グエン博士の分析によると理由は2つである。1つは、アメリカがウクライナやイラク、イスラエルとパレスチナなどへの対応に追われ、関心が寄せられないだろうと思っていたこと。もう1つは、ASEANの結束を見誤ったことだという。
いずれにしろ国際法に何らの根拠も持たず、中国自身がその根拠を説明できないような地図を作製し、それによって行動し、国民を教育するなどという言語道断な行為を国際社会は断じて容認してはならない。
結束し中国に立ち向かうASEAN諸国
グエン博士がこの間のASEANの変化を強調していたことにも注目したい。
事実、5月11日、ミャンマーの首都ネピドーで開かれたASEAN首脳会議では、ベトナムのズン首相が「(南シナ海のベトナム沖での)中国の石油掘削作業は領海侵犯であり、明確な違法行為だ」と強い調子で中国を非難し、「ASEANの結束が試されている」「(中国の)暴挙に抗議する声を上げてもらいたい」などと訴えた。それを受けて、インドネシアやマレーシアなども中国を批判したという。インドネシア大統領府によると、ユドヨノ大統領は「我々は南シナ海問題に(ベトナムなどと)同じように関与する」と言明した。
ASEANは5月10日に開いた外相会議の緊急声明で「深刻な懸念」を表明したばかり。シンガポールのシャンムガム外相は「(外相会議で)声明を出せなければ、ASEANの信用は大きく傷つく」と発言している。
グエン博士によれば、ASEANに対して中国は、現状維持ではなく、中国支配の地域秩序形成に積極的に乗り出しているという。現に、南シナ海進出は徐々に南下し、現在はマレーシア近くのフィリピン領マビニ環礁などに人工島を構築し、いずれ滑走路を建設しようと目論んでいる。
またグエン博士が、中国は、経済力を通じて安全保障上の武器としているため、ASEANは経済面での中国への依存度を減らしていく必要があるということを強調されたことも、大いにうなずける。
ASEAN諸国は、国によってもちろん温度差はあるが、南シナ海での中国の拡張主義に警戒を強め、中国から相対的に自立する兆しを見せ始めている。ASEANが結束すれば、中国は恐れるに足りない。この流れは当該国はもちろんのこと、アジアの平和にとっても大いに歓迎すべきことであろう。