(2014年7月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州は現実主義になるべき時に直面している。米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が新しい自由な国際秩序を築く機会を見いだしてから25年近くが経過した。欧州連合(EU)は、欧州のポストモダンのイメージに沿って景色が塗り変えられることを期待した。その夢は敗れ、体系的な無秩序が広がった。中東での無数の紛争は今、欧州の国境に及んでいる。ウクライナでのロシアの戦争は、その国境を越えた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が欧州での共産主義終焉後の秩序を破棄したいと思っていることが明らかだとしても、新たな冷戦から得るものは何もない。
だが、数十年に及ぶソ連との対立から救出すべき教訓はある。その1つは抑止力に関するものだ。国際協調を中心に組織された世界に対する期待によって落ち着きを保っている政治家たちは、大国の対抗意識という力学にもう一度目覚めなくてはならない。
中国がロシアが目指す「権威主義的資本主義」
フランシス・フクヤマ氏は、歴史の終焉を宣言した点で半分正しかった。資本主義は君臨しているが、中国のような台頭する国々とロシアのような衰退する国々は新たな政治モデルを見いだしている。ハーバード大学の学者、マイケル・イグナティエフ氏が今夏のディッチリー財団の年次講演で「権威主義的資本主義」と呼んだ政治モデルは、こうした国々に自由民主主義に代わるものを授けている。
ルールに基づくグローバルシステムについては、これらの国々はアラカルトで食事することを好む。自分たちが好きなものは受け入れ、不都合なものは却下するのだ。
欧州諸国は世界を、自分たちが想像したものではなく、ありのままに認識するのが遅れている。ウクライナへのロシアの進軍に対する反応は、この事実を嫌というほど明らかにした。欧州が見せた反射的な対応は、危機を鎮めようとすることだった。ある面で、これは称賛に値する。何しろイラクやアフガニスタンでは戦争が解決に導くことはあまりなかった。
問題は、プーチン氏に譲歩することが緊張緩和につながらないことだ。逆に、弱さはロシア大統領の拡張主義を煽ることになる。
西側の優先事項は、抑止力という概念を取り戻すことであるべきだ。そして今、ロシアの支援を受けた反政府勢力によるマレーシア航空MH17便の撃墜が機会を提供している。ここで言う抑止力とは、相互確証破壊の核抑止ではなく、政治的な決意と武力を用いる準備態勢がブレーキをかけられるという伝統的な理解だ。