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水戸光圀公の墓は誰が守るべきか~震災で危機を迎えた水戸徳川家~

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震災以前の水戸光圀公の墓所。この石垣が震災で完全に崩れてしまった。
震災以前の水戸光圀公の墓所。この石垣が震災で完全に崩れてしまった。 写真一覧
水戸徳川家が窮地に陥っているという。これは何も江戸時代の話ではない。現在進行形で起きている出来事だ。水戸黄門こと、徳川光圀公で知られる名家に何が起こっているのか。15代目当主である徳川斉正氏に話を聞いた。

歴史資料館なんて儲からない

―水戸家といえば、徳川御三家の一つです。縁(ゆかり)のある品も多いと思いますが、どのように管理しているのでしょうか?

徳川斉正氏(以下、徳川):私の祖父である圀順(くにゆき)の代、明治39年に「大日本史」(光圀が編纂を指示した歴史書)が完成しました。祖父は、これを明治天皇に献上し、その功績によって爵位をもらいました。それまでは将軍は公爵で、尾張・紀州・水戸の御三家は侯爵でした。262年掛けて「大日本史」を完成させた功績が評価され、御三家の中で唯一水戸藩だけが公爵になれたんです。

我が家が公爵になれたのは光圀公が始めた「大日本史」のおかげですから、原本と草稿本、さらに編纂するためにあちこちから集めた写本(コピー)は全部保存しようということになりました。さらに光圀公はじめ歴代の印籠や鎧や刀といった美術品も全部保存しようと。こうした経緯でつくったのが、現在の徳川ミュージアムの前身となる財団法人水府明徳会です。これを昭和42年に設立し、その後公益法人改革により東日本大震災の年に認可換えがあって、公益財団法人徳川ミュージアムになりました。

―他の大名家も同じように財団法人を作っているのですか

徳川:いろいろだと思いますが、例えば加賀百万石は前田育徳会、尾張は徳川黎明会、そして一番大きい将軍家は徳川記念財団といったように財団を作っていますね。なので、個人で縁の品を管理しているわけではありません。僕の守り刀ですら財団の所有・管理です。

―そうした史料、歴史的価値の高い物品は資料館などに展示されているケースが多いと思いますが

徳川:そうですね。ただ、お分かりいただけると思いますが資料館なんて儲かりません。例えば、県営や市営の博物館は、税金で箱物をつくって運営しているので県民に安い料金で開放しなければいけない。しかし、現実には県民かどうかチェックするために、「免許証見せなさい」といったことはやっていません。結局、一律に100円、150円で開放している。そうなると、電気代もペイできない。「安く見られていいね」と喜んでいても、赤字であれば結局後ろから大量の税金が投入される。古くなっても建て替えができなくて邪魔な箱物になっているケースもあります。

それに対して、我々民間は高い料金を頂きます。根津美術館など東京の美術館は1000円以上の入館料を頂くのが一般的です。しかし、「入場料が(公立館に比べ)高い」と言って、入り口で帰ってしまう人もいます。その意味では、官による民業の圧迫とも言えますね。博物館や図書館は社会教育施設であり「自分から学ぶ」場所なのです。言い換えれば、入場料は「自分への投資」なのです。その金額(自己投資)を惜しんではいけないと思うのです。とは言え、こうして高い入場料を頂いていながら、それでもペイできません。美術品は、24時間365日エアコンつけっぱなしにして、一定の温度、湿度で保管する必要があります。さらに、学芸員を雇い研究し、展示ケースをつくって照明をあてて、切符のもぎりや監視をしたり、掃除をする職員を雇って…。こうした経費を考えると、とても入館料1000円じゃ成り立たないです。ましてや、地震で一気に被災した場合など、巨額の負担には耐えられないのです。

―全国どこにでも歴史資料館のようなものはありますが、どこも厳しいのでしょうか?

徳川:厳しいでしょうね。財団という冠を付けているものの、市や県の組織だったりするケースもあります。例えば東京に東京都歴史文化財団という財団があります。この財団は、両国の江戸東京博物館を運営していますが、減価償却費まで入れると、年間で十億円以上の税金が投入されている計算です。そうじゃないとペイしないんです。要するに、一見優雅に見えるかもしれませんが、裏側でものすごいコストが掛かっているということに気付いている人は少ないのではないでしょうか。

文化財の保存、維持には莫大なコストが必要

―歴史的に価値の高い物品については、国から文化財の指定されることで、維持や管理に補助金が出たりしないのですか?

徳川:維持費について補助はでません。修理費に補助は出るのですが、申請してもずっと順番待ちをしている状態になることが多いです。「保存するだけなら、さほどお金が掛からないでしょ?」と行政からは言われるのですが、刀などは当然錆びてきます。だから、年一回、打ち粉を打って、油を塗りなおして…というメンテナンスが必要なんですよね。

うちの場合ですが、保管する建物を建てて減価償却費を計上し、空調を入れて、警備会社をいれてというだけでも、年間だいたい3、4千万はかかっています。

―当然、そんな金額を出せない家もありますよね。

徳川:我が家も出せません(笑)。だから財団にして、せめて散逸しないようにしています。一組、一揃いだから価値があるものが多いのです。人数の足りないお雛様ではシャレになりません。財団にしなかったら様々な大名縁の品が市場に出回るわけです。僕の祖父は、「いいもの」から売ったんですね。何故「こんないいものから売るのか」と父が聞いたところ、「いいものであれば、誰の手に渡っても大事にされるんだ。誰もがいいものだとわかるからこそ、いいものから売るんだ。我々にしか価値が理解しにくいものは、我々が守ってやらなければならないんだ」と。このように、むしろ売ってしまうケースの方が多いかもしれません。紀州家が財団をもっていない理由は全部売ってしまったからです。

もっと端的な例が、お墓です。親族、身内にしか価値がないものです。これは我々が守らなければならない。守り続けなければならない。

―地元の方は、そうした文化財が流出することを嫌がるかもしれません。とはいえ管理するのにはコストも掛かる。非常に難しい問題ですよね。

徳川:例えば、私の財団が指定管理者になっている水戸光圀公をはじめ歴代藩主・当主夫婦のお墓(水戸徳川家瑞龍山墓所)は国の指定史跡になりました。ですから、国と県と市が7割負担するということでこれまで傷んだ箇所の修理をはじめたのですが、始めて間もなく東日本大震災が起きたんです。

修理に手をつける前に、光圀公のお墓の石垣が完全に崩れてしまいました。この石垣の上に墓石があるのですが、ご遺体そのものは石垣の下の地中にある。だから石垣ごとお墓なんです。ところが地元の新聞記者が、自分の家のお墓と一緒だと思って、「(石垣の上の部分が崩れてないから)無事」と記事にしてしまった。その結果、誰も関心をしめさなくなってしまったんですよ。

その他にも祭事の道具をしまっておく蔵や、墓地から近い場所にある光圀公の隠居所であった西山荘も大変な被害を受けました。

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