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なぜ岡山少女監禁事件で「壁一面に少女アニメポスター」という情報が流れたのか

Business Media 誠 7月29日(火)11時43分配信

 岡山の少女監禁事件でマスコミが「犯人が自宅に美少女アニメのポスターを壁や天井にまんべんなく貼っていた」と報じたことが、「オタク差別だ」とか「少女アニメファンが犯罪者予備軍だと印象づけようとしている」と批判の声があがっている。

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 宮崎勤(東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の容疑者として逮捕、死刑判決が確定し、2008年に刑死した)の時代から、少女が犠牲になる事件が起きるたびに、いわれのない「差別」を受けてきた美少女アニメファンからすれば腹をたてる気持ちも分からんでもない。ただ、個人的には今回の事件においてはその特殊性から、「美少女アニメ」もあながち無関係な話ではないと思っている。

 昔、新潟で下校途中の9歳の少女を9年2カ月間監禁した男の部屋に足を踏み入れたことがある。そこにあったのは大量のラミネート加工したアイドルやスーパーカー写真だった。潔癖性の男は「汚れ」を極度に嫌った。自分が「美しい」と思うものにホコリがついたりするのが我慢ならない。だからラミネートで覆ったのである。

 男は誘拐してきた少女を9年2カ月の監禁中に一度たりとも部屋から出さなかったという。事件発覚当初はそんなの絶対ウソだと思って取材をしていたが、彼の「コレクション」を実際にこの目で見たことで、その異常な行動の意味が分かった気がした。

 「監禁」というあまりに異常な犯罪を、しかも少女を相手に行うという発想は我々には到底理解できない。そのために「精神鑑定」があるじゃないかと思うかもしれないが、 異常な行動に走る犯罪者というのは、決して本当のことは明かさない。要するに、自分の都合のいいような話しかしないのだ。

●精神鑑定は「科学」ではなく「文学」

 宅間守(大阪教育大学附属池田小学校で児童・教諭を殺傷した。死刑判決が確定し、2004年に刑死した)が精神疾患を「詐病」することに成功したように、意図的にヒアリングでおかしな発言をすればどうとでも診断される。よく言われることだが、精神鑑定というのは「科学」ではなく「文学」なのだ。

 だから、犯罪者の考えを理解するにはその人物が生きてきた歴史、そして環境が重要になる。だから、彼の「部屋」のなかにも少女を「妻」と呼ぶ理由が隠されている、と個人的には思う。

 ただ、その一方で「偏向報道だ!」「在日の事件は報じないのにアニメファンは叩くのか!」みたいに怒るみなさんの気持ちもよく分かる。「犯罪」が起きた時、犯人がどんなアニメが好きだとか、どんなホラー映画が好きだなんだという話は、かなり恣意的に使われるからだ。

●情報を供給する側の“事情”

 週刊誌記者になりたてのころ、大分で15歳の少年が隣家で暮らす一家6人を殺傷するという痛ましい事件を取材したことがある。少年は隣家が寝静まるのを見計らって、手袋をはめてサバイバルナイフとハンマーを手にして、風呂場のガラスを割って侵入。「皆殺しだ!」と叫びながら6人を次々と襲った。うち3人はほぼ即死。2人は重症、1人は軽症だった。

 サバイバルナイフで相手を即死させるということは、しっかりと急所に狙いを定めて刺したということだ。一体どういう少年なのか、と取材を進めるうちに、少年の友人たちに話を聞くことができた。そのなかの1人は少年が某人気マンガを愛読しており、その中に登場する刀を武器にするキャラクターの“大ファン”だということと、事件に関係があるのではということを言った。

 「サバイバルナイフで殺してまわったと聞いてすぐに××が思い浮かびました。あいつは××のことが大好きで、刀で切ってまわるふりとかして遊んでいたから……」

 その後、少年がホラー映画や暴力的なゲームを楽しんでいたことが明らかになり、少年が凶行に及んだ背景に残虐描写やゲームが影響したのではないかという報道がちょこちょこなされることになった。

 もちろん、私のいた週刊誌でも「映画やゲームが悪影響」というような記事を出したのが、友人が指摘した「人気マンガ」については一切触れなかった。この人気マンガを愛する方たちから、「マンガと少年犯罪を結びつけるな!」というクレームが入るし、なによりも出版社が「マンガ」のマイナス面を指摘できるわけがない。

 つまり、何が言いたいのかというと、なにかの事件が起きた時、世に流れてくる情報というのはすべからく供給者側の“事情”が関係しているということだ。

 そう考えると、今回の「少女アニメのポスター」の意味もよく分かる。

●ホッと胸をなで下ろす連中

 少女が無事に救出されたことや、「49歳自称イラストレーター」のキャラばかりに注目が集まっているが、その陰で岡山県警の「ミス」についてはあまりスポットが当たっていない。

 少女の母親が、声をかけてくる不審者がいるとクルマのナンバーまで告げて相談をしていたにも関わらず、なにも対策をとっていなかった。無事だったから良かったようなものの、その「相談」はどう処理されていたのかという問題がある。

 さらに、犯人を特定してからの「張り込み」も近所にバレバレだった。なぜバレてはいけないかというと、もし捜査の手が伸びていることに悲観し、犯人が「証拠隠滅」に走る恐れがあるからだ。

 こういう失態から目を逸らすには、これよりも大きな“ネタ”をもってくるのがいい。企業が不祥事を公表するのに、政治やスポーツのビッグニュースがある日を狙うのと同じだ。それが「少女アニメのポスター」だったというわけだ。

●胸をなで下ろしている連中がいる

 先の新潟の監禁事件でも逮捕後、県警幹部は積極的に「監禁男」の奇行をマスコミにリークした。本人が後から「デタラメだ」と怒るほどガセもあった。なんでこんなに気前がいいのかと首をかしげていたら、少女が9年2カ月ぶりに救出された日、県警本部長が一報を無視して、温泉宿で賭け麻雀をしていることが明らかになった。さらに少女がさらわれた当初、少女わいせつの前科があった犯人が容疑者リストから抜け落ちていたというどでかいミスも。

 ネットのみなさんは「マスゴミがアニメファンを犯罪者予備軍だと印象づける陰謀だ!」と怒ってらっしゃる。広い世の中だ。そういう陰謀もあるのかもしれないが、今回はもっとシンプルではないか。

 「美少女ポスター」報道の裏で、ホッと胸をなで下ろしている連中がいることを忘れてはいけない。


[窪田順生,Business Media 誠]

最終更新:7月29日(火)11時43分

Business Media 誠

 

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