印南敦史 - コミュニケーション,仕事術,書評 07:30 AM
「伝える」を「伝わる」にするだけで、ヒット商品が生まれるという考え方
人は、毎日、仕事をして、普通に暮らしているだけで、いろんな悩みに直面します。(中略)でもそのいろんな悩みが、実は1つの問題から生まれていて、そしてそれが意外なほど簡単に解決できることを、ほとんどの人が知りません。
その1つの問題とは何か?
実は、あなたが、頑張って「伝えよう」としている、その意識なんです。
(「はじめに」より)
『伝わっているか?』(小西利行著、宣伝会議)の冒頭で、コピーライターである著者はこう記しています。「伝えよう」と思って失敗するのは、「伝える」ことばかり考えると、相手のことを考えず、自分の意志を押し通すエゴになってしまうから。大切なのは「伝わる」ことで、だからこそ「相手のしてほしいことを想像する」のが大切だということ。第一章「伝わる言葉のメソッド」を見てみましょう。
人気のなかったナポリタンが、たった一日で人気商品になった理由
本書は、悩みを抱えた人物と、コミュニケーション能力に長けたイルカとの会話形式で話が進んで行きます。第一章で登場するのは、看板メニューのナポリタンが売れないと悩むスナック店主。しかしメニューに書かれた「大評判! ほっぺたが落ちるおいしさ!」というナポリタンの売り文句を、イルカは「こりゃ論外だ」と切り捨てます。なぜなら、そこに書かれているのは「いらない言葉」だから。
「大評判!」と書かれていても、当たり前すぎて「食べてみたい」とは思わない。「ほっぺたが落ちる」はよくあることばだから、つまらない上に、嘘くさい。どちらの言葉も、あってもなくても変わらない上に、逆効果。そういう言葉が、「いらない言葉」。「いらない言葉」が多いと、面倒に感じて文章を読みたくなくなるもの。そして、読んでも混乱させるだけ。そこで文章を書くときには、「いらない言葉」をなくそうと意識するだけで、メキメキと文章が上達するそうです。重要なのは、難しく考えず、相手が「おっ」と思うように書くこと。
つまり、この場合なら「いたって普通のナポリタン」は、どうすれば「みんなが頼むようなナポリタン」になるのかを考えればいい。それは簡単なことで、「普通のナポリタン」を「特別なナポリタン」にするだけだといいます。理由は、普通よりも、特別な方が欲しくなるからです。
では、どうすればいいのか? ここでは2つの「伝わるメソッド」が紹介されています。(18ページより)
伝わるメソッド①「だけしか」
言葉のアイデアで人を動かす方法のひとつが、伝わるメソッド①「だけしか」。人は「限定」されると、いらないものでも特別な存在に感じたりするもの。つまり「いまだけ」「ここだけ」「あるだけ」「これしか」「あなたしか」など、限定することによって、当たり前のものを欲しいものに変えることができるということ。
こだわりのハンバーグ
より
1日10皿限定。こだわりのハンバーグ
人気の旅館
より
1日3組だけしか泊まれない旅館
特別セール
より
特別セール。お一人様、1つまで!
普段知っているものでも、人・場所・時間を限定すると「特別なもの」になる。そして、「それなら見てみたい」「それなら食べてみたい」というような気持ちが生まれる。特に「旬」は、日本人にはよく効く限定なのだとか。(29ページより)
伝わるメソッド②「選ばれてマス!」
人は迷ったとき、「みんなに選ばれているなら、安心だろう」と考えるもの。だから、その気持ちを応用すると効果的。選ばれていることを伝えるだけなので簡単ですが、誰に選ばれているかによって、方法は3つあるといいます。
A 信頼のおける人に選ばれてマス!
B 周りの人に選ばれてマス!
C 世の中に選ばれてマス!
たとえばAの例だと
全米が泣いた、感動ムービー!
より
店長のおすすめ! 自分史上最高に泣いた映画でした!
たくさん映画を観ているビデオ屋の店長さんに「おすすめ」されると、「借りて当然のビデオ」と思えるということ。次にBだと、
ねえパパ、ウチの子も塾に行かせましょう。
より
ねえパパ、ウチの子も塾に行かせましょう。
行ってないのウチだけだって。
と言われた方が、塾に行かせなきゃという気持ちになるもの。そしてCについては
この店、評判らしいぜ。行ってみない?
より
この店、評判らしいぜ。食べログで4.2なんだ。行ってみない?
と、世の中のお墨付きをプラスする。そしてこれらのメソッドを組み合わせてナポリタンの売り文句を考えてみると、
お客さんの9割が頼む
伝説のナポリタン
今だけ復活!
こうすれば、お客さんは「それなら頼んでみよう」と思うという考え方です。(38ページより)
会話形式なので、とても読みやすいところが魅力の本書。そしてその内容は、看板メニューの売り文句だけでなく、ビジネスから日常会話まで、さまざまなシーンで応用できるでしょう。
(印南敦史)
- 伝わっているか?
- 小西利行|宣伝会議