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「決められない政治」と「決めすぎる政治」

 ねじれ国会の影響で「決められない政治」といわれてきた日本の政治が一転、今度は「決めすぎる政治」と批判されています。今朝の日経新聞では識者が「強すぎる国会と形骸化した国会に問題がある」と指摘していますが、私も同感です。国会の実態に照らして解説したいと思います。

 「日本の国会は首相を縛り付けている」といわれます。国会開会中に首相や大臣、副大臣などは議院運営委員会(通称議運)の許可がないと海外に出ることができず、海外で開催される国際会議や外遊に出かけることができないからです。かねて国益を損ねていると指摘されています。

 特に春の予算審議の期間中は首相や大臣が一日中国会の中に拘束され、質問もないのにずっと席に座っていなければならない日が続きます。しかも、予算審議の日程は国会側がその場しのぎで決めるので、首相や大臣が国内にいたとしても事前に予定を組むことができません。

 首相が国会に拘束される時間は他の先進国と比べて数倍から十倍ほどの多さ。しかも政府関係者が少しでも国会に非協力的な態度をみせようものなら、与野党議員がこぞって「国会軽視」と批判します。首相も大臣も国会議員ですから、「国会軽視」と批判されるとぐうの音もでません。

 28日付日経新聞の経済教室で、学習院大の野中尚人教授はこうした状態を「外向けに強すぎる国会」と表現。「極端に形骸化して内実を失った国会」とともに、日本の国会の最大の特徴と位置付けています。

 「ギチョ~~~」。衆議院本会議の審議の最中に、突然若手議員が直立して叫ぶ光景を見たことがあるでしょうか。これは「議事進行係」といわれ、議事日程を急きょ追加したり、当初の予定になかった議案を提案(緊急上程)したりするときに、議長に呼びかける役目です。

 「急きょ」や「緊急」といいましたが、実際にはすべて事前に決まっています。本会議の進行を決める議運ですべての段取りが詳細に決められ、各議員事務所には「この案件が緊急上程されます」という丁寧な案内が配られています。出席者はみな何が提案されるか知っているのです。

 しかも、本会議での議論はすべて台本が作られ、質問する議員も、答える首相や大臣も一言一句そのまま台本を読みます。こんな儀式を一日3~4時間、延々と続けるのです。もちろんやりとりを聞いている議員は、一部のヤジ担当を除いてほとんどおらず、多くの議員は雑談にふけるか、新聞記事を読むか、居眠りするかです。

 こうした「政府に強い国会」と「形骸化した国会」が何をもたらしたか。野中教授は「国会という不利な土俵から逃げ出したい官僚と、説明責任を避けつつ与党のうまみを独占したい自民党は、実質的な政策・利害の調整を与党での事前審査に移した」と指摘しています。

 事前審査とは、政府が法案を国会に提出する前に、与党の部会や総務会などの了承をつりつけなければならない制度のこと。与党と官僚の都合がいいように実質的な議論の場を国会から与党審査に移し、国会は与野党の国会対策(コクタイ)による「合意形成ゲーム」の場としました。本来なら与党はすべての法案を賛成多数で押し切れるものを、野党の意見にも配慮して「ほどほどに納める」ようにしたのです。

 しかし、この制度は重大な欠陥を抱えていました。野党が参院の主導権を握ってその権力を最大限行使すれば法案の成立を邪魔し、予算の執行を停止させることができたのです。民主党の小沢一郎元代表はこのことに気づいて活用し、自民党政権をマヒ状態に陥らせました。

 その逆が現在の安倍政権です。首相(総裁)が権力を行使して与党審査を通過させ、与野党の「暗黙の了解」を無視して国会で成立させようと思えば、いつでも成立させることができます。野党がいくら批判しようと、国民がいくら批判しようと関係ありません。その典型例が秘密保護法の制定です。

 つまり決められない政治にも、決めすぎる政治にも、同じ政府・国会のあり方の問題が潜んでいるのです。この問題を解消するには政党の「党議拘束」の問題を含めて、国会での議論と決め方の問題を徹底的に協議しなければなりません。

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