、いつも夜の街を徘徊していた
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:10:47.44 ID:stqZjuVn0
深夜1時、俺は玄関の戸をそっと開いてそっと閉めて
両親や家族に気付かれないように夜の街に繰り出した
学校に行ってなかった俺は、まったくの昼夜逆転生活を送っていた
少し前まで不眠症とまでは行かなかったけど
なかなか夜寝付けない時期があった
そんなときの俺は、いつも夜の街を徘徊していた
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:10:47.44 ID:stqZjuVn0
深夜1時、俺は玄関の戸をそっと開いてそっと閉めて
両親や家族に気付かれないように夜の街に繰り出した
学校に行ってなかった俺は、まったくの昼夜逆転生活を送っていた
// -->
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:12:52.96 ID:stqZjuVn0
なかなか深夜ってのは静かでさ、1時となると車も通らないんだわ
だから、道路の真ん中をわざわざ歩いたりとかしてみたり
夜の公園でボケーッとしたりするのが日課になっていた
そして朝になると俺は帰宅し、就寝した
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:15:21.77 ID:MYlauSma0
なんで奈須きのこがいるんだよ
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:16:31.15 ID:stqZjuVn0
ある日、ホームレスに出会った
最初は警察かなとドキッとしたけど、その薄汚い姿を見て安心した
「おめぇ、なんだ」
ホームレスはそう目を見開いて訊ねてきたが、なんと答えればいいのかわからん
「学校にも行ってない高校生でつ☆」とでも自己紹介してやろうか、と思ったが
「寝付けなくて、散歩です」
と答えた
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:18:49.60 ID:stqZjuVn0
「補導されんぞ、さっさとけぇれ(帰れ)」
とホームレスは言ったが、はいそうですかと帰るのも気に食わないので
俺はルートを変えて散歩することにした
いつもは住宅街の中の小さな公園で休んだりしていたけど
仕方が無いから線路沿いの道をブラブラチンチンすることにした
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:22:29.90 ID:stqZjuVn0
「けぇれっつったろ」
駅の階段で腰を下ろしていると、ホームレスはどこからともなく姿を現した
「ウオッ!?」
「補導されんぞ」
ずっと着けてたのか?と思うと、なんだか嫌悪感が走った
「えー!?マジストーカー!?キモーい!」「ストーカーが許されるのはー、小学生までだよねー!」
俺の脳名で二人の少女がそう言った
「ずっと追ってたんですか?」
「んにゃ、ここに寝とる」
どうやら、ホームレスは駅で暖を取っているらしい
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:23:53.87 ID:sHEq+v4u0
wkwk
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:25:28.20 ID:qfP1P6AbO
期待
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:26:57.39 ID:stqZjuVn0
「おめぇ、学校には行ってんのか」
ドキッとした。俺の心が「貴様、見ているな!」と声をあげた
いや、もしかしたら勘で言ってるかもしてない
「はい」
「嘘だな」
ホームレスを汚い歯をむき出しにして笑った
ヒーッヒッヒッヒと、肺に煙が詰まったような笑い声だ
アレだ、なんか引き気味に聞こえるあの笑い方
「なんでですか」
「だいたいわかんだよ。学校いってねぇやつはみんな同じ顔だぁ」
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:28:45.13 ID:6ktAhEWm0
wktk
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:30:56.14 ID:stqZjuVn0
俺は腰を上げ、帰りたいという姿勢をものすごく遠まわしに見せた
「同じ顔?」
「んあー、そうだ。勉強できねぇのが丸出しだっつの」
そう言ってまたホームレスは笑った
なんだ?俺バカにされてんのか?と俺は気分を害した
「バカにしてるんですか」
「だってバカじゃねぇか」
腹が立った。奥歯を噛み締めて、怒りを抑えた
「帰ります」
「そうやって逃げて、学校からも逃げて、現実から逃げるかぁ
そんなんじゃ、俺みてぇになっちまうぞー!ヒッヒッヒwww」
ホームレスは自虐した
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:33:31.65 ID:TvzYJtdp0
悪いそれ俺の親父だわ
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:33:35.98 ID:stqZjuVn0
「はい、そうですか」
俺は適当に聞き流し、家へと帰ろうとしたとき
ホームレスはぴたりと笑いをやめた
「待て!」
「?」
俺は思わず足を止めた
「久しぶりに俺人と話したんだぁ」
「はぁ」
「どうだ、聞いていかねえか。俺の話」
気がつくと、俺は駅の階段に腰をかけていた
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:36:36.26 ID:stqZjuVn0
「俺なぁ、絵が好きだったんだよ」
画家を目指して、成就せずホームレスか。と嘲笑しそうになる
「はあ」
「でもな、画家にはなりたくなかったんだよぉ。普通の企業に勤めるだけでよかったんだよぉ」
「じゃあなんで」
こんな有様になったのかと続けようと思ったが、それはあまりにも失礼だからやめた
「絵をな、買いすぎちまって破産さw」
笑えねぇよ、と俺は肩を落とした
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:39:51.80 ID:stqZjuVn0
「モネって画家知ってるかぁ?少年?知らないかなぁ」
「知ってます」
中学のとき、勉強した覚えがある
『散歩』や『日傘を差す女性』などを描いたフランスの画家だったはず
「ほんとかぁ?」
その上目遣いに俺はまた腹を立てたが、
ホームレスはまた笑って、「冗談だ冗談」と肩を叩いた
「で、モネがなんですか」
「モネにはなぁ、妻がいたんだよ」
知っている。たしか、カミーユという名前だったはず
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:41:52.27 ID:stqZjuVn0
「カミーユですか」
「知ってんのか!んでな、モネは妻をとても愛し続けたんだよお」
愛ねぇ、と俺は頬をかいた
「へえ」
「だが、カミーユはモネを置いて命を絶ったんさぁ。死んだんだよ」
「それは哀しい」
「そりゃ、モネは絶望するよなぁ」
知りません、と言いかける
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:43:20.07 ID:IvYhbtCDO
いい
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:44:04.90 ID:6ktAhEWm0
イイヨイイヨ~
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:45:37.61 ID:TWf+1xyJO
とりあえずホームレスを
大杉蓮で脳内変換してみた
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:47:12.03 ID:6ktAhEWm0
>>26
はまり役すぐるwww
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:45:58.02 ID:stqZjuVn0
「モネの、『死の床のカミーユ』という作品は亡き妻を描いた作品だあ」
「死の床のカミーユ」
復唱するけど、そんな名前の作品は知らなかった
だけど、名前からして何か良さげなものは感じた
「俺はな、22の時にその作品を見たんだよー。海外でだ。すごいだろ?」
このよくわかんないオッサンならば、北海道沖縄さえも海外と呼びそうだから
俺は適当に「はあ」と相槌を打った
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:49:34.75 ID:stqZjuVn0
「泣いた」
俺の素っ気ないリアクションに?と思ったが、どうやら違う
ホームレスはうつむいたまま遠い目をしている
「その作品を見て?」
「だってよ、あまりにもせつねぇじゃんかよ。なぁ、そう思わねぇか」
感情的に同意を求められても、困りますと顔に表して眉をしかめた
「そうですね」
「その絵のカミーユがよぉ・・・すごいんだ・・・」
「美しい?」
「それもある」
「?」
両手を雨を受け取るように出し、遠い目で言った
「幸せそうなんだ。死に顔なのによ」
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:52:35.78 ID:stqZjuVn0
「へ?」
「普通よぉ・・・死ぬときは苦しいだろ・・・目を細めて息を荒らしてよぉ・・・
それなのに、カミーユは本当に幸せそうに笑ってたんだよ」
「・・・・」
「モネは本当にカミーユを愛していた。カミーユは幸せだった。二人は幸せだった
それが心を掘って、埋めるように伝わって来るんだよぉ・・・」
「・・・・」
「哀しいじゃねぇか・・・残されたモネはどうなっちまうんだよ・・・」
「その絵が、今を招いたと」
「そうだな」
ホームレスは、笑った
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:57:22.70 ID:stqZjuVn0
その感動が、あなたの人生を狂わせたのかと心の中で問いかけた
ホームレスは俺の心の声に答えるように口を開いた
「でもな、俺後悔してねぇや」
またホームレスは歯を見せた
「なんで?」
「その絵を見れたから、もういつでも死んでいいっちゅう話!」
ホームレスは笑っているが、その言葉は本気のように感じた
直後、ホームレスはポケットから紙を取り出した
「なんすかこれ」
「ここに俺のアトリエがあるから」
「画家なんですか!?」
そもそもホームレスじゃないんですか!?
「いや、ただのホームレスだぁ」
ホームレスはそう笑うと、腰を上げ、隅っこに寝そべると「寝る」と言ったきり何も言わなかった
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:58:54.93 ID:stqZjuVn0
ちなみに、これが『死の床のカミーユ』
http://monet.michikusa.jp/Japanese/msinotoko.jpg

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:59:14.73 ID:yfnLHEvJ0
wktkしてやんよ
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:02:08.94 ID:Z/Bph7sL0
急に面白そうになってきた
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:02:50.53 ID:stqZjuVn0
その日の帰り道、アトリエがあるんならアトリエで寝泊りすればいいのにと俺は何度も考えた。
わざわざ駅で寝なくてもいいのにと
帰ってから、『死の床のカミーユ』を検索し、見た
なるほど、確かに幸せそうだと俺は相槌を打つ
そして紙を見ると、非常に汚い文字で、緑のペンで「ここ」と描かれてる地図があった
正直わかりやすいとは言いにくいものではあったが、なんとか解読は出来た
翌日の深夜。俺はそのアトリエを訪れた
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:04:11.75 ID:Ud+cFW8E0
wktk
>>1みたいな文章ツボ、頑張れ俺は見続ける
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:07:02.77 ID:6ktAhEWm0
wktkしてやんよ
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:08:01.99 ID:stqZjuVn0
アトリエねぇ、と俺はその建物を見つめた
そのサイコロのようなカタチをした建物を俺は見つめていた
ぎゅうぎゅうに住宅街に民家が詰まる中、むりやり「ごめんください」と無理矢理尻を突っ込んで場所を確保した
そんな不自然さをかねそろえたその建物は、真っ白のサイコロのようだった
電気がついているのかはわからなかった。というのも、窓は見られなかった
ドアの前に立ち、インターホンを鳴らした
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:11:30.40 ID:stqZjuVn0
「はーい?」
女性が現れた。若い同い年ぐらいの、ショートヘアーが似合う色白な女性
俺は言葉に詰まった。あのホームレスが出てくるんじゃないのかよだとか
もしかしてそれが本当の姿ですかホームレスさんと心の中で大声を出し、
どう言うべきかを考えた。考えてみればあのホームレスは名前さえ知らない
「ああ、あの、まぁ」
「?」
女性は首を傾げて、「先生のお客様?」と恐る恐る口にした
先生とはあのホームレスか?と俺は考える
思い出したように、あの渡された紙を無言で渡してみた
「ん?・・・・・・・ふっwこれは先生の字だww」
間違いない、あのホームレスが先生のようだ
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:38:54.72 ID:stqZjuVn0
アトリエに足を踏み入れると、まずその散らかりように呆然とした
絞りきった画材のチューブだとか、デッサンの失敗作を丸めて散らかしたもの
それがところ狭し、それに重なるかのごとし散乱している
でもまぁ俺の部屋よりは綺麗だわ、と俺がボーッとアトリエを眺めていた
女性はが口を開く
「では、先生はもうじき帰ってきますので。椅子におかけになってください」
同年代ぐらいに見えるその女性の接客の良さは、もはや輝いていた
俺は言われるがまま、椅子に腰掛けた
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:42:41.21 ID:stqZjuVn0
四角形の空間の中には、様々な絵画が飾られたり置かれたりしていた
絵画は上手なのか下手なのか俺にはわからないが、少なくとも
モネのような心の糸を巻き込むような作品は無いということはわかる
部屋を見渡すと、キッチン、風呂、トイレ、今俺がいる部屋以外は何も無いようだ
オレンジ色の灯りが、部屋の温かみを強調させているように感じる
今俺がいる部屋、これが、いわばアトリエ本部だろう
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:47:46.31 ID:YkN4Csux0
おもしろいな
wktk
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:48:00.22 ID:stqZjuVn0
「おぉ、来たかぁ。やっぱり来たかぁ」
ホームレスはドアを開くと姿を現した
先ほどの女性も一緒にいる。呼び出したのだろうか?
「あの、来たはいいけど、どうすれば」
思わず口にする。確かに何か明確な目的があってきたわけじゃない
「おめぇ、今日から毎日ここ来い」
ホームレスが歯を見せると、俺は辺りを見渡し、「ここに?」と訊ねた
ホームレスは、「オデはな、佐東ってんだ。サトー先生って呼べぇ」と名乗る
サトーに続いて、女性が名乗り始めた。「平原です」
「や、山田です」
思わず、自ら自己紹介してしまった
サトーはさらにニヤニヤしている
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:52:45.56 ID:M3y2JTLUO
これはいい
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:53:29.01 ID:5gO4HwqRO
ホームレスは西田としゆき
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:54:38.23 ID:YBePZ9VVO
俺は泉谷しげるでいく
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:54:26.40 ID:stqZjuVn0
平原は「山田さんですね。よろしく」と頭を下げると、
サトーは「宮くんは?」と頭を下げた平原に視線を合わせる
「宮くんはまだ来てないです。他は来るみたいです」
社交辞令の挨拶をさらに清書書きしたような返答だった
待て。もしここに毎日来たらどうなるんだ?
違う違う、なんでここに来なければならないんだ
俺は恐る恐る口を開く
「あの、サトー・・・先生」
「なんだァ。山田生徒」
「なんでここに毎日来なければ?」
「嫌かぁ」
そういわれると、僕はこの空間の居心地の良さに気付く
絵に囲まれて、無数に積み重なる本には好奇心を擽られて
静かな夜を過ごすには、最高の場所に思えた
「いえ、嫌では・・・・」
俺がそう言うと、返答したのはサトーではなく、平原だった
「決まりね!」
何が?と俺は頬を掻く
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:55:04.11 ID:RZg/fobNO
これはwktk
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:56:56.60 ID:vhg+fnJ30
引き込まれるなー
これからの展開に期待!
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:57:20.03 ID:RO5Xq8N4O
面白い
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:59:36.99 ID:stqZjuVn0
平原は先ほどまでの敬語を使い捨てるように使わなくなった
まっすぐ、オレンジの部屋の照明に輝く目が、直線状に俺を見る
そして、彼女は口を開いた
「他にもね!宮くんと清水と、紫陽花がいるの!」
宮、清水までは人間なのはわかったが
俺の聞き間違いでなければ今の会話に植物が混ざっていた
「あじさい?」
俺は目を細め、聞き返す。まさかそれが名前ではあるまい
「うん。名付け親はサトー先生」
「子供?」
「猫だよ」
紫陽花という名前の猫
心なしか、響きの良い名前に感じた
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:01:20.16 ID:5gO4HwqRO
ショートの女の子とにゃんこは大好物です
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:04:20.00 ID:YkN4Csux0
気になるぞい
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:04:32.32 ID:QKzN2TaE0
>>今の会話に植物が混ざっていた
こういう書き方好きだwww
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:04:41.30 ID:stqZjuVn0
サトーは、「じゃあ俺はここで」とアトリエを後にした
平原はそれに返事をした後、「いってらっしゃい」と答えた
さあ、ここで俺は女性と部屋で二人きりになってしまった
だが俺は平原に変な真似をする気は全く起きなかった
性欲が消えただとか、平原が好みではないとか、そんな理由じゃない
そんな場所じゃない。そんな気がしただけ
「山田くんだっけ?」
俺は水を被った猫のようなリアクションを取る。意図的ではない
「はい?」
「先生からどこまで聞いた?」
名前、と短く答えると、平原は「それだけ?」と訊いて来た
それに相槌で返すと、平原は「じゃあ、説明しますか」と眉の両端を上げた
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:08:40.95 ID:stqZjuVn0
俺は、お願いしますと言わんばかりに正座をした
すると平原から「足は崩してよい」とのお許しを得た為、俺は再度普通に座った
ふふっ、と微笑んだあと、平原は会話を始めた
「あの人ね、自分のこと『俺』って言ったり『オデ』って言ったりするの」
そんなこと聞いてない
「いや、そうじゃなくて・・・」
「ん?なに?」
「ここは何なの?家にしちゃ狭くない?」
「アトリエだよ?」
会話が成り立たない
確かに俺の心を読み取れという方がおかしい話だが
もう少し常識に沿った回答をしてほしいものだ
「サトー先生の?」
「ううん」
違うのか?
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:12:29.95 ID:stqZjuVn0
「みんなのアトリエなんだ」
平原は真顔でそう答える。俺は質問をどうするか、思考をひっくり返して考える
「ここは児童館的な施設?」
「あー!近い!」
どうやらグレーな回答に成功したようだ
だがそれに近いということは、あくまで近いだけであって、正解ではない
「なんか、悩みを抱えた子供とかあのホームレスが助けてると?」
「100点だよ。山田君」
平原は俺に盛大な拍手を送ってくれた
俺はそれに答え、両手を上げて「どうもどうも」と返す
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:15:24.49 ID:5gO4HwqRO
サトー先生・・・
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:16:28.14 ID:stqZjuVn0
会話の最中、人間以外の声が入り込んだ
最初それに気付いたのは俺だった。それに続いて平原が気付き
「紫陽花!」と玄関の戸を開けた
紫陽花は威風堂々とアトリエに足を踏み入れた
紫陽花は、野良猫なのか。それにしても毛並みの綺麗な黒猫だと俺は見惚れる
「美人でしょ」
最初、紫陽花が喋った!?と目を丸めてしまったが、その声の主が平原であることに気付く
「野良猫なの?」
「うん、野良猫」
紫陽花はテーブルに乗り、尻尾をだらんと垂らして眠りに就いた
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:17:09.54 ID:BY/USfsb0
続きが気になってきましたwww
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:19:36.97 ID:kwvPBUC80
俺の中で平原は中原岬に決定しました
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:20:41.02 ID:6GP/yzPH0
面白いな
支援
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:21:36.14 ID:4Y+zh9Yr0
>>1の文章がすごく好きだ
続きwktk
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:22:15.29 ID:stqZjuVn0
「なんか、不思議なところw」
俺は嫌味に聞こえないよう注意を図りながら苦笑した
平原は微笑み、「でしょー」と胸を張った
紫陽花がチラッと俺を見つめた
「いつまでもいてもいいんだぜ?」とでも言いたげな自信満々な紫陽花の目は、
やはり愛くるしい猫の目だった
「みんなね、色んな事情があってここにいるの」
平原はそう言って、宮くんも、清水も。と続けた
なるほど、つまりここは親にも言えない事情・・・
つまりその子供個人の悩みを持った子が集まる場所なのかと
俺は納得する。俺は、不登校で深夜を徘徊しているのをきっとサトーは
幾度と見つめ、俺をここへ連れてきたのだろう
「事情か・・・」
俺は思わず声を漏らす。平原は、それに小さく頷いた
紫陽花の欠伸の声だけが聞こえる
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:27:23.89 ID:stqZjuVn0
欠伸の後の沈黙の中、平原はおもむろに口を開いた
「キミの事情と私の事情、交換しない?」
「へ?」
「お互い、つらいこととか話し合おうじゃない」
「そのためのアトリエなのか?」
構わないけど。と俺は説明を始めた
俺が高校に行かなくなった理由は本当につまらないことだった
いじめられていたわけでも、嫌な人間がいたわけでも、失恋したわけでもない
複雑になっていく人間関係が恐ろしくなったのだ
そう説明すると、彼女はもっと詳しく聞いても大丈夫?と訊いて来た
俺は頷き、事のあらすじを話した
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:28:28.90 ID:kwvPBUC80
>>1が羨ましい…
俺も夜散歩してみよう
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:32:59.93 ID:stqZjuVn0
陰口の恐ろしさを俺は知らなかった
陰口なんて言わせておけば良いんだよ、人は言うけど
それは確かに理想的。だけど簡単に出来ることじゃない
大切な親友が、女子からの陰口で高校を中退した
その親友は幼稚園からの友達で、小さい頃から笑い話が絶えなかった
「アイツきもいよねー」「実際調子じゃない?」「死ねよ」
蓄積されてく悪口は彼を深く追い詰めていった
彼がやめた後も、陰口は続いた
「なんでやめたの?」「逃げたんでしょw」「学校やめるとか負け犬だよね」
自分も、いつか陰口を叩かれるのではないか
影では後ろ指を差されているのではないか
そのぼんやりとした不安が、全部をダメにした
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:36:27.65 ID:doS3T0VrO
ふむふむ
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:39:24.99 ID:stqZjuVn0
そして俺は学校に行かなくなり、昼夜逆転生活が始まった
誰もいない、話し声ひとつ聞こえない夜は、不安をかき消すものとなった
そんなある日、サトーに出会った。それが昨日の出来事だ
そのまま、俺はアトリエへと誘われた。ということだ
平原は顎に手を当て、俺の話を聞いていた
話のところどころで「うん」「ああー」「そうなんだ・・・」と答えてくれた
俺はそれだけで、少し嬉しかった
「こんな感じ」
俺は自らを嘲笑した。ばかばかしいだろ、と続けると平原は、首を横に振った
「ばかばかしくない。陰口は、確かに怖いと思う」
彼女の目は、真剣そのものだった
「さて」
「え?」
「交換だろ?」
忘れてた、と言わんばかりに少し平原は赤面し、小さな咳払いをした後
「では、お聴きください」と微笑んで言った。俺は、同じ微笑みで返す
どうやら、紫陽花も聞いてるようだ
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:46:44.65 ID:stqZjuVn0
「私のこそ、大した理由じゃないよ」
構わんよ、と言いたげに紫陽花は欠伸をして顔を擦った
「聞きたい」と俺は短く言うと、平原は深呼吸して話を始めた
「監視カメラがね、仕掛けられてたの」
「は?」
耳を疑った。監視カメラ・・・?
まさか、彼女はコンビニの商品棚に住んでるわけではないだろう
「お父さんがね、私の部屋に」
「父親が?」
911テロのニュースを見たときのように、感覚が麻痺してきた
それがどれほど大変なことなのか、冷静に整理を始める
「それで、お父さん私の着替えてるところとかの・・・画像を売ったりして・・・」
「・・・・・・」
「だから私、家飛び出したの」
それはしょうがない、と口にしたくなったが
そんな無責任なこと言える義理は俺には無い
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:48:13.40 ID:QKzN2TaE0
その糞親父今すぐ表出ろ
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:52:23.73 ID:stqZjuVn0
「たいしたことあるじゃん。警察には言った?」
「今はもう、どうでもいいのw過ぎたことだしね」
先ほどの平原の笑顔とは違う。これは無理矢理作られた笑顔だ
その無理矢理作られた笑顔は、俺への気配りなのかと考えると
自分の不甲斐無さが十字架になって背中にのしかかった
「それで、サトー先生が助けてくれたと?」
俺は無理やり話をまとめようとすると、彼女の偽物の笑顔は解けて、
「うん、助けてくれた」
と微笑んだ。これだ、これがこの人の笑顔です
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:56:21.06 ID:stqZjuVn0
「そっか」
腑に落ちない、解せない、納得いかない。どれだろうか
とりあえず、今の俺の心には突っかかる何かがあることは確かだった
「腑に落ちない?」
腑に落ちない、だったか
「うん」
「大丈夫、お父さん今廃人状態だから」
「は?」
まさか、この子は取り返しのつかないことをして
自らの父をナニしたのか、と考えが巡った
「サトー先生がね、私の話聞いて、私の家まで駆けつけてくれたの」
ほぉ、と俺は身を乗り出す。さあ、サトーは何をしたんだ?
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:03:14.03 ID:stqZjuVn0
サトーの手には、バットだとか包丁だとか、そんな物騒なものは握っていなかった
怯えた平原の、白い手のみだった
「大丈夫だぁ。俺がなんとかしてやんからよぉ」
平原は、初対面のホームレスに助けてもらうという不安や微かな希望で混乱していた
それを察したサトーは、大丈夫だぁ。と不器用に平原の頭を撫でた
インターホンを鳴らす。3回目のインターホンで家の電気は点き、玄関の戸が開いた
「お前!!こんな時間にどこをうろついていた!!!」
平原の父の、その発言に平原は奥歯を強く噛み締めた
サトーは、また平原の頭を不器用に撫でる
「お前は誰だ!?お前がアヤを夜中に連れまわしたのか!?」
サトーは、小声で「ちょっとまっててなぁ」と平原の手を離し、父親に一歩一歩近づいた
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:06:19.23 ID:BrXGEaCD0
わっふるわっふる
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:08:50.44 ID:stqZjuVn0
平原もそう思ったらしいが、俺もそこでサトーが父親を殴るなり、蹴るなりするのかと思った
「アンタ、あの子の父親かぁ」
「そうだ。娘に何かしたか?」
サトーは、目を細めて、眉間にしわを寄せる
後頭部を掻き、呆れたように会話を続けた
「アンタ、仕事は何してるぅ?儲かってんか」
「・・・なに?」
「答えなすってぇ。仕事は儲かってんかぁ」
「関係ない」
父親は冷たくあしらい、サトー越しに平原に目をやり
「アヤ!!来い!!」と大声を上げた
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:12:58.63 ID:stqZjuVn0
「あの子はもう、あんたの子じゃねぇなぁ」
サトーがそう言うと、父親は威嚇する肉食動物のように睨み付けた
だが、サトーという草食動物のような男は、一瞬の怯みも見せない
「なんだと?おい貴様。人の娘を夜中に連れまわしてその言い草は・・・・」
「平原!」
サトーは振り返り、訊ねた。平原は戸惑いながらも、返答する
「仕事をするのに使うのは何だ」
「ぱ、パソコン・・・かな・・・・ノートパソコン」
「わかった」
そうサトーが言うと、父親を払い、ずかずかと土足で家に踏み入った
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:18:21.69 ID:stqZjuVn0
「待て!!おい!!訴えるぞ!!!」
父親は、そう雄たけびを上げながら草食動物を引き止めようとするが、
平原がすかさず飛び出し、不器用に父親を掴んだ
父親は顔を真っ赤に染め、平原を振り払おうとしながら、サトーを追う
「離せ!離しなさいアヤ!!!」
平原は、無言でただサトーを信じて、父親を掴む
サトーは立ち止まり、振り返ってこう訊ねた
「お前、お母さんはいねぇのかぁ?」
平原は、掴みながら首をがむしゃらに横に振る。
「そうかぁ」
サトーは踵を返し、
「そりゃ、余計つらいわなぁ」
また歩き出した
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:19:55.36 ID:QvNqeKuH0
やっと追いついた。
だがあえての今北産業
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:21:16.70 ID:K6yoil5WO
>>133
自分の
胸に
聞いてみろ
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:23:07.78 ID:stqZjuVn0
そして、サトーは2階の仕事部屋にてノートパソコンを発見した
父親は、かつて無い剣幕で叫んだ
「おい!!!仕事に使うパソコンに触れるな!!!出てけ!!!殺すぞ!!!!おい!!!」
サトーはそれを塩を舐めたような顔で見つめ、こう訊いた
「あ、これは大事なものなのか」
「当たり前だ!!!それにはなぁ!!!俺の仕事の全てが!!!」
「そうか」
サトーはノートパソコンを手に持ち、
「そりゃ気の毒だなぁ」
窓の外に放り投げた
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:23:52.09 ID:v1ngMIS80
これは面白い・・・・。
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:24:20.12 ID:6GP/yzPH0
佐東かっけぇwwwwwwwwww
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:24:28.27 ID:9xn6oCAYO
師匠ぉぉぉ!
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:27:57.50 ID:0jInknQf0
サトーのキャラ作りがすげえうまいな・・・・・・・
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:29:04.18 ID:stqZjuVn0
サトーの手元を離れたノートパソコンは、
確かに今窓ガラスを破って2階の窓から外へ落ちた
白黒無声映画のように映ったその光景
父親は怒りを通り越えて放心状態となった
平原は見ていた全てに呆気に取られた
「アアアあぁぁぁっぁぁあぁ嗚呼嗚呼!!!!!!」
狂ったか?とサトーは父親を見つめる
父親は口を限界まで見開き、目玉が飛び出るほど見開き、
ノートパソコンを受け取るように窓へと駆け寄った
「ななnnn何をすすっすうs」
父親は、窓から身を乗り出し、アスファルトに散らばる
仕事の破片を見つめていた
「そんなに大事かぁ」
軽く背中を押すだけで、父親はノートパソコンの元へ落ちていった
肉をまな板に乱暴に置くような、生々しい音が聞こえる
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:31:18.09 ID:PAb4K9erO
そんなに大事かぁ
そりゃ気の毒だなぁ…
___
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157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:31:18.49 ID:vCPe3gz40
おぅ・・・・
なまなましくてGOODだ
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:33:57.65 ID:stqZjuVn0
平原は、口を見開いてそれの一部始終を見ていた
父親が落下した。アスファルトの上に
「・・・落とす気が無かったんだがなぁ」
そうサトーはぽかんと父親を見つめた
父親は、足を抑えながらノートパソコンの破片をかき集めていた
「あ、あの・・・」
平原は数歩サトーに近寄った
「何だぁ?」
「こういうときって、感謝していいんでしょうか?」
サトーは、歯を見せて笑った
「知りたけりゃ俺についといて」
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:34:45.43 ID:Rbxru0310
酷い父親もいるもんだな
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:35:33.63 ID:PAb4K9erO
パンツ脱いでいいのかな…
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:35:38.94 ID:MF3/UJqsO
面白いんだけど父親突き落としてからの展開はちょっと怖いな
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:42:24.14 ID:stqZjuVn0
俺は、想像の世界から意識を目の前の平原に戻す
「そんなことが・・・」
駅で会ったときの、モネの話をしていたサトーとは別のサトーを
どうやら平原は知ったようだ。たった今、俺もそれを知った
「でもね、ずっとサトー先生は謝ってたの」
「父親に?」
「ううん」
よほど否定したいのか、平原は余計に首を振る
その流れにそって、髪の毛がさらさらと動いていた
そして、人差し指を自らの胸に当て「私に」と言った
「何で?」
「『嫌なもん見せちまったなぁ』って、ずっと謝ってきたの」
呆れたときにも似た、何処か優しさを感じる顔を彼女は見せた
「それで、何て返したの?」
「一番嫌なもの見たのは、目の前で仕事が壊れたお父さんですって」
平原はそう口にして笑ったが、そんな衝撃的なころが連鎖して続いたにも関わらず
こうして笑顔を見せられるのは、彼女の強いところなのだろう、と俺は思った
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:50:45.76 ID:stqZjuVn0
ひたすら心の内側から剥がれるように、悲しくなった
彼女の話に同情した?確かにそれもあるかもしれない
だが、最もの要因は自分の起こったことの小ささに気付いたからだ
平原は父親から精神的なストレスを植えつけられ、
今尻尾を躍らせている紫陽花も過酷な野良の人生を歩んでいる
俺は何だ。俺はただの勝手な恐怖心だ
「言っとくけど」
平原が人差し指を俺の目の前で立てる
思わず少し仰け反ったが、視界には真剣そのものの眼差しが見える
「このアトリエにいる以上、理由なんて関係無いの」
「え?」
「内容の重さ?軽さ?どうでもいいでしょそんなの」
「・・・・」
「私たちは、助けあうの」
わかった?と彼女は笑顔を近づけてきた
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:59:47.21 ID:stqZjuVn0
俺は、頬を掻きながらうつむく
平原はそれを追うように俺の顔を覗き込む
「まぁ、なんだ。その」
俺は、予想外のその言葉に驚きと
「ありがと」
喜びを感じた。彼女は、ふふーんと口の端を吊り上げた後「どういたまして」と答えた
見計らったように、紫陽花が腰を上げた。「一件落着かな?」と俺の顔を見つめる
「明日も来るよ」
俺は後ろ髪を掻いて、そう言った
「うん、多分明日は宮くんと清水がいると思うよ」
「へぇ」
何で?と問おうと思ったが、彼女は笑顔で「明日土曜日だしね」と微笑んだ
ドアを開けると日の線が目に入り込み、脳を刺激した後、睡魔が襲った
「本当なら学校の支度しなくちゃいけないのにな」
俺は前髪を掻きあげ、朝日を見つめた
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:06:19.78 ID:7epZNoEgO
話の構成が面白いな
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:09:40.83 ID:xb85YyKu0
無論、その日は学校には行かなかった
これは最早日常となっているが、毛布を被った後、
ある疑問が脳裏に浮かんだ
あのアトリエに通い続ければ、俺は学校へ登校するようになるのか?
だがあの平原の例だと、あれは根本的な解決にはなっていない、気がする
確かにあの状態ならば最善の方法だったかもしれない
はたまたそれは最悪かもわからない
だが、サトーは平原に変わって行動した
それはいずれにせよ平原の心の支えになるし、これからの人生に自信も付くだろう
そういえば、警察は動いているのか?という疑問が浮かんだ
そんなに仕事を大事にする父親ならば、会社でも相当必要とされているだろう
それならば、マスコミにスポットライトを当てられることは避けられないのでは?
考えるとキリが無いことに気付いた俺は、目を瞑り就寝した
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:18:54.67 ID:xb85YyKu0
アトリエの扉を開くと、昨日見た部屋の光景に、新たな光景が追加されていた
見知らぬ男性だ。彼もまた、同い年にも見える
黒髪で加工を施しているわけでもないのに、その男性はまったく地味には見えなかった
見知らぬ男性は、本に腰を掛け、膝に紫陽花を載せ、本を読んでいた
「誰?」
男性は、ぱたん、と本を閉じる。紫陽花が愛くるしい鼻を見知らぬ男性の顔へ向けた
あたかも「俺知ってる!こいつ山田って言うんだぜ」とでも言いたげだった
「山田です。サトー先生に連れてこられて」
「あのオッサン、また人連れてきたのか」
見知らぬ男はそう舌打ちをすると、「宮」と答えた
「みゃあ?」
冗談だとか掴みだとかではなく、俺には本当にそう聞こえた
「猫か俺は」
宮は眉をしかめた。「猫だ俺は」と紫陽花も眉をしかめる
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:20:40.03 ID:hb4W8+yU0
イイヨーイイヨー
宮は口は悪いがいい奴そうだな
217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:25:08.45 ID:xb85YyKu0
「あの、宮さん」
俺が言葉を発すると、宮は平手を俺に突きつけた
「敬語やめろ。嫌いなんだ」
「わかった。宮さん」
「さん、もいらない」
堅苦しい作法だとか、何かに束縛されるルールだとかには反発するタイプだな
俺は少なくともそう思った。平原とは正反対なタイプだろう
彼女はルールなどが課せられると、何の迷いも無く従うタイプだ
恐らく俺は、前者だ
「宮、ここって何をする場所なんだ?」
「・・・・・・」
宮は膝の紫陽花を撫で、「うーむ」と唸った
そして、こう続けた
「何かしてもいいし、しなくてもいい」
なんだそりゃ?と俺はわざとらしく両手を上げる
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:31:48.10 ID:xb85YyKu0
ふと、宮が読んでいる本が気になった
「それは?」
俺がそう言って人差し指を本に向けると、
宮は顔中の筋肉を駆使し説明が面倒くさいことを上手く顔に表現した
「知りたいか」
「実はそんなに」
「じゃあ訊くなよ」
「他に話題が無いんだもの」
その後数秒の間。そして沈黙を破って宮が表紙を俺に見せた
俺はそれを見つめてタイトルを読み上げた
「新編銀河鉄道の夜?」
「ああ」
宮沢賢治の最高傑作が、宮の手元にはあった
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:39:11.41 ID:xb85YyKu0
宮は本の話題になると、無意識に頬を緩ませていた
「この本の中の、猫の事務所って話が大好きなんだよ。俺」
「読んだことがある」
中学校のとき、読書感想文の課題でテーマにしたことがある
宮沢賢治や星新一、夢野久作などと独自の世界観を持っている作家は昔から好んで読んでいた
「俺さ、この中の猫が愛くるしくて大好きなんだ」
「確かに」
確かに猫たちが事務所であたふたと仕事をしているさまは、この上無く愛くるしい光景であろう
「宮沢賢治はな、天才だよ。自然を愛している」
愛している、で思い出した。サトーが2日前に話した、モネの妻の話だ
サトーが、あんなにモネに執着する意味は何なんだろうか?
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:41:54.04 ID:daR8BS2y0
>>255
釜猫が不憫な話か
ねずみが家庭教師してたりねずみとねずみとりの話とかその辺の話が多いよな
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:48:40.25 ID:28G23ltW0
こういう良スレがたまにあるからvipはやめられない
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:50:00.69 ID:xb85YyKu0
顎に手を当て、宮は口を開く
「お前に、良い物見せてやろうか?」
明らかに上からの目線であることは感じたが、興味がそれを無きものにした
良い物、初対面の人間に見せるいいものとはなんだろうか?
「良い物?」
「その棚の上の、布の掛かった絵」
親指で棚を差すと、俺は言われるがままにその絵を手に取った
重みのある、まだ油の匂いが残ったその絵画の布を、勢い良く捲くった
そして、俺は見惚れた
「どうだ?」
宮は頬を吊り上げ、俺の顔色を窺う
今、僕の目の前にあるもの。それはモネの作品の一つ、「散歩」に他ならない
http://monet.michikusa.jp/Japanese/msanpo.jpg

234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:52:00.15 ID:hb4W8+yU0
読みつつ絵を見ると、余計に絵が良く見えてくるwww
なんかモネはタッチがふんわりしていて安らぐな
237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:57:49.06 ID:+GszYNdN0
宮沢賢治大好きな自分にとっては、
「宮沢賢治はな、天才だよ。自然を愛している」
の一文がすごく嬉しかった
それにしてもモネの絵は優しい感じが溢れてていいな
238 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:58:18.62 ID:xb85YyKu0
「きれいだ」
言葉を失い、チャチな言葉しか出てこない悔しさも、多少あった
風の音が聞こえるような、指でなぞれば空に触れられるような
柔らかな迫力が、その絵にはあった
「宮沢賢治も、自然を愛していたらしい」
「ふむ」
「モネは、妻を愛していたんだ」
「うん」
「要は大事なものが一つでもあれば、その人の中で何かが変わるってことさ」
宮はそう言って視線を落とし、紫陽花を撫でた
直後、玄関のドアが急に開きだした
この下品なドアの開け方は誰だろうと考えていく
「やあやあ、元気かおめぁら」
サトーだった
460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:00:18.28 ID:xb85YyKu0
サトーは俺と宮の顔を交互に見比べて、「やっぱ似てんなぁ」と笑った
思わず俺と宮は顔を見合わせ、すぐ目線をそらす
宮は「何処がだよ」と口を尖らせたが、俺には意味がすぐわかった
「学校いってねぇやつはみんな同じ顔だぁ」脳内でそう、声がよぎる
2日前に言ったサトーの言葉だ
つまり宮も、俺と同じ不登校だということだろう
暗にサトーは俺にそう言ったのだ
「彼もですか」
確認の意味も込めてそう訊ねると、サトーはあの笑い方で笑い出した
どうたら、当たりらしい。
「何がだよ?」と宮は紫陽花が床に落ちない程度に身を乗り出した
461 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:01:58.26 ID:xb85YyKu0
「ハルは来てねぇかぁ」
そう言って椅子を取り出し、サトーは腰を掛けた
「清水は来てねぇよ。見りゃわかんだろ」
本を見たまま、宮は冷たく答える
ハル、という名詞を聞いて、俺はこのアトリエにまだ登場人物がいるのかと
内心首を傾げたが、宮の反応を見ると清水、イコール、ハルということだろう
さしずめ、ハルという名前は清水の呼び名であろうことはわかった
「ハル?」
俺は推測できながらも、わからないふりをして訊ねる
すると宮は本から俺に目線を変え、蔑みの表情を浮かべて、こう言った
「あいつはな、狂ってんだよ」
462 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:02:46.35 ID:xb85YyKu0
狂ってる?と俺が聞きなおすと、サトーは笑い出し
「ヒッヒッヒ、狂ってるかぁ。確かにそうかもなぁ」
顔をしわくちゃにして、サトーは言った
狂っている?それは自らの娘を利益の種とした
平原の父に勝るほどの狂人なのだろうか
「狂っている?人殺しとか?」
実験的なその俺の発言は、衝撃的な宮の言葉を誘った
宮は、「逆だ」と髪を掻き、こう続けた
「自分を殺そうとしてるんだよ」
その曖昧な表現はは、自殺を意味してることに気付くのに
長い時間は必要としなかった
464 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:03:06.51 ID:xb85YyKu0
清水という人は見たことはないが、話から察するに
精神的に病んでいて、自殺を図ろうとしたところをサトーが助けた
つまりはそういうことなのだろうか?と思考をめぐらせる
「自殺を図ろうとしたところを、サトー先生が助けたと」
俺はそう視線を送ると、サトーが眉にしわを寄せ、
「そんな、めんどっちぃことするわけないだろぉ」と口を尖らせた
違うのか?と片眉を挙げると、サトーが口を開いた
「協力してやったんだよ。色々一緒に死ぬ方法を考えてやってなぁ」
なにやってんだこのオッサン。俺と宮は同じ顔をした
466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:04:12.11 ID:xb85YyKu0
そのサトーの衝撃的な発言に、俺らは呆然とした
宮も同じ顔をしている、ということは宮も知らなかったのだろうか?
「オッサン、そんな理由なのかよ。聞いてねぇぞ」
宮がそう言うと、サトーは「言ってねぇもの」と笑った
この会話から察するに、清水と宮はそんなによく会話する間柄ではないことがわかる
サトーがふと、時計に目をやった。時計の針は深夜2時を差している
「そろそろハル来るから、よろしくなぁ。オデはこの辺で」
サトーは立ち上がり、伸びをしてからアトリエを後にした
467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:04:52.61 ID:xb85YyKu0
サトーの予告から数分経過すると、清水がドアから姿を現した
暗闇の、音も無い住宅街の景気から温かみに包まれたアトリエに踏み入れた
その姿は、想像だにしなかった綺麗な女性だった
彼女が、ハル。清水だ
「・・・宮さん、その男性は」
足を止めて、清水は細々しい声を挙げる
宮は清水が苦手なのか、「山田」と雑に紹介した
「・・・山田さんですか。私は清水といいます」
初めのころの平原に似たその言葉遣いは、宮の額のしわを深めた
なるほど、と思った。宮は敬語嫌いだから、清水のこの言葉遣いが気に入らないのだろう
見た目、辞書には意気軒昂との対義語とも載りそうなその清水の印象が
尚更、宮の不快感を膨らましていくのだろう
「はぁ、よろしく」
そう答えると、清水は無言で部屋の隅に体育座りした
469 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:07:47.75 ID:xb85YyKu0
椅子使えよ、と思った。脳内で、さっきサトーが座ってた椅子があるからと続けた
宮は清水に見向きもせず、読書を続けていた。紫陽花がそれを眺める
うつむく清水、読書する宮、本能がまま寛ぐ紫陽花
各々がそれぞれの方法で時間を過ごしているが、
まだアトリエの景色に入りこんでから日の浅い俺は
どうすればいいのか分かる由も無い
「あの」
試しに口を開くと、四つの眼球が俺を見る
紫陽花は、「お、動いたか」とぴくりと髭を動かした
二人は無言で俺の表情を見つめる
「俺、なんだか流れでなんとなくここに来てしまったんですが
ここで俺は何をすればいいんですか?」
早口な説明口調。「それさっきも聞いたろ」と宮が呆れるように答えた
清水は「そうですか、では先生からは何も伺ってないと」と顔を見せた
小さく、俺は頷く
直後、「ついて来てください」と清水は腰を上げ、玄関の戸を開ける
472 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:10:48.81 ID:xb85YyKu0
彼女は俺がついて来てるいるのかどうかも確認せず
凛と伸びた背のまま夜の住宅街の、更に奥へと歩き出した
歩くたび背中に伸びた髪がゆらゆらと左右に揺れている
俺は置いてかれまいと後を追う
彼女が、話に聞いていた狂人?と俺は疑問に思う
サトーと宮が声を高めるほどの狂人が、彼女だとは考えにくかった
たしかに俺が常に脳内に置いている美人とは
男をたぶらかしてその気にさせて楽しむ性悪を想像していたが、
不思議と彼女からはそのようなものは感じなかった
そして行き着いた先は、あの日俺がサトーと出会った駅だった
473 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:15:41.91 ID:xb85YyKu0
「どうしましょうか」
清水がそう口を開くと、俺の返しを聞く間も無く「やっぱり侵入しかないですね」と
顔色一つ変えず金網に登り始めた
それは違法ですね。とでも返せば、俺は彼女の不法侵入を止められただろうか
「先生」
清水は手馴れたように着地し、サトーに歩み寄る
「おお、ハル。これ、これ見てみ。やっと見つけたよぉ」
顔をしわくちゃにして、サトーは笑った。
突き出したビニール袋には、見たところゴミやガラクタ、落葉や枝が入っていた。
何に使うのか?
474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:17:06.88 ID:xb85YyKu0
サトーが、ビニール袋を片手に駅のプラットフォームに佇んでいた
「その呼び名、出来ればやめて下さい」
清水は目を細めた。どうやらハルという呼び名は彼女にとって遺憾なるものらしい
すると、ハルは清水の下の名前ではないということか。清水ハルではないようだ
「ッヒッヒッヒ・・・・・・で、何で山田がここにいんだぁ?」
サトーは鼻を俺に向けた
俺は清水に言われるがままに来ただけのため、言葉に詰まる
すかさず清水が口を挟む
「私が連れて来ました。先生のアトリエに関する説明が不足していると」
サトーは、「めんどっちぃなぁ」と眉をしかめた
476 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:19:58.99 ID:xb85YyKu0
サトーは、よほど説明が面倒なのか話の腰を折る
「ところでおめえ、何でコイツがハルって呼ばれてっか知ってっかぁ」
清水は目を細め、眉をしかめながら「いきなり何を」と口にした
サトーは、構わず続ける
「コイツ、アトリエで死のうとしたんさぁ。睡眠薬でよぉ」
何でまた、そんなヘビィなことをそんな笑顔で言えるかな、と俺は肩を落とした
清水は無言で、それを聞いている。サトーが構わず続けた
「そのときの睡眠薬がハルシオンだったからよぉ。ハルだぁ」
駄洒落にもならない安易なその理由は、俺の溜め息を招いた
478 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:25:37.17 ID:xb85YyKu0
清水は幼いころ、誘拐されかけた過去があるらしい
小学3年生のとき黒い車の男に「送ってあげるよ」と腕をひっぱられ、
近くにいた大人に助けられた、という
その恐怖心が彼女を蝕み、日の当たらない性格のまま成長した
そして今年、彼女はアルバイト先のコンビニでバイト中、
偶然強盗に出くわしたという
「早く金を出せ。殺すぞ」
恐怖心は無かった。むしろ、恐ろしいほど落ち着いていた
なんで私は、刃物を向けられているんだろう。彼女は遠い目で思った
480 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:28:44.64 ID:xb85YyKu0
結局強盗は偶然近くを通ったパトカーのサイレンに怯え、逃亡した
何も盗られなかったし、何も怪我はなかったが
彼女の気持ちは腑に落ちなかった
「なんでこんな目にばっかり遭うんだろ」
彼女は、帰宅してから部屋でボーッとニュースを眺めた
ニュース画面から流れる文字、言葉は殺人、強盗、誘拐・・・
人間が欲求に負け、自我を失った現れだ
「こんな世の中、なくなってしまえばいい」
彼女はそう思った
481 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:30:45.53 ID:2+AqXQgo0
wktk
482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:33:40.92 ID:xb85YyKu0
彼女は夜、駅のプラットフォームに立っていた
次来る電車は、特急でこの駅には停まらない
彼女の左手には、入場券があった
彼女は、電車に身投げの死を選んだのだ
遠く、駅のプラットフォームからレールの向こうを見つめていた
「やめなぁ」
声の方向へ踵を返すと、薄汚いホームレスがいた
「ここ俺の寝床なんだからよぉ。汚さないでくれよぉ」
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:37:01.53 ID:xb85YyKu0
「関係無いでしょう。私の勝手です」
髪を風になびかせて、清水は言った
「死ぬのは止めねぇさぁ。だけど死ぬ方法選べぇ」
「・・・・は?」
「もっと楽な死に方はあるだろうがよぉってんだあ?」
清水は、ぽかんとホームレスを見つめた
その背後に、列車が高速で通り過ぎていく
「そんなの知りません」
彼女はホームレスを睨み付けた
するとホームレスは歯を見せて、笑った
「知らないなら、教えてやんよぉ。俺のことはサトー先生って呼べぇ」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:51:14.67 ID:xb85YyKu0
アトリエに足を踏み入れた清水は、その景色に魅了された
温かみの溢れる静かなそのアトリエは、何処かノスタルジアを匂わせる
なんとも居心地の良い場所であった
「ほれぇ」
サトーは、あるものを清水へと放り投げた
手に取りそれを見ると、それは錠剤だった
「睡眠薬だぁ。過剰摂取したら死ぬ」
柔らかに、恐ろしいことを口にした
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:56:29.85 ID:xb85YyKu0
「本当に楽に死ねるんですか?」
「ハルシオンって薬剤だぁ。そんなん飲めばわかるだろぉ?」
サトーがそう言うと、思わず清水は手が震えた
この手の上に転がる幾つかの錠剤が今、私の命の左右を決める
意を決して、一気に錠剤を飲み干した
すると、意識がだんだんと遠のいていった
遠のく意識の中、サトーは確かにこう言った
「合格だぁ」
清水は、吐き気と頭痛の中意識を失った
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:00:38.82 ID:xb85YyKu0
目を覚ますと、平らな天井が見えた
本当は白いのであろうが、照明のせいでオレンジに染まっている
「本当に死ぬ気なんだなぁ」
寝たまま顔を右へ向けると、絵画に何か作業をしているサトーが見える
サトーは、別人のように真剣な眼差しで、絵と向かい合っている
「自殺・・・失敗ですね」
「んにゃ、アレは睡眠薬じゃねぇ。ただの風邪薬だぁ」
「へ?」
「知ってるかぁ?風邪薬も飲みすぎたら毒なんだぞぉ?」
サトーは、「皮肉だよなぁ」と笑い出した
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:05:36.49 ID:xb85YyKu0
「私を」
清水はまた天井を見た
「私を試したんですか」
サトーは一旦手を止め、身体を清水の方へと向き直した
そして、満面の笑みで言う
「本当にハルシオンだと思ったかぁ」
「・・・・・・」
「面白ぇやつだなwwよし、俺が楽に死ねる方法を探してやんよぉ」
「へ?」
「今日から毎日、ここに来い!」
そして、今日からおめぇはハルって呼ぶ!と、サトーは大声で笑った
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:07:33.35 ID:kghxzx/IO
wktk
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:09:59.31 ID:xb85YyKu0
俺はその話を聞いて、清水は本当に死のうとしたのだということに僅かな恐怖心を覚えた
清水は怯えながらも、飲めば死ぬ錠剤を服用した。もしそれが本物だったら、清水は死んでいた
清水は、俺を見つめて言葉を発した
「変な話でしょう。ですが、事実です」
そう苦笑した。サトーは、手に持っているビニール袋はくるくると子供のように回し
満面の笑みで言った
「そもそもハルシオンなんて簡単に手に入るもんじゃねぇっつぅのぉ」
そうなんだ、と俺は目を丸めた
だが、ここで新たな恐怖心が芽生えた
じゃあつまり、サトーは清水の自殺に協力する気なのか?
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:14:26.37 ID:xb85YyKu0
少なくともそれは自殺に加担するということだ
つまり、目の前で人が死ぬ
サトーは、目の前で人の死に直面する覚悟はあるのか?
少なくとも、俺は絶対に耐えられない
「今日はもう、各自帰宅しましょう」
清水は踵を返した
そして更にこう続けた
「山田さんにアトリエの説明は出来ませんでしたが、まぁいずれわかってくるものでしょう」
んだぁ、とサトーは微笑んだ。笑顔の耐えない人だな。と俺は思った
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:19:22.24 ID:xb85YyKu0
その次の夜は雨だった
深夜の雨は濡れたアスファルトの匂いと外灯の灯りが程よくマッチしているため
俺は嫌いじゃなかった。だが流石に雨の深夜に好き好んで出歩く人も
なかなか少ないものと思っていたため、アトリエには誰もいないと思ってたが、
「山田か・・・」
「あ!山田くんも来た!」
平原と宮が居た
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:22:26.96 ID:xb85YyKu0
3人は、椅子で向かい合うように座っていた
まるで、文化放送の討論番組のようだった
「雨か」
宮はふと壁を見渡した
俺も釣られて見渡すが、あることに気付く
やはりこのアトリエには、窓が無い
「ここ、窓無いの?」
俺がそう口を開くと、平原は「いいとこに気付いたね!」と両手を挙げた
そしてこう続けた
「夜しか使わないから、窓が必要無いのだよ少年!」
ああ、なるほど。と口にしたのは俺ではなく、宮だった
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:27:40.59 ID:JTDf97JuO
平原はいい性格してるなあ
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:28:42.36 ID:xb85YyKu0
平原は「知らなかったでしょー」「ためになった?」と何度も俺に尋ねてきた
どうやら平原は、人に何かを教えたりして優越感を覚えるのが好きなようだ
いや、全人類そうなんだろうけど
「平原って何でも知ってんだなぁ」
俺は褒めるつもりで言ったのだが、平原は眉を下げた
「それがねー、私にもわからないことだってあるのよー」
あたかも自分は全てを知っているかのようなその言い草が面白かったが
笑いを噛み締めて「なに?」と訊いた
「先生のこと」
サトーのことが?
サトーとは、そんなに謎の多い人物なのか
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:30:44.65 ID:WbXiSL700
ふむふむ
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:32:05.47 ID:xb85YyKu0
宮が、珍しく少し微笑んだ
「じゃあ丁度いいじゃねぇか」
俺は首を傾げる
「丁度いい?」
まったく意味がわからない
そう言うと、宮は顎に手を当て、自慢げに答えた
「先生の情報を出し合って、先生のことを知り合おうぜ!」
「それいいね!」と平原は目を輝かせた
俺にとっても、その提案は嬉しい。無論、賛成だ
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:33:30.12 ID:WbXiSL700
先生のこと気になる
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:34:52.37 ID:X/8i1C4BO
wktk
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:38:03.77 ID:xb85YyKu0
「あの人って、働いてんのか?」
宮のその発言は、平原の「時々バイトしてるのを見るよ」との回答に解決した
そこで、俺がずっと気になっていたことを口にした
「あの人の過去、気になるな
22歳のときモネの『死の床のカミーユ』を見て感動して
絵を買いすぎて破産、とは聞いたけど」
「「え?」」
他の二人は、間抜けな声をあげた
思わず俺も遅れて、「え?」と声を出す
「俺は、株で大暴落して、借金に溺れて
家を売って家族に捨てられたって・・・」
なんだって?俺が聞いた話とは違う
「私はスペースシャトル作る費用が無くなり
借金まみれになったって・・・」
お前はそれを信じたのか。宮と俺は同時に口にした
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:41:53.02 ID:JTDf97JuO
スペースシャトルw
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:42:40.30 ID:xb85YyKu0
どうやら、サトーはそれぞれに別々の嘘をついたらしい
どれが本当であるのかもわからないけど、これでまた彼の過去は謎に包まれた
「じゃあ、何の仕事してたかぐらいわかんないかなぁ」
俺が零した言葉に、二人は反応した
「私知ってるよ!」
平原は手を挙げた。それを見て、宮も焦って手を挙げる
「俺だって知ってる!」
妙な対抗心を燃やした二人は、互いににらみ合った
まぁ、同時に言ってみと俺がふざけていうと、結果は意外なものだった
「「美術館での絵の修復の仕事」」
同じだ
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:49:25.54 ID:xb85YyKu0
美術館の絵の修復。確かにそれは初耳だ
だが二人が同時に口にしたということは、それは事実なのだろうか
「同じだ・・・」
平原は驚きを隠せず、口に手を当てて目を見開く
宮が、確信を得たように頷いた
「一つ、判明したな」
ジグソーパズルは重なるように、
脳内で疑問の糸が解れた
そうなると、俺のモネの話も濃厚になっていく
もしあの人が働いていたのが海外の美術館ならば、
モネの『死の床のカミーユ』に出会うことも不思議ではない
清水が昔、風邪薬から目を覚ました際に行っていた作業も、
絵画の復旧を趣味の領域で行っていたのでは?
アトリエにある『散歩』も、その復旧された一つではないだろうか
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:57:54.28 ID:xb85YyKu0
三人は同時に思考し、少しの沈黙が流れる
他に質問は無いか。俺は記憶の引き出しを漁る
「じゃあ、あの人家族は?」
俺の質問の直後、平原が「私、訊いたことあるよ!」と
手を挙げた。「結果報告を」と指を差した
平原は報告を開始する
「あの人、子宝には恵まれなかったんだってさ」
つまり、子供はいないが妻はいるということか?と
訊ねると、平原は頷いた
宮は腕を組んで、口を挟んだ
「だが、あの人の謎は未だたえないことは事実だな」
同感だ、と俺は肩を落とす
西洋絵画の巨匠 モネ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4096751014/dwctuama-22/ref=nosim/
ここで二度目のスレストをくらって終わりです。続きを探したのですが、見つからなかったです。
ピッコロスレもそうですが、あまり長いとどんなに良スレでも読まれないということがわかったので、
一旦ここで区切りを入れたいと思います。
続きは見つけ次第まとめます。
なかなか深夜ってのは静かでさ、1時となると車も通らないんだわ
だから、道路の真ん中をわざわざ歩いたりとかしてみたり
夜の公園でボケーッとしたりするのが日課になっていた
そして朝になると俺は帰宅し、就寝した
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:15:21.77 ID:MYlauSma0
なんで奈須きのこがいるんだよ
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:16:31.15 ID:stqZjuVn0
ある日、ホームレスに出会った
最初は警察かなとドキッとしたけど、その薄汚い姿を見て安心した
「おめぇ、なんだ」
ホームレスはそう目を見開いて訊ねてきたが、なんと答えればいいのかわからん
「学校にも行ってない高校生でつ☆」とでも自己紹介してやろうか、と思ったが
「寝付けなくて、散歩です」
と答えた
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:18:49.60 ID:stqZjuVn0
「補導されんぞ、さっさとけぇれ(帰れ)」
とホームレスは言ったが、はいそうですかと帰るのも気に食わないので
俺はルートを変えて散歩することにした
いつもは住宅街の中の小さな公園で休んだりしていたけど
仕方が無いから線路沿いの道をブラブラチンチンすることにした
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:22:29.90 ID:stqZjuVn0
「けぇれっつったろ」
駅の階段で腰を下ろしていると、ホームレスはどこからともなく姿を現した
「ウオッ!?」
「補導されんぞ」
ずっと着けてたのか?と思うと、なんだか嫌悪感が走った
「えー!?マジストーカー!?キモーい!」「ストーカーが許されるのはー、小学生までだよねー!」
俺の脳名で二人の少女がそう言った
「ずっと追ってたんですか?」
「んにゃ、ここに寝とる」
どうやら、ホームレスは駅で暖を取っているらしい
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:23:53.87 ID:sHEq+v4u0
wkwk
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:25:28.20 ID:qfP1P6AbO
期待
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:26:57.39 ID:stqZjuVn0
「おめぇ、学校には行ってんのか」
ドキッとした。俺の心が「貴様、見ているな!」と声をあげた
いや、もしかしたら勘で言ってるかもしてない
「はい」
「嘘だな」
ホームレスを汚い歯をむき出しにして笑った
ヒーッヒッヒッヒと、肺に煙が詰まったような笑い声だ
アレだ、なんか引き気味に聞こえるあの笑い方
「なんでですか」
「だいたいわかんだよ。学校いってねぇやつはみんな同じ顔だぁ」
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:28:45.13 ID:6ktAhEWm0
wktk
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:30:56.14 ID:stqZjuVn0
俺は腰を上げ、帰りたいという姿勢をものすごく遠まわしに見せた
「同じ顔?」
「んあー、そうだ。勉強できねぇのが丸出しだっつの」
そう言ってまたホームレスは笑った
なんだ?俺バカにされてんのか?と俺は気分を害した
「バカにしてるんですか」
「だってバカじゃねぇか」
腹が立った。奥歯を噛み締めて、怒りを抑えた
「帰ります」
「そうやって逃げて、学校からも逃げて、現実から逃げるかぁ
そんなんじゃ、俺みてぇになっちまうぞー!ヒッヒッヒwww」
ホームレスは自虐した
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:33:31.65 ID:TvzYJtdp0
悪いそれ俺の親父だわ
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:33:35.98 ID:stqZjuVn0
「はい、そうですか」
俺は適当に聞き流し、家へと帰ろうとしたとき
ホームレスはぴたりと笑いをやめた
「待て!」
「?」
俺は思わず足を止めた
「久しぶりに俺人と話したんだぁ」
「はぁ」
「どうだ、聞いていかねえか。俺の話」
気がつくと、俺は駅の階段に腰をかけていた
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:36:36.26 ID:stqZjuVn0
「俺なぁ、絵が好きだったんだよ」
画家を目指して、成就せずホームレスか。と嘲笑しそうになる
「はあ」
「でもな、画家にはなりたくなかったんだよぉ。普通の企業に勤めるだけでよかったんだよぉ」
「じゃあなんで」
こんな有様になったのかと続けようと思ったが、それはあまりにも失礼だからやめた
「絵をな、買いすぎちまって破産さw」
笑えねぇよ、と俺は肩を落とした
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:39:51.80 ID:stqZjuVn0
「モネって画家知ってるかぁ?少年?知らないかなぁ」
「知ってます」
中学のとき、勉強した覚えがある
『散歩』や『日傘を差す女性』などを描いたフランスの画家だったはず
「ほんとかぁ?」
その上目遣いに俺はまた腹を立てたが、
ホームレスはまた笑って、「冗談だ冗談」と肩を叩いた
「で、モネがなんですか」
「モネにはなぁ、妻がいたんだよ」
知っている。たしか、カミーユという名前だったはず
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:41:52.27 ID:stqZjuVn0
「カミーユですか」
「知ってんのか!んでな、モネは妻をとても愛し続けたんだよお」
愛ねぇ、と俺は頬をかいた
「へえ」
「だが、カミーユはモネを置いて命を絶ったんさぁ。死んだんだよ」
「それは哀しい」
「そりゃ、モネは絶望するよなぁ」
知りません、と言いかける
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:43:20.07 ID:IvYhbtCDO
いい
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:44:04.90 ID:6ktAhEWm0
イイヨイイヨ~
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:45:37.61 ID:TWf+1xyJO
とりあえずホームレスを
大杉蓮で脳内変換してみた
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:47:12.03 ID:6ktAhEWm0
>>26
はまり役すぐるwww
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:45:58.02 ID:stqZjuVn0
「モネの、『死の床のカミーユ』という作品は亡き妻を描いた作品だあ」
「死の床のカミーユ」
復唱するけど、そんな名前の作品は知らなかった
だけど、名前からして何か良さげなものは感じた
「俺はな、22の時にその作品を見たんだよー。海外でだ。すごいだろ?」
このよくわかんないオッサンならば、北海道沖縄さえも海外と呼びそうだから
俺は適当に「はあ」と相槌を打った
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:49:34.75 ID:stqZjuVn0
「泣いた」
俺の素っ気ないリアクションに?と思ったが、どうやら違う
ホームレスはうつむいたまま遠い目をしている
「その作品を見て?」
「だってよ、あまりにもせつねぇじゃんかよ。なぁ、そう思わねぇか」
感情的に同意を求められても、困りますと顔に表して眉をしかめた
「そうですね」
「その絵のカミーユがよぉ・・・すごいんだ・・・」
「美しい?」
「それもある」
「?」
両手を雨を受け取るように出し、遠い目で言った
「幸せそうなんだ。死に顔なのによ」
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:52:35.78 ID:stqZjuVn0
「へ?」
「普通よぉ・・・死ぬときは苦しいだろ・・・目を細めて息を荒らしてよぉ・・・
それなのに、カミーユは本当に幸せそうに笑ってたんだよ」
「・・・・」
「モネは本当にカミーユを愛していた。カミーユは幸せだった。二人は幸せだった
それが心を掘って、埋めるように伝わって来るんだよぉ・・・」
「・・・・」
「哀しいじゃねぇか・・・残されたモネはどうなっちまうんだよ・・・」
「その絵が、今を招いたと」
「そうだな」
ホームレスは、笑った
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:57:22.70 ID:stqZjuVn0
その感動が、あなたの人生を狂わせたのかと心の中で問いかけた
ホームレスは俺の心の声に答えるように口を開いた
「でもな、俺後悔してねぇや」
またホームレスは歯を見せた
「なんで?」
「その絵を見れたから、もういつでも死んでいいっちゅう話!」
ホームレスは笑っているが、その言葉は本気のように感じた
直後、ホームレスはポケットから紙を取り出した
「なんすかこれ」
「ここに俺のアトリエがあるから」
「画家なんですか!?」
そもそもホームレスじゃないんですか!?
「いや、ただのホームレスだぁ」
ホームレスはそう笑うと、腰を上げ、隅っこに寝そべると「寝る」と言ったきり何も言わなかった
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:58:54.93 ID:stqZjuVn0
ちなみに、これが『死の床のカミーユ』
http://monet.michikusa.jp/Japanese/msinotoko.jpg
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 20:59:14.73 ID:yfnLHEvJ0
wktkしてやんよ
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:02:08.94 ID:Z/Bph7sL0
急に面白そうになってきた
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:02:50.53 ID:stqZjuVn0
その日の帰り道、アトリエがあるんならアトリエで寝泊りすればいいのにと俺は何度も考えた。
わざわざ駅で寝なくてもいいのにと
帰ってから、『死の床のカミーユ』を検索し、見た
なるほど、確かに幸せそうだと俺は相槌を打つ
そして紙を見ると、非常に汚い文字で、緑のペンで「ここ」と描かれてる地図があった
正直わかりやすいとは言いにくいものではあったが、なんとか解読は出来た
翌日の深夜。俺はそのアトリエを訪れた
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:04:11.75 ID:Ud+cFW8E0
wktk
>>1みたいな文章ツボ、頑張れ俺は見続ける
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:07:02.77 ID:6ktAhEWm0
wktkしてやんよ
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:08:01.99 ID:stqZjuVn0
アトリエねぇ、と俺はその建物を見つめた
そのサイコロのようなカタチをした建物を俺は見つめていた
ぎゅうぎゅうに住宅街に民家が詰まる中、むりやり「ごめんください」と無理矢理尻を突っ込んで場所を確保した
そんな不自然さをかねそろえたその建物は、真っ白のサイコロのようだった
電気がついているのかはわからなかった。というのも、窓は見られなかった
ドアの前に立ち、インターホンを鳴らした
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:11:30.40 ID:stqZjuVn0
「はーい?」
女性が現れた。若い同い年ぐらいの、ショートヘアーが似合う色白な女性
俺は言葉に詰まった。あのホームレスが出てくるんじゃないのかよだとか
もしかしてそれが本当の姿ですかホームレスさんと心の中で大声を出し、
どう言うべきかを考えた。考えてみればあのホームレスは名前さえ知らない
「ああ、あの、まぁ」
「?」
女性は首を傾げて、「先生のお客様?」と恐る恐る口にした
先生とはあのホームレスか?と俺は考える
思い出したように、あの渡された紙を無言で渡してみた
「ん?・・・・・・・ふっwこれは先生の字だww」
間違いない、あのホームレスが先生のようだ
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:38:54.72 ID:stqZjuVn0
アトリエに足を踏み入れると、まずその散らかりように呆然とした
絞りきった画材のチューブだとか、デッサンの失敗作を丸めて散らかしたもの
それがところ狭し、それに重なるかのごとし散乱している
でもまぁ俺の部屋よりは綺麗だわ、と俺がボーッとアトリエを眺めていた
女性はが口を開く
「では、先生はもうじき帰ってきますので。椅子におかけになってください」
同年代ぐらいに見えるその女性の接客の良さは、もはや輝いていた
俺は言われるがまま、椅子に腰掛けた
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:42:41.21 ID:stqZjuVn0
四角形の空間の中には、様々な絵画が飾られたり置かれたりしていた
絵画は上手なのか下手なのか俺にはわからないが、少なくとも
モネのような心の糸を巻き込むような作品は無いということはわかる
部屋を見渡すと、キッチン、風呂、トイレ、今俺がいる部屋以外は何も無いようだ
オレンジ色の灯りが、部屋の温かみを強調させているように感じる
今俺がいる部屋、これが、いわばアトリエ本部だろう
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:47:46.31 ID:YkN4Csux0
おもしろいな
wktk
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:48:00.22 ID:stqZjuVn0
「おぉ、来たかぁ。やっぱり来たかぁ」
ホームレスはドアを開くと姿を現した
先ほどの女性も一緒にいる。呼び出したのだろうか?
「あの、来たはいいけど、どうすれば」
思わず口にする。確かに何か明確な目的があってきたわけじゃない
「おめぇ、今日から毎日ここ来い」
ホームレスが歯を見せると、俺は辺りを見渡し、「ここに?」と訊ねた
ホームレスは、「オデはな、佐東ってんだ。サトー先生って呼べぇ」と名乗る
サトーに続いて、女性が名乗り始めた。「平原です」
「や、山田です」
思わず、自ら自己紹介してしまった
サトーはさらにニヤニヤしている
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:52:45.56 ID:M3y2JTLUO
これはいい
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:53:29.01 ID:5gO4HwqRO
ホームレスは西田としゆき
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:54:38.23 ID:YBePZ9VVO
俺は泉谷しげるでいく
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:54:26.40 ID:stqZjuVn0
平原は「山田さんですね。よろしく」と頭を下げると、
サトーは「宮くんは?」と頭を下げた平原に視線を合わせる
「宮くんはまだ来てないです。他は来るみたいです」
社交辞令の挨拶をさらに清書書きしたような返答だった
待て。もしここに毎日来たらどうなるんだ?
違う違う、なんでここに来なければならないんだ
俺は恐る恐る口を開く
「あの、サトー・・・先生」
「なんだァ。山田生徒」
「なんでここに毎日来なければ?」
「嫌かぁ」
そういわれると、僕はこの空間の居心地の良さに気付く
絵に囲まれて、無数に積み重なる本には好奇心を擽られて
静かな夜を過ごすには、最高の場所に思えた
「いえ、嫌では・・・・」
俺がそう言うと、返答したのはサトーではなく、平原だった
「決まりね!」
何が?と俺は頬を掻く
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:55:04.11 ID:RZg/fobNO
これはwktk
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:56:56.60 ID:vhg+fnJ30
引き込まれるなー
これからの展開に期待!
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:57:20.03 ID:RO5Xq8N4O
面白い
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 21:59:36.99 ID:stqZjuVn0
平原は先ほどまでの敬語を使い捨てるように使わなくなった
まっすぐ、オレンジの部屋の照明に輝く目が、直線状に俺を見る
そして、彼女は口を開いた
「他にもね!宮くんと清水と、紫陽花がいるの!」
宮、清水までは人間なのはわかったが
俺の聞き間違いでなければ今の会話に植物が混ざっていた
「あじさい?」
俺は目を細め、聞き返す。まさかそれが名前ではあるまい
「うん。名付け親はサトー先生」
「子供?」
「猫だよ」
紫陽花という名前の猫
心なしか、響きの良い名前に感じた
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:01:20.16 ID:5gO4HwqRO
ショートの女の子とにゃんこは大好物です
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:04:20.00 ID:YkN4Csux0
気になるぞい
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:04:32.32 ID:QKzN2TaE0
>>今の会話に植物が混ざっていた
こういう書き方好きだwww
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:04:41.30 ID:stqZjuVn0
サトーは、「じゃあ俺はここで」とアトリエを後にした
平原はそれに返事をした後、「いってらっしゃい」と答えた
さあ、ここで俺は女性と部屋で二人きりになってしまった
だが俺は平原に変な真似をする気は全く起きなかった
性欲が消えただとか、平原が好みではないとか、そんな理由じゃない
そんな場所じゃない。そんな気がしただけ
「山田くんだっけ?」
俺は水を被った猫のようなリアクションを取る。意図的ではない
「はい?」
「先生からどこまで聞いた?」
名前、と短く答えると、平原は「それだけ?」と訊いて来た
それに相槌で返すと、平原は「じゃあ、説明しますか」と眉の両端を上げた
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:08:40.95 ID:stqZjuVn0
俺は、お願いしますと言わんばかりに正座をした
すると平原から「足は崩してよい」とのお許しを得た為、俺は再度普通に座った
ふふっ、と微笑んだあと、平原は会話を始めた
「あの人ね、自分のこと『俺』って言ったり『オデ』って言ったりするの」
そんなこと聞いてない
「いや、そうじゃなくて・・・」
「ん?なに?」
「ここは何なの?家にしちゃ狭くない?」
「アトリエだよ?」
会話が成り立たない
確かに俺の心を読み取れという方がおかしい話だが
もう少し常識に沿った回答をしてほしいものだ
「サトー先生の?」
「ううん」
違うのか?
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:12:29.95 ID:stqZjuVn0
「みんなのアトリエなんだ」
平原は真顔でそう答える。俺は質問をどうするか、思考をひっくり返して考える
「ここは児童館的な施設?」
「あー!近い!」
どうやらグレーな回答に成功したようだ
だがそれに近いということは、あくまで近いだけであって、正解ではない
「なんか、悩みを抱えた子供とかあのホームレスが助けてると?」
「100点だよ。山田君」
平原は俺に盛大な拍手を送ってくれた
俺はそれに答え、両手を上げて「どうもどうも」と返す
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:15:24.49 ID:5gO4HwqRO
サトー先生・・・
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:16:28.14 ID:stqZjuVn0
会話の最中、人間以外の声が入り込んだ
最初それに気付いたのは俺だった。それに続いて平原が気付き
「紫陽花!」と玄関の戸を開けた
紫陽花は威風堂々とアトリエに足を踏み入れた
紫陽花は、野良猫なのか。それにしても毛並みの綺麗な黒猫だと俺は見惚れる
「美人でしょ」
最初、紫陽花が喋った!?と目を丸めてしまったが、その声の主が平原であることに気付く
「野良猫なの?」
「うん、野良猫」
紫陽花はテーブルに乗り、尻尾をだらんと垂らして眠りに就いた
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:17:09.54 ID:BY/USfsb0
続きが気になってきましたwww
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:19:36.97 ID:kwvPBUC80
俺の中で平原は中原岬に決定しました
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:20:41.02 ID:6GP/yzPH0
面白いな
支援
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:21:36.14 ID:4Y+zh9Yr0
>>1の文章がすごく好きだ
続きwktk
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:22:15.29 ID:stqZjuVn0
「なんか、不思議なところw」
俺は嫌味に聞こえないよう注意を図りながら苦笑した
平原は微笑み、「でしょー」と胸を張った
紫陽花がチラッと俺を見つめた
「いつまでもいてもいいんだぜ?」とでも言いたげな自信満々な紫陽花の目は、
やはり愛くるしい猫の目だった
「みんなね、色んな事情があってここにいるの」
平原はそう言って、宮くんも、清水も。と続けた
なるほど、つまりここは親にも言えない事情・・・
つまりその子供個人の悩みを持った子が集まる場所なのかと
俺は納得する。俺は、不登校で深夜を徘徊しているのをきっとサトーは
幾度と見つめ、俺をここへ連れてきたのだろう
「事情か・・・」
俺は思わず声を漏らす。平原は、それに小さく頷いた
紫陽花の欠伸の声だけが聞こえる
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:27:23.89 ID:stqZjuVn0
欠伸の後の沈黙の中、平原はおもむろに口を開いた
「キミの事情と私の事情、交換しない?」
「へ?」
「お互い、つらいこととか話し合おうじゃない」
「そのためのアトリエなのか?」
構わないけど。と俺は説明を始めた
俺が高校に行かなくなった理由は本当につまらないことだった
いじめられていたわけでも、嫌な人間がいたわけでも、失恋したわけでもない
複雑になっていく人間関係が恐ろしくなったのだ
そう説明すると、彼女はもっと詳しく聞いても大丈夫?と訊いて来た
俺は頷き、事のあらすじを話した
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:28:28.90 ID:kwvPBUC80
>>1が羨ましい…
俺も夜散歩してみよう
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:32:59.93 ID:stqZjuVn0
陰口の恐ろしさを俺は知らなかった
陰口なんて言わせておけば良いんだよ、人は言うけど
それは確かに理想的。だけど簡単に出来ることじゃない
大切な親友が、女子からの陰口で高校を中退した
その親友は幼稚園からの友達で、小さい頃から笑い話が絶えなかった
「アイツきもいよねー」「実際調子じゃない?」「死ねよ」
蓄積されてく悪口は彼を深く追い詰めていった
彼がやめた後も、陰口は続いた
「なんでやめたの?」「逃げたんでしょw」「学校やめるとか負け犬だよね」
自分も、いつか陰口を叩かれるのではないか
影では後ろ指を差されているのではないか
そのぼんやりとした不安が、全部をダメにした
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:36:27.65 ID:doS3T0VrO
ふむふむ
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:39:24.99 ID:stqZjuVn0
そして俺は学校に行かなくなり、昼夜逆転生活が始まった
誰もいない、話し声ひとつ聞こえない夜は、不安をかき消すものとなった
そんなある日、サトーに出会った。それが昨日の出来事だ
そのまま、俺はアトリエへと誘われた。ということだ
平原は顎に手を当て、俺の話を聞いていた
話のところどころで「うん」「ああー」「そうなんだ・・・」と答えてくれた
俺はそれだけで、少し嬉しかった
「こんな感じ」
俺は自らを嘲笑した。ばかばかしいだろ、と続けると平原は、首を横に振った
「ばかばかしくない。陰口は、確かに怖いと思う」
彼女の目は、真剣そのものだった
「さて」
「え?」
「交換だろ?」
忘れてた、と言わんばかりに少し平原は赤面し、小さな咳払いをした後
「では、お聴きください」と微笑んで言った。俺は、同じ微笑みで返す
どうやら、紫陽花も聞いてるようだ
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:46:44.65 ID:stqZjuVn0
「私のこそ、大した理由じゃないよ」
構わんよ、と言いたげに紫陽花は欠伸をして顔を擦った
「聞きたい」と俺は短く言うと、平原は深呼吸して話を始めた
「監視カメラがね、仕掛けられてたの」
「は?」
耳を疑った。監視カメラ・・・?
まさか、彼女はコンビニの商品棚に住んでるわけではないだろう
「お父さんがね、私の部屋に」
「父親が?」
911テロのニュースを見たときのように、感覚が麻痺してきた
それがどれほど大変なことなのか、冷静に整理を始める
「それで、お父さん私の着替えてるところとかの・・・画像を売ったりして・・・」
「・・・・・・」
「だから私、家飛び出したの」
それはしょうがない、と口にしたくなったが
そんな無責任なこと言える義理は俺には無い
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:48:13.40 ID:QKzN2TaE0
その糞親父今すぐ表出ろ
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:52:23.73 ID:stqZjuVn0
「たいしたことあるじゃん。警察には言った?」
「今はもう、どうでもいいのw過ぎたことだしね」
先ほどの平原の笑顔とは違う。これは無理矢理作られた笑顔だ
その無理矢理作られた笑顔は、俺への気配りなのかと考えると
自分の不甲斐無さが十字架になって背中にのしかかった
「それで、サトー先生が助けてくれたと?」
俺は無理やり話をまとめようとすると、彼女の偽物の笑顔は解けて、
「うん、助けてくれた」
と微笑んだ。これだ、これがこの人の笑顔です
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 22:56:21.06 ID:stqZjuVn0
「そっか」
腑に落ちない、解せない、納得いかない。どれだろうか
とりあえず、今の俺の心には突っかかる何かがあることは確かだった
「腑に落ちない?」
腑に落ちない、だったか
「うん」
「大丈夫、お父さん今廃人状態だから」
「は?」
まさか、この子は取り返しのつかないことをして
自らの父をナニしたのか、と考えが巡った
「サトー先生がね、私の話聞いて、私の家まで駆けつけてくれたの」
ほぉ、と俺は身を乗り出す。さあ、サトーは何をしたんだ?
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:03:14.03 ID:stqZjuVn0
サトーの手には、バットだとか包丁だとか、そんな物騒なものは握っていなかった
怯えた平原の、白い手のみだった
「大丈夫だぁ。俺がなんとかしてやんからよぉ」
平原は、初対面のホームレスに助けてもらうという不安や微かな希望で混乱していた
それを察したサトーは、大丈夫だぁ。と不器用に平原の頭を撫でた
インターホンを鳴らす。3回目のインターホンで家の電気は点き、玄関の戸が開いた
「お前!!こんな時間にどこをうろついていた!!!」
平原の父の、その発言に平原は奥歯を強く噛み締めた
サトーは、また平原の頭を不器用に撫でる
「お前は誰だ!?お前がアヤを夜中に連れまわしたのか!?」
サトーは、小声で「ちょっとまっててなぁ」と平原の手を離し、父親に一歩一歩近づいた
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:06:19.23 ID:BrXGEaCD0
わっふるわっふる
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:08:50.44 ID:stqZjuVn0
平原もそう思ったらしいが、俺もそこでサトーが父親を殴るなり、蹴るなりするのかと思った
「アンタ、あの子の父親かぁ」
「そうだ。娘に何かしたか?」
サトーは、目を細めて、眉間にしわを寄せる
後頭部を掻き、呆れたように会話を続けた
「アンタ、仕事は何してるぅ?儲かってんか」
「・・・なに?」
「答えなすってぇ。仕事は儲かってんかぁ」
「関係ない」
父親は冷たくあしらい、サトー越しに平原に目をやり
「アヤ!!来い!!」と大声を上げた
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:12:58.63 ID:stqZjuVn0
「あの子はもう、あんたの子じゃねぇなぁ」
サトーがそう言うと、父親は威嚇する肉食動物のように睨み付けた
だが、サトーという草食動物のような男は、一瞬の怯みも見せない
「なんだと?おい貴様。人の娘を夜中に連れまわしてその言い草は・・・・」
「平原!」
サトーは振り返り、訊ねた。平原は戸惑いながらも、返答する
「仕事をするのに使うのは何だ」
「ぱ、パソコン・・・かな・・・・ノートパソコン」
「わかった」
そうサトーが言うと、父親を払い、ずかずかと土足で家に踏み入った
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:18:21.69 ID:stqZjuVn0
「待て!!おい!!訴えるぞ!!!」
父親は、そう雄たけびを上げながら草食動物を引き止めようとするが、
平原がすかさず飛び出し、不器用に父親を掴んだ
父親は顔を真っ赤に染め、平原を振り払おうとしながら、サトーを追う
「離せ!離しなさいアヤ!!!」
平原は、無言でただサトーを信じて、父親を掴む
サトーは立ち止まり、振り返ってこう訊ねた
「お前、お母さんはいねぇのかぁ?」
平原は、掴みながら首をがむしゃらに横に振る。
「そうかぁ」
サトーは踵を返し、
「そりゃ、余計つらいわなぁ」
また歩き出した
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:19:55.36 ID:QvNqeKuH0
やっと追いついた。
だがあえての今北産業
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:21:16.70 ID:K6yoil5WO
>>133
自分の
胸に
聞いてみろ
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:23:07.78 ID:stqZjuVn0
そして、サトーは2階の仕事部屋にてノートパソコンを発見した
父親は、かつて無い剣幕で叫んだ
「おい!!!仕事に使うパソコンに触れるな!!!出てけ!!!殺すぞ!!!!おい!!!」
サトーはそれを塩を舐めたような顔で見つめ、こう訊いた
「あ、これは大事なものなのか」
「当たり前だ!!!それにはなぁ!!!俺の仕事の全てが!!!」
「そうか」
サトーはノートパソコンを手に持ち、
「そりゃ気の毒だなぁ」
窓の外に放り投げた
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:23:52.09 ID:v1ngMIS80
これは面白い・・・・。
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:24:20.12 ID:6GP/yzPH0
佐東かっけぇwwwwwwwwww
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:24:28.27 ID:9xn6oCAYO
師匠ぉぉぉ!
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:27:57.50 ID:0jInknQf0
サトーのキャラ作りがすげえうまいな・・・・・・・
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:29:04.18 ID:stqZjuVn0
サトーの手元を離れたノートパソコンは、
確かに今窓ガラスを破って2階の窓から外へ落ちた
白黒無声映画のように映ったその光景
父親は怒りを通り越えて放心状態となった
平原は見ていた全てに呆気に取られた
「アアアあぁぁぁっぁぁあぁ嗚呼嗚呼!!!!!!」
狂ったか?とサトーは父親を見つめる
父親は口を限界まで見開き、目玉が飛び出るほど見開き、
ノートパソコンを受け取るように窓へと駆け寄った
「ななnnn何をすすっすうs」
父親は、窓から身を乗り出し、アスファルトに散らばる
仕事の破片を見つめていた
「そんなに大事かぁ」
軽く背中を押すだけで、父親はノートパソコンの元へ落ちていった
肉をまな板に乱暴に置くような、生々しい音が聞こえる
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:31:18.09 ID:PAb4K9erO
そんなに大事かぁ
そりゃ気の毒だなぁ…
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157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:31:18.49 ID:vCPe3gz40
おぅ・・・・
なまなましくてGOODだ
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:33:57.65 ID:stqZjuVn0
平原は、口を見開いてそれの一部始終を見ていた
父親が落下した。アスファルトの上に
「・・・落とす気が無かったんだがなぁ」
そうサトーはぽかんと父親を見つめた
父親は、足を抑えながらノートパソコンの破片をかき集めていた
「あ、あの・・・」
平原は数歩サトーに近寄った
「何だぁ?」
「こういうときって、感謝していいんでしょうか?」
サトーは、歯を見せて笑った
「知りたけりゃ俺についといて」
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:34:45.43 ID:Rbxru0310
酷い父親もいるもんだな
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:35:33.63 ID:PAb4K9erO
パンツ脱いでいいのかな…
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:35:38.94 ID:MF3/UJqsO
面白いんだけど父親突き落としてからの展開はちょっと怖いな
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:42:24.14 ID:stqZjuVn0
俺は、想像の世界から意識を目の前の平原に戻す
「そんなことが・・・」
駅で会ったときの、モネの話をしていたサトーとは別のサトーを
どうやら平原は知ったようだ。たった今、俺もそれを知った
「でもね、ずっとサトー先生は謝ってたの」
「父親に?」
「ううん」
よほど否定したいのか、平原は余計に首を振る
その流れにそって、髪の毛がさらさらと動いていた
そして、人差し指を自らの胸に当て「私に」と言った
「何で?」
「『嫌なもん見せちまったなぁ』って、ずっと謝ってきたの」
呆れたときにも似た、何処か優しさを感じる顔を彼女は見せた
「それで、何て返したの?」
「一番嫌なもの見たのは、目の前で仕事が壊れたお父さんですって」
平原はそう口にして笑ったが、そんな衝撃的なころが連鎖して続いたにも関わらず
こうして笑顔を見せられるのは、彼女の強いところなのだろう、と俺は思った
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:50:45.76 ID:stqZjuVn0
ひたすら心の内側から剥がれるように、悲しくなった
彼女の話に同情した?確かにそれもあるかもしれない
だが、最もの要因は自分の起こったことの小ささに気付いたからだ
平原は父親から精神的なストレスを植えつけられ、
今尻尾を躍らせている紫陽花も過酷な野良の人生を歩んでいる
俺は何だ。俺はただの勝手な恐怖心だ
「言っとくけど」
平原が人差し指を俺の目の前で立てる
思わず少し仰け反ったが、視界には真剣そのものの眼差しが見える
「このアトリエにいる以上、理由なんて関係無いの」
「え?」
「内容の重さ?軽さ?どうでもいいでしょそんなの」
「・・・・」
「私たちは、助けあうの」
わかった?と彼女は笑顔を近づけてきた
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/27(火) 23:59:47.21 ID:stqZjuVn0
俺は、頬を掻きながらうつむく
平原はそれを追うように俺の顔を覗き込む
「まぁ、なんだ。その」
俺は、予想外のその言葉に驚きと
「ありがと」
喜びを感じた。彼女は、ふふーんと口の端を吊り上げた後「どういたまして」と答えた
見計らったように、紫陽花が腰を上げた。「一件落着かな?」と俺の顔を見つめる
「明日も来るよ」
俺は後ろ髪を掻いて、そう言った
「うん、多分明日は宮くんと清水がいると思うよ」
「へぇ」
何で?と問おうと思ったが、彼女は笑顔で「明日土曜日だしね」と微笑んだ
ドアを開けると日の線が目に入り込み、脳を刺激した後、睡魔が襲った
「本当なら学校の支度しなくちゃいけないのにな」
俺は前髪を掻きあげ、朝日を見つめた
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:06:19.78 ID:7epZNoEgO
話の構成が面白いな
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:09:40.83 ID:xb85YyKu0
無論、その日は学校には行かなかった
これは最早日常となっているが、毛布を被った後、
ある疑問が脳裏に浮かんだ
あのアトリエに通い続ければ、俺は学校へ登校するようになるのか?
だがあの平原の例だと、あれは根本的な解決にはなっていない、気がする
確かにあの状態ならば最善の方法だったかもしれない
はたまたそれは最悪かもわからない
だが、サトーは平原に変わって行動した
それはいずれにせよ平原の心の支えになるし、これからの人生に自信も付くだろう
そういえば、警察は動いているのか?という疑問が浮かんだ
そんなに仕事を大事にする父親ならば、会社でも相当必要とされているだろう
それならば、マスコミにスポットライトを当てられることは避けられないのでは?
考えるとキリが無いことに気付いた俺は、目を瞑り就寝した
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:18:54.67 ID:xb85YyKu0
アトリエの扉を開くと、昨日見た部屋の光景に、新たな光景が追加されていた
見知らぬ男性だ。彼もまた、同い年にも見える
黒髪で加工を施しているわけでもないのに、その男性はまったく地味には見えなかった
見知らぬ男性は、本に腰を掛け、膝に紫陽花を載せ、本を読んでいた
「誰?」
男性は、ぱたん、と本を閉じる。紫陽花が愛くるしい鼻を見知らぬ男性の顔へ向けた
あたかも「俺知ってる!こいつ山田って言うんだぜ」とでも言いたげだった
「山田です。サトー先生に連れてこられて」
「あのオッサン、また人連れてきたのか」
見知らぬ男はそう舌打ちをすると、「宮」と答えた
「みゃあ?」
冗談だとか掴みだとかではなく、俺には本当にそう聞こえた
「猫か俺は」
宮は眉をしかめた。「猫だ俺は」と紫陽花も眉をしかめる
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:20:40.03 ID:hb4W8+yU0
イイヨーイイヨー
宮は口は悪いがいい奴そうだな
217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:25:08.45 ID:xb85YyKu0
「あの、宮さん」
俺が言葉を発すると、宮は平手を俺に突きつけた
「敬語やめろ。嫌いなんだ」
「わかった。宮さん」
「さん、もいらない」
堅苦しい作法だとか、何かに束縛されるルールだとかには反発するタイプだな
俺は少なくともそう思った。平原とは正反対なタイプだろう
彼女はルールなどが課せられると、何の迷いも無く従うタイプだ
恐らく俺は、前者だ
「宮、ここって何をする場所なんだ?」
「・・・・・・」
宮は膝の紫陽花を撫で、「うーむ」と唸った
そして、こう続けた
「何かしてもいいし、しなくてもいい」
なんだそりゃ?と俺はわざとらしく両手を上げる
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:31:48.10 ID:xb85YyKu0
ふと、宮が読んでいる本が気になった
「それは?」
俺がそう言って人差し指を本に向けると、
宮は顔中の筋肉を駆使し説明が面倒くさいことを上手く顔に表現した
「知りたいか」
「実はそんなに」
「じゃあ訊くなよ」
「他に話題が無いんだもの」
その後数秒の間。そして沈黙を破って宮が表紙を俺に見せた
俺はそれを見つめてタイトルを読み上げた
「新編銀河鉄道の夜?」
「ああ」
宮沢賢治の最高傑作が、宮の手元にはあった
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:39:11.41 ID:xb85YyKu0
宮は本の話題になると、無意識に頬を緩ませていた
「この本の中の、猫の事務所って話が大好きなんだよ。俺」
「読んだことがある」
中学校のとき、読書感想文の課題でテーマにしたことがある
宮沢賢治や星新一、夢野久作などと独自の世界観を持っている作家は昔から好んで読んでいた
「俺さ、この中の猫が愛くるしくて大好きなんだ」
「確かに」
確かに猫たちが事務所であたふたと仕事をしているさまは、この上無く愛くるしい光景であろう
「宮沢賢治はな、天才だよ。自然を愛している」
愛している、で思い出した。サトーが2日前に話した、モネの妻の話だ
サトーが、あんなにモネに執着する意味は何なんだろうか?
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:41:54.04 ID:daR8BS2y0
>>255
釜猫が不憫な話か
ねずみが家庭教師してたりねずみとねずみとりの話とかその辺の話が多いよな
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:48:40.25 ID:28G23ltW0
こういう良スレがたまにあるからvipはやめられない
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:50:00.69 ID:xb85YyKu0
顎に手を当て、宮は口を開く
「お前に、良い物見せてやろうか?」
明らかに上からの目線であることは感じたが、興味がそれを無きものにした
良い物、初対面の人間に見せるいいものとはなんだろうか?
「良い物?」
「その棚の上の、布の掛かった絵」
親指で棚を差すと、俺は言われるがままにその絵を手に取った
重みのある、まだ油の匂いが残ったその絵画の布を、勢い良く捲くった
そして、俺は見惚れた
「どうだ?」
宮は頬を吊り上げ、俺の顔色を窺う
今、僕の目の前にあるもの。それはモネの作品の一つ、「散歩」に他ならない
http://monet.michikusa.jp/Japanese/msanpo.jpg
234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:52:00.15 ID:hb4W8+yU0
読みつつ絵を見ると、余計に絵が良く見えてくるwww
なんかモネはタッチがふんわりしていて安らぐな
237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:57:49.06 ID:+GszYNdN0
宮沢賢治大好きな自分にとっては、
「宮沢賢治はな、天才だよ。自然を愛している」
の一文がすごく嬉しかった
それにしてもモネの絵は優しい感じが溢れてていいな
238 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 00:58:18.62 ID:xb85YyKu0
「きれいだ」
言葉を失い、チャチな言葉しか出てこない悔しさも、多少あった
風の音が聞こえるような、指でなぞれば空に触れられるような
柔らかな迫力が、その絵にはあった
「宮沢賢治も、自然を愛していたらしい」
「ふむ」
「モネは、妻を愛していたんだ」
「うん」
「要は大事なものが一つでもあれば、その人の中で何かが変わるってことさ」
宮はそう言って視線を落とし、紫陽花を撫でた
直後、玄関のドアが急に開きだした
この下品なドアの開け方は誰だろうと考えていく
「やあやあ、元気かおめぁら」
サトーだった
460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:00:18.28 ID:xb85YyKu0
サトーは俺と宮の顔を交互に見比べて、「やっぱ似てんなぁ」と笑った
思わず俺と宮は顔を見合わせ、すぐ目線をそらす
宮は「何処がだよ」と口を尖らせたが、俺には意味がすぐわかった
「学校いってねぇやつはみんな同じ顔だぁ」脳内でそう、声がよぎる
2日前に言ったサトーの言葉だ
つまり宮も、俺と同じ不登校だということだろう
暗にサトーは俺にそう言ったのだ
「彼もですか」
確認の意味も込めてそう訊ねると、サトーはあの笑い方で笑い出した
どうたら、当たりらしい。
「何がだよ?」と宮は紫陽花が床に落ちない程度に身を乗り出した
461 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:01:58.26 ID:xb85YyKu0
「ハルは来てねぇかぁ」
そう言って椅子を取り出し、サトーは腰を掛けた
「清水は来てねぇよ。見りゃわかんだろ」
本を見たまま、宮は冷たく答える
ハル、という名詞を聞いて、俺はこのアトリエにまだ登場人物がいるのかと
内心首を傾げたが、宮の反応を見ると清水、イコール、ハルということだろう
さしずめ、ハルという名前は清水の呼び名であろうことはわかった
「ハル?」
俺は推測できながらも、わからないふりをして訊ねる
すると宮は本から俺に目線を変え、蔑みの表情を浮かべて、こう言った
「あいつはな、狂ってんだよ」
462 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:02:46.35 ID:xb85YyKu0
狂ってる?と俺が聞きなおすと、サトーは笑い出し
「ヒッヒッヒ、狂ってるかぁ。確かにそうかもなぁ」
顔をしわくちゃにして、サトーは言った
狂っている?それは自らの娘を利益の種とした
平原の父に勝るほどの狂人なのだろうか
「狂っている?人殺しとか?」
実験的なその俺の発言は、衝撃的な宮の言葉を誘った
宮は、「逆だ」と髪を掻き、こう続けた
「自分を殺そうとしてるんだよ」
その曖昧な表現はは、自殺を意味してることに気付くのに
長い時間は必要としなかった
464 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:03:06.51 ID:xb85YyKu0
清水という人は見たことはないが、話から察するに
精神的に病んでいて、自殺を図ろうとしたところをサトーが助けた
つまりはそういうことなのだろうか?と思考をめぐらせる
「自殺を図ろうとしたところを、サトー先生が助けたと」
俺はそう視線を送ると、サトーが眉にしわを寄せ、
「そんな、めんどっちぃことするわけないだろぉ」と口を尖らせた
違うのか?と片眉を挙げると、サトーが口を開いた
「協力してやったんだよ。色々一緒に死ぬ方法を考えてやってなぁ」
なにやってんだこのオッサン。俺と宮は同じ顔をした
466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:04:12.11 ID:xb85YyKu0
そのサトーの衝撃的な発言に、俺らは呆然とした
宮も同じ顔をしている、ということは宮も知らなかったのだろうか?
「オッサン、そんな理由なのかよ。聞いてねぇぞ」
宮がそう言うと、サトーは「言ってねぇもの」と笑った
この会話から察するに、清水と宮はそんなによく会話する間柄ではないことがわかる
サトーがふと、時計に目をやった。時計の針は深夜2時を差している
「そろそろハル来るから、よろしくなぁ。オデはこの辺で」
サトーは立ち上がり、伸びをしてからアトリエを後にした
467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:04:52.61 ID:xb85YyKu0
サトーの予告から数分経過すると、清水がドアから姿を現した
暗闇の、音も無い住宅街の景気から温かみに包まれたアトリエに踏み入れた
その姿は、想像だにしなかった綺麗な女性だった
彼女が、ハル。清水だ
「・・・宮さん、その男性は」
足を止めて、清水は細々しい声を挙げる
宮は清水が苦手なのか、「山田」と雑に紹介した
「・・・山田さんですか。私は清水といいます」
初めのころの平原に似たその言葉遣いは、宮の額のしわを深めた
なるほど、と思った。宮は敬語嫌いだから、清水のこの言葉遣いが気に入らないのだろう
見た目、辞書には意気軒昂との対義語とも載りそうなその清水の印象が
尚更、宮の不快感を膨らましていくのだろう
「はぁ、よろしく」
そう答えると、清水は無言で部屋の隅に体育座りした
469 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:07:47.75 ID:xb85YyKu0
椅子使えよ、と思った。脳内で、さっきサトーが座ってた椅子があるからと続けた
宮は清水に見向きもせず、読書を続けていた。紫陽花がそれを眺める
うつむく清水、読書する宮、本能がまま寛ぐ紫陽花
各々がそれぞれの方法で時間を過ごしているが、
まだアトリエの景色に入りこんでから日の浅い俺は
どうすればいいのか分かる由も無い
「あの」
試しに口を開くと、四つの眼球が俺を見る
紫陽花は、「お、動いたか」とぴくりと髭を動かした
二人は無言で俺の表情を見つめる
「俺、なんだか流れでなんとなくここに来てしまったんですが
ここで俺は何をすればいいんですか?」
早口な説明口調。「それさっきも聞いたろ」と宮が呆れるように答えた
清水は「そうですか、では先生からは何も伺ってないと」と顔を見せた
小さく、俺は頷く
直後、「ついて来てください」と清水は腰を上げ、玄関の戸を開ける
472 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:10:48.81 ID:xb85YyKu0
彼女は俺がついて来てるいるのかどうかも確認せず
凛と伸びた背のまま夜の住宅街の、更に奥へと歩き出した
歩くたび背中に伸びた髪がゆらゆらと左右に揺れている
俺は置いてかれまいと後を追う
彼女が、話に聞いていた狂人?と俺は疑問に思う
サトーと宮が声を高めるほどの狂人が、彼女だとは考えにくかった
たしかに俺が常に脳内に置いている美人とは
男をたぶらかしてその気にさせて楽しむ性悪を想像していたが、
不思議と彼女からはそのようなものは感じなかった
そして行き着いた先は、あの日俺がサトーと出会った駅だった
473 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:15:41.91 ID:xb85YyKu0
「どうしましょうか」
清水がそう口を開くと、俺の返しを聞く間も無く「やっぱり侵入しかないですね」と
顔色一つ変えず金網に登り始めた
それは違法ですね。とでも返せば、俺は彼女の不法侵入を止められただろうか
「先生」
清水は手馴れたように着地し、サトーに歩み寄る
「おお、ハル。これ、これ見てみ。やっと見つけたよぉ」
顔をしわくちゃにして、サトーは笑った。
突き出したビニール袋には、見たところゴミやガラクタ、落葉や枝が入っていた。
何に使うのか?
474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:17:06.88 ID:xb85YyKu0
サトーが、ビニール袋を片手に駅のプラットフォームに佇んでいた
「その呼び名、出来ればやめて下さい」
清水は目を細めた。どうやらハルという呼び名は彼女にとって遺憾なるものらしい
すると、ハルは清水の下の名前ではないということか。清水ハルではないようだ
「ッヒッヒッヒ・・・・・・で、何で山田がここにいんだぁ?」
サトーは鼻を俺に向けた
俺は清水に言われるがままに来ただけのため、言葉に詰まる
すかさず清水が口を挟む
「私が連れて来ました。先生のアトリエに関する説明が不足していると」
サトーは、「めんどっちぃなぁ」と眉をしかめた
476 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:19:58.99 ID:xb85YyKu0
サトーは、よほど説明が面倒なのか話の腰を折る
「ところでおめえ、何でコイツがハルって呼ばれてっか知ってっかぁ」
清水は目を細め、眉をしかめながら「いきなり何を」と口にした
サトーは、構わず続ける
「コイツ、アトリエで死のうとしたんさぁ。睡眠薬でよぉ」
何でまた、そんなヘビィなことをそんな笑顔で言えるかな、と俺は肩を落とした
清水は無言で、それを聞いている。サトーが構わず続けた
「そのときの睡眠薬がハルシオンだったからよぉ。ハルだぁ」
駄洒落にもならない安易なその理由は、俺の溜め息を招いた
478 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:25:37.17 ID:xb85YyKu0
清水は幼いころ、誘拐されかけた過去があるらしい
小学3年生のとき黒い車の男に「送ってあげるよ」と腕をひっぱられ、
近くにいた大人に助けられた、という
その恐怖心が彼女を蝕み、日の当たらない性格のまま成長した
そして今年、彼女はアルバイト先のコンビニでバイト中、
偶然強盗に出くわしたという
「早く金を出せ。殺すぞ」
恐怖心は無かった。むしろ、恐ろしいほど落ち着いていた
なんで私は、刃物を向けられているんだろう。彼女は遠い目で思った
480 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:28:44.64 ID:xb85YyKu0
結局強盗は偶然近くを通ったパトカーのサイレンに怯え、逃亡した
何も盗られなかったし、何も怪我はなかったが
彼女の気持ちは腑に落ちなかった
「なんでこんな目にばっかり遭うんだろ」
彼女は、帰宅してから部屋でボーッとニュースを眺めた
ニュース画面から流れる文字、言葉は殺人、強盗、誘拐・・・
人間が欲求に負け、自我を失った現れだ
「こんな世の中、なくなってしまえばいい」
彼女はそう思った
481 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:30:45.53 ID:2+AqXQgo0
wktk
482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:33:40.92 ID:xb85YyKu0
彼女は夜、駅のプラットフォームに立っていた
次来る電車は、特急でこの駅には停まらない
彼女の左手には、入場券があった
彼女は、電車に身投げの死を選んだのだ
遠く、駅のプラットフォームからレールの向こうを見つめていた
「やめなぁ」
声の方向へ踵を返すと、薄汚いホームレスがいた
「ここ俺の寝床なんだからよぉ。汚さないでくれよぉ」
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:37:01.53 ID:xb85YyKu0
「関係無いでしょう。私の勝手です」
髪を風になびかせて、清水は言った
「死ぬのは止めねぇさぁ。だけど死ぬ方法選べぇ」
「・・・・は?」
「もっと楽な死に方はあるだろうがよぉってんだあ?」
清水は、ぽかんとホームレスを見つめた
その背後に、列車が高速で通り過ぎていく
「そんなの知りません」
彼女はホームレスを睨み付けた
するとホームレスは歯を見せて、笑った
「知らないなら、教えてやんよぉ。俺のことはサトー先生って呼べぇ」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:51:14.67 ID:xb85YyKu0
アトリエに足を踏み入れた清水は、その景色に魅了された
温かみの溢れる静かなそのアトリエは、何処かノスタルジアを匂わせる
なんとも居心地の良い場所であった
「ほれぇ」
サトーは、あるものを清水へと放り投げた
手に取りそれを見ると、それは錠剤だった
「睡眠薬だぁ。過剰摂取したら死ぬ」
柔らかに、恐ろしいことを口にした
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 20:56:29.85 ID:xb85YyKu0
「本当に楽に死ねるんですか?」
「ハルシオンって薬剤だぁ。そんなん飲めばわかるだろぉ?」
サトーがそう言うと、思わず清水は手が震えた
この手の上に転がる幾つかの錠剤が今、私の命の左右を決める
意を決して、一気に錠剤を飲み干した
すると、意識がだんだんと遠のいていった
遠のく意識の中、サトーは確かにこう言った
「合格だぁ」
清水は、吐き気と頭痛の中意識を失った
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:00:38.82 ID:xb85YyKu0
目を覚ますと、平らな天井が見えた
本当は白いのであろうが、照明のせいでオレンジに染まっている
「本当に死ぬ気なんだなぁ」
寝たまま顔を右へ向けると、絵画に何か作業をしているサトーが見える
サトーは、別人のように真剣な眼差しで、絵と向かい合っている
「自殺・・・失敗ですね」
「んにゃ、アレは睡眠薬じゃねぇ。ただの風邪薬だぁ」
「へ?」
「知ってるかぁ?風邪薬も飲みすぎたら毒なんだぞぉ?」
サトーは、「皮肉だよなぁ」と笑い出した
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:05:36.49 ID:xb85YyKu0
「私を」
清水はまた天井を見た
「私を試したんですか」
サトーは一旦手を止め、身体を清水の方へと向き直した
そして、満面の笑みで言う
「本当にハルシオンだと思ったかぁ」
「・・・・・・」
「面白ぇやつだなwwよし、俺が楽に死ねる方法を探してやんよぉ」
「へ?」
「今日から毎日、ここに来い!」
そして、今日からおめぇはハルって呼ぶ!と、サトーは大声で笑った
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:07:33.35 ID:kghxzx/IO
wktk
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:09:59.31 ID:xb85YyKu0
俺はその話を聞いて、清水は本当に死のうとしたのだということに僅かな恐怖心を覚えた
清水は怯えながらも、飲めば死ぬ錠剤を服用した。もしそれが本物だったら、清水は死んでいた
清水は、俺を見つめて言葉を発した
「変な話でしょう。ですが、事実です」
そう苦笑した。サトーは、手に持っているビニール袋はくるくると子供のように回し
満面の笑みで言った
「そもそもハルシオンなんて簡単に手に入るもんじゃねぇっつぅのぉ」
そうなんだ、と俺は目を丸めた
だが、ここで新たな恐怖心が芽生えた
じゃあつまり、サトーは清水の自殺に協力する気なのか?
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:14:26.37 ID:xb85YyKu0
少なくともそれは自殺に加担するということだ
つまり、目の前で人が死ぬ
サトーは、目の前で人の死に直面する覚悟はあるのか?
少なくとも、俺は絶対に耐えられない
「今日はもう、各自帰宅しましょう」
清水は踵を返した
そして更にこう続けた
「山田さんにアトリエの説明は出来ませんでしたが、まぁいずれわかってくるものでしょう」
んだぁ、とサトーは微笑んだ。笑顔の耐えない人だな。と俺は思った
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:19:22.24 ID:xb85YyKu0
その次の夜は雨だった
深夜の雨は濡れたアスファルトの匂いと外灯の灯りが程よくマッチしているため
俺は嫌いじゃなかった。だが流石に雨の深夜に好き好んで出歩く人も
なかなか少ないものと思っていたため、アトリエには誰もいないと思ってたが、
「山田か・・・」
「あ!山田くんも来た!」
平原と宮が居た
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:22:26.96 ID:xb85YyKu0
3人は、椅子で向かい合うように座っていた
まるで、文化放送の討論番組のようだった
「雨か」
宮はふと壁を見渡した
俺も釣られて見渡すが、あることに気付く
やはりこのアトリエには、窓が無い
「ここ、窓無いの?」
俺がそう口を開くと、平原は「いいとこに気付いたね!」と両手を挙げた
そしてこう続けた
「夜しか使わないから、窓が必要無いのだよ少年!」
ああ、なるほど。と口にしたのは俺ではなく、宮だった
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:27:40.59 ID:JTDf97JuO
平原はいい性格してるなあ
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:28:42.36 ID:xb85YyKu0
平原は「知らなかったでしょー」「ためになった?」と何度も俺に尋ねてきた
どうやら平原は、人に何かを教えたりして優越感を覚えるのが好きなようだ
いや、全人類そうなんだろうけど
「平原って何でも知ってんだなぁ」
俺は褒めるつもりで言ったのだが、平原は眉を下げた
「それがねー、私にもわからないことだってあるのよー」
あたかも自分は全てを知っているかのようなその言い草が面白かったが
笑いを噛み締めて「なに?」と訊いた
「先生のこと」
サトーのことが?
サトーとは、そんなに謎の多い人物なのか
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:30:44.65 ID:WbXiSL700
ふむふむ
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:32:05.47 ID:xb85YyKu0
宮が、珍しく少し微笑んだ
「じゃあ丁度いいじゃねぇか」
俺は首を傾げる
「丁度いい?」
まったく意味がわからない
そう言うと、宮は顎に手を当て、自慢げに答えた
「先生の情報を出し合って、先生のことを知り合おうぜ!」
「それいいね!」と平原は目を輝かせた
俺にとっても、その提案は嬉しい。無論、賛成だ
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:33:30.12 ID:WbXiSL700
先生のこと気になる
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:34:52.37 ID:X/8i1C4BO
wktk
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:38:03.77 ID:xb85YyKu0
「あの人って、働いてんのか?」
宮のその発言は、平原の「時々バイトしてるのを見るよ」との回答に解決した
そこで、俺がずっと気になっていたことを口にした
「あの人の過去、気になるな
22歳のときモネの『死の床のカミーユ』を見て感動して
絵を買いすぎて破産、とは聞いたけど」
「「え?」」
他の二人は、間抜けな声をあげた
思わず俺も遅れて、「え?」と声を出す
「俺は、株で大暴落して、借金に溺れて
家を売って家族に捨てられたって・・・」
なんだって?俺が聞いた話とは違う
「私はスペースシャトル作る費用が無くなり
借金まみれになったって・・・」
お前はそれを信じたのか。宮と俺は同時に口にした
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:41:53.02 ID:JTDf97JuO
スペースシャトルw
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:42:40.30 ID:xb85YyKu0
どうやら、サトーはそれぞれに別々の嘘をついたらしい
どれが本当であるのかもわからないけど、これでまた彼の過去は謎に包まれた
「じゃあ、何の仕事してたかぐらいわかんないかなぁ」
俺が零した言葉に、二人は反応した
「私知ってるよ!」
平原は手を挙げた。それを見て、宮も焦って手を挙げる
「俺だって知ってる!」
妙な対抗心を燃やした二人は、互いににらみ合った
まぁ、同時に言ってみと俺がふざけていうと、結果は意外なものだった
「「美術館での絵の修復の仕事」」
同じだ
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:49:25.54 ID:xb85YyKu0
美術館の絵の修復。確かにそれは初耳だ
だが二人が同時に口にしたということは、それは事実なのだろうか
「同じだ・・・」
平原は驚きを隠せず、口に手を当てて目を見開く
宮が、確信を得たように頷いた
「一つ、判明したな」
ジグソーパズルは重なるように、
脳内で疑問の糸が解れた
そうなると、俺のモネの話も濃厚になっていく
もしあの人が働いていたのが海外の美術館ならば、
モネの『死の床のカミーユ』に出会うことも不思議ではない
清水が昔、風邪薬から目を覚ました際に行っていた作業も、
絵画の復旧を趣味の領域で行っていたのでは?
アトリエにある『散歩』も、その復旧された一つではないだろうか
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/28(水) 21:57:54.28 ID:xb85YyKu0
三人は同時に思考し、少しの沈黙が流れる
他に質問は無いか。俺は記憶の引き出しを漁る
「じゃあ、あの人家族は?」
俺の質問の直後、平原が「私、訊いたことあるよ!」と
手を挙げた。「結果報告を」と指を差した
平原は報告を開始する
「あの人、子宝には恵まれなかったんだってさ」
つまり、子供はいないが妻はいるということか?と
訊ねると、平原は頷いた
宮は腕を組んで、口を挟んだ
「だが、あの人の謎は未だたえないことは事実だな」
同感だ、と俺は肩を落とす
西洋絵画の巨匠 モネ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4096751014/dwctuama-22/ref=nosim/
ここで二度目のスレストをくらって終わりです。続きを探したのですが、見つからなかったです。
ピッコロスレもそうですが、あまり長いとどんなに良スレでも読まれないということがわかったので、
一旦ここで区切りを入れたいと思います。
続きは見つけ次第まとめます。