囚われの姫。「空の境界SS」
前編。
「起きろ、幹也」
「ん―――、式?」
ぺちぺちと頬をたたく感触。
それを感じて、僕、黒桐幹也は重いまぶたを開けた。
霞のかかった頭と、ぼやける視界で捉えたのは―――式の顔。
何故か機嫌は悪そうだったけど、後はいつもどおりの、白いドレス姿。
――――?
ドレス姿?
そう。僕の眼前にいる彼女は、いつもの着物姿であなくて、
おとぎ話にでてくるお姫様のような、清楚な純白のドレスにその身を包んでいた。
その姿は、この質素な木の小屋の中でさえ、絵の題材になりそうな美しさを保っていた。
・・・色々と、つっこむべき事柄は満載だったわけだけど、僕はその彼女の姿にしばらく心を奪われて。
ただ、呆然と彼女の姿を見つめていた。
「・・・まだ寝ぼけてるのか、こら、幹也」
「え、いや、そんなこと、ないけど―――どうしたの、式。その格好」
「知るか」
僕の言葉に、何故か真っ赤になりながら、彼女は僕に何かを投げつけた。
僕の胸元に投げつけられたのは―――。
「何これ。台本?」
そう、それは一冊の薄っぺらい台本。随分と安っぽい装飾だ。
題名は、囚われの姫。
ストーリー。騎士が姫を助けます。以上。
配役。姫、両儀式。近衛騎士、黒桐幹也。
その他、大勢。プロフィールは後述。
攻撃手段、後述。
・・・なんだ、これ。
あまり状況は理解できていないけど、憮然とした表情のままの式にとりあえず、
思ったことを聞いてみた。
「えーと、つまり、僕が式を助けに行くってこと?」
「そうらしい。なんだって俺がこんな格好しなくちゃいけないんだ」
「いや、似合ってるけど。うん、すごく綺麗だし」
「うるさい、莫迦」
また、赤くなって、式は僕を睨んだ。
―――ごめん、その格好で、そんな顔されると、こっちも照れてしまうんですが。
「大体、お前だって人のこと言えないだろ」
「ん?」
彼女の言葉にようやく僕は自分が着ているものがいつもとは違うことに気がついた。
・・・なんだ。これ。軍服?いや、軍服にしたら派手だけど。
まるで、安手のヒロイックファンタジーの登場人物が身に纏うような蒼い衣装。
そういえば、部屋も違う。随分とみずぼらしい、小屋。
まあ、僕の安アパートとそうは違わない、と言えばそれまでだけど。
僕は、もう一度台本に目を落とした。
「囚われの姫」。
つまり、ここは。
「誰かがどこかに用意した舞台で、僕たちはその役者ってこと?」
「場所は、お前の夢」
え。
「これって僕の夢なの?」
「現実でこんなことあるわけないだろ。お前までぼけたのか、幹也」
うーん。そういわれれば、確かに夢って気がしてきたけど。
いまいち釈然としなかったけど、僕が次の言葉を口にするまえに、
誰かの声が、それを遮った。
「式お嬢様、そろそろお時間ですが」
「わかってる」
・・・今の声は。
思わず、周囲を見渡したけどどこにも人の姿はない。
「式、時間って?それに今の声は・・・」
その質問には答えずに、式は僕から少し、距離をおいた。
それは、別れをつげる彼女の動作。
「じゃ、さらわれてくる。さっさと、助けに来いよ。
あんまり遅かったら先に帰るからな」
「ちょっと、式?さらわれてくるって」
その質問にも、答えずに。
式が、言ってくれたのは、単純な命令だった。
「ちゃんと、助けに来いよ」
「そりゃ、式がさらわれたんなら、どこだろうと助けに行くけど」
それは黒桐幹也としては、ごく当然のことであって、考えるまでもないことだ。
僕のその言葉に、純白のお姫様は、微笑んで。
「―――無茶はしなくていいからな」
そう、言い残して僕の視界から姿を消した。
そのことは。
これが現実ではないことを僕に告げていた。
ま、式とか橙子さんなら夢でなくとも、僕の視界から一瞬で消えるぐらいはできるのかもしれないが。
その場に残されたのは僕と、一冊の台本。
台本、か。
しかし、今のってどうだろうか。自分からいったように思える。
大体、さっきの声って明らかに秋隆さんだよな。
とりあえず、またパラパラとページを繰って見る。
なんか、いろいろ書いてある。
どうやら、僕の役回りとしては騎士、というより魔法使いに近いみたいだ。
いや、魔術師って言わないと橙子さんに怒られるかな。
「・・・いくか」
ま、理由がどうあれ、式が捕まったのなら助けにいかないと。
そのことは別にこれが現実であっても、夢であっても変わらないわけだから。
そう決めて、僕は、見慣れない、住み慣れたことになっている小屋を後にした。
1.コルネリウス・アルバ(Red pierrot)
小屋から出ると、そこは深い森の中―――。
振り返ると、いきなり小屋は消えていた。
―――なるほど、舞台転換はかってにしてくれる人がいるらしい。
というか、僕の夢、ということが僕がやっているのだろうか。
「バカノ、カンガエ、ヤスリニ、ニタリ。だったかな。
無知な頭で考えたところで、むなしい答えしかでないさ」
なんか、微妙に間違った格言を言いながら、登場したのは―――。
「お前は―――」
深紅のローブに身を包んだその人物は、忘れもしない、式をさらった魔術師。
「またお前が、式を―――!」
「おおっと、勘違いはしないでくれたまえよ。これはゲームだ。
彼女はゲームの賞品。間違っても彼女に危害を与えたりしてないさ。
・・・大体、君はあれを「さらわれた」とでも言うつもりか?」
「―――それは、そう、だけど」
確かにあれでは、攫われたとはいわないだろうなあ。
「もっとも君に危害をあたえる気は十分すぎるほど持っているがね」
口篭もった僕に嘲りの視線を浴びせて,赤い魔術師は、危険な言葉を口にした。
「―――私は君を殺せるというから、こんな余興に参加する気になったのだから」
また、それは物騒な発言を。
だが、それが冗談ではないことは、彼の瞳にやどる狂気の色で見て取れた。
ゆっくりと、確実に。
僕にむけて、距離を詰めながら、魔術師は語る。
まるで、エモノを嬲るように。
「君はもうすこし、自分の身を守る術を学ぶべきだね。
アオザキは師としては優秀ではないようだが、魔術師であるなら独学もまた必要だ」
「僕は魔術師じゃないんですけど」
「それは、失礼。では、ここでゲームオーバだね」
そういって、魔術師は僕の眼前で、歩を止めて―――。
ひどく、不満そうに、僕を睨んだ。
「それにしてももう少し君は危機感を持つべきではないか。私を誰だと思っている」
たしかに、自分でも不思議に思うほど、彼に対して危機感を持っていない。
以前とは、えらい違いなんだけど・・・夢だからかな。
とにかく、ぼくは彼の質問に思わず率直に答えてしまっていた。
「式をさらった悪人。橙子さんの生首もってうろつきまわる変人」
「このコルネリウス・アルバを、そういう形で覚えるな!」
そう言われても―――確か、橙子さんの知り合いの魔術師、ぐらいしか。
あ、そういえば、台本になんかプロフィールがあったような。
僕はぺらぺら、と台本をめくる。
えーと、あった。
「コルネリウス・アルバ――――!?」
うわ、これって、プロフィールか?ひどい調べ方だ。
「どうした、コクトウ・ミキヤ。すっかり怖気づいたかね」
絶句した僕をみて、魔術師アルバは、満足そうに胸をそらした。
いや、ある意味確かに、怖気づいたかもしれませんけど。
踏ん反りかえりつづける彼に、僕はそのプロフィールを読み上げてやった。
「コルネリウス・アルバ。炎の魔術師にして、人形遣い。教会史上まれに見る―――小物」
「な、何?」
「院長クラスの魔術師では稀にみる雑魚」
「な、な、何?」
「いや、赤ザコってかいてます。ザコより三倍早いらしいです。なにが早いのか書いてませんけど」
「か、か、貸したまえ?!、そ、そんなことが書いてある筈が―――?!」
「いや、本当ですよ、ほら。
ちなみに魂と起源の専門家として、名高いアラヤ師のコメント。『アルバ、か。奴の起源は『小物』である』」
「あ、あ、荒耶ああああ・・・!」
怨嗟に満ちた唸り声をあげて、アルバ―――さんはその場に崩れ落ちた.
いや、これくらいで、こうもへこまれるとは、思いもしなかったんですけど。
なんか、もう、可哀相になってきた。
「えーと、アルバさん?本の批評なんていいかげんなものが、多いんですよ。そんなに気にすることは―――」
「き、き、貴様らはいつもそうだ!!そうやって私を過小評価する――――!!」
いや、だから僕に切れられても。
「ひ、ひどいことをするな、君は。人を、人を刺すなんて危ないだろう―――?!」
確かに言葉は面白いようにザクザクと刺さってたようですけど。
勝手に自分から、刺さりに行ってたような気がします。
なんか、もう、埒があかないので。
僕は台本に書かれていた攻撃方法を実行することにした。
「I summon the dug hole of the earth(来れ、穿たれた穴よ)」
その言葉と同時に、僕の目の前に一本の紐がするするっと降りてきた。
ま、どこからつるされているかはこの際、気にしないでおこう。どうせ夢だし。
―――さようなら、アルバさん。
「へ?」
ばこん。
僕がその紐を引っ張るのと同時。
妙にコミカルな音と共に、巨大な落とし穴があらわれて。
アルバさんの姿はそこへと消えた。あっさりと。
大地に穿たれた深い穴のなかから、彼の断末魔の悲鳴だけが聞こえた。
ドップラー効果がパッチリ効いているので未だに落下中ということはよくわかる。
「わたしの起源は―――断じて――――「小物」などでは―――」
ええ、違います。
他の誰がそういっても、僕だけは違うと信じてあげます。
だからしばらく、穴でじっとしてて下さい。式を助けたらまた来ます。
「しばらくは、おとなしくしていてくださいね」
「その心配は無意味だな」
僕が穴の中に投げかけたその言葉に、全く予想もしなかった方向から、予想もしなかった人物が答えてくれた。
魔術師、荒耶宗蓮。橙子さんをして「地獄」と言わしめた男が。
―――そこにいた。
2.荒耶宗蓮(Death collector)
「奴が這い上がってくることを心配しているのなら、杞憂だ。
奴は一人では何も成しえない。奴の起源は「小物」だかな」
「あなたは―――」
以前とは違う雰因気。別の意味で恐怖を感じて僕は、黒い魔術師から、距離をとった。
「奴の前世はことごとく、寄生する側の生物だ。
小判鮫、クジラジラミ、あるいはスネオ。単独での生存は困難ではあるが、生命として誤った在り方ではない。
愚劣な人間どもより、よほど良い」、
そうか、スネオ君は寄生生物か。いや、そんなことはどうでもいいのだけど。
「あなたは、何をしに来たんです」
「両儀式を貰い受けにきた」
苦悩が刻まれた表情のままで、その魔術師はそう、言い放った。
「な?!」
「私には、彼女が必要なのだ」
どういう、意味だ。まだ、あきらめていない、ということか。
「あなたは、一体」
「私は魔術師、荒耶宗蓮。――――式の体を狙うものだ」
体って、また。ストレートな表現を。
「体だけが目的なんですか」
かなり本気で軽蔑した口調でいったのだけど、黒い魔術師は意に介した様子もなかった。
「むろん。用があるのは首から下のみ。頭はいらん」
真顔で言い放つその魔術師に、思わず僕は頭を抱えた。
「自分の言葉を検分して、おかしなこと言ってるな、とか、思ったりしません?」
「我が起源は静止である。止まっているものがどうやって、反省などするのだ」
それは開き直りっていいます。多分。
「こんな余興につきあうのも、両儀式の体が報酬としてあればこそ。
青年。お前が、両儀式を求めようというのなら、私は排除しなくてはならない。
私の邪魔をするもの、これすべてを抑止力とみなす――――」
凄まじく、嫌な予感がして僕はその場を飛びのいた。
一瞬遅れて、男の声が僕のいた空間に届く。
「粛」
その言葉とともに、眼前の空間が歪んで―――消えた。
次の瞬間、銃声に似た破裂音と、それに付随する衝撃が僕の体を、後ろの大地へと叩きつけた。
「―――い、痛たた・・・」
「ふむ。我が異界の中ではないとはいえ、あれをかわしたか。
惜しいな。その才を我が手で刈り取らねばならぬとは」
なんとことだか、わからないけど。
相変わらずの、仏頂面で、荒耶宗蓮は左手をゆっくりと僕の方に突き出した。
―――冗談じゃない。
こんな魔術師相手に勝負して勝てるものか―――!
あれを食らったら一発で目がさめるかもしれない。
けど、式を助けてもいないのにリタイアする気はない。
なら、やることは一つ。さっきのように、落とし穴を―――。
「I summon the hole of the earth(来たれ、穿たれた穴)」
僕は、その言葉と同時に現れた紐を今度は間髪入れずに、引き下げた。
しかし。
「たわけ」
魔術師はまったく何事も無いかのように、大地に穿たれた穴の上に浮いていた。
「アルバならいざ知らず。
この程度の虚空では、我が結界ごと奈落へと導くには足りぬ」
言いながら彼は、左手を僕のほうにむけ――――その左手がそのまま、僕に向けて伸びた。
「うわ?!」
風を切って僕に襲い掛かってきた巨大な左手が、慌てて身をよじった僕の頭上を掠めていく。
「な、なんですか、それ!?」
「私の左手には仏舎利が埋め込まれている。ゆえに多少の無茶は効く」
本当に、何事もないように答える、荒耶。
いや、多分、仏舎利の使い方を激しく間違ってると思うのですが。
やばい、夢の中とはいえ、あの拳でなぐられたら頭くらい吹っ飛びそうだ。
「無論、砕けよう。だが、案ずるな。
―――貴様の死は私が確かに蒐集しよう。全てが終わって後、その価値がわかるように」
やばい、眼が、眼が笑ってない。
もう、藁にもすがる思いで、僕は台本のページを繰った―――。
そして、一つの魔術が僕の目にとまる。あ、これなら―――ひょっとして。
「I summon the cell of sages(来たれ、賢者の檻)」
「無駄なことを」
僕の悪あがきを、平坦な口調で一蹴した、その荒耶の前に。いや、周囲に。
ものすごい数のご老人方が姿をあらわした。
中国の賢人という風貌の老人から、大学教授の威厳を漂わせている人まで。
時代、人種を問わない「賢人」達の大集合。
なかなか、いや、かなりシュールな光景だ。子供が見たら、泣くだろう。
だが、その異様な光景のなか、荒耶宗蓮は一向に動じた様子は見せなかった。
「たわけ、このようなことに何の意味が――――」
「汝に問う」
その、荒耶に老人の一人が,朗々とした口調で問い掛けた。
「ム――――」
「人の本性とは、何か」
「蒙昧。この荒耶に、議論など―――」
と、言いながら。それを契機に。
ものすごい勢いの大論争が開始された。
まさしく、喧喧囂囂。
ほんと、みなさん。険しいけど、生き生きとした表情で僕には理解不能なことを話しておられる。
そのなかで、荒耶宗蓮も延々と議論を繰り広げていた。
―――なんとなくそんな気はしてたんだけど。
魔術師って人種は押し並べて議論が好きそうだな、と。
ま、僕が知っている魔術師の母集団が少ないから自身はなかったんだけど、どうやら、正解のようかな。
「―――たわけ!」
あ、仏舎利アッパーで、誰かが飛んだ。それは反則でしょうが、荒耶さん。
でもまあ、あれって魔術らしいし。
しかも、他の人は吹き飛んだ人に一切関心がないようで、そのまま議論を続けていた。
僕は、その集団にかかわらないことを固く誓って、その場を去ることにした。
「―――行くか」
さよなら、荒耶さん。僕が式を助け終わるまで、議論を楽しんでください。
「さて、式を探さないと―――」
「そうは、いかないんです。兄さん」
その場をさっさと立ち去った僕の前に、紅い拳法衣をまとった妹、黒桐鮮花の姿があった。
3.黒桐鮮花(Flame shooter)
「あ、鮮花?!」
別に、拳法着だけなら、なんら問題はなかったのだけど、
妹は、なんだかとっても凶悪なトゲトゲのついた手袋を右手にはめていた。
ジャックナイフのような刃が指先につけられていて、昔流行ったホラー映画の怪人を思わせる。
「お前ね。そんな凶器を嬉しそうにがちゃがちゃさせるんじゃない」
兄さん、色んな意味で心配になるから、止めてくれ。
「いいんです、別に。いくら夢の中とはいえ、私にヒロイン役が回ってくるなんて思って
ませんでしたから。ええ、こんな役回りしかまわってこなくてもかまいません。
でも、でも―――」
ひどく、悲痛な鮮花の口調。まるで、涙をこらえるかのようだ。―――一体、何が?
「兄さん、どうして。わたし・・・」
「どうした、鮮花。なにか、あったのか」
「わたしは五位なの?!」
「何?」
五位?何かの順位か?
「いいんです!兄さんが私より人気あっても!あの女が一位なのも―――。
ものすごく悔しいけど、まだ、自分を納得させることもできるんです!でも!」
「でも、でもどうして、藤乃が私より上なんですか?!どうして?!
遠野秋葉なんて、ずっと二位をキープしてるじゃない!
同じ、同じ妹属性のキャラなのに・・・・!」
言っていることは意味不明なんだけど、なんだかものすごい悲壮感だけはよく伝わってきた。
目がちょっといっちゃってるし。
こんなに興奮している鮮花を見るのは初めてかもしれない。
「鮮花、ちょっと落ち着いて。よく事情は飲み込めてないんだけど、悩みがあるなら聞いてやるから」
「あ―――ごめんなさい、兄さん。少し、取り乱してしまって」
いや、尋常な様子ではなかったけど。
「でもね、兄さん。もう心配しないで下さい。私、わかったんです。
藤乃や遠野秋葉が持っていて、私が持っていないものが―――何か」
呟く妹の笑みは、なにか、強烈に不吉なものを予感させた。
「破壊力です」
いや、それは。
多分、違う。きっと、違う。
「知らないんですか、遠野秋葉のあの檻髪の威力!藤乃なんて、橋を粉砕したらしいじゃないですか!
それに比べて、私なんて・・・せいぜい、コンクリートを粉砕するくらいが関の山・・・」
「いや、それもすごいと思うよ」
「気休めはよしてください!私に、私にもう少し、力があれば。こんな、こんな結果には」
ああ、またヒートアップしてきたか。
僕はかなり、陰鬱な気持ちで鮮花の凶悪な手袋に視線を落とした.
「―――それで、その手袋か」
「そうです。その名も「フェンリルの牙」。橙子師の秘蔵の一品です。
わたしが使えば、それこそ金庫もバターのように切れるんです。
橙子師曰く「斬鉄剣もびっくりだ」とか」
・・・あの人は。
所長、お願いですから妹をこれ以上おかしな方向に誘うのは止めてください。
「ああ、もう!いいか、鮮花!!そんな破壊力なんて、人気には関係ない。
だから、そんなものは捨てなさい、危ないから」
「いやです。だって、私」
そこで、一旦言葉を切って。
―――鮮花の瞳に、熱を帯びた何かが静かに、確実に宿っていった。
「これから兄さんを惨殺しないといけないんです」
こら。
「お前、なにを」
「だって、そうでしょう?
大体、あのばかシキは、夢の中まで兄さんに迷惑をかけて―――。
ここで、兄さんを惨殺すれば、あの女と合わせなくとも済みます」
「迷惑をかけるほうが、惨殺するより全然ましだろうが!!」
そんな僕の言葉は聞こえないとばかりに、妹はトゲトゲ付きの右手をブンブカ振り回す。
―――ああ、それで僕を惨殺するんですか。
どうやら本気で殺る気まんまんらしい。
「大丈夫ですよ、兄さん。痛いのは最初だけです」
惨殺に次回があるとは思えないけど。
そんな兄の思いは無視して、鮮花は勢いよく僕にむけて、踏み込んだ。
「Azolto――――――!!」
その叫びと共に、するどい刃を紅蓮の炎が彩った。確実に、殺るつもりだ。
―――だけどね、鮮花。
炎の対処方法はわかってるんだ。
意外と冷静に、僕は、炎の刃が自身を貫く前に、魔術を使うための言葉を呟いた。
「I summon the vanishing of flames(来れ、鎮火の理)」
僕の叫びに呼応して、姿をあらわしたのは。
10mはあろうかという、巨大な消火器。
「?!。魔術――――?!」
驚愕の余り、一瞬静止する鮮花。でもその一瞬が命取り。
凄まじい勢いで噴出された白い濁流は白煙とともに、あっさりと鮮花を押し流す。
悲鳴もあげられないまま彼女の姿はホワイトアウトして――――。
やがて、煙が晴れたとき。
妙に粘着質な、白い物体に包み込まれた鮮花が転がっていた。
・・・10mは吹き飛んだか。
自分がやったこととはいえ、さすがにやり過ぎたかな。
なんか、真っ白になって、鮮花がぴくぴくしているのを見るとさすがに罪悪感がある。
「ー―――あんまり、です。こんな、扱い――――」
えーと、それは誰に訴えてるのかな。
でも、まあ、生きてるようで一安心。
夢の中とはいえ、妹を消火器で爆殺したとあっては夢見が悪い。
って、なんか、変かな。
はあ、とため息をついて、真っ白になった、妹の顔だけを拭いてやる。
「兄を惨殺しようとするような妹にはお仕置きが必要なんです。
式を助けたら、また来るから。それまで、そこ反省してなさい」
理由はさっぱりだったけど、なんか追い詰められてたのはよくわかったから。
「ぐす。あんまりです」
それはお前が問答無用で襲い掛かってくるからだ。
そして、僕は、ぐずる妹を後にして、その場を立ち去った。
と、また、その次の瞬間、僕の背後から、聞きなれた声がかけられた。
いや、いいかげんこのパターンは止めて欲しいんだけど。
でも、その声は、物騒な魔術師のものではなくて。
「お見事でございます。黒桐様」
「秋隆さん?」
よかった、ようやく味方が・・・
そうおもって、振り向いたぼくの眼前には、いつも通りのスーツ姿に、
鮮花に劣らず凶悪な鎖鎌を携えた秋隆さんがいた。
――――それは、どういうつもりでしょうか。
(後編へ)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
須啓です。
平行交差のあとは日常ネタを書くといっておきながら・・・なんでしょうね、これ(笑。
いえ、まあ、月姫研究室さまの「空の境界キャラ人気投票」開催記念ということで。
全然、前編、後編とかに分ける内容でもないんですが、幹也君と各キャラの掛け合いを
書いていると楽しくてついつい長くなっちゃたのですよ。
このままいくと、今週中にUPできるか心配だったのでとりあえず、前編として
アルバ、荒耶、鮮花のネタを公開します(笑。
ちょっと、各キャラ、壊しすぎちゃたみたいで。ちと欲張りすぎの感もありますが。
後編では、秋隆、浅上藤乃、蒼崎橙子+αが登場の予定です。
ちなみにアルバの章が長いのはあまりに彼がいじめがいがあったからです(笑。
荒耶も長いな.今回は結構変態として書いてしまったんですけど。
ちなみに鮮花の順位は2002年4月23日 23時の時点での順位です。
最後に。
今回のSSには、月姫研究室さまが行われている空の境界の人気投票を無断で利用させて頂いています。
この場をかりまして、楽しい企画を開催されている月姫研究室さまに尊敬とお礼の意を記させていただきます。
あ、感想などいただけますと非常に励みになりますので、是非ともお願いいたします。
メールでも掲示板でもお気軽に、遊びにきてください。
2002年4月23日。