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Innovators 100 Series
  • Vol.13 次世代スーパーコンピュータの開拓者 百瀬 真太郎
  • Vol.12 開発から運用まで。ICTサービスのスペシャリスト 畔田 秀信
  • Vol.11 世界中のメンバーが強力に連携し、「セーファーシティーズ」をリードする。 タン・ブン・チン
  • Vol.10 予測の力で社会を変えるデータサイエンティスト 本橋 洋介
  • Vol.09 宇宙開発に挑み続けて20年の「衛星屋」鳥海 強
  • Vol.08 データ分析基盤設計のスペシャリスト 菅野 亨太
  • Vol.07 超人気ロボットのプロデューサー 石黒 新
  • Vol.06 機械学習による予知・予測の若きリーダー 藤巻 遼平
  • Vol.05 Mr.OpenFlow(ミスター・オープンフロー) 岩田 淳
  • Vol.04 顔認証、性能世界一の立役者
  • Vol.03 LaVie Z軽量・薄型化の職人 梅津 秀隆
  • Vol.02 LaVie Z世界最軽量の仕掛け人 中井 裕介
  • Vol.01 カーボンナノチューブ発見のパイオニア 飯島 澄男

Vol.13 CHAPTER1 次世代スーパーコンピュータの開拓者 百瀬 真太郎

百瀬 真太郎:NEC ITプラットフォーム事業部 第3サーバ統括部 技術エキスパート 博士(情報科学)

世界の開発ベンダーの中で、唯一ベクトル型スーパーコンピュータを開発し続けているNEC。ベクトル型にこだわる理由とは何か。新たに生まれたスーパーコンピュータの「SX-ACE」とは?スーパーコンピュータはこれからの社会にどう貢献するのか。次世代モデル開発に挑む百瀬 真太郎が、スーパーコンピュータの真の価値や最新鋭機の魅力、今後期待される活用分野、技術者としてのやりがいなどを語ります。

企業などへ、スーパーコンピュータの活用領域が拡大。

―初めに、スーパーコンピュータを取り巻く近年の動向や活用状況について教えてください。

写真:百瀬 真太郎 氏

百瀬:スーパーコンピュータは10年前頃まで、大学や研究機関など最先端研究領域において、科学技術計算や物理現象の超高速シミュレーションなどを目的とした利用がほとんどでした。

その後インテル社が開発したXeonのような汎用型プロセッサの登場によって、PCクラスタと呼ばれるパソコンに近い形のサーバを大量に並べるタイプの安価なスーパーコンピュータが台頭してきました。それに伴い、スーパーコンピュータの活用領域が自動車や航空機メーカ、製薬会社、大手通販サイト、さらには映画制作会社など、最先端研究以外の領域へ大きく拡がってきました。

最近の動向としては、大学・研究機関など先端研究に利用されるのは絶対的な性能重視の専用開発型、企業などで広く使われるのは価格重視のPCクラスタ型という、2つの流れに分かれています。

―スーパーコンピュータ開発ベンダーの動向については、いかがですか。

百瀬:スーパーコンピュータの歴史は、アメリカのCRAY社が開発した大規模演算に強いベクトル型のスーパーコンピュータが始まりで、かつては国内外のベンダーもベクトル型の開発に取り組んでいました。ですが、汎用的なスカラ型プロセッサの登場に伴い、多くのベンダーがスカラ型のスーパーコンピュータ開発にシフトしていきました。

写真:百瀬 真太郎 氏

現在ベクトル型の開発を続けているのは、世界でNECだけです。スーパーコンピュータの世界―競争が話題になったりもしますが、単純な速さだけでスーパーコンピュータの価値は決められないと考えています。たとえば100mを走るのが速い選手が、サッカーや野球がうまいとは限らないですよね。スーパーコンピュータも同様です。速さはもちろん重要ですが、さまざまな目的に合わせて最高のパフォーマンスを実現することが、スーパーコンピュータの本当の価値だと思っています。

「スカラか、ベクトルか」といった二者択一的な論議も以前はありましたが、現在ではあまり意味のないことだと思います。なぜならベクトル型とスカラ型では、得意分野に違いがあるからです。ベクトル型は大規模データの高速処理に適していますし、スカラ型は小規模データの多数処理に向いています。スーパーコンピュータ活用の目的や動かすアプリケーションの特性はさまざまですから、適材適所の使い方こそが大事だと思いますね。

大規模データの高速処理に強いベクトル型。

―NECのスーパーコンピュータ開発の歴史や現況について教えてください。

写真:百瀬 真太郎 氏

百瀬:NECにおけるスーパーコンピュータというとベクトル型のSXシリーズを指しますが、汎用プロセッサを使ったスカラ型の製品もHPC(High Performance Computing)領域に向けてNECは開発・提供しています。ベクトル型のスーパーコンピュータであるSXシリーズは1983年に誕生して以来、今回の最新鋭機種であるSX-ACEが10世代目になります。NECでは、CPUをはじめとするハードウェア、OS、ソフトウェアとスーパーコンピュータを構成するすべてを自社で開発している点が、大きな特徴と言えます。

―NECは、ベクトル型になぜこだわるのか、その理由を聞かせてください。

百瀬:カタログ性能ではスカラ型が有利、アプリケーションを実際に動かす実効性能ではベクトル型が高いパフォーマンスを発揮するという特長があります。近年は、流体や気象といったいままでのような専門領域だけでなく、ビッグデータをはじめ大規模データの高速処理に対する新たなニーズが増えつつあります。

最近ではスカラ型のスーパーコンピュータにおいても性能を向上させるためにベクトル機能を付加するというケースが主流ですね。このため、スカラ型プロセッサにおいても、高い実効性能を得るにはベクトル性能を引き出すことが最重要となっています。その意味では、トレンドの先端にあるのがベクトル型と言えると思います。

流体や気象など、大規模データの高速処理に強いベクトル型は、今後その活用が期待されるビッグデータ領域においても、すぐれた力を発揮すると思います。ハードからソフトまでベクトル型スーパーコンピュータをトータルに開発してきたNECの30年以上におよぶ実績やノウハウ、世界最高速のプロセッサコアを開発し続けてきた技術の蓄積は、他の開発ベンダーに対して大きな強みだと思っています。

NECのスーパーコンピュータが支える、欧州の天気予報。

―NECのスーパーコンピュータSXシリーズの、これまでの導入実績を教えてください。

写真:SX-9

SX-9

百瀬:今回の新機種の一世代前のSX-9は、海洋開発機構様が導入した地球シミュレータのほか、東北大学様や大阪大学様などに導入実績があります。東北大学様では、国産初のジェット旅客機MRJ開発のシミュレーションなどにもSX-9を役立てています。

海外では、ドイツのシュトゥットガルト大学様で学術利用されているほか、ドイツの気象庁やフランスの気象庁でも、SX-9が導入されました。ヨーロッパのお客さまからは、「SXシリーズがないと、天気予報ができない」という声も聞かれるほど、信頼されています。

―ベクトル型スーパーコンピュータがこれまで抱えていた課題とは、何でしょうか。

百瀬:ベクトル型スーパーコンピュータは、コストや消費電力が課題だと言われます。NECが重視しているSXシリーズの設計思想では、単に高性能というだけではなく、お客さまが研究に使うツールとしての使いやすさにこだわっています。

たとえばお客さまのプログラミングやコード開発の負荷を減らすために、使いやすさを重視すると、どうしてもコストが高くなってきます。ですから価格を取るか、使いやすさを取るか、それはお客さまの判断になります。

消費電力については、カタログスペックだけを見ると確かにスカラ型に軍配が上がりますが、SXシリーズがターゲットとしている領域で、アプリケーションを実際に動かした場合の消費電力は、トップクラスの省電力を誇っています。

さまざまなHPCニーズに応えるNEC。

―スーパーコンピュータ開発をはじめとする、HPC事業へのNECの取り組みを教えてください。

写真:百瀬 真太郎 氏

百瀬:HPCはもともと科学技術計算などを主体とするスーパーコンピュータを指していたのですが、最近ではビッグデータ活用や企業の高速トランザクション処理など、いままでなかった領域にHPCが拡がりつつあります。

NECでは現在、大規模データなどに適したベクトル型スーパーコンピュータSXシリーズをはじめ、汎用プロセッサを採用したスカラ型のHPC向け製品の提供、さらにベクトル型とスカラ型製品を組み合わせたハイブリッドシステムの提供も可能です。

つまりさまざまなタイプが揃ったNECは、お客さまのHPCニーズに柔軟にお応えできる唯一のメーカとも言えるのです。そうしたNECのHPC事業において、中心となるのが今回新開発したSX-ACEです。

―HPC事業における百瀬さん仕事の内容を、具体的に聞かせてください。

写真:百瀬 真太郎 氏

百瀬:スーパーコンピュータは10年間で、約1,000倍に性能がアップすると言われています。私は、NECサーバ製品のフラッグシップと言えるSXシリーズの開発に携わっていますが、それは常に4~5年先を見据えた製品づくりです。

5年先には現在に比べ約30倍以上の性能アップを目指さなくてはなりません。スーパーコンピュータ開発には莫大な費用と多くの期間がかかります。テクノロジーは5年先にどうなっていくのか、価格や消費電力はどうあるべきか、他の開発ベンダーの動向はどうなのか、ユーザや社会の環境やトレンドはどう変化していくのか。これらの予測をもとにさまざまな要件を見極め、NECとして5年先に真に価値あるスーパーコンピュータを生み出すために調査や検証、考察を行うのが、私のいちばん重要な仕事です。

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