|
近年、有明海や瀬戸内海を中心にとある魚による漁業被害が広がっている。その魚はナルトビエイと言う大型のエイで、アサリやカキなどの二枚貝を好んで大量に食べるため、それらの漁場を荒らしてしまうのだという。
ナルトビエイも悪気があってやっているわけではないのだが、彼ら自身はあまりおいしくなく、水産的な価値をほとんど持たないため漁業従事者の方々は大いに手を焼いているらしい。 だがちょっと待った。アサリやカキなんていいモノを食べまくっている魚がマズいなんてことがあるだろうか。ちょっと信じられない。 > 個人サイト いきものいきもの エイリアンのつかまえかた アサリ漁師の恨み炸裂よし、なら自分で一匹捕まえて試してみるか。そう思い立った昨年の夏、アサリの食害が顕著だと聞いていた有明海へと釣り竿を持って出かけた。
みんな大好き天然アサリはエイだって大好き。おいしいからしょうがないよね。
ところで元来ナルトビエイは南方系の魚で、日本沿岸にはさほど多くはなかったという。それが海水温上昇のためか、近年になって西日本で急増しているのだとか。
というわけで漁業関係者にとっては降って湧いた悩みの種となっているであろうエイの食害。まずはその実態を有明海の魚屋さんで聞き込んでみた。 有明海の干潟はアサリやアカガイの好漁場。
魚屋さんら曰く、「アサリ根こそぎ食っちゃうからウザい。」「定置網に入ると暴れて大変だからウザい。」「図体デカいくせに臭くてマズくて売り物にならないからウザい。」などと予想通りの答えが返ってきた。
めちゃくちゃ嫌われているな。 エイはただ餌を食べているだけで、漁業被害うんぬんは完全に人間側の都合なのでちょっとかわいそうにも思えてくる。 だが実情はかなり深刻な問題となっているらしく、漁場全体を海水浴場よろしくエイよけのネットで囲うなど大掛かりな対策を取っているのだとか。 餌は殻を少し割ったアサリ。釣具屋さんでは小さめのイカもおすすめされた。
そうか、そんなに被害が出るほどたくさんいるのか。なら潮通しの良い場所にアサリを放り込んでおけば簡単に釣れるかもしれないな。
と思った矢先、訪ねた水族館で「最近行われた大規模な駆除が功を奏し、今ではウソみたいに少なくなった」という情報を得ることができた。 駆除の最盛期には一日に大型トラック三杯分のナルトビエイが水揚げされることもままあったのだとか。 それが今では漁師さんの網に紛れ込むこともほとんどなく、たまに取れても小さな子供ばかりだという。人間って怒らせたら怖えー。 駆除後の海で釣りをしてみるも…。
…。ということは個人が釣りという地道な方法で捕獲するのは難しいのでは?
その予感は的中。なんとかアカエイが一匹釣れただけで終わってしまった。 僕を慰めるように釣れてくれたアカエイ。この地方ではエイガンチョーとも。
ちなみにアカエイは有明海沿岸では「エイガンチョー」と呼ばれ、食用にされる。エイを食べる習慣のある有明海ですらナルトビエイは食べられないのか。そんなに臭くてマズいのか。
もうそのマズさにすらも憧れを抱いてしまう。これは次のシーズンに有明海以外の海域に出向くしかあるまい。 九州在住の僕としては手軽に有明海で捕らえておきたかったのだが…。となると次はやはり瀬戸内海だろうか。 出張帰りに大阪湾で捕獲!明けて翌年2014年の7月。僕はあるテレビ番組のお手伝いで関西へ出向くことになった。
その道中で中国地方へ立ち寄ってナルトビエイを捕まえるというタイトすぎるスケジュールを練っていると、なんと大阪湾にもこの魚が出没し始めているという噂をキャッチした。 大阪湾!それなら運次第では帰り際に捕獲できるのでは。 ハードディスクに眠る膨大な写真データの中で一番大阪っぽい写真がこれだった。
全ての仕事を終えて関西空港へ向かう道すがら、お世話になったディレクターさん(無類の魚好き)と一緒に大阪湾を偵察してもらうことにした。
港で竿を出す釣り人や、沿岸の釣り具店などで聞き込みを行うと、確かにここ数年はナルトビエイが頻繁に目撃されているらしい。二色浜などではアサリの食害も発生しているのだとか。 そして、なんとまさに前日ナルトビエイが目撃されたというホットな釣り場情報も入手できた。急いで現場へ向かうと…。 ナルトビエイ!!(※これは捕獲後の写真)
ディレクターさんが水面直下を泳ぐナルトビエイを発見!しかもかなりの大物。まさか本当にいるとは!
急いで釣り竿を用意して、さあ釣るぞ!と思った瞬間我に返る。この辺りは大阪湾でも有数の釣りの名所で、この日は休日だったこともあり岸辺にずらりと釣り人が並んでいるのだ。 もしもこの状況でこんな大きな魚がハリに掛かって暴れたら、半径数メートル以内の魚はびっくりしてしばらく遠くへ逃げてしまうだろう。釣りを楽しんでいる人たちの邪魔になってしまう。 だが、「すみません、あのエイ釣りたいんですけど…。」と周囲に恐る恐るお伺いを立てると、「どうぞどうぞ!」「おう、釣ったれ釣ったれ!」と意外にウェルカムな雰囲気。では遠慮なく。 釣り上げた直後の感想は「かっこいい!大きい!」に尽きた。男二人でも持ち上げるのは大変!
僕が釣竿を、ディレクターさんが引き上げ用の鈎つきロープを担当し、二人で協力して捕獲することにした。
そっとエイの進行方向に釣りバリを投げ入れると、次の瞬間に釣り竿へとんでもない重みが乗った!よく見るとハリを咥えたわけではなく、泳ぐ勢いで肩口に引っかかってしまっただけらしい。 まあ、今はもうそんなことどうでもいい。急いでロープで陸へと引っ張り上げる。 文句なしに大物。なのに、周囲の釣り人はみんな笑ってこそいるが誰一人として羨ましそうにはしていない。
大きい!重い!悠に20キロ以上はありそうだ。男二人でようやく引き上げたナルトビエイは、激しく羽ばたくようにヒレを動かし地面を叩いている。
焼けたコンクリートに置いておくのも何なので海水を掛けてやると、ヒレの力で飛沫がかなり遠くまで飛んでくる。すごい迫力だ。
|
|
▲デイリーポータルZトップへ |